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章彦さんのクリスマス

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章彦さんのクリスマス


「アッキヒッコサーン!」
 玄関に厳重に鍵を掛けている佐納章彦の家の、リビングに響きわたる元気な声。
 章彦は自分を呼ぶその声の主を睨みあげた。
 ガチャガチャバタン、ガチャバタン。
 玄関からリビングまでのドアをすべて開けてそこに立った青年、二階堂勝輝の左手には、鍵の束が握られていた。
 この家の鍵だ。
 章彦が渡していない鍵だ。
 勝手に作られた合い鍵だ。
 このマンションの部屋のドアも、何度鍵を付け替えたか。
 今度、電子錠を作ってやろうか……と思いながら、章彦はリモコンを手にとる。
 日本茶を飲みながら証拠ビデオを閲覧していた章彦は、ため息をつきながらビデオを停止させ、もう一口茶を口に含んだ。
「やっほーんっ! お元気ぃ? 章彦っ。今日も美人だねーっ俺嬉しーっ!」
 まるでトランポリンに跳ねるかのように、章彦の隣のソファーに飛び込んできた勝輝。彼は跳ねたついでに章彦に抱きつき、その頭を抱え込んで口接けた。
 もう抵抗するのも疲れていた章彦は、勝輝が気の済むまでさせて、はがれた勝輝を押しやった。
 妙に明るすぎる彼が薄ら寒い。
「今日はお仕事してないのん? いっつも書斎にいるから、書斎の鍵も作ってきたのにぃ」
「返せ」
 ヒラヒラと勝輝が見せた鍵を章彦がひったくろうとする。
「いやん。俺が俺の金で作った鍵だよ? なんで所有権が章彦にあんのさ。返せ、って日本語おかしいでしょー。俺のだよっ!」
「私の家の鍵を勝手に作るな、と何度も言ってるだろう」
「だってそうしないと章彦、ドア開けてくんないじゃんかっ!」
「当たり前だっ! 邪魔するなっ!」
「二週間ぶりだよーっ! せっかくクリスマスの予定全部空けて来たのにーっ! 愛しい恋人に何か言葉無いの?」
「愛しくないから無い、恋人でも無い、帰れ。今も仕事中だ」
 婉曲に言うとまったく通じないので、章彦は冷たく言い切る。いいよいいよとしていたら、彼が来た日はまったく家で仕事ができないのだ。章彦のプライベートなんてまったくなくなってしまう。
「それにお前、明るすぎて気味が悪い。調子が悪いなら自宅に帰って一人で眠れ」
 帰れ、というと、「じゃ、寝室に帰ろう」と来る。自宅に帰れ、と言うと、「章彦も一緒に帰ろう」と来る。寝ろ、と言うと「一緒に寝よう」と来る。
 突っ込みを入れられないために、他に言い換えができない言葉で言い返すのが章彦の癖になってしまった。
「あー……うーん……」
 章彦に突き放されるまま、勝輝はソファーの肘掛けにコトン、と腰を押しつけた。珍しく大人しく離れた勝輝に、章彦の方が気になる。
「兄貴が今大変でさー、組、目茶苦茶なんだよねー。面倒臭くてもー……」
「兄……というと、今容疑者に上がってる?」
「そ。二階堂仁輝オニイサマ。逃げる算段とってるんだけど、手違いが起こってさー、イライラして大変」
「私は検事だぞ。そういうことを言うな。報告の義務があるんだぞ」
「報告してよー。あの兄貴イラナイからー。捕まえて?」
「……仲が悪いのか?」
「悪いなんてもんじゃないよーっ! もー、すんごいよ。会ったら殺し合いになりそう。同じ事務所に行くのに、同じ家に住んでんのに、ここ数年会ったことも無いよ。どうにか、互いにすれ違うように時間組んでるからさー」
「…………お前が家を出ればいいことではないのか?」
 居場所が嫌ならすぐに転居しそうな性格なのに。金に不自由しているわけでもなく、勝輝が我慢してそこにいる、ということが章彦には信じられない。
 章彦の誕生日に何百万掛けて祝ってくれたことか。
「んー……それはナシなんだよねー……ったく、面倒なんだけどさー……」
 勝輝は言いながら、手に持っていた鞄の中からなんと、湯飲みを出してきた。章彦の湯飲みの隣にならべ、ニコッ、と笑って章彦を見る。なんとなく、章彦はその湯飲みに茶を注いでやった。
 ほこほこと二人で茶をすする。
「はー……………………落ち着くー……」
 大きなため息をついて勝輝が呟いた。
 それに章彦は苦笑して湯飲みをテーブルに戻す。ツボに入ってしまったらしく、笑いが途切れない。久しぶりに笑ったので腹筋が痛くなった。
 いつも章彦の平穏を壊し続ける勝輝が、章彦の傍で騒ぎ続ける勝輝が、『落ち着くー』などと呟いたことがおかしくて仕方がない。
 そして、自分を笑っている章彦に、勝輝も機嫌を崩した風情がなかった。
「まじで大変だったからさー…………事務所出るのも一苦労だし、事情聴取も重なるし……疲れたんだよー……ここに来るのも、組の奴らもサツもまかなきゃ行けないしさー……」
 今だ重要参考人の勝輝は何度も警察に任意出頭させられているのだ。抗争は始まったばかり。たしかに、こんなにノンビリしている暇は無いだろう。
「クリスマスぐらい恋人といたいジャン?」
「私はキリスト教徒ではないから、関係ない」
「日本でクリスマスなんてもう宗教儀式じゃないよー、ただのお祭り。バレンタインデーと一緒。金を使わせるための落とし穴だよ」
「わかっていて落とし穴にはまるのは賢くないぞ」
「いーの。たまには馬鹿になって落とし穴にはまってアワアワしたいの。アワアワしてるやつら、幸せそーじゃん。『騙されること』イコール『不幸』じゃないよ。楽しむために金を使うのは良い金の使い方だよ」
「真理だな」
「自分しか信じてない章彦とかには信じられないだろうけど。人間ってみんな、弱いんだよ」
 ズズズ、と茶をすすって勝輝が呟く。
「弱いから誰かにすがりたいの。弱いから誰かを信じたいの。それが宗教だったり、恋人だったり、するわけで……なんで信じられるほど好きになるかは……わかんないね……」
 段々トーンが落ちて行く勝輝に、章彦は意識を集中せざるを得なくなる。
「俺のお袋ね、オヤジキライで別居してたんだ。俺がヤクザになるのも凄い反対だったんだ。なのに、オヤジ助けて死んだんだ……だからね、お袋が命賭けて助けたオヤジを、兄貴にとられるわけには行かないんだ。俺がオヤジから離れたら、お袋の死が、無駄になっちまう……オヤジの住んでる家を……離れるわけには、いかないんだ。ヤクザになる気は、無いんだけど……お袋の遺言だし………兄貴が継ぐんだから。………それは、兄貴も一緒。俺にオヤジとられたくなくて、出て行けないんだ……オヤジはそんな俺に甘えて、借金ばっか作って……金の工面で俺、事務所に出ざるを得ないから…………そのうち組に入ってくれると思ってるんじゃないかと、思う……今回の抗争の発端も、俺をムショにいれて、ヤクザにするためだ、ってのはわかってんだけど……」
 しまった、と章彦は思った。
 『あの時』も、勝輝のこういう告白を聞いてしまって抵抗できなくなったのだ。だから、今、入りびたられている。それを拒否しきれなくなっている。
 男を好きだ、なんて思いたくないのに。
 勝輝のそばになんかいたくないのに。
 たまに優しい勝輝がかわいすぎて。
 たまに苦しげな勝輝がかわいそうすぎて。
 つい、手をさしのべてしまう。
 金の為だけなら弁護士になった。
 苦しんでる人を助けたかったら検事を選んだ。
 『悪』を撲滅したかったから、なのに。
 勝輝はその『悪』の塊のような男だ。
 けれど、その根幹には純粋な心を折り取られた苦渋があった。
 ヤクザの家に生れて、誰も彼を信じなかった少年時代に、心の核がねじれてしまったのだ。
 まだ、こんな過去があったのか、と思う。
「お前は……血を見すぎたんだ……」
 章彦は呟いた。
 目の前で母親が死んだのか……
 掛ける言葉も無い。
 たった一人残った父親を、兄と奪い合って憎み合っているなんて。
 この子の中にはどんな感情がつまっているのだろう。
 通り一遍に生きてきた章彦は、いつでも勝輝から衝撃を叩きつけられ続けてきた。
 彼と会ってからどれだけ泣いただろう。どれだけ苦しんだだろう。
 今、勝輝をこうして許しているのも、彼が更生すれば、自分の中の傷も癒える、そんな気がするからだ。
 愛、ではないと、思う。
 恋人、ではないと、思う。
 そういうふうに甘えられると、辛い。
 辛い、けれど、突き放せない。
「お袋ね、すんごい美人だったんだ」
 勝輝が突然言った。
「俺、オヤジに瓜二つで、兄貴、お袋に瓜二つなんだ。オンナ顔だから、オンナ受けよくって、ナンパすんの簡単、ってはしゃいでる。お袋の顔でそーゆーことされんのも嫌なんだよねー……まー、あっちも、オヤジの顔で俺が生きてるのが嫌みたいだけどさー。しょうがないジャン? 生れてきたんだし。生きてんだし。死なない限りは楽しくなりたいし。好きな人と一緒にいたいし。気持ち良くなりたいしっ」
 ピョン、と勝輝は章彦の隣に跳んできた。暗い雰囲気を一瞬で払拭されて章彦の方が戸惑う。勝輝は以前から、こういう雰囲気の切り替えが巧かった。演技ではないのか、と疑いたくもなるけれど、毎回流されてしまう。
「章彦と、気持良くなりたいし」
 ニコチャン、と笑って頬にキスしてくる勝輝。先程の衝撃の告白の延長線上で固まっている章彦は、抵抗もできず抱き寄せられ、ソファーに押し倒された。
「……ここでする気か?」
「キリストは馬小屋で生れたんだよ」
「関係ないだろう」
「どこでしてもいーじゃん」
「関係あるだろう」
「じゃ、ベッドに連れてったげるけど、途中で暴れたら落とすよ?」
「………………わかった……」
 よいしょ、と抱き上げられ、章彦は眉を寄せる。
「いや、違うだろうっ! この行為をやめろっ」
「おっそーいっ! 最初から章彦が問題にしたのは『どこ』でするか、であって、するかしないか、じゃなかったじゃん? だから、する気なんでしょ? 今更てれないでー」
「照れてないっ!」
「わかった、って言っただろ。はいトーチャクー。ポン」
 軽くベッドに投げ出されて章彦はうろたえた。すでに勝輝は上着を脱いでかぶさって来ている。
「ジングルベールジングルベール、ベッドが鳴る〜」
「ベッドがシャンシャン鳴ってたまるかっ! おいっ! むぐっ! ……むっ……んっ……」
 シャンシャンでは無いけれど、ベッドは夜中鳴り続けていた。


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