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赤狼冴月_四_見本

サイト小説?
赤狼シリーズの世界観

赤狼に喰らわれし冴月の如く 四』本文見本


「ナール・サス様、今日伺ってよろしいですか?」
 宮殿を下がろうとしたときに、突然、顔色の悪い侍衣牙からそう声を掛けられて、ナール・サスはただ、頷いた。
 将軍が僕に相談ってナニ?
 帰宅するまでもしてからも、ぐるぐる考えてみるけれど、ナール・サスには予想もつかない。
 今王宮はそれどころではないのだ。
 一昨日の、留枝暫時統治将軍相賀将軍との謁見で、史留暉が血を吐いて倒れた。
 そのことで、王宮中が大騒ぎになり、今日はそれが都に伝わって煌都中が大騒ぎ。明後日には大陸中が騒ぎだすだろう。
 原因はと言えば、史留暉がつらっと
「すまない、厠を我慢していたらああなった」
 と言ったものだから、みな安堵はしたけれど、それはもう王宮が壊れるのではないかという騒動だったのだ。
 その場にいた夕羅も、史留暉の顎に血が伝っているのを見て、暫く動くこともできないほど仰天していた。
 元々、昨日の謁見など史留暉が顔を出す必要のないものだ。え? 史留暉がなぜこの場にいるの? 同席していた外交大臣のナール・サスは、史留暉の出座を聞いてひどく驚いた。
 だからこそ、見ていたのだ。
 史留暉は血を吐いたのではない。
 何かを我慢し続けて、くちびるを噛み縛りすぎ、歯が皮膚を噛み切ったのだ。
 だからこそ、厠を我慢していたと言われればナール・サスでさえ納得はできた。普通なら、何がしか合図を送って侍従を呼び出し、皇太子の謁見はここまでです、と退席して終わる。そのための合図も史留暉は教わっていた筈だ。
 方向違いに責任感の強い史留暉のことだから、謁見が始まれば終わるまで同席するのが筋だ、とそうなったのだろうと思うことはナール・サスでさえ疑いようの無いことだった。
 だが、その理由を大陸全土に発表できるだろうか、というのも問題の一つだ。その一言で誰もが納得はできるけれど、穢れものを理由にするには、皇家は神々しすぎる。それも外交の一つとしてナール・サスが悩んでいる問題だった。
 夕羅も沙射皇帝でさえも、民を安心させるためだから公表しろ、と言っているが、みっともなくないだろうか、と他の大臣や諸公たちは良い顔をしない。だがそれが真実であるし、それ以外の理由では『皇太子殿下が血を吐いた』という事実は安堵では落ち着かない。
 埒も開かない会議に、ナール・サスは昨日一日付き合わされた。史留暉が良いのならばナール・サスはそれで良いと思う。だがみなは違うらしい。
 この件に関しては、ナール・サスは『他国籍』ということで意見を言う気も無いし、大臣という最重要職の彼に向かって意見を聞く者もいない。
 大体、王宮の者はその理由をみな知っているのだから、隠しても誤魔化しても、いつかは真実は都に広まるだろう。どうせ知れるものならば中央から公式発表をするのか筋だとは思うが、皇家に関しては結束の固い羅季人だから、女官たちも他言しないだろうか? ナール・サスにはそのへんがわからない。
 大体、箝口令も敷かれていない。
 夕羅が一言『言うな』と言えば誰も言わないだろう。だが、その夕羅自身が、公表すれば良い、と言っているのだ。
 これもまた微妙な発言だった。『公表しろ』と命令したのではない。『公表すれば良い』という発言には、支障が無ければ公表してもよいのではないか、という。あくまでも意見の一つ、であって、進行方向を左右するほどの強さが無いのだ。
 夕羅がこういう場面で婉曲に返事をすることは無い、とすでにみな知っている。つまり、夕羅は『どちらでも良い』と言っているのだ。
 元々、夕羅は『市井の出』ということが知れ渡っている。つまりは、皇家の面子に関しては俺は左右できない、羅季の慣例に従え、と諸公たちは取った。
 だからこそ悩むのは、『それは困る』という者たちであって、その者たちが是とする筈も無い。けれど、皇太子殿下の容体自体は公表しなければならないから悩んでいる。そんなつまらない会議に、ナール・サスは同席させられていたのだ。
 こういうのになると面倒くさいんだよねぇ……と、ナール・サスはため息しか出ない。今日はさすがに、結果が決まったら報告して、と言ってその会議を抜けてきた。自分がいてもいなくても一緒なのだからいなくて良いだろう。まだまだ、再生したばかりの煌都は外交問題が山積みなのだ。そんなことにかかずらっている場合ではない。
 侍衣牙が声を掛けてきたのはそんなときだ。
 しかも以前なら、『ご都合のよい日を伺っても良いですか?』だったのに、『今日』と指定してきた。よほどの急用なのだろう。そう思って、夜、人払いをして侍衣牙を呼び込んだ。
 侍衣牙はとても言い難そうだったが、うつむいたまま口を開きだす。
「珪化様のところで宴があって、俺も丞相も招待されてまして、とても盛大な宴でした。丞相は先に抜けられたんですけど」
 珪化というと、いつも宴の最後が乱交にある諸公の一人だと、ナール・サスは聞いている。
 侍衣牙将軍って、あれだけ丞相に入れ揚げているように見えるのに、ちゃんと女の子も抱けるんだなぁ、とナール・サスは感心した。しかも乱交で、だ。東南はそういうことが平気らしいというのは聞いているので、侍衣牙がそうでもおかしいこととも思わない。ただ、夕羅が早退したと言うことは、夕羅はそう言うことが嫌いなのだろうか。
 ああそうか。あの人は一人にどっぷり浸る人だから複数が周りにいるとイヤなのかな。
 侍衣牙が何かつらつらと喋っているのを横目に聞いて、ナール・サスは杯を舐める。
 言っていることをまとめると、乱交になる前に夕羅に問われたらしい。
「こちらに気があるのはわかるのに、なびかない女はどうする?」
 夕羅の口からそんな問いが出たのも今思えば驚いた、と侍衣牙は思い返しているようだ。その時は、酔っていたから気にしなかったらしい。夕羅も酔って忘れると思って聞いたのだろう。
「それで、君はどう答えたの?」
 言い難そうにしているのでナール・サスが聞いてあげた。
「普段しないことをしますよー。道具使うとか、人前でするとかー……と、答えたと思います。すっごい酔ってたので……」
「斬新な答えだね。あなた自身はしたことがあるの?」
「……はい…………それでなびいてくれました」
「実感なら仕方ないね。酔ってなくてもそう言ったんじゃない?」
「……ああ……そうですねぇ…………言ったかも……あー………………もう、本当すいません……庶民根性抜けなくて…………」
 庶民根性じゃないだろそれは、とナール・サスは追い込まなかった。たんに性に奔放なだけだ。
「それで、なぜそれを僕に告白しているのかな?」
 問い返すと、侍衣牙はさらにうつむいて、ややあって顔を上げると、訴えるようにナール・サスを見た。
「まさか丞相、それを皇太子殿下に使っていませんよね?」
 青天の霹靂とはこういうことだろうか。とナール・サスは遠い目になった。
「え? なぜそれを僕に聞いてくるの?」
「え……だって、丞相には聞けないでしょう?」
「あの人なら聞いたら答えてくれると………………あぁ……!」
 史留暉の『厠発言』かっ! とナール・サスは思い当たった。
「……でしょ?」
 侍衣牙も同じことを考えたらしい。
 これは僕に相談に来るな、うん……納得して、ナール・サスも俯いた。
 『道具使うとか、人前でするとかー』という侍衣牙の言葉を、夕羅はそのまま使ったのだ。
 道具を史留暉に仕込んで、謁見に出したのだ。
 本当に重要な謁見で遊ぶことはできないから、どうでも良い謁見に史留暉を連れてきたのだろう。
 あの時、史留暉を振り返った夕羅が一番驚いていたのをナール・サスも見ていた。
 本来の夕羅ならば、咄嗟に史留暉を隠そうとしただろう。史留暉の様子がおかしくなった時点で下げているはずだ。それをせずにしばし呆然としていた。
 喫緊の非常事態ではない、とあの時点で知っていたからだ。
 動くこともできないほど仰天していたと思ったが、その実、『まさかこんな事態になるとは!』と愕然としていたのだろう。
 夕羅としては、赤面して震えだす史留暉でも想像していたはずだ。それが真っ青になって歯をくいしばり、くちびるをかみ切ってしまう事態になるとは思わなかったことだろう。
 あの時、夕羅は呆れていたのだ。
 そうなると、厠発言は夕羅が史留暉に言い含めたことだろう。実際、厠に行きたかっただろうから史留暉も嘘ではないので臆面もなく口にできるのだ。
「……それはたしかに……………公表できない事態だね……」
「でしょう……? 俺のせいかと思うと…………昨日気付いてから震えが止まらなくて………」
「実行したのは丞相だから、君のせいではないよ」
 今、侍衣牙が一番聞きたいだろう言葉を言って上げるナール・サス。
 思い返しても、夕羅はたしかに閨中での作法は無茶苦茶だ。だが、道具を使ったことは無かったように思う。部屋で無いところでされここともあるけれど、他人の目のないところだった。夕羅に取っては『二人きり』『自分の体のみ』というのは閨中での基本なのだろう。
 侍衣牙が言わなければ、道具や謁見に連れ出すなどは思いつかなかったのではないだろうか。それでいうと、侍衣牙の責任が無いとは言い切れない。だがここで侍衣牙を責めても仕方がない。実行したのはあくまでも夕羅なのだから。
「あれから僕も史留暉に会っていないから……何も聞いていないね。昨日も今日も、史留暉は謁見を休んでいるし……自室に軟禁されているよね? 一切出てこない。史留暉が出たくないと言っているらしいけれど、あの鍛練好きが鍛練にも出てこないってことはないだろう」
「はい、毎日鍛練にはおいでいただいておりました。お姿を拝見できないことで、兵達もとても心配しております」
 今更厠発言を公表したら、ではなぜ二日もこもっていたのだということになりそうだ。くちびるの傷が治るのを待っているのだろう。
「あー……しかし…………丞相も無茶苦茶する人だね……本当……」
「まだ、丞相がそうなさった、と確認したわけではありませんが」
「してるよ、あの人は」
 ナール・サスは断言してみた。
 仕方がないので侍衣牙に酒をすすめて、適当に帰らせる。
 今後どうなるのかな、とナール・サスが見守っていたが、事態は突然収束した。
 王宮からの公表は一切なく、『噂』が流れたのだ。
『皇太子殿下は厠を我慢してくちびるを噛み切られたらしい。その傷が治るまでこもってらしたようだ。恥ずかしいから王宮は理由を公表できないらしい』
 どこともなく出たその噂は、一瞬で煌都から各国へと広がった。
 実際に、五日後に煌都に出てきた史留暉は、下くちびるにまだわずかにかさぶたが残っていたため、その噂を肯定した形になった。
 あー、皇家も人間だったんだー? とみな納得しただけだ。元々、史留暉が気さくに民と混じっていたこともあるだろう。
 この素早い噂の広がり方は、京守が各国同時に噂を流したのだ。ナール・サスはこっそり、京守の手腕を評価した。
 侍衣牙も、思ったより早く事態が収まったので、安心したようだ。面白かったので、侍衣牙の口止めをナール・サスはしなかった。今後も変なことを夕羅に教えて、夕羅が変なことをすれば良い、と思う。そうでもしなければ、史留暉は何も変わらないだろう。
 本当に、史留暉の心は鉄よりも硬い鎧を着てるんだから……丞相も大変だ。
 ナール・サスの思いは、史留暉に届くことは無さそうだった。

作成日: 10.10.04 12:12


赤狼に喰らわれし冴月の如く 四






これの『夕羅がしたこと』を書きたくて冴月の続編を書いて来ました。
やっと今回書けるっ! 万歳っ!

商業誌の方で、朴念仁でくそまじめな史留暉を書いてる時に
このネタがあって
商業誌には入らないや
と脇に避けておいたのですが

ここまでたどり着くのに三冊……(T-T)

長かったなぁ……

さぁ!
これから『夕羅がしたこと』を書かなければ!



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