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EGOIST-殉教の聖職者-_本文見本

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EGOIST 殉教の聖職者

EGOIST 殉教の聖職者

本編は以下を含む200ページ。本編





 気付かなければ良かった。

 飛鳥カイリはリムジンの後部座席で小さくため息をつく。
 カイリが動くと、腰まで延ばした黒髪がふわり、と揺れた。それは高校男子にしては少し低い一六〇センチの細い体を覆って流れている。
 隣でノートパソコンを操作している兄……飛鳥氷乙を眺めていた。
 その兄の白い細い指が操っているノートパソコンは車内のケーブルで飛鳥コーポレーションのアミューズメント部門技術研究部のコンピュータとオンラインでつながっている。
 一六歳のカイリと五歳違いの兄、氷乙は一七五センチの痩身美駆。日本人と言っても黒すぎるほどの髪をさらり、と清潔にセットした美丈夫だ。
 氷乙に初対面の者は大体が男か女か迷う。
 それぐらいに、美人だ。
 カイリはボー……と、車の中で兄を見つめる。
 カイリは子供の頃に母親を無くしているので母親の顔を知らないけれど。外の血を引いているのだろう氷乙の瞳は蒼い。黒髪で瞳が蒼い、っというのは世界的にも珍しい。カイリは黒髪黒瞳なのに、同じ遺伝子を持っているはずの氷乙は日本人にはまったく見えない。カイリもポリネシア系の大きな瞳を持った少年だ。氷乙に言わせると、黒いポメラニアンだそうだ。可愛いのではなくてうるさいらしい。
「氷乙様。今日は一一時五〇分にお迎えにあがる予定ですが、よろしいですか?」
 運転手が車内マイクで氷乙に声を掛ける。
「昼前の一時限だけ講義を受けて昼は銀座で会食だからな……それでいい」
「はい、かしこまりました」
 カイリの視線の先で、カイリの自慢の兄は刻々と指示を出しながらその結果を今や遅しと待ちかねてモニタを睨み付けている。耳にはイヤホンを嵌めていて、朝の株式市況を聞いていた。
 隣のモニタでは、マサチューセッツ工科大学の講義の録画ビデオが再生されていた。
 カイリの兄、飛鳥氷乙は日本を拠点に世界に広がる飛鳥財閥率いる飛鳥コーポレーションCEOだった。
 元々、多岐に渡る経営の中でも重工業が盛んだったが。氷乙が経営をするようになってアミューズメント部門が大躍進している。
 今ではアメリカのゲーム会社をいくつか乗っ取って日本に独占販売していたりした。
 日本の都心副都心に『MIL』というユニバーサルスタジオを進化させたようなデジタルアミューズメント巨大ビルを作って大盛況だ。大阪のMILはヨーロッパの城を移築して建造されている。
 元々がアメリカで流行したマジックアンドソードというトレーディングカードゲームに氷乙がはまったのがアミューズメント部門を設立するきっかけだった。
 カイリが遊んでいたそれを傍で見ていた氷乙が覚えてはまったのだ。
 ただでさえ飛鳥総帥として忙しい身の上だというのに。日本にマジックアンドソードを紹介するための大会やCMに氷乙自らが出演するほどの力の入れようだった。
 カイリの大事な兄は、テレビ出演したことで一気に認知度があがり、アイドル張りの人気を呈していた。元々が街を歩いているとスカウトが遠慮するほどの美形なのだ。度胸のあるスカウトマンが声を掛けてくるけれど。それは全部、いつも三人は張りついている氷乙のSPに排除されている。
 飛鳥の屋敷は明治初期にイギリスから移築された瀟洒な屋敷だった。
 ロココ調で整えられた邸内の、アーチ型のステンドグラスの前に氷乙がいたりすると、まるで絵のようで……カイリはぼけっ、と見とれてしまうぐらい美しい。本人がそれをまったく気にしていない、というのがカイリの不幸を誘っている。
 いつもなら、カイリと氷乙の乗るリムジンは別だ。氷乙は東大に、カイリは高校に行くのだから当然で。
 今日は氷乙がカイリのリムジンに乗り込んできたのだ。
「ビデオが壊れてるんだ」
 そう言って氷乙は後部座席に陣取り、カイリになんの断りもなく、ビデオデッキにビデオを差し込んだ。
 マサチューセッツ工科大学の講義の録画ビデオだ。
 氷乙は本当ならばまだ、勉強したいのだ。
 氷乙が一六歳の時に義理の父が死に、会社を受け継いだ。
 とりあえず現在、氷乙は東京大学に通いながら社長業をしているけれど。世界レベルで言えば、東京大学は上から五〇位ぐらいのレベル。決して、氷乙を満足させてくれるものではなかった。ただ、日本では「東大卒」という肩書は使えるので仕事の合間に通っているだけだ。日本を拠点で会社を経営しながら通い易い一番レベルの高い大学が東大だっただけ。家と近い、というのもネックだった。
 当然一発合格の首席入学だ。オックスフォード大学に楽々入れる氷乙にすれば、たいした問題では無い。
 車内とは言え、特別注文のリムジンなのでひろびろとしている。
 カイリは静かに隣に掛ける氷乙を見つめていた。
 少し長めに切り揃えられた黒髪。白人のそれではなく、黄色人種独特の、白い色素がつまった白い肌。透明なほどに白い肌の為に、血が透けて、紅を塗ったように紅いくちびる。神経質そうなすらりと高い鼻。意志の強さを示すようにつり上がった眉は綺麗な半弧を描いている。無造作にかきあげられたかのようにスタイリストがセットした前髪。左の額とこめかみが露出し、右に前髪を寄せている。
 それだけだと『美人』の代名詞になる儚げな風情なのに。
 どこの血を引いているのか蒼い瞳がすべてを裏切っていた。
 意志の強い……強すぎるその感情を隠しもしない透明な瞳。海の蒼、と言っても日本の海のように暗くは無く。南洋のように明るくもない。やはり海……よりは鉱石。サファイアの蒼……否、もっと硬い、ブルーダイアモンドの蒼……だった。
 何にも負けない世界一強い鉱石。その名を冠しても余りあるほどに強い視線の……瞳。
 美しい……カイリの、今では唯一の血族。
 カイリはこの美しい兄に愛して貰った覚えが……時間的に言うとあまり、無い。
 カイリが五歳の時に両親が死んで、カイリも氷乙も孤児院にいた。そこで飛鳥夏彦(当時五一歳)に引き取られたのだ。
 飛鳥に引き取られてからは、氷乙はカイリを遠くに置いた。傍によることさえ遮られた。
 カイリが一六歳になった今でも、そうだ。
 ただ……孤児院に入る前。親戚の間をたらい回しにされていたとき。屋根裏部屋に押しこめられていた時があった。
 学校にも行かせてもらえず。食事は一日に一度。
 焼き板の壁の隙間から空が見えるような……そんな所に半年ほど……いた。たまに雪が降るぐらいの冬だったけれど。毛布二枚しか無い二人には切実な問題だった。
 氷乙はいつでもカイリを抱きしめてくれた。
 カイリは暖かくて幸せだったけれど。今考えれば……毛布二枚で耐えていた氷乙はそうとう寒かった筈なのだ。
 食事も氷乙は最低限しか食べずに全部カイリにくれていた。
 最終的に氷乙が倒れてしまって……死ぬと困る親戚達は病身の氷乙をそのまま孤児院に預けてしまった。当然、カイリも一緒に。
「兄さま死なないでっ死なないでっ」
 熱を出して昏睡状態の氷乙にカイリは泣きすがる。
「お前が一人前になるまでは………死なない…よ……カイリ……」
 ふっと意識を取り戻す氷乙は、必ずそう言って微笑んだ。
 その笑みがカイリは哀しくて……辛くて……一晩中氷乙の手を握りしめていた。
 孤児院では氷乙はすべからく、カイリを護ってくれた。
 カイリは氷乙の愛をひしひしと感じて育った。
 だから、今……そっけない兄の態度にもなんとも思いはしない。
 今、手取り足取り護られるほど自分も弱くは無いから。
 忙しい兄に甘える気も、カイリは無かった。
 自分に気を掛けてくれるぐらいなら、寝て欲しかった。
 カイリはただ……孤児院での氷乙の愛を食べて暮らしていた。
 ただただ優しかった、氷乙。
 カイリを護ってくれた……氷乙。
 美しいカイリの兄は昔から気が強くて。腕力には負ける年上の少年にも膝を折ることは無かった。
 孤児院に入った瞬間、院長のお気に入りに納まっていじめられることを回避していた。
 氷乙は昔から頭が良かった。機転がききすぎていた。
 普通の少年が氷乙に口で叶うはずが無くて。一人になるといじめられてしまうカイリに、氷乙は付きっ切りだった。
 チェスも教えてくれた。
 そう……チェス……
 カイリは…氷乙が夏彦に声をかけるのを見ていた。
 孤児院にはたまに大人が来る。
 子供を引き取りたい、とか。
 借金を早く返せ、とか。
 殆どは後者だけれど。
「またシャッキントリの人かな?」
 えらそうな大柄の男が二人で園内に入ってきたのに、カイリは怯えて氷乙の後ろに隠れた。
「今度、俺達の父親になってくれる人だよ」
 氷乙はカイリの頭を撫でて、言う。
「父親?どうして?」
 氷乙の言葉をカイリは問い返す。
 夏彦は友人らしき金髪の外国人と一緒に園に入ってきた。
 そして氷乙に向かって走ってくる園長。
「氷乙くん。今日のお客様が、あなたから手紙を受け取った、とおっしゃっていらっしゃるわ。本当?」
 尼僧の園長はとても焦って氷乙に問いただす。
「そうです。僕が手紙を出しました。なんとおっしゃっていらっしゃいますか?」
「…………とりあえず、いらっしゃい。カイリくんは、遠慮してね?」
 そう言って氷乙が園長と園長室に消えるのをカイリは見つめていた。
「僕が氷乙です。初めまして。飛鳥夏彦さん、ミスターフレデリック・ジュリア」
 氷乙は応接セットに掛けている夏彦と金髪の白人に向かってそう言った。
「チェスは簡単なゲームですね。俺はあなたよりも強い。嘘だと思うなら試して見るがいい…………この、手紙は君が書いた物かね?
 君は…………男の子かい?」
「正真正銘の男だ。証拠を見せようか?」
 氷乙の子供らしからぬ、整った容姿に白人の方が眉を寄せた。実際、子供の性差は分かりにくいものだけれど。ベルトに手を掛けた氷乙に彼は手を振って謝った。
 夏彦が一通の手紙を氷乙に向ける。フレデリックと呼ばれた金髪の方も同じように手紙を出した。
「ひ……氷乙くん……一体このお二方に何をしたのですか?」
 園長がおろおろと氷乙に問いただす。
「手紙の通りです。来ていただけるとは思っていませんでしたが嬉しいです」
 氷乙は堂々とした態度で二人に対峙した。
「チェス世界大会が先頃東京で開催されましたでしょう?あなた方二人が決勝を争ってらした。
 テレビで拝見していまして、これなら僕でも勝てるな、と思ったので正直な気持ちをしたためさせていただきました」
「氷乙君っ、なんてことをっ」
 フレデリックの方がヒュー、と口笛を拭いた。
「すばらしい。夏彦のところにも同じ手紙が来ている、と聞いて確認の為に来たんだ。
 今回は夏彦が勝ったが、前回は僕が勝った。
 ここにいるのはここ数年世界一を争っている二人だぞ?それでも勝てると言うのかい?」
「勝てます。僕はあなた達よりも頭がいい」          フレデリックの言葉に氷乙は言い切った。
「いい度胸だ、気に入った。相手をしてやろうじゃないか」
「フレデリック……」
 フレデリックの方が軽くテーブルを叩いて氷乙を見た。夏彦が友人を止めるようなそぶりをする。
「こういう子供は痛い眼を見せないとわからないんだよ、夏彦。
 後三時間は空いている。一〇分で勝ってやるよ」
「一〇分で?……クク……無理でしょう。それは」
 氷乙はフレデリックに厭な笑いを浮かべて見せた。
「君の狙いはなんだね?氷乙くん」
 少しいらだっているフレデリックを抑えて夏彦が氷乙を見た。
「俺が勝ったら弟と一緒に養子にしてくれ」
 フレデリックと夏彦が目を丸くする。途端に口調が荒くなった氷乙にフレデリックが眉を寄せた。余程さっきまでの丁寧語に苦労していたんだな、と感じるぐらいに粗野な言葉。
「俺はもう、ここには居たくない。
 早く出たいんだ。保護者が欲しい。
 一緒に住んでくれ、とか。
 家族が欲しい、とか。
 いい両親を探してる、とか。
 何も言わない。
 保護者と、金と、住む場所が欲しいんだ」
「はっきりした子だな。
 売名行為ではないんだね?」
「カメラを呼べ、なんて言ってないだろう?俺だってカメラなんかに入られちゃ困る。この年でストーカーに狙われるのは厭だからな。今でも女と間違われて付け狙われる時があるんだ。これ以上目立ちたくはない」
 氷乙は夏彦と対等の口を聞いて言い放つ。
「あんたたち、忙しそうだから、二人一緒に相手してやるよ」
 氷乙はテーブルに手をついて、夏彦とフレデリックを交互に見て笑った。さすがに、フレデリックが真っ赤になって立ち上がる。
「僕は帰る。キ○○イの子供には付き合えないよ」
「一〇分で俺に勝てば、一〇分で帰れるぜ?それともそんな一〇分が惜しいのか?もしかして一〇分で俺に負けるのが怖いんじゃないのか?」
「…………………ッッッッ受けて立つっ夏彦、君も、いいねっ」
「…………………………まぁ、お前がそう言うならな……」
「最後の良心だ。
 どうして対戦するのかは君に決めさせてあげよう。ボーイ。
 どうしたって、僕達二人に勝てるはずなんか無いんだからね。
 後で自分に取って不利だった、と言わないように都合のいいことを並べ立ててごらん。聞けるところは聞いて上げよう」
「それはそれは心の広いことで」
 氷乙はいやみったらしくせせら笑ってフレデリックを横目で見る。
「二つの部屋にあんた方が一人ずつ入って、盤を置く。俺はその間を交互に行き来して駒を動かす。
 その間、二つの部屋の行き来ができるのは俺だけ。部屋の中にいるのはあんた方だけ……ということかな?」
 氷乙の言葉をフレデリックも夏彦も何度か噛みしめていて……目を交わして頷いた。
「僕達に不利は無い。それでいいよ。
 園長、部屋を二つ貸して貰えるかな?」
「ああ……はい……」
「園長室と講堂でいいでしょう。お忙しい人たちだから部屋を掃除などしている時間がもったいない。無音室じゃないとできない、なんておっしゃいませんよねぇ?」
「あたりまえだっどこででも受けて立つっ」
 フレデリックが声高に叫ぶ。
 そうして……世にも奇妙なチェスの対戦が始まった。



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