結局、茘枝(れいし)にも専恣(せんし)にも私は普通にキラ・シと一緒に移動した。
出産した翌週に、一気に馬で走る。もう、この時は私一人の体だから、安心して失神してればいいんだ。
茘枝も専恣(せんし)も山だったから、『キラ・シの初日の出』が見られたんだけど、そのあと、随分向こうまで山が無いの。それに、そこがラスタートの領土だからと言うので、キラ・シも戦々恐々としてた。あと二週間で山に登らないと、初日の出が見られないから。
大きな湖で休憩しながら、山を目指す。
もちろん、水辺には集落があって、問題は起き掛けた。けど、既に『制圧』してたから、『駆け抜けるだけ』というのを信じてもらえたみたい。
「あの山は死の山だ。帰って来た奴がいないから、俺たちは誰も行かない」
そこの族長は、馬乳酒をすすめながらそう教えてくれた。凄くその部族は賑わってると思ったら、あちこちの部族がキラ・シ本隊を見に来たらしい。
ル・アくんが、こっちの子と駆け回ってた。ナンちゃんは人見知りがあるから、ああいう真似ができないのよね。
「ハル! ハル! ラキシタだよっ! なんか、また来いって言われた気がする。話聞いて?」
ル・アくんより二周り大きいかしら? ショウ・キさんが子供の頃はこんなだったのかしら、って感じのいかつい男の子。
「こいつに俺の子産ませたい! 十年後にもう一度来い、って言って!」
ラキシタくんの残念な訴えに、サル・シュくんがゲラゲラ笑ってる。ル・アくんは分かってないのに、サル・シュくんはなんで意味が通じるのかしら?
「ラキシタくん、ル・アくん、男の子なのよ」
「えっ!」
本気で驚いてる!
「ナニ? ハル、なんて言ったのっ?」
「ラキシタ君は、十年後にもう一度ル・アくんに会いたいって」
「うんっ! 来るよっ! 絶対来るっ! 一緒に戦おうっ! って言って! ハル!」
女の子がどうのって言うのは、伝えなくていいわよね?
「ラキシタくん、ル・アくんが、また来るから、一緒に戦おう、って言ってるわ」
「あーーー…………うん…………それは、いーけど……久々に強ぇ美人だと思ったのにっ! 男かよ!」
凄い地団駄踏んでる。なんとなく分かる気はする。ル・アくんは、かわいい。
「じゃあ、あの白いのは? あれは女だろ?」
ラキシタ君が指さしたのはナンちゃんだった。確かに、白くて凄く美人。
「残念ね。彼も男の子。私の息子」
「もしかして、後ろの白い美人も?」
「そう、私の旦那さん。サル・シュくん」
アレが男っ! って叫んでるラキシタ君。
あんなに背が高くて腕が太いのに、なぜ女の子だと思うの……と、思ったけど、天幕に入ってきた『女族長』って人が、凄いいかつかった。
アマゾネスだわ……
ガリさんより太くない?
ル・マちゃんが育ったらあんな感じになったかもしれない。いや、無理かな。ガリさんも細めだから、ル・マちゃんはもうちょっと細いだろうな。
「サル・シュくん、あの人、口説かないの?」
「もっとでかくなってから来い、って言われた」
さすが! もう口説いてた。
他にもあれぐらい大きい女の人いそうだよね。
そっか。ラキシタ君には『女がか弱い』っていう概念がないんだ?
「ここにいる全員が女だとしたら、ラキシタ君にとって、一番子供を産ませたいのって誰?」
ラキシタ君はショウ・キさんを選んだ。大男が揃うキラ・シでも巨人! 二番目はガリさんだった。
本当に、人の好みってそれぞれねぇ……
あ、女族長さんに、ショウ・キさんが口説かれてる。ガリさん丸無視された。サル・シュくんも私の後ろで笑ってる。
すごい。ショウ・キさんと並んで丁度いいぐらいの女の人。圧巻! ガリさんがか弱い美女に見える! 凄いっ!
「キラ・シって、物凄い美人が多いけど……もしかして、全員男?」
「戦えそうなのは、みんな男の人よ。そうじゃないのが女の人だけど、みんな恋人がいるから、手を出したら殺されるわよ?」
「俺がそいつより強けりゃ、女が俺を選ぶ」
ここはそういう社会なのね。
「俺は強くなるぜ。今でも、部族三位だ」
どこの部族でも、スーパーな子は子供の頃から化け物なのね。
ラキシタ、ね。覚えておこう。この子、本当に族長になりそうだわ。
「じゃああんたは?」
「ナニが?」
「あんたは女なの?」
「私は、女よ?」
「じゃあ、あんたがいいっ! 俺の子を産めよ! 十年後に会いに行くからっ!」
断る前に、サル・シュくんが私を後ろに隠した。
「ハルは俺の女だ。二度と触るなっ!」
子供相手に本気で吠えたわ……サル・シュくん。
どうして言葉が分かるのかしら?
ラキシタ君が、腰を抜かして、ル・アくんが助け起こした。
みんながこっち見てる。リョウさんが向こうでため息ついてた。
「お前より絶対に強くなってやるぜっ! 俺はウィギのラキシタだっ覚えてろっ!」
「俺はキラ・シのサル・シュだ。来てもいいが、切り殺すぞっ!」
お互い別の言葉で喋ってるのよね?
通じてるの、凄い。
サル・シュくんに膝カックンして、奥に倒した。
「ラキシタ君、今、サル・シュくんと別の言葉で怒鳴り合ってたわよね? 言葉が分かったの?」
「あんたを欲しがる俺に敵対されたのは分かった。イい女は取り合いになるから、仕方ない! 十年後は俺の子を産めよ!」
ああ、そう……
「どうして私? 他にもキラ・シには女の人いるわよ?」
「キラ・シで俺と喋ってるのはあんただけだから」
ああ……この世界に来たときの、ファンタジーチートね…………たしかに、これって、凄い能力よね。
でも、それって、私の努力でもないし……なんか、私のモテ期到来は毎回嬉しいけど、複雑。
「あんたは、摂政になれる女だ。ハル」
ラキシタ君が、真っ直ぐに私の目を見て、言ってくれた。
「ただ言葉が喋れるだけの奴は今までもいた。でも、そいつらは俺にか、ラキの奴らにか、いつもびくびくしてた。
あんたは最初から俺たちを怖がってなかった。
ウィギの族長である、俺の父とも対等に喋ってた。
そんな奴は、今までいなかった。
俺の代で、あのラキ山をラキから取り返す。そのために強い奴を集めてる。
強いなら誰でも欲しい。賛同してくれるやつは幾らでも欲しい。だから、ル・アも、十年後に来たら、いつでも歓迎する。来なかったら俺から迎えに行く。
世界中、どこにいてもだ!
お前も、ハル。
通詞ができなくても、欲しい。
男でもかまわないが、女なら、尚更欲しい。
お前の子が欲しい」”
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