”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。183 ~馬乳酒~”

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 結局、茘枝(れいし)にも専恣(せんし)にも私は普通にキラ・シと一緒に移動した。

 出産した翌週に、一気に馬で走る。もう、この時は私一人の体だから、安心して失神してればいいんだ。

 茘枝も専恣(せんし)も山だったから、『キラ・シの初日の出』が見られたんだけど、そのあと、随分向こうまで山が無いの。それに、そこがラスタートの領土だからと言うので、キラ・シも戦々恐々としてた。あと二週間で山に登らないと、初日の出が見られないから。

 大きな湖で休憩しながら、山を目指す。

 もちろん、水辺には集落があって、問題は起き掛けた。けど、既に『制圧』してたから、『駆け抜けるだけ』というのを信じてもらえたみたい。

「あの山は死の山だ。帰って来た奴がいないから、俺たちは誰も行かない」

 そこの族長は、馬乳酒をすすめながらそう教えてくれた。凄くその部族は賑わってると思ったら、あちこちの部族がキラ・シ本隊を見に来たらしい。

 ル・アくんが、こっちの子と駆け回ってた。ナンちゃんは人見知りがあるから、ああいう真似ができないのよね。

「ハル! ハル! ラキシタだよっ! なんか、また来いって言われた気がする。話聞いて?」

 ル・アくんより二周り大きいかしら? ショウ・キさんが子供の頃はこんなだったのかしら、って感じのいかつい男の子。

「こいつに俺の子産ませたい! 十年後にもう一度来い、って言って!」

 ラキシタくんの残念な訴えに、サル・シュくんがゲラゲラ笑ってる。ル・アくんは分かってないのに、サル・シュくんはなんで意味が通じるのかしら?

「ラキシタくん、ル・アくん、男の子なのよ」

「えっ!」

 本気で驚いてる!

「ナニ? ハル、なんて言ったのっ?」

「ラキシタ君は、十年後にもう一度ル・アくんに会いたいって」

「うんっ! 来るよっ! 絶対来るっ! 一緒に戦おうっ! って言って! ハル!」

 女の子がどうのって言うのは、伝えなくていいわよね?

「ラキシタくん、ル・アくんが、また来るから、一緒に戦おう、って言ってるわ」

「あーーー…………うん…………それは、いーけど……久々に強ぇ美人だと思ったのにっ! 男かよ!」

 凄い地団駄踏んでる。なんとなく分かる気はする。ル・アくんは、かわいい。

「じゃあ、あの白いのは? あれは女だろ?」

 ラキシタ君が指さしたのはナンちゃんだった。確かに、白くて凄く美人。

「残念ね。彼も男の子。私の息子」

「もしかして、後ろの白い美人も?」

「そう、私の旦那さん。サル・シュくん」

 アレが男っ! って叫んでるラキシタ君。

 あんなに背が高くて腕が太いのに、なぜ女の子だと思うの……と、思ったけど、天幕に入ってきた『女族長』って人が、凄いいかつかった。

 アマゾネスだわ……

 ガリさんより太くない?

 ル・マちゃんが育ったらあんな感じになったかもしれない。いや、無理かな。ガリさんも細めだから、ル・マちゃんはもうちょっと細いだろうな。

「サル・シュくん、あの人、口説かないの?」

「もっとでかくなってから来い、って言われた」

 さすが! もう口説いてた。

 他にもあれぐらい大きい女の人いそうだよね。

 そっか。ラキシタ君には『女がか弱い』っていう概念がないんだ?

「ここにいる全員が女だとしたら、ラキシタ君にとって、一番子供を産ませたいのって誰?」

 ラキシタ君はショウ・キさんを選んだ。大男が揃うキラ・シでも巨人! 二番目はガリさんだった。

 本当に、人の好みってそれぞれねぇ……

 あ、女族長さんに、ショウ・キさんが口説かれてる。ガリさん丸無視された。サル・シュくんも私の後ろで笑ってる。

 すごい。ショウ・キさんと並んで丁度いいぐらいの女の人。圧巻! ガリさんがか弱い美女に見える! 凄いっ!

「キラ・シって、物凄い美人が多いけど……もしかして、全員男?」

「戦えそうなのは、みんな男の人よ。そうじゃないのが女の人だけど、みんな恋人がいるから、手を出したら殺されるわよ?」

「俺がそいつより強けりゃ、女が俺を選ぶ」

 ここはそういう社会なのね。

「俺は強くなるぜ。今でも、部族三位だ」

 どこの部族でも、スーパーな子は子供の頃から化け物なのね。

 ラキシタ、ね。覚えておこう。この子、本当に族長になりそうだわ。

「じゃああんたは?」

「ナニが?」

「あんたは女なの?」

「私は、女よ?」

「じゃあ、あんたがいいっ! 俺の子を産めよ! 十年後に会いに行くからっ!」

 断る前に、サル・シュくんが私を後ろに隠した。

「ハルは俺の女だ。二度と触るなっ!」

 子供相手に本気で吠えたわ……サル・シュくん。

 どうして言葉が分かるのかしら?

 ラキシタ君が、腰を抜かして、ル・アくんが助け起こした。

 みんながこっち見てる。リョウさんが向こうでため息ついてた。

「お前より絶対に強くなってやるぜっ! 俺はウィギのラキシタだっ覚えてろっ!」

「俺はキラ・シのサル・シュだ。来てもいいが、切り殺すぞっ!」

 お互い別の言葉で喋ってるのよね?

 通じてるの、凄い。

 サル・シュくんに膝カックンして、奥に倒した。

「ラキシタ君、今、サル・シュくんと別の言葉で怒鳴り合ってたわよね? 言葉が分かったの?」

「あんたを欲しがる俺に敵対されたのは分かった。イい女は取り合いになるから、仕方ない! 十年後は俺の子を産めよ!」

 ああ、そう……

「どうして私? 他にもキラ・シには女の人いるわよ?」

「キラ・シで俺と喋ってるのはあんただけだから」

 ああ……この世界に来たときの、ファンタジーチートね…………たしかに、これって、凄い能力よね。

 でも、それって、私の努力でもないし……なんか、私のモテ期到来は毎回嬉しいけど、複雑。

「あんたは、摂政になれる女だ。ハル」

 ラキシタ君が、真っ直ぐに私の目を見て、言ってくれた。

「ただ言葉が喋れるだけの奴は今までもいた。でも、そいつらは俺にか、ラキの奴らにか、いつもびくびくしてた。

 あんたは最初から俺たちを怖がってなかった。

 ウィギの族長である、俺の父とも対等に喋ってた。

 そんな奴は、今までいなかった。

 俺の代で、あのラキ山をラキから取り返す。そのために強い奴を集めてる。

 強いなら誰でも欲しい。賛同してくれるやつは幾らでも欲しい。だから、ル・アも、十年後に来たら、いつでも歓迎する。来なかったら俺から迎えに行く。

 世界中、どこにいてもだ!

 お前も、ハル。

 通詞ができなくても、欲しい。

 男でもかまわないが、女なら、尚更欲しい。

 お前の子が欲しい」”

 

 

 

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