【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。195 ~一秒~

 

 

 

 

「母上を嫌うはずなんて無いよっ! でも、父上が凄い怖いからっ!」

 大魔神が後ろに座って私を抱え込んだ。

「制圧行ってらっしゃいよ」

「もう行ってきた」

 私の肩に額をすりつけて、スンスン泣き真似する。

 かわいい……

 でも、もっと前にこうしていれば、あの書記の人は殺されずにすんだ……

 ごめんなさい……

  

 

  

 

  

 

  

 

 数日後。

「ああ、ハル」

 部屋を出ようとしたら、まだベッドに転がってるサル・シュくんに睨まれた。

 なんで睨むの。そのだらしないかっこうで。

 男の人のグラビア写真に需要があるの、凄いわかるわー。だらだらしてるだけなのに、なんてカッコイイのサル・シュくん。なにしててもフォトジェニックって凄いよねー。私の脳細胞にREC。REC。

「ル・アに近寄るなよ」

「なんで?」

「あいつも男になった」

 あらまぁ……

「ナンより一つ下じゃなかった?」

「俺も11でなったから」

 ソレで不機嫌なのね。知らないわよ。

「…………わかった、近づかないよ」

 ドア閉めて廊下に出たら、サル・シュくんがわさわさ服着てる音がする。気になるなら、ついて出てくればいいのに、なんでそんなぎりぎりまで寝てるかな。

「あ! ハルーっ! おはよう!」

 ル・アくんが一メートル向こうで手を上げた。

 昨日までは抱きついてきてくれてたのに。

 いいもん、まだ子供たちいるもん。毎年産まれるもん!

「ナッちゃーんっ!」

 ガリさんとの子供。飛びついてきてくれる。かわいい。

「母上ー」

 多分彼も、来年は抱けなくなる。寂しい……

 息子にまで嫉妬する、って、絶対にサル・シュくんがおかしい!

 ナンちゃんもル・アくんも、みるみる声が低くなって、まぁ……笑い声がドス太い。

 やっぱり『子供の声』ってかわいいわねぇ。キャッキャッて高い声、聞いててウキウキする。

 そう言えば、サル・シュくんも、ガリさんも、まだ髭が出てないけど、白い人は出ないのかな? じゃあ、私の子供たち、みんなおひげなし? リョウさんみたいに『熊さん』にはなれないのねぇ……多分、どっちも細いだろうし……

「リョウさん、赤ちゃん抱かせて?」

「……なぜだ」

 なぜ、聞き返されるんだろう? 私の子よ?

「何か手に持ってたらナンちゃんとか、抱きつきたくならないと思うの。私、赤ちゃん抱いたことないから」

「重たいぞ。ハルが持って居られると思えん」

 却下された……

 私の赤ちゃんなのに…………

 仕方ないので、クッションを抱いて歩いてる。疲れたらそのまま座れるから、女官さんに持ってきてもらわなくていいし、いいよね。

 私多分、世界一恵まれてる妊婦だと思う。

 こんな古代でずっと子供産んでるのに、育児したことないとか、おかしい。

「わたくしも、赤ちゃんに触らせて貰えませんよ」

 マキメイさんまで笑ってた。

「男のかたが育児されるなんて、本当に驚きです」

「ねぇ……びっくりだよね」

「はい」

 女二人で頷いてると、サギさんまでそっと隣に座ってた。

 そう言えば、この三人、全部旦那がサル・シュくんだ。

「私も、まさか、毎年子を産まされるとは思っていませんでした……」

 サギさんも呟く。

 サギさんはいつも、『大陸の忍者の一族ゼルブ』として殺伐とした所にいたから、今が凄い平和で、驚いてるらしい。

「そうだ、サギさん。ゼルブとキラ・シはどういう契約をしているの?」

「契約……ですか? そういうものは、存在していません。私達はただただ、キラ・シになったのです」

「そうなんだ? 良かった!」

「はい…………契約のような、冷たいものでつながる間柄でないことが、とても喜ばしいです」

 良かった! これで『ゼルブの裏切り』はないんだっ!

「そうだ、女の人は抱きしめてもいいのよね!」

 サギさんをギューとして、マキメイさんをギューッとしたら、目の前に大魔神が座ってにっこにこしてた。

「ナニが嬉しいのサル・シュくん」

「俺の女達がそうやってると、ぽかぽかする」

 ぽかぽかする?『心がぽかぽか』でいいのかな?

 女の子に対しては、本当に、サル・シュくんって和やかなのになー。

 あ。ピキッ、ってサル・シュくんがとがった。

 ル・アくんが廊下の向こうから歩いてくる。

「ねぇ、ハル。この書簡なんだけど…………ハイ、サル・シュ!」

 ル・アくんは、サル・シュくんに手をあげて挨拶したまま書簡を私に見せようとして、竹簡がぐにゃっとなった。両端を私とル・アくんで持っても、一メートルは離れない。

 仕方ないので、ル・アくんが廊下に竹簡を広げて、二人で覗き込んだ。

 でも、竹簡を挟んで一メートル離れると、私が竹簡の文字を読めない。

 ル・アくんが一歩離れるから、私が竹簡を持ち上げる。

 サギさんも竹簡を覗き込んだ。マキメイさんは呼ばれてどこかに行った。

 サル・シュくんはさっきの場所であぐらに頬杖ついてる。

 サギさんもサル・シュくんの女だから、ル・アくんに一メートル近づけない。

「そこの文字がわからないんだけど」

「どれ?」

「……そこ……えっと……どこだっけ? 竹簡投げて」

 ずずい、とル・アくんの方に竹簡を押した。

 もう一度文章を読んで、コレ、と指さすル・アくん。

「『慙愧(ざんき)に耐えない』ですね」

 私より目がいいサギさんが、目を細めて書簡を凝視する。

「ざんき? どういう意味?」

「自分のしたことを後悔するとか、恥ずかしいとか」

 ふと、全員がサル・シュくんを見た。

「ナニ?」

 サル・シュくんはご機嫌そう。

 三人でため息をつく。

 ル・アくんが竹簡を持って、ありがとうっ! と、走って行った。

 あんなの、そばに寄っていいなら二秒で終わるのに……

 この大魔神、どうにか軟化しないのかな……と思ったけど、このあともまったく譲らなかった。

  

 

  

 

  

 

  

 

 煌都(こうと)に来て二年ぐらいした時、もう移動しないって聞いたから、水時計を作った。

 一秒に一滴落ちるぐらいの器を作って、中天から中天まで、何粒落ちるか数えてもらう。

 10日の平均の水滴量を24で割った升を作ってもらった。これでこの升がいっぱいになったら一時間。それの60分の1の升を作ってもらって一分。その一分に60滴落ちるように水滴調節してもらった。

 これで、一滴落ちたら一秒。

 一時間で鐘を鳴らして、水を捨てて、次の水を溜める。手作業だから時間は微妙にずれるけど、中天にリセット。

 その『中天』はキラ・シの感覚を信じた。だって、真夜中のゼロ時はどうやったって、出せないもの。

 夜明けが一時でも良かった。だけど、『揺るぎないもの』が欲しかったんだ。

 別に24進法じゃなくても良かった。ただ、他の時間単位を私が思い付かなかったから。

 江戸時代の日本のみたいに、太陽が出てる時間を割り当てるとかのほうが意味わからなかった。あれ、どうやって一時(いっとき)を算出してたんだろう?

 

 

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