【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。196 ~モテてる~

 

 

 

 

 とにかく、太陽が出てる間は、一時間ごとにその数の鐘を鳴らす。

 ただ、真夜中をゼロにしても意味がなかったから、中天に一回、午後一時と午前11時に二回、午後二時と午前10時に三回、っていう鳴らし方にした。朝は日の出から、夜は8時まで。

 あとになって失敗したなぁ、と思ったのは、『朝二時』が24時間の10時になったこと。

 鐘の数を時間としてみんなが認識しちゃったから。私の中の時間感覚と違ってしまって、面倒臭いことになった。

 ただ、お昼の12時に12回、夕方の日の入りに18回鳴らすとか、無駄な気がしたんだよね。

 朝四時は、24時間の九時。昼四時は15時。

 まぁ……こんがらかるのは私一人だから、慣れればいいんだ。実際、すぐ慣れた。

 ただこのあと、夜も鳴らしてほしいって訴えが凄く出たので、八時以降は一回だけ鳴らすようにした。それを機会に、私の中の24時間と、鐘の数を合わせた!

 これで『現代』と同じ時間が使える!

 朝12時、夜12時で鳴らして、日の入りから夜明けまでは一回だけ鳴らす。これで、私の朝十時、とこの世界の朝十時が同じになった! やった!

 やっぱり、時間は必要よねぇ!

 これで『一秒』とか『10分』とかの時間を説明できるようになった!

『一秒』が通じるのが凄く楽!

 これに伴って、『セイザ』は、10分が基本になった。

 あっちこっちでヘマしたキラ・シが、水時計の周りで正座してる。みんな『10分』を足感覚でわかるようになったのも凄い。

 10分の正座なんて、私にとっては痛くもかゆくもないけど、やっぱりキラ・シの戦士には拷問みたい。

 正座して泣いてるキラ・シ、かわいい。

  

 

  

 

  

 

 毎日の一秒に一喜一憂してたら、叛乱が頻発するようになってた。

 ナンちゃん達が最多出動。

 フォーメーションを組んで反乱軍の中にがーっと割り込んでリーダーの首を最速で落とす名手。しかも、ナンちゃんは私のチートを受け継いだマルチリンガルなので、誰とでも話ができる。首謀者を特定できるから、重宝がられてるの。

 昔のレイ・カさんみたいに、戦が楽しいらしくて、煌都(こうと)に帰って来ない。

 ル・アくんは14才。

 今日も、私とリョウさんのお供で、煌都の職人さん巡り。

 馬に乗るときはさすがに、『一メートル縛り』は無いので、私はル・アくんの馬に乗ってる。

 サル・シュくんも、リョウさんかル・アくん、って言うと、ル・アくんのそばに居る方が安心みたい。リョウさんだってそんなことしないのにねぇ……

 ル・アくんに身長を追い抜かされたのは分かってたけど……

 初めてサル・シュくんと会ったときより、高い? かな? 男の子って凄い勢いで大きくなるのよねぇ。

 サル・シュくんは、19才の時点でガリさんより低かったし、26才の今でも低いままだから、やっぱり、ガリさんの血が大きいのね。まだ筋肉がついてきてなくてひょろっした印象はあるけど、すっごいスマートな男の子になったわ……

 街に出たときに、馬から抱き下ろしてくれるのも、もうスムーズ。

「前、ここらへんで変なのに襲われて、『じっとしてる方が助かる』って言ったの、覚えてる? ル・ア君」

「……ヨウヨウがついて来るから困るって言ってた、あの話?」

 よく覚えてるわね。傷口えぐったから?

「そうそう。あのあと、サル・シュくんが酷い言いがかりつけてきたの。

 俺にはそんなこと話さなかったのに、初めての話をル・アにしたっ! って怒るのよ……」

 ははっ、てル・ア君が笑う。その笑い方は、サル・シュくんそっくり。

「それ、俺も言われた。ハルを危ない目に合わせるな、って……俺が襲ってんじゃないよっ! って言ったら黙ったけど」

 ほんとにねぇ。

 町でも、一メートル縛りはないから、側に立てる。リョウさんとも話しやすくていいんだけど、二人は周り中に気を張ってるから、気楽ではないみたい。

 ル・アくんはいつも私の左後ろに立つから、見上げるのがちょっと大変。

 これも、サル・シュくんが言いがかりつけてた。

 サル・シュくんは私の前に立つから。

「ナニが出てくるかわからない前にハルを立たせるな!」

「後ろからハルを引っ張られた方が危ないだろ! 後ろにキラ・シがいるなら、前に立つよ!」

 さすがのサル・シュくんも、咄嗟に反論しなかったわ。

 サル・シュくんは今でも前に立つけど、後ろに立つル・アくんを批難はしなくなった。

『どっちが心配』かの違いだけだからみたい。

 そう言うところは分別あるわよね。なんでもかんでも、『自分と違う方法』を批難するわけじゃないのよね。

 サル・シュくんは後ろにも目があるような人だから、前だけが心配なのよね。

 前に立ってるのに、私が引っ張られる前に、私を後ろから拉致しようとした人を殺してるからね。本当に、後ろから来てる人がなんでわかるんだろう?

 大体は、腰を抱え込まれてるけど、『歩きたい』って言ってるから、手をつないでるとかの時は、サル・シュくんが半歩前にいる。

 最近困ってることは、ル・アくんにも追っかけが出て来たこと……

 どこに行っても付け回される……

「ル・アくん、全部の女の人、知ってる?」

 ル・アくんが振り返って、にっこり手を振ったから、女の子たちがキャーってなった。

 サル・シュくんって女の子が好きなんだけど、絶対に女の子に愛想を振らないのよね。振り返ることはあるけど、笑ったりは、しない。

 基本的にキラ・シは『愛想笑い』をしないからというのもあるけど、サル・シュくんって、キラ・シといなければ笑わないみたい。

 以前、宮殿の上から、庭で女の子に囲まれてるサル・シュくんを見たことがあったんだ。

 女の子を膝に乗せたり抱き締めたり、キスしたりはしてたけど、全然、笑ってなかった。

 あの綺麗な顔で、ツンとしてるから、なんかもう……美人さがあがって、見とれてしまったわ。

 ル・ア君は、辛巳さんのまねなのか『愛想笑い』をするのよね。

「半分以上が去年、俺の子を産んでるし、今孕んでる」

 しれっとル・ア君も言い放った。

 さすがキラ・シ。14才でもキラ・シ。

 キラ・シって本当に、凄い勢いで増えるよね。まさしくヒアリやキラービーみたい。

 あ! つまりは第三世代が出たってことよっ!

 産まれたときを見たル・アくんがそんな年に…………ほろり。

 おむつを替えてあげたことは無いから、言えないけど、言いたくなる気持ち、わかった。

 もう一四年も経ったのかァ……

 ナンちゃんはもう、全然そばにいてくれないから、この世代の男の子ってル・アくんしか王宮にいない。

 私がこの世界に来て、一七年目…………そりゃ、腰も痛くなるわよね……子供を産むのも今度で一六人目だわ。現時点で、九人が生きてる。

「キラ・シの第三世代じゃないっ!」

 ああそうだわ。ナンちゃんとかも報告して来ないけど、子供がいるんだわ! ナンちゃんの初孫見たかったのに!

 キラ・シって子供を欲しがるくせに、出産を祝わないのよね。まぁ、多すぎるから、ってのが一番の理由だろうけど。

「ナンちゃんっ! あなた、子供が今、何人居るの?」

 珍しく練兵場で休んでたので聞いてみた。

「……数えて……ない…………」

 ナンちゃんも、ちゃんとキラ・シで良かったわ。

 いつのまにか、私、おばあちゃんになってた! まだ34才なのに!

 一メートル隣に座ったら、見上げちゃう! 私より一回りも大きい! たしかにサル・シュくんが警戒するの分かるわ。ふっとい腕して……

 無理言って一緒に街に出てもらったら、ル・アくんより追っかけ多かった! やったっ!

「ナンちゃん、ル・アくんよりモテてるわね!」

「……まぁ……そりゃ…………」

 まんざらでもないみたい。

 サル・シュくんが注目浴びるとなんか悔しいけど、息子が注目浴びるのは凄く嬉しいわっ! 楽しいっ! なんてカワイイのかしらっ!

 でも、全部『外孫』扱いだから、見せてくれないのね。

 見せて、って言ったら見せてくれるだろうけど、多分、何百人と紹介されるだろうから、わかんないよね。5年後ぐらいに、戦士村からキラ・シ本隊に来たら、紹介してもらおう……

 残念ながら、半分以上は、新生児のうちに死ぬしね……

 でもそっかー……私ったら、孫がたくさんいるんだ? なんて素敵っ!

「ル・アは、まだ出陣してないから、紋が一つだろ? 両頬に描いてる方が上、って、女も知ってるんだよ」

 出陣したら頬に赤いので紋を描くのよね。

 ル・ア君は族長筋だから、生まれたときから書いてたけど、普通は、元服して左頬。出陣して右頬に描くんだって。

 ル・ア君は出陣してないから、まだ左頬だけなんだよね。

 たしかにル・アくん、政務忙しそうだもんね。

 出陣、したいしたい、とは日々うるさくなってきてるけど、出陣の部隊を組むときに、名前を呼ばれないの。

「ナンちゃん、普段何してるの?」

 

 

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