とにかく、太陽が出てる間は、一時間ごとにその数の鐘を鳴らす。
ただ、真夜中をゼロにしても意味がなかったから、中天に一回、午後一時と午前11時に二回、午後二時と午前10時に三回、っていう鳴らし方にした。朝は日の出から、夜は8時まで。
あとになって失敗したなぁ、と思ったのは、『朝二時』が24時間の10時になったこと。
鐘の数を時間としてみんなが認識しちゃったから。私の中の時間感覚と違ってしまって、面倒臭いことになった。
ただ、お昼の12時に12回、夕方の日の入りに18回鳴らすとか、無駄な気がしたんだよね。
朝四時は、24時間の九時。昼四時は15時。
まぁ……こんがらかるのは私一人だから、慣れればいいんだ。実際、すぐ慣れた。
ただこのあと、夜も鳴らしてほしいって訴えが凄く出たので、八時以降は一回だけ鳴らすようにした。それを機会に、私の中の24時間と、鐘の数を合わせた!
これで『現代』と同じ時間が使える!
朝12時、夜12時で鳴らして、日の入りから夜明けまでは一回だけ鳴らす。これで、私の朝十時、とこの世界の朝十時が同じになった! やった!
やっぱり、時間は必要よねぇ!
これで『一秒』とか『10分』とかの時間を説明できるようになった!
『一秒』が通じるのが凄く楽!
これに伴って、『セイザ』は、10分が基本になった。
あっちこっちでヘマしたキラ・シが、水時計の周りで正座してる。みんな『10分』を足感覚でわかるようになったのも凄い。
10分の正座なんて、私にとっては痛くもかゆくもないけど、やっぱりキラ・シの戦士には拷問みたい。
正座して泣いてるキラ・シ、かわいい。
毎日の一秒に一喜一憂してたら、叛乱が頻発するようになってた。
ナンちゃん達が最多出動。
フォーメーションを組んで反乱軍の中にがーっと割り込んでリーダーの首を最速で落とす名手。しかも、ナンちゃんは私のチートを受け継いだマルチリンガルなので、誰とでも話ができる。首謀者を特定できるから、重宝がられてるの。
昔のレイ・カさんみたいに、戦が楽しいらしくて、煌都(こうと)に帰って来ない。
ル・アくんは14才。
今日も、私とリョウさんのお供で、煌都の職人さん巡り。
馬に乗るときはさすがに、『一メートル縛り』は無いので、私はル・アくんの馬に乗ってる。
サル・シュくんも、リョウさんかル・アくん、って言うと、ル・アくんのそばに居る方が安心みたい。リョウさんだってそんなことしないのにねぇ……
ル・アくんに身長を追い抜かされたのは分かってたけど……
初めてサル・シュくんと会ったときより、高い? かな? 男の子って凄い勢いで大きくなるのよねぇ。
サル・シュくんは、19才の時点でガリさんより低かったし、26才の今でも低いままだから、やっぱり、ガリさんの血が大きいのね。まだ筋肉がついてきてなくてひょろっした印象はあるけど、すっごいスマートな男の子になったわ……
街に出たときに、馬から抱き下ろしてくれるのも、もうスムーズ。
「前、ここらへんで変なのに襲われて、『じっとしてる方が助かる』って言ったの、覚えてる? ル・ア君」
「……ヨウヨウがついて来るから困るって言ってた、あの話?」
よく覚えてるわね。傷口えぐったから?
「そうそう。あのあと、サル・シュくんが酷い言いがかりつけてきたの。
俺にはそんなこと話さなかったのに、初めての話をル・アにしたっ! って怒るのよ……」
ははっ、てル・ア君が笑う。その笑い方は、サル・シュくんそっくり。
「それ、俺も言われた。ハルを危ない目に合わせるな、って……俺が襲ってんじゃないよっ! って言ったら黙ったけど」
ほんとにねぇ。
町でも、一メートル縛りはないから、側に立てる。リョウさんとも話しやすくていいんだけど、二人は周り中に気を張ってるから、気楽ではないみたい。
ル・アくんはいつも私の左後ろに立つから、見上げるのがちょっと大変。
これも、サル・シュくんが言いがかりつけてた。
サル・シュくんは私の前に立つから。
「ナニが出てくるかわからない前にハルを立たせるな!」
「後ろからハルを引っ張られた方が危ないだろ! 後ろにキラ・シがいるなら、前に立つよ!」
さすがのサル・シュくんも、咄嗟に反論しなかったわ。
サル・シュくんは今でも前に立つけど、後ろに立つル・アくんを批難はしなくなった。
『どっちが心配』かの違いだけだからみたい。
そう言うところは分別あるわよね。なんでもかんでも、『自分と違う方法』を批難するわけじゃないのよね。
サル・シュくんは後ろにも目があるような人だから、前だけが心配なのよね。
前に立ってるのに、私が引っ張られる前に、私を後ろから拉致しようとした人を殺してるからね。本当に、後ろから来てる人がなんでわかるんだろう?
大体は、腰を抱え込まれてるけど、『歩きたい』って言ってるから、手をつないでるとかの時は、サル・シュくんが半歩前にいる。
最近困ってることは、ル・アくんにも追っかけが出て来たこと……
どこに行っても付け回される……
「ル・アくん、全部の女の人、知ってる?」
ル・アくんが振り返って、にっこり手を振ったから、女の子たちがキャーってなった。
サル・シュくんって女の子が好きなんだけど、絶対に女の子に愛想を振らないのよね。振り返ることはあるけど、笑ったりは、しない。
基本的にキラ・シは『愛想笑い』をしないからというのもあるけど、サル・シュくんって、キラ・シといなければ笑わないみたい。
以前、宮殿の上から、庭で女の子に囲まれてるサル・シュくんを見たことがあったんだ。
女の子を膝に乗せたり抱き締めたり、キスしたりはしてたけど、全然、笑ってなかった。
あの綺麗な顔で、ツンとしてるから、なんかもう……美人さがあがって、見とれてしまったわ。
ル・ア君は、辛巳さんのまねなのか『愛想笑い』をするのよね。
「半分以上が去年、俺の子を産んでるし、今孕んでる」
しれっとル・ア君も言い放った。
さすがキラ・シ。14才でもキラ・シ。
キラ・シって本当に、凄い勢いで増えるよね。まさしくヒアリやキラービーみたい。
あ! つまりは第三世代が出たってことよっ!
産まれたときを見たル・アくんがそんな年に…………ほろり。
おむつを替えてあげたことは無いから、言えないけど、言いたくなる気持ち、わかった。
もう一四年も経ったのかァ……
ナンちゃんはもう、全然そばにいてくれないから、この世代の男の子ってル・アくんしか王宮にいない。
私がこの世界に来て、一七年目…………そりゃ、腰も痛くなるわよね……子供を産むのも今度で一六人目だわ。現時点で、九人が生きてる。
「キラ・シの第三世代じゃないっ!」
ああそうだわ。ナンちゃんとかも報告して来ないけど、子供がいるんだわ! ナンちゃんの初孫見たかったのに!
キラ・シって子供を欲しがるくせに、出産を祝わないのよね。まぁ、多すぎるから、ってのが一番の理由だろうけど。
「ナンちゃんっ! あなた、子供が今、何人居るの?」
珍しく練兵場で休んでたので聞いてみた。
「……数えて……ない…………」
ナンちゃんも、ちゃんとキラ・シで良かったわ。
いつのまにか、私、おばあちゃんになってた! まだ34才なのに!
一メートル隣に座ったら、見上げちゃう! 私より一回りも大きい! たしかにサル・シュくんが警戒するの分かるわ。ふっとい腕して……
無理言って一緒に街に出てもらったら、ル・アくんより追っかけ多かった! やったっ!
「ナンちゃん、ル・アくんよりモテてるわね!」
「……まぁ……そりゃ…………」
まんざらでもないみたい。
サル・シュくんが注目浴びるとなんか悔しいけど、息子が注目浴びるのは凄く嬉しいわっ! 楽しいっ! なんてカワイイのかしらっ!
でも、全部『外孫』扱いだから、見せてくれないのね。
見せて、って言ったら見せてくれるだろうけど、多分、何百人と紹介されるだろうから、わかんないよね。5年後ぐらいに、戦士村からキラ・シ本隊に来たら、紹介してもらおう……
残念ながら、半分以上は、新生児のうちに死ぬしね……
でもそっかー……私ったら、孫がたくさんいるんだ? なんて素敵っ!
「ル・アは、まだ出陣してないから、紋が一つだろ? 両頬に描いてる方が上、って、女も知ってるんだよ」
出陣したら頬に赤いので紋を描くのよね。
ル・ア君は族長筋だから、生まれたときから書いてたけど、普通は、元服して左頬。出陣して右頬に描くんだって。
ル・ア君は出陣してないから、まだ左頬だけなんだよね。
たしかにル・アくん、政務忙しそうだもんね。
出陣、したいしたい、とは日々うるさくなってきてるけど、出陣の部隊を組むときに、名前を呼ばれないの。
「ナンちゃん、普段何してるの?」
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