【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。202 ~国葬~

 

 

 

 

「リョウさん、騎羅史(きらし)城にいる全員を、煌都(こうと)に呼んだ方が良くない?」

 今度は俺! とサル・シュくんがダダをこねたから、リョウさんがお城に残ってる。

 こんな近くで話したら、あとでサル・シュくんが怒るけど、今もおなか大きいし、浮気の心配なんて、ない、って言いやすい。

「騎羅史のお城を捨ててでも王宮を守らないといけなくない?」

「あ? ああ………ただ、あそこからサイコウの村に物(商用馬車)を出しているし、見に行ってるから、盗られたら、サイコウの子らも全滅する」

「今、王宮が、大変なんだよ。戦士を全部こっちに集めないと、数が足りないよ。騎羅史城は若戦士だけでどうにかなるでしょう?」

 詐為河(さいこう)の村は、夕羅(せきら)くんが生きてるなら受け継いでくれるし、あそこから紅渦軍(こうかぐん)が戦士を調達できる。

 綺麗に滅びるには『キラ・シが一カ所』に居たほうがいい。そこにいるキラ・シ以外は、死ななくてよくなるから。

『私達』が、死なないといけないの。

『キラ・シ本隊』が華々しく『全滅』しないといけないの。

『俺の肌は黄色い。だが、蛮族ではない! 今ならわかってくれる筈だ。

 俺達は今あったキラ・シを殲滅させた。

 大陸に生まれた、お前達の同胞なのだ。それを、理解してほしかった。

 だから、キラ・シを向こうに戦った』

 夕羅(せきら)くんにあれを言わせるには、『一気に「キラ・シは殲滅された」』ってならないといけないの。それに、『総力戦』のために兵士を集める、というのはおかしくは映らないわ。

 ただ、私が本当にこのキラ・シを率いるなら、今のうちに山に戻るけど……

 あの崖を、大半の人が登れないって。

 背水の陣で降りてきたキラ・シ。

 だから、強かったってのも、あると思う。

 サル・シュくんは何度か砂金を採りに山に帰った。その時に、何人か連れて行ったし、その戦士たちなら帰れるかもしれない。

 サル・シュくんも、帰れるかもしれないけど……多分、無理よね。

 行ける行けないじゃなく、行っても、仕方がない。

 あきらかにここより退屈な山で、サル・シュくんが『平静』で居られるわけがない。

 ショウ・キさんはいつも通り明るいけど、座ってる姿を見るようになった。もう、立っているのも疲れているのね。体力の化け物みたいな人だったのに。

 リョウさんは、こんなにそばにいても私の顔を見ない。

 前は、まっすぐ目を見て話す人だったのに。

 リョウさんも、サル・シュくんみたいに、狂ってるのかな?

『弱くなるなんていやだ……父上の気持ちが、わかる…………弱くなるぐらいなら、今すぐ死にたい……』

『最初』の頃に、そう言って泣いていたリョウさん。

 多分、それはリョウさんの基本性格だから、今も変わらないはず。サル・シュくんみたいに強さを望むリョウさんも、今の出陣では不満だよね?

「……リョウさん? 最近、具合悪い? どこかつらいところある?」

「体が悪いわけでは……」

 原因を分かってるの? 狂っては、いないのね?

 知っててナニカを隠しているのね?

「何を考えてるの?」

 そう言えば、リョウさんと話すことも殆どなかった。サル・シュくんがうるさいから、一メートル離れてると、大声で話すことしかできないから。

 リョウさんは、喋ることで思考整理する人だ。それに、私以外にリョウさんの話を聞ける人はいない。それで、つまってたんだ?

「誰にも言わないから」

「ガリにも……言わんでくれるか?」

 ガリさんに内緒って、何を抱え込んでるの? それは、体調崩すわよ!

 リョウさんが左右を見渡して、私をお城の上に連れ出した。見晴らしがよくて、ゼルブがいても話を聞けない場所。

「ル・アが、生きてた」

 それかーっ!

「いつ知ったの?」

「叛乱鎮圧で出たときに。

 逃げたのならあの川をたどった筈だと、下った」

 お城の下を抜けてる川だものね。

 ガリさんの部屋の窓から飛び込めば、流れに乗れる。

 ああ! それで『前回』も逃げたんだ! 手足を折られてどうやって、と思ったけど『落ちるだけ』なら、たしかにその体でもできる。川下で、助けてくれた人がいたんだ?

「どうしてル・アくんを探そうと思ったの? 死体があったのに」

「あれは、ル・アではない」

「どうして?」

「指が、短かった」

 ああ……確かに、『普通の長さの指』だった。

 私は、替え玉かも、と最初から思ってたから、見てなかったわ。そんなことで気づくんだ? リョウさん。

 それで、実際に探しに行くほど確信があったんだ?

「どこにいたの?」

「鎮季(しずき)の角(かく)村だ。山のキラ・シの村と同じぐらいの規模で……こちらなら中ぐらいの村になる」

 カチカチカチ……って、リョウさんが歯を鳴らして、泣きだした。これは、サル・シュくんの興奮ではなくて、恐怖? 寒くは、ないものね。

「髪が……真っ白、だった…………」

 夕羅(せきら)くんのあの、赤い髪!

 そうだ、髪を切ったあと、白い葱坊主になってた。

 彼も『白い』から、既に老化が髪に出たのかと気にしなかったけど、髪が白くなってたのって、この時から?

 あんなに、見事な黒だったのに?

 ショックで?

『俺は、手足を折られてっ一晩中拷問されたんだよっ!』

『前』の夕羅(せきら)くんがそう言ってたわ。

「俺が見つけたときには、その村の族長らしい奴の家に匿われていたが……、目も、耳も聞こえていなくて…………体中………………傷だらけだった……手足も折れていて……刀を引っかいたような悲鳴を、上げ続けていた……喉も、潰されていた!」

 本当に、ガリさん、力一杯やったんだ?

 そんなのでよく助かったな、ル・アくん。

「言葉も……喋れなく、なって、た……」

「え?」

「記憶も何も、なくなってた……」

 リョウさんが、私を抱きしめて、泣き崩れた。

 大好きなガリさんから突然そんなことをされて、彼も、狂ったんだ?

「自分の名前も、わからなくて……セキ、と、呼ばれていた……」

 夕羅(せきら)くんの名前ってそれが先?

「ガリ以外に、ない……」

 リョウさんが、カクカクと膝をついた。

「あんなことをル・アにできるのは、ガリ以外に、ない…………っ!」

 これを黙ってたから、リョウさん、具合が悪かったんだ。誰にも言えなくて、一人で苦しんでたんだ……

「なぜ?」

 私の胸に問う。

「なぜ……あんな、ことを……っ! ガリっ……」

 ル・アくんは、みんなで育てたもんね。

 リョウさんも、自分の子供を山に置いてきて、ル・アくんを目に入れても痛くないぐらい可愛がってた。

「俺も…………ガリを…………見放してしまった…………」

「どういうこと?」

「ル・アが、あの村で、生きていると知ったとき……

 俺が、面倒をみる、と……言って、しまった…………」

「……国葬もしたのに?」

 リョウさんが、コクコクと首を縦に振る。

「俺が……キラ・シを抜けて、山に、戻ろうかと…………ル・アだけでも……せめて、……」

 それは……たしかに、ガリさんを見放したことに、なる……

「最近のガリが、全然わからなくて…………何も、言ってくれなくて…………どうしていいのか…………」

  

 

 

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