【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。142 ~『無』の極致~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「だって、今すぐ返事が聞きたかったから。出陣の話だし、後回しにしたほうが駄目でしょ」

「ガリメキアに怒られるぞー」

 ベッドでも、サル・シュくんはしつこくその話をした。

 上布団に隠れるみたいに目だけ出して美少年がフルフルふるえてる。かわいい。

「怒る?」

「あれはダメだろ」

 人前でもエッチするくせに。

「怒ってなかったよ」

「シテたからっ!」

 布団からがばっと出てきて、拳で力説。

「気にしないんじゃないの?」

「いやー……誰も覗いたことないからなー…………」

「ル・マちゃんがたまに覗いてるよね?」

『大昔』、ル・マちゃんに引っ張られて、ガリさんの足元で眠ったことがある。あの時、ナニもいわれなかったし。

「実の娘だから」

 私の喉がごくり、となった音が凄い響いた。

「……そうだね」

 サル・シュ君がキャーッ、って、布団にもぐる。

 猫が布団に逃げたみたいになってて、全然『隠れて』はないんだけど、その下にあのもふっとしたのがいると思うと超かわいくて座りたくなった……けど、そういう場合じゃ、ない。

 そうだ、前覗いたときも、私はル・マちゃんに連れて行かれただけだった……

 布団から目だけ出して、じっと見てるサル・シュくん。細くなったその目は、笑ってる? おびえてる?

「今さら青ざめても遅いだろー……」

「そうだね…………どうしたらいいと思う?」

「何か言ってくるまで普通にしてるしかないんじゃない?」

 まぁ、建設的な意見は出てこないと思ったけど、うん、その通りだったね。時間薬かー。

「……そうだね」

「一緒に祈ってやるよ! ガリメキアが全部忘れてくれるようにって!」

 満面の笑顔のサル・シュくん……

 ……力強い…………

  

 

  

 

  

 

 翌日。

 地図に村を追加してたら、後ろにガリさんが、立った。

 今日は鍛練もせずに私の側にいたサル・シュくんが、慌てて私を後ろから抱きしめる。

「昨日の、ハルがしたことを聞いたか?」

 ヒャーッ……って、内臓が縮む感覚。

 サル・シュくんが私の上でコクコクしてる。顎が頭のてっぺんにサクサク刺さって痛いけど、ここ以外がきっと、超危険区域なので、逃げられない。

「一度抱かせろ。孕み日は外してやる」

「な……」

 んですって??

 聞き返す前に、サル・シュ君の後ろに隠された。

「族長のなんてっ、それ以外にやったって絶対孕むってっ! ハルは俺のっ!」

 ガリさんは、サル・シュ君とにらみ合ってるっぽい。

 サル・シュ君の肩から顔を出しても、こっちに視線こない。

 来た!

 とっさに隠れたら、玄関で具足の手入れしてたキラ・シの戦士たちがによによしてた。

 だよねー、こういうの『娯楽』だよねー。

 イベント始まったみたいなもん。

 エントランスで鍛練してた戦士までぞくぞくと玄関に入ってきてこっち見てる。ル・マちゃんまで、ガリさんの向こうの最前列で、こっちに両手で手を振ってた。いつも私の腕に抱きついてるのにこういうときだけあっちがわにいる。

 まぁ、さっき、サル・シュ君を鍛練に誘って、彼が私を抱き締めたから、ル・マちゃんだけ出てたんだけどね。

 ああ……なんか、ぞくぞくとキラ・シが入ってきて、玄関の中、いっぱいになって来た。

 みんな、今から映画が始まる感じの期待したキラキラ目。

 ガリさんが、腕を組んで、小首を傾げる。カラカラン……って、髪の玉がそよいだ。

 そこにいた全員も、ごくり、って、生唾呑んだ。

「では、一度、口を吸わせろ」

「ダメっ!」

 譲歩してきたっ! 譲歩してくれるんだ?

 もう一歩譲歩してくれる?

「じゃあ、してるところを見せろ。触らない。同じことだ。返せ」

「そんなのいやっ!」

「それがいいっ!」

 私の声と、サル・シュくんの声が重なった。

「ナニ言ってるのっ! 見られるなんてイヤッ! キスなら一瞬で済むじゃないっ!」

「触られる方がいやに決まってるだろっ!」

「いやよっ! 絶対にいやっ!」

「ハルが先に見たんだろっ!」

 クッ…………っ!

 もう、反論、できなかった。

 でも…………キラ・シ全員がみしっと部屋にいるのは酷いと思うの……ル・マちゃんまで最前列っ!

  

 

  

 

  

 

 もう、今日は玄関に下りたくない……

「なんだハルー…………今日は起きないのかー? じゃ、シヨ?」

「冗談でしょっ! 昨日何回シタと思ってるのよっ! 馬鹿じゃないのっ! あんなことっ!」

「いつもあんなもんだろ? 失神するまでするし」

「失神するまでするなーっ!

 それに、途中で追い出してくれたら良かったのにっ! 私がガリさん覗いたの一瞬だったんだからぁっ! なんで一晩中いるのよぉっ!」

「だってー、みんながハルのこと褒めてくれるからー、嬉しくってーっ!」

 キャハッ、て両手組んで笑う天使。肚立つほど、かわいい……

 私がイくたびに、オオオーッて歓声が上がったのは覚えてるわよっ!

 立ったらクラッ……てした。

 腰が、抜けてる……

 さっきまでダラダラ寝てたのに、すさっと抱き寄せてくれるスパダリ、やっぱり凄い。

「ほら、……寝てろって」

 キスされて、結局、またサレて、寝ちゃった。

 起きたらサル・シュくんいないし。

 制圧行ったって……ホント元気だねっ!

 玄関でぼーっと地図眺めてたら、長い腕が後ろから短冊刺した。

「ガリさんっ!」

 咄嗟に離れようとして、抱きすくめられて、暴れたら、ル・マちゃんにも抱き留められた。

「ハルっ、それ以上下がったら釘が刺さるっ!」

 あ、そっか……地図の釘、まだ丸い木の蓋つけてなかった。こんなのにあの勢いで激突したら軽く『鉄の処女』だよ…………って、『前』も思ったな。

 つまりは、何回もされてるんだ、これ。

「ありがとう、ガリさん。助けてくれたのね」

 ガリさんが少しかがむ。私の首あたりでスン……って……

「来年がガリさんなの、分かってます」

 先に言ってみた。あれ、言われるたびにけっこうストレスなんだよね。

 ふっ……て、ガリさんが、笑った気配。

 一瞬で春の気分。

『最初』は言葉通じないんじゃないだろうかとただ怖かったけど、最近は微妙な表情がわかるようになった。

 そりゃ、あれだよね。

『ずいぶん前』げど、留枝(るし)にこのお城が攻められたときに、ガリさんが助けてくれて、一緒に死んだ。あの時に、ほだされちゃったんだ。

 あれから『怖いだけ』じゃなくなったから、表情がわかるようになった。

『あの時』もガリさんはもちろん、死ぬ気はなかったと思うけど、でも、助けてくれたんだ。

 敵襲を前にして、崩れる城にいる私を思い出してくれたんだ。

『外見も、気迫もだだもれで勘違いされるが、あいつはただ、まっすぐに進むしかできないお人好しだ。悪意で言葉を発することはない。

 キラ・シに害悪を成さぬモノに牙は剥かない』

 リョウさんはガリさんのことを『お人好し』って言ってた。まさか、と思ったけど、実際、そうなんだよね。

 基本性格はサル・シュくんなんだよ。

『最初』なんて、私がキラ・シから逃げようとしてた。それを感じたガリさんは私を『キラ・シに害をなそうとしている』と見たから、あんなだったんだ。

 リョウさんだって『敵』になんて容赦しない。サル・シュくんも、ル・マちゃんも。私が『敵』だったから、容赦されなかっただけだ。

 私が心のそこまでキラ・シになった今は、ガリさん、凄く、優しい。ただ、それだけだったんだよね。

 車李(しゃき)のあの塔を壊したときとか、毎回、凄く嬉しそうな顔して走ってくる。

『弱くなるなんていやだ……父上の気持ちが、わかる…………弱くなるぐらいなら、今すぐ死にたい……』

 リョウさんが持っている危機感は、同じ年のガリさんも持ってる筈。その中で、『山ざらい』のレベルアップが見えたら、凄く嬉しいよね。

『俺にあんなことができた』、だけじゃないんだ。

『俺はまだ強くなれる!』。それが、あるんだ。

「ハルっ!」

 サル・シュくんの声っ?

 あ、ガリさんに抱きしめられたままだった?

 ガリさんから奪い取られた。こういうときは力を抜くのがいい、ってもう知ってる。ぶらん、と人形の気分。

『無』の極致を目指してみた。

 サル・シュくんの怒鳴り声も聞こえなくていい。

 なんか私、どんどん人間離れしてない?

 人間離れしてるキラ・シに付き合ってるんだから、そうなって当然だよね? そうだよね?

「聞けよっ! ハルっ!」

 美少年のドアップっ! 顔につばかかった…………ナニ?

 いつのまにか私達の部屋のベッドの上だった。上布団で顔を拭く。

「え? あ、ごめん。全然聞いてなかった」

 あ、なんか何回かシタらしい。記憶無いなー。というか、夜だ!

 何も考えてなかったからかな? いつものボーっとしたところがなくてすがすがしいっ!

「もうっ……なんなのっハルっ!」

 サル・シュくんが泣きだした。

  

 

  

 

 

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