「それは、いい感じ」
たしかに、私の翻訳がなくても話が通じてる。
「女が戦士を見て本気で悲鳴を上げたら、ショウ・キが、女の前で戦士を半殺し」
ちゃんと、上の刑罰もあるんだね。
「半殺しって、前のサル・シュ君ぐらい?」
「あれの倍ほど」
「倍? え? あの時のサル・シュ君って、半殺しじゃなかったの?」
「立ってただろう」
あー………………そういう判断なんだ?
『以前』、リョウさんがガリさんに蹴り倒されたのとかが半殺しかな?
「立てなくなるまで、が半殺し? それじゃ、さっさと寝ちゃった方が得じゃない」
「寝た時点で、最下位になる」
なーるほど。『勝ち上がり』で一人でも勝ってたら、下がるのがいやだから意地でも立ってるんだ? だからあの時のサル・シュ君も、倒れなかったんだ? はー………………なんというか………………ひさびさに『蛮族』! って感じ。
あれ? じゃあ、『以前、ガリさんに蹴り倒された時点』で、リョウさんは副族長じゃなく、最下位になってたの?
「じゃあ、リョウさんでも、半殺しされて倒れたら、最下位?」
「勿論。
だいたい、半殺しされた時点で、悪いことをしている。そういう上位はいらん」
分かりやすい。
「じゃあ、半殺しされても倒れなかったから?」
「たまに、立ったまま死ぬ」
「だめじゃないっ!」
「最下位になるより、その順位で死んだ方がマシだったのだろう」
「えー…………」
さすがキラ・シというか……やっぱりキラ・シというか…………
「まず、半殺しにされるようなことをしたのが駄目だ」
「それが言いがかりだったら?」
「それは反撃しても逃げてもいい」
「逃げてもいいんだ?」
「その疑いをかけられているときに、キラ・シの村の範囲を出れば、敵だ。半殺しではなく、即殺する」
ふう………………聞いてるだけで泣きたくなってきた……
ああそうかっ!『以前の、リョウさんがガリさんに半殺しされた時』、サル・シュくんがお城の中を駆け回ってたの、それか! 出たら即殺だったんだ?
あの時のリョウさんとサル・シュくんって、そんな危ない地位だったんだ?
「俺はそんなことしてねぇっ! って反撃してきたら?」
「誰かが殴り倒す。今ならサル・シュが面白がって蹴り転がすだろう。最終的にはガリ・アが殴り倒す」
「だめじゃん…………」
「ガリに勝てばいい」
「無理だよ」
「そういう強さで無茶をするから、そういう目にあうんだ」
そうですね……
ああ、まぁ……そうだよね。
『族長に逆らった』のは同じだもんね。
「…………でも、本当に無実の場合は?」
「本当に無実なら、誰かがかばう。だが、それが真実の場合、かばったものも同罪になる」
「無実なら?」
「嘘を言ったヤツが『百石(ひゃくせき)』だ」
「どっちもが嘘じゃない、って言ったら?」
「その者たちで殺し合いだ」
「殺し合いなんだ?」
「どのみち、嘘を言えば百石だ。負けた方が嘘だな」
「それじゃあ、弱い人はやられ放題にならない?」
「だから、弱い奴は徒党を組んで、一対一にならないようにすればいい。『負けた方』というのは、一対一でなくていい。仲間全体で争っていい」
蛸殴りしてもいいんだ。そっか。
「でも、ガリさんとかサル・シュ君とかが相手なら、何百人いても無駄じゃない」
「強い者が正しい」
蛮族。
まぁ、たしかにサル・シュ君とか、『何回』も見てきたけど、嘘を言ったのは『あの一回だけ』だから、元々、『嘘をつく』って回路がキラ・シって無い気がするな。
「盗んだら殺す、嘘を言えば百石。
これはキラ・シの掟だ。それが気に入らないのならば出て行けばいい」
そりゃそうなんだろうけど……相変わらず、キラ・シはキラ・シだわ。
とにかく腕力なんだな。
弱いと、本当のことを言っても殺されちゃうんだ?
まぁ、だから『強くなりたい』ってモチベーションが落ちないんだろうけど。でもなぁ……強ければ嘘つきでも生き残っちゃうのは、どうかと思う。そんなの、『現代』でも、たくさんあるけど、なんか、キラ・シにはそういうのないんじゃないかと思ってた。
「ハルは、ナニカ勘違いをしていないか?」
「何を?」
「ガリに、『お前の言葉は真実か』と聞かれて、嘘をいえる奴は、いない」
リョウさんが言い切った。ちょっと、辺りがシンとする。
玄関の地図の前でこの話してたから。周りの戦士たちが、徐々に聞き耳を建ててきてたのはわかってたけど……
まぁ……そうだね。もともと、『嘘をつき続けることはできない』って前提は、あるよね。
「じゃあ、殺し合いはしてないの?」
「してる」
「してるんじゃないっ!」
「嘘つきは、じっとしていられない。だから、誰でも嘘だとわかるぞ?
だから、殺し合いをするのは、両方が真実の場合だけだ」
「両方が真実って?」
「他人の赤子を抱き上げてあやすつもりが、落として死んだ場合」
えっ?
「父親からすれば『殺された』が、抱き上げた者は『殺すつもりではなかった』のだ。これは両方が真実になる」
「……確かに…………それで、争いになったことがあるの?」
「前から変だった奴が、抱き上げて落としたことがあった。全員がそいつをかばわなかったから、父親に殺し合いを仕掛けられて殺された。そいつも嘘はついていなかった。だが、死んだ方が、嘘だ」
あーーー…………確かに………………
「でも、そんなことしてたら、他人の子供を面倒見なくならない?」
「なってない」
それが凄いよね。
私の子供でもみんな面倒見てくれてるから。
『現代』でも『理想』の『子供は地域で育てる』ってのが、キラ・シは凄くできてるんだよ。誰の子供でも全員が面倒を見てくれるの。すごいなぁ、といつも思う。
だから、そこでそんな殺伐としたことがあったなんて、わからなかった。
「キラ・シはまず、嘘をつかない。だから、『嘘』が出た場合は、どちらかが『変』の場合が多い。『変』な奴は、殺すべきだから、殺される。
ずっとそいつを殺そうとみんな考えていた。そのきっかけが『赤子を落とした』だっただけだ」
「ああ……うん、そうだね。『捨て子理論』なら、それが正しいんだよね。
普通に他人の子供でもみんな面倒見てるんだから、『落としたからお前のせい』なんて、言いがかりは、普通はつけないんだよね?」
「そうだ。無意味にあちらこちらで殺し合いはしない。『モノを落とす』というのは、ミスだ。大事なものでも何回もすれば腕を落として滝に蹴り落とすが、普通はしない」
やっぱり、蹴り落とすんだ? まぁ、大事なものを何回も落とす時点で『変』だわね。腕力か、性格かが。
現代だと『ケアレスミス』なんだけど、確かに、それで『大事なものが壊れる確率』は高いんだから、そういう人は居ない方がいい。
キラ・シって本当に『変』を嫌うよね。でも『空気読め』は絶対にないんだ。
『何を言ってもいい』んだよ。よい意味で、『みんな平等』なんだよね。強さで順位がついているだけで、それは『村を守るための順位』であって、『村で生活するための順位』ではないんだ。
「うん、わかった! 凄くよくわかった! 勘違いしてごめんなさい」
リョウさんが満足そうに何回かうなずいてくれた。
この、『なんか違ってるぞ』ってのをすぐに解決してくれるから、キラ・シってホント、助かる。そして、根に持たないのも、ホント、気が楽。
ただ、私が優柔不断だったら、凄い、大変だっただろうな。
私も、シロクロはっきりしてくれたほうが気楽だからよかったんだ。
『現代』って、自分の意見すらもやもやとしてしか言わない子が多いから、イライラしてたんだよね。だからオタクで固まってたんだ。オタクってシロクロハッキリしてて気持ちいいんだよ。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
たまに攻撃的なのもいるけど、それはすかせばいいから。
キラ・シなんて『強さオタク』の究極系なだけなんだよね。
そっか。
キラ・シはオタクだったんだ。
2000年かけて、『強さ遺伝子』を組み上げてきたオタクなんだ。
そりゃ、『一代』でやってる私が、適う訳無いよね。
まぁ、こういうのも、サル・シュ君とかガリさんじゃ、説明しきってくれなくて、モヤモヤが残っただろうけど。ホント、リョウさんの存在って大きいわ。
究極の体育会系の癖にインテリって凄い。
ああそうか、ガリさんとかサル・シュ君は天才だけど、リョウさんは秀才だから、言葉が通じるんだ。
そうだよ。リョウさんって『認知欲求』があるんだよ。
『自分のことを知ってもらいたい』んだ。だから説明するんだよね。
ガリさんとかサル・シュ君とか、そんなことどうでもいいもんね。だから説明しないんだ。『わかってもらう必要がない』から。
『誰に誤解されてもどうでもいい』から。
サル・シュ君は『説明して』って言えば、どうにか答えてくれるけど、ガリさんは逃げちゃうからな。
サル・シュ君は『慕われたくない』から、わざと答えないってのもあるんだよね。リョウさんみたいに、頼られたら面倒臭い、ってはっきり言ってたもんな。
リョウさんは頼られるの好きだよね。めっちゃキラ・シを背負ってるもんな。
そうだよ、リョウさんは親分肌なんだよ。
もっと『「人殺しの技術」的に強い』ガリさんがいるから、副族長なだけで、他の部族なら族長とか長老だよね。
ガリさんがもうちょっとだけサル・シュ君みたいな面倒くさがりなら、族長すら、リョウさんに譲ったかもしれない。
「話を戻すけど、正座じゃ足りないときの半殺しって、なんでショウ・キさん? サル・シュくんでもいいんじゃないの?」
「大きい男にやられるほうが、女がスッとする」
……確かに……
そこは『強さ』じゃないんだ?
サル・シュ君はキラ・シの中では優男に見えるから、刑罰を軽くしてる、って思われる可能性は、確かに高い。
「でも、泣き寝入りする人の方が多いよね」
「気をつけてはいるが、そこまでは面倒見切れん」
そうですね。
「だから、俺が、町の見回りは行っている。俺を見て逃げた男は追い駆ける。怯えた女は近くの女に話を聞く。そこまでだな」
「十分やってるよ。それ以上は無理でしょ」
リョウさんは『職人さん』を見たいから、街をうろうろしてるんだよね。
リョウさん自体は問題を起こさないし、力仕事手伝ってくるから、面白がられてる。
いろいろ喋って、どんどん羅季(らき)語も巧くなってきてるし、いい感じ。
そっか、元々が、もう、リョウさんが羅季語できるようになってるから、私の翻訳自体がいらないのかな。
強いの強くないのって言うけど、やっぱりリョウさんはこういうことが好きなんだし、お城に居た方がいいと思うんだ。少し腕力が落ちたからって誰も後ろ指は指さないし……そこまで『強さ』を気にせず、長生きしてほしいな……
それこそ、『長老』になって、その知識を次代に受け継いで上げてほしい。
100%脳筋にはできないことなんだからさ……ねぇ?
リョウさんの脳筋度合いも98%ぐらいだとは思うけど。
「男の人を正座させてる間、キラ・シは見張ってるの?」
「戦士をもう一人連れてきて、そこで鍛練する」
「頭いい!」
誰も時間を無駄にしてない!
しかも、街で鍛練したら、キラ・シの凄さが町の人にマル分かり。だって、『キラ・シの鍛練』って、見てるだけでも超怖い。
「『下』の男は、キラ・シが殴ったら死ぬからな。手加減して殴る方が面倒だ」
そりゃそうだ。
「サル・シュぐらい体があれば、殴りがいもあるがな」
「殴りがいってナニ? お仕置き以外に?」
リョウさんが大きな拳を握って、正面の人のおなか殴る感じで構えて、宙を撃った。凄い風切り音がしたし、拳見えなかった。こんなにでかくて重たそうなのになぜ速い? と、いつも思うよね。
「こう、殴って、腕が壊れないぐらいに柔らかくて吹っ飛ばないと、気持ちいいな。腕を鍛えた気がする」
物騒……
ああ、現代でならサンドバッグ殴る感じ? かな?
砂はそこにあるし、大きな袋は重ねればいいから、サンドバッグ、作ってみようか? 牛革でいいかな? あれ? この時代って牛革を加工する技術ってあったっけ? あるよね? ただ、牛肉はあんまり食べてないからなぁ……牛とか羊を放牧してるのを見たことが無い。そう言うところが日本に似てるんだよね。
技術進化って、『狩猟から牧畜、そして農業』になるか『狩猟から直接農業』になるか、で違うんだよね。
欧州の北の方では『農業できる土地』がなかったから、人間が食べられない草を牛とかに食べさせてその肉を食べたんだ。日本の本州以南は、米がなかくても粟とか稗とかが育ったから、直接農業になったんだよね。この大陸もそんな感じ。まぁ、私がいま農業みてるだけで、牧畜が昔はあったのかもしれないけど。あんまり肉料理を食べる習慣がみんなにないから、ないんだろうと思ってる。
それと、『牛』は農業での『力仕事』に使うし、お乳を搾るから、それを食べるとか、もってのほか、って感じ。動かなくなったら食べるんだろうけど、そんなに頻繁にはないよね。
そういや羅季城では牛や豚をずっと育ててるな。だから、煌都ではお肉を食べてたんだろうけどどこで放牧してたんだろう? キラ・シと動いてるとどこだろうがお肉食べてるから全然気にしてなかった。
税金がわりに納めるものにも『干し肉』ってなかったんだよね。
『車李の皇太后だった時』に、税金とか書類見てたんだけど、魚の干物がたまにあるぐらい。
あれ? 山で牛が育つなら、牛の放牧して繁殖させたら、めっちゃ売れるんじゃない?
リョウさんがジッと私を見てた。
「なんの話してたっけ?」
「サル・シュの腹を殴るのは気持ちいい、だな」
物騒。
違うよね? そんな話じゃなくて……ああ、落とし前で殴る話だった。
「サル・シュくんの腹筋ぐらいってこと?」
「あいつは細いからな。あれ以上でないと……ル・マなら吹っ飛ぶから、後ろが心配だろう?」
「ああ、そういう意味で吹っ飛ぶのがいやなのね?」
「なにより、怪我をしないことが大事だ」
そうだね。それ大事だね。
サル・シュくんを蛸殴りにしてボロ雑巾にしてたけど。内臓破裂とかはしないように気をつけてるんだ? 当たり前だけど、おなか大丈夫なのか凄い心配だった。しかもアレが『半殺し』じゃなかったなんて!
でも、サル・シュくんも『今回』、ずっと立ってたもんな。あれ、凄かった。そっか、立って居られるぐらいの暴行って、キラ・シにとっちゃそんなたいしたことないのかな?
なんか、キラ・シが人殺してるのをたくさん見て来たから私もぼーっと見てたけど。『最初』だったら泣き叫んで止めてたよね。
あれだけ殴られてもキラ・シって死なないんだな。
でも、普通の人を殴ったら一発で死ぬことも分かってるんだ。
サル・シュくんのいないお城は平和です。
車李(しゃき)組凱旋、ゼルブからの便り、サル・シュくん凱旋。
完了!
良かった……ここまでできて良かった!
あとはもう、羅季(らき)を攻める人、いないんだよね? 安心しても、いいよね?
車李は相変わらず、『山ざらい』でくずされた。
今回は雅音帑(がねど)王と、頭のいい大臣の似顔絵を渡してたんだ。
案の定、雅音帑王は生き残ってた。リョウさんが塩漬けの首を持って帰って来てくれたよ。
この首を見たら、安心できる。
とりあえずこれで、グア・アさんは裏切らない。
死体を見て安心できるって、おかしいよね。
でも、もう、それが『今』だから。
サル・シュくんも帰って来たし、ゼルブもいる。
ここまでは、来た。
「ガリさん……できたらお城は崩さないでって言ったのに……」
図書館の本は、『前回』全部読んだからいいけど、復興が大変なんだよ。お金もかかるし。
シャキの国庫はキラ・シのために使いたいんだからさ。
「こいつは、『山ざらい』を使いたかったんだ。あそこまで届いたとき、サル・シュみたいにはしゃいだぞ」
リョウさんが機嫌良さそうにガリさんの胸を叩いた。密かにガリさんがフッフン! ってなってる。カワイイッッ!
目に見えるよう……というか、うん、前もそうだったもんね。楽しいよね、あんなお城を自分一人で崩せるって。私でも、まぁ、するわ。
「『山ざらい』って、ガリさんの命を縮めてると思うから、できるだけ使わないで?」
ガリさんが目を見開いた。
「『山ざらい』するたびに、骨が弱くなってると思うの。だから、腰に来るのよ」
「あぁ……」
普段、相槌打たないガリさんが声に出して頷いた。
「それ俺も? 俺も、『刀折り』したら腰に来る!」
「サル・シュくんもそうだと思うよ。凄い威力を出すってことは、体でそれを受け止めてるの。右に刀を振り上げるときは、先に左に振るでしょ? 反動をつけるために。
技の反動は、全部ガリさんとかサル・シュくんの体に来てるのよ」
「あの、シロを崩す技の反動がガリの体に?」
リョウさんが叫んで、私とガリさんを交互に見た。
「山で『山ざらい』がそんなに威力が出なかったのは、足元が柔らかかったからだと思うの。だから、地面が沈む分、ガリさんの体よりは、地面が反動を受けてくれたのね。その分、技は小さかったし、ガリさんの体にも負担はなかったの。
でも、羅季(らき)で出したのとか、車李(しゃき)で出したのは、足元が岩盤だったでしょう?
その分、沈まなかったから、刀にその威力が乗ったんだと思う。つまりは、その分、ガリさんの体に来てるのよ」
ガリさんが、足元を見ながら、何度も細かく頷いてくれた。
「足とか、体中、痛い」
「だよね」
「そんなに痛かったのか? ガリ」
リョウさんが、初めて聞いたみたいで泣きそうな顔してる。
「だが、『山ざらい』をしたらいつもだ」
良かった。ダメージを自分で分かって、乱発することは避けてたんだ。でも、一回の攻撃で痛みが出るぐらいの反動って、駄目だよね。
「うん、それがね、体が壊れてるの」
「体が壊れている?」
「骨にヒビが入ってるんだよ」
「ヒャッ!」
ガリさんが目を見開いて、サル・シュくんが悲鳴を上げた。
「骨にヒビ!? だって、あれ出しても、立って歩いてるぜ?!」
「うん、ぽきっとなったんじゃなくて、細かいヒビがたくさんたくさんたくさん入ってるの。
一回だと、ヒビが入るだけなんだけど、続けざまにしたら、そのヒビが大きくなるわけ。
だから、そのヒビが治る前に、何回もすると、」
「折れるんだ?」
「死ぬんだよ」
「えっ? なんで?! 折れる前に死ぬの?」
「折れたときには死んでるの」
「なんで?」
「えっとね…………物凄く難しい話になるんだけど、いい?」
サル・シュくんが真っ青になってゴクリと喉を鳴らした。
「いや、ハル。難しい話は後で聞く。どうしたらいいかを教えてくれ」
リョウさんがサル・シュくんをちょっと押して、下がらせた。
よかった。
私も、どう説明したらいいか、迷ってたから。
「なぁなぁなぁっ! 俺も、ルシで『刀折り』出したとき、下が石だった。20人ぐらい斬れたの、それでかっ!」
「ああ、そうね。それもあると思うよ」
「『山ざらい』のとき、ガリメキアの足跡、くっきり残るもんな? なんでこんな踏み固めた土に、と思ってた。技の威力かー! へーっ! 崖崩れ起こしたこともあった」
崖崩れね。前も、聞いたかな?
「土だと、そうなるよね。土に沈む分、刀の威力は下がってたんだよ。
でも岩盤の上だと、沈まないから、全部、刀の威力に上乗せされるのね。
大きな威力が出るから、骨が折れるの」
ガリさんが、小さくコクコク頷いてるのが超かわいいけど、楽しんでいる場合ではない。
「キラ・シってお肉ばかり食べてるから、カルシウム少ないよね、きっと…………」
「かうしうむ?」
だよね。知らないよね。
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