【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。145 ~鷹匠~

 

 

 

 

  

 

「食べたら、体の中で骨になる食べ物。

 魚を骨ごと食べるのが一番なんだけど………キラ・シで言うと、馬のお乳飲んでるの、アレ。あれは凄く骨にいいよ。それと、チーズもいいよ」

 キラ・シは馬のお乳を袋にためてチーズ作るから……チーズを作ろうとして作ったんじゃないだろうけど。

 キラ・シが腰にぶら下げてる『袋』って動物の内臓なのね。それに馬のお乳入れて持ち歩いて、飲み残しを家に放置してたらチーズできたっていうね………今は冬用の保存食として、作るらしい。においの強い、酸っぱいチーズ。

 世界の技術って、こういう『何もしない人達』が『うっかり』作るんだよね。ほんと、実感するわ。

 とにかく、ガリさんのカルシウム問題。

 カルシウムの吸収を助けるのはビタミンDと運動。日除けなんて考えてないからビタミンDはあるし、運動は目茶苦茶してるし、そこらへんはクリア。

 他に何かカルシウムが高いもの……あと、カルシウムが骨になるのにもう一つなんかいった筈……なんだっけ? マグネシウム? ナッツ類だっけ? ナッツなんて、キラ・シはいつも食べてるからこれもOK。腰にナッツの袋下げて常につまんでる。たき火で食事するのって夜だけだもんね。

「キラ・シって小魚食べる?」

「ワカサギ、ヤマメ……は小魚か?」

「それをどうやって食べるの?」

「焼いて頭から」

「骨ごと?」

「骨ごと」

「それで大丈夫。今は?」

「そこの川で子供たちがそれぐらいの魚を取ってる」

「みんな食べてる?」

 リョウさんが、ガリさんとサル・シュくんを見た。

 サル・シュくんが、むいーっとくちびるを尖らせる。

「あれは食い物じゃないっ!」

 胸を張って言い放つ、まさしく五歳児の口調。

「あの川のモノ、全部まずいっ!」

 いかにも憎々しげに詐為河(さいこう)を指さした。

「ガリさんも、食べてないの?」

 怒られてる子供みたいな顔をして、ガリさんも頷く。

「食べたほうがいいよ?」

「えーーーっっ!」

「チーズを倍食べてもダメか?」

 ガリさんの方から提案入った。本当にいやなんだ?

 無理やり食べさせようったって、絶対食べないだろうし。それって教育上良くないし……って、子供か!

「チーズより小魚の方がいいから……」

「ヤダヤダヤダッ!」

 ガリさんも、うんざり、って目をつぶって天を仰いだ。

「リョウさんは平気なの?」

「……不味いが、魚だしな」

 まぁ、リョウさんはいろいろ忍耐力、強いからなぁ。ガリさんもそれぐらいと思ってたけど、やっぱりリョウさん凄いんだなぁ。

「うん……とね。山でも『山ざらい』してたら腰に来てたでしょ?

 山では小魚食べてたんだよね? それで骨が弱くなったのを強くできたんだよね?

 今食べてないんだよね? なら、凄く、悪化してるよね?

 羅季城に来たときにした『山ざらい』で骨が痛んだ時は、小魚、食べてなかったよね?」

 さすがのサル・シュくんも、くちびるを巻き込むみたいに一直線にして眉を寄せる。ガリさんも、少し眉間のしわが深くなった。やっぱり、まだ痛むんだ?

 若いと、骨折でも二週間ぐらいでくっつくから、多分、ヒビなんかは二週間とかそこらで治ってたんだろうけど、車李城を崩したのはまだ痛いはず。

 ああ! ガリさんが、車李軍相手に『山ざらい』を掛けたり、掛けなかったりしてたの、山下りの時に魚を食べたかどうかもあったんじゃない?

 ガリさんもう27才だから、『若い人が二週間で骨折がくっつく』のよりは遅いかもしれないけど。元々が『ヒビ』なら、治療も速いはずだし、『痛みがなくなった』とかは自分で分かるはず。

『私の旦那』が、ガリさんだったりリョウさんだったりするんだから、山下りの最中に食べてるものもランダムなんだよ! 持って下りたチーズの量は変わらないから、ランダムで食べたのは小魚と木の実と狩ったお肉だ。

 そこで小魚をよく食べたか、食べなかったかで、羅季城で最初に出した『山ざらい』の治癒時間が違ったんじゃない?

 小魚の量が少なかったときは、骨の治癒時間がかかったから、車李がきたときに痛みが残ってたんだ。だから、車李戦で『山ざらい』を使わなかった。

 そう考えたら、『最初』は『山ざらい』を連発してたのに、しなくなった理由が当てはまる。

 あってるかどうかは、検証のしようがないけど。

「リョウさん、覇魔流(はまる)に行ったことある? そこで魚を干してなかった?」

「魚を干す?」

「わかんないか……魚をおなかから切り開いて、天日乾しするの。お肉乾かすときみたいに。お肉よりは白くて薄かった筈」

「ああ……ナニカ、生臭いものを干してはいたな」

「覇魔流(はまる)だと海のお魚だから、くさくはないと思うんだけど」

「今から行ってくる! なんて言えばいい?」

 サル・シュ君が、ダダンッ、て足踏みして叫んだ。実は、ガリさんもナニカ言い掛けてたけど、スン、と引いてる。こういうのはサル・シュ君が早いもんね。馬もガリさんより早いし。適任だわ。

 マキメイさんに『魚の開き』という言葉を教えてもらった。

「サカナノヒラキ、サカナノヒラキ。だな」

「これぐらいのお魚だったら、十個ぐらいと、ウサギ一つの交換でいいと思う」

「よしっ! ガリメキアっ行って来るぜ! サカナノヒラキ、サカナノヒラキ」

 サル・シュくんがガリさんの肩をバシッと叩いて馬で出かけた。

「あの……どういうお話なのでしょうか?」

「サル・シュくんとガリさんが、詐為河(さいこう)のお魚がくさくて食べられないっていうから、ハマルで開きを貰ってきてもらおうと思って」

「ハマルの魚の開きでしたら、羅季(らき)に毎月届いてますよ?」

「えっ!」

「お魚は召し上がられないのかと思って、お出ししてませんでした。申し訳ありません」

 そう言えば『初めて』このお城に来たとき、入り口近くの屯所部屋でテーブルに魚の開きが置いてあった! あれ、覇魔流(はまる)のだったのねっ!

「リョウさん、サル・シュくん呼び戻してっ!」

『族長から四位へ、戻れ』の指笛で、サル・シュくんすぐ戻ってきた。副族長から、じゃなく、族長から、にするんだ?

 マキメイさんにサカナノヒラキを、焼いただけで出してもらう。

 サル・シュくんもガリさんも、食べる食べる。気持ちいいぐらい食べる。ごみ収集車が、ごみをバリバリ潰していくみたいに骨ごと食べてる。

 なんか、この『破壊音』、楽しい。

 マキメイさんが青ざめてた。

「骨が……凄く大きな骨があるのですけれど…………噛み砕いてらっしゃいますね……大丈夫でしょうか? 頭の骨まで……」

「キラ・シだから、大丈夫じゃないのかな」

『キラ・シだから』って、キラ・シってナニモノだよ、って感じだけど、キラ・シだもんな。

「本当ですか? あんな太い骨が喉に刺さったら、死にませんか?」

「……どうだろう…………とりあえず、魚の開きを、追加で大量に持ってきてもらってくれる?」

「はい……わかりました」

「がっあっ!」

 案の定、サル・シュくんが喉に骨刺したみたい。苦しんでる苦しんでる。でも、喉押さえたり掻きむしったりはしない。

 でも、本当に、『面白い担当』だなサル・シュくんって。意外性なさすぎて、『つまらんっ!』ってスタンプ押したい。

 リョウさんで3倍、ガリさんが刺さったら10倍面白かったのに!

「魚の骨が刺さったんだよ。もっと細かく噛み砕いて?」

「ハルナ様……今刺さっているものを抜きませんと……っ……」

「ご飯呑み込んだら大丈夫なんだから、大丈夫なんじゃない?」

 本当はそんなことしちゃ駄目だけど、ピンセットも掃除機も無いし仕方ない。掃除機はお餅か。

 サル・シュくんが次の一口をぐちゃぐちゃ噛んで呑み込んだら通ったらしい。また、物凄い勢いで食べだしたけど、少し噛む回数が多くなった。ガリさんも。

「ほら」

「はぁ…………」

 マキメイさんが、頬に手を当ててため息をついた。

「というか、あなたたちっ! 一カ月分の魚を一日で食べないのっ!」

「いままで足りなかった分だろっ! これからは、山で食ってたぐらい食うよっ!」

「……そうね……」

 そうなのかな? カルシウムは水溶性じゃなかった筈だから、食い溜めできる……なら、いいのかな? 水溶性じゃないなら、油と一緒に取った方がいいんだっけ? カルシウムは関係なかったかな? うーん…………

「こっちのほうが美味いな。俺もこれがいい」

 リョウさんも、一匹食べて頷いた。というか、キラ・シ全員集まってきて美味い美味いって言ってる。なんかあると寄ってくる、この嗅覚すごいよね、いつもだけど。

「マキメイさん。大至急、大量に作ってもらって」

「はいっ!」

「ハマルに行く奴らっ! これ持って帰って来いっ!」

 サル・シュくんが叫んだらオオーッってなって、本当に、凄い数のヒラキを持って帰って来るようになった。輸入でもたくさんあるのに……

 脳筋は程度を知らない。

 しかもあるだけ食べるから、凄い量。

 獣を狩りにいかなくなった。

 やっぱり、『獣を狩りたい』じゃなく、『食べ物が欲しい』だから、食べ物が合ったら狩らないのね。

『食べないものは殺さない』っていうのがはっきりしててすがすがしい。

 その分、鍛練してるしてるしてる。

 銅剣折れる折れる折れる……

 鍛冶屋さんが大忙し。

 前は早く大陸中央に行こうって急かしちゃったけど、毎回、私があそこで死んでるから、今回はキラ・シが行くって言うまで放置してみよう。

 私も、湿度の高い羅季(らき)の方が好き。

 車李(しゃき)とのやりとりはゼルブがやってくれるから、キラ・シの指笛より早い早い。ゼルブは鳩を使ってるらしい。

 羅季の町の一角で、鳩飼ってた!

 各国の大きな街で、全部鳩を飼ってるって凄い!

 羅季の鳩小屋を見せてもらったら、100羽以上いた! 一回で10羽に同じ書簡を持たせて飛ばすんだって。鷹とかに食べられちゃうから。

 羅季はキラ・シが来てから鳩の到達率が悪くなってて心配してた。明らかに鷹の数が増えたんだって。

 それをリョウさんに言ったら、凄い答えが帰って来た。

「上位に着いて来てる」

「え? 鷹が? キラ・シに? なんで?」

  

 

  

 

  

 

 

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