【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。146 ~鷹の躾け~

 

 

 

 

  

 

  

 

「…………倣い……ではないが、馬より鷹の方が呼び寄せにくいから……」

『戦士のステイタス』っぽい。

 確かに『鷹を飼ってる』なんて、凄いステイタスだよ。たしか、ナガシュでは鷹が神様だったよね。

「鷹ってナニカ役に立つの?」

「敵の目をえぐらせる」

「それは……凄く、役に立ってるね……」

 キラ・シの『飼う』って本当に物騒っ!

 リョウさんの鷹も見せてもらったけど、サル・シュくんにもいた!

 背中に掛けてるフード用の毛皮を腕にぐるぐる巻き付けて口笛を吹いたら、本当にばっさばっさ跳んできて、サル・シュくんの手に止まった!

 手に持ってた細切れ肉の塊を上げたら、曲がったくちびるでつついてる。生肉なんて、噛み切るの大変なのに、ぱすぱす切れてる。さすが猛禽類。怖い。

「どうやってなつかせるの?」

「鷹の卵を俺の胸で孵す」

 …………そうね。

 普通はその、卵を入手できないから、しないんだよね。

「どうやってしつけるの?」

「シツケ?」

『シツケ』って言葉がない?

「どうやって敵の目をえぐるように教えるの?」

「呪い指(人指し指)で指して、殺せっ! ……て、だけ……?」

「え? なんでそれで鷹が言うことを聞いてくれるの?」

「殺せって言ったから」

 違うと思うわ……いや、そうなのかな?

「俺を弓で狙ってる奴とか、鷹が勝手に攻撃するぜ?」

 何も疑問に思ってないサル・シュくんの顔、キョンってしてる。かわいい。

 いやいや、かわいいのはおいておいて。かわいい。なんでホント、こんなにサル・シュ君で美人なのにかわいいんだろう?

 私が黙ると、最初は、んっ? んっ? って、左右に小首傾げながら目を丸くして私を見てるんだけど、そのうちくちがニューッととがって、にん、って猫みたいに口を閉じたまま笑って、ふっ……と、表情がなくなる。その無表情が超綺麗!!!

 本当に、静かだと、凄い美少年っ! レースのシャツ着せて写真撮りたいっ!

 とりあえず、それは、鷹がサル・シュくんを親だと思ってるんだろうなぁ……。そっか『親を守るために攻撃する』んだ。それはすさまじい味方だね。

 あぐらで左右に揺れてたサル・シュ君が、土下座みたいになって、ドアップ。

 鼻しか見えない。毛穴のまったく見えない鼻の頭。

 あれ?

 さらつやストレートが、サル・シュ君の耳元から、私の耳元に……ひんやり。

「なんで押し倒すの?」

「ん?」

「ん? じゃなくて」

『ドクタースランプアラレちゃん』みたいな満面の笑顔!

「夜だよっ!」

 そうだね!

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくんの子、リン・シュくんは無事生まれて、最初の流行り病にも、勝った! 良かった!

 五才になるまでに三人に一人が死ぬからね! その第一弾は生き延びたよ! エライ!

 次の勝ち上がりでガリさんが私を抱いたけど、一日だけ。あとはずっとサル・シュくんが私に抱きついてる。いつもなら、一度妊娠したら絶対に抱かないのに、抱いたこともあった。

「子供って……そう簡単に流れないんだな……」

 私をクンクンしてサル・シュくんがくちびるを尖らせた。

 笑顔がまったくない声。

 不機嫌というより、敵意?

「ナニをする気なのサル・シュくん」

「ガリメキアの子を流して、来月俺の子を当てる。一カ月ぐらいばれないって」

「ばれるよ。一カ月じゃなくて、二カ月ずれるんだから。大体、それって……裏切りじゃない?」

 サル・シュ君に抱き締められてるから、顔は見えないけど、なんか、凄いトゲトゲしてるのはわかる。

「ハルに俺の子だけ産ませたい……」

 それはわかるけど…………リョウさんがそうしたとき、ガリさん凄い怒ったし……レイ・カさん殺されたし……

 でも、とにかく今、ほぼ毎日サル・シュくんに抱かれてる。ガリさんがお城にいない時だけ。おなかは、確実に脹れてきた。サル・シュくんがまだ私抱いてるから、これはガリさんの子なんだろうな……

 ガリさんの子が、すごく生まれたがってるんだよね。サル・シュ君でも負けるぐらい。

 次にガリさんが帰って来たとき、サル・シュくん、出会い頭におなか殴られてた。

 装具点検してた戦士がとっさによけた壁にぶつかった。あの勢いで、頭両手で抱えてるの凄い。それに、『倒れなかった』から、四位もそのままだよね。

 多分、『よける』ことはできたよね? でもよけないんだよね。『上位』の拳だから。

 ガリさんに楯突いたのかと思ったけど、まだ、『族長の下』に、いる気ではいるんだ?

 よかった……

 また、『キラ・シが血に沈む』のかと、一瞬だけゾッとした。

 とにかく、ばれたんだ? やっぱりダメなんだ。そりゃそうだよね。

 それからは私をギュッとするだけ。

 10日ぐらい、壁を伝って歩いてたし、20日ぐらいご飯食べられなかったみたい。ギリギリお水飲めるだけで、食べてたけど、ずっと吐いてたから、「食べるのやめた!」って宣言して、もう15日目。

 おなか空いた、とか言わないの、凄い。

  

 

  

 

  

 

「昨日さ、ル・マに、孕み日、かがされた」

 ベッドにごろんとして耳元で囁かれた。

「それってどういうこと?」

「今、ル・マがガリメキア襲ってるんじゃないかってこと」

「ガリさんを、襲う?」

 たしかに、ル・マちゃん、凄いガリさんに迫ってた。ガリさんが帰って来なくなるぐらい。

 嫁姑問題があって帰宅したくないお父さんみたい、って思ったんだ。

 ル・マちゃんが戦場に走ろうとするのを、サル・シュ君が止めてたな。

「キラ・シが滅びない戦から出ろ」って。

 新進気鋭のキラ・シが負けたら、どれも全部滅びるよ。

 つまりは、『出陣させない』ってことなんだろうけど、ル・マちゃんは、歯ぎしりして、馬から降りてた。

 ル・マちゃんも、サル・シュくんがいないと無茶しないんだよね。だから、『自分が出陣しちゃいけない』し『止めてくれる』っていうのはわかってるんだと思う。

 多分、一生、出陣できないよね。

 ガリさんがさせないよね。

  

 

  

 

  

 

 翌朝。

 ル・マちゃんが朝早くから私達の部屋に殴り込んできた。

「サル・シュっ! 当たった? 当たった?」

 ベッドに乗り上がって、サル・シュくんに喉元押しつけるル・マちゃん。朝から騒々しい。というか、寝起きに鼠花火投げ込まれた感じ。

「おう、当たってる当たってる……」

 スンスンしたサル・シュ君が親指立てて超笑顔。

「シャーッ!」

 ル・マちゃんガッツポーズ!

「なーなー、どうしたらいいんだ? あっためたらいいのかっ!」

 おなか押さえてニッコニコしてるル・マちゃんカワイーッ。

「そうだね、温石帯、三つぐらい巻いておいで」

「マキメイーっ!」

「ル・マちゃん、走っちゃダメっ! タネが流れちゃうっ!」

 ピタッと止まった細い後ろ姿。いつもキラ・シのごっついの見てるから、ホント小柄。つまようじみたいに見える。

「していいのは歩くことだけ。剣を振り回したりしちゃ駄目だよ」

「えーっ! 鍛練も?」

「当たり前でしょ!」

「ハルも大声だすな……」

 また寝ようとしてるサル・シュ君が抱きついてきて、顎の位置を私の肩周りでさぐってる。

 下ろそうとしてたくせに。

「重いのも持っちゃ駄目。おなかに力が入ること全部ダメ。ル・マちゃん初産だからね! 去年の私ぐらいしか動いちゃ駄目! まぁ……キラ・シのみんなが動かしてくれないから、大丈夫だと思うよ」

「……内緒にしてる……」

 くちびるとがらせてシュンとしたル・マちゃん。

 無理だよね。

 サル・シュくんがベッドから飛び下りて、階段を駆け下りて行った。全裸で。

「ル・マがガリメキアの子を孕んだぞーっ!」

 お城にハウリングっ! そして指笛が鳴ってる鳴ってる! みんなが全員が呼び集めてる。

「サル・シュっ!」

「内緒にしたいこと、サル・シュくんに言っちゃ駄目だよ」

 ギシッ……と歯ぎしりしてるル・マちゃんを、ベッドに呼び寄せた。二人でゴロンとなって額をゴツン。

『初めて』の『予言の成就』なんだよね。どうなるんだろう?

 ワクワクするというか、ハラハラするというか……ル・マちゃんが、幸せそうにおなかをさすってるのが、凄くかわいい。

「……俺の入る隙間がなーいっ!」

 サル・シュくんがわめいてた。

 私を後ろから抱き締めればいいのに、なんで間に入ろうと考えてるの。

  

 

  

 

  

 

 それからは、ガリさんが頻繁にお城に帰って来るようになった。

 とにかくル・マちゃんが心配みたい。相変わらず子煩悩ね。

 元々、サル・シュくんがいなければ私も抱きしめてくれてたし、優しい人だもんね。身内には。

 私もル・マちゃんとずっと一緒にいて、私の出産が終わったころに、ル・マちゃんが脹れてきた。

「凄い……俺の腹がこんな脹れてる……!」

「びっくりするよね…………初産は時間がかかるから、ちゃんと食べて、ちょっと脂肪をつけておこうね。二回目は楽になるから大丈夫だけど」

「二回目?」

「……うん? 二回目……凄く楽だったよ、私も、マキメイさんも」

 スポンッ、て感じ。

「俺は、この子を産んだら死ぬから、二回目はないぜ?」

「え?」

 思わずサル・シュくんと顔を見合わせてしまった。彼も青ざめてる。

「父上は、お前を失いたくない、って、言ってくれた。

 だから、産むんだ…………キラ・シの未来のために」

 たしかに、サル・シュくんとル・マちゃんの子だと、キラ・シが早くに滅びちゃう。ただ……そこまで私も、何回も長い間生きてなかった。

 生きてたときに、粛清をくらったけど……でも、あれを、されないことって、ある?

 どんどんル・マちゃんのおなかは大きくなって、ガリさんは無口になった。日がな一日ル・マちゃんを抱いてることもあった。臨月では、もう、部屋から出てこなかった。

 キラ・シの全員が見守る中、二日かかってル・マちゃんは子を産んだ。

 ガリさんが赤ちゃんを引っ張りだした時には、もう、息をしてなかったル・マちゃん。

「ル・ア」

 ガリさんが、名前をつけて………悲鳴を、上げた。

  

 

  

 

  

 

 

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