「…………倣い……ではないが、馬より鷹の方が呼び寄せにくいから……」
『戦士のステイタス』っぽい。
確かに『鷹を飼ってる』なんて、凄いステイタスだよ。たしか、ナガシュでは鷹が神様だったよね。
「鷹ってナニカ役に立つの?」
「敵の目をえぐらせる」
「それは……凄く、役に立ってるね……」
キラ・シの『飼う』って本当に物騒っ!
リョウさんの鷹も見せてもらったけど、サル・シュくんにもいた!
背中に掛けてるフード用の毛皮を腕にぐるぐる巻き付けて口笛を吹いたら、本当にばっさばっさ跳んできて、サル・シュくんの手に止まった!
手に持ってた細切れ肉の塊を上げたら、曲がったくちびるでつついてる。生肉なんて、噛み切るの大変なのに、ぱすぱす切れてる。さすが猛禽類。怖い。
「どうやってなつかせるの?」
「鷹の卵を俺の胸で孵す」
…………そうね。
普通はその、卵を入手できないから、しないんだよね。
「どうやってしつけるの?」
「シツケ?」
『シツケ』って言葉がない?
「どうやって敵の目をえぐるように教えるの?」
「呪い指(人指し指)で指して、殺せっ! ……て、だけ……?」
「え? なんでそれで鷹が言うことを聞いてくれるの?」
「殺せって言ったから」
違うと思うわ……いや、そうなのかな?
「俺を弓で狙ってる奴とか、鷹が勝手に攻撃するぜ?」
何も疑問に思ってないサル・シュくんの顔、キョンってしてる。かわいい。
いやいや、かわいいのはおいておいて。かわいい。なんでホント、こんなにサル・シュ君で美人なのにかわいいんだろう?
私が黙ると、最初は、んっ? んっ? って、左右に小首傾げながら目を丸くして私を見てるんだけど、そのうちくちがニューッととがって、にん、って猫みたいに口を閉じたまま笑って、ふっ……と、表情がなくなる。その無表情が超綺麗!!!
本当に、静かだと、凄い美少年っ! レースのシャツ着せて写真撮りたいっ!
とりあえず、それは、鷹がサル・シュくんを親だと思ってるんだろうなぁ……。そっか『親を守るために攻撃する』んだ。それはすさまじい味方だね。
あぐらで左右に揺れてたサル・シュ君が、土下座みたいになって、ドアップ。
鼻しか見えない。毛穴のまったく見えない鼻の頭。
あれ?
さらつやストレートが、サル・シュ君の耳元から、私の耳元に……ひんやり。
「なんで押し倒すの?」
「ん?」
「ん? じゃなくて」
『ドクタースランプアラレちゃん』みたいな満面の笑顔!
「夜だよっ!」
そうだね!
サル・シュくんの子、リン・シュくんは無事生まれて、最初の流行り病にも、勝った! 良かった!
五才になるまでに三人に一人が死ぬからね! その第一弾は生き延びたよ! エライ!
次の勝ち上がりでガリさんが私を抱いたけど、一日だけ。あとはずっとサル・シュくんが私に抱きついてる。いつもなら、一度妊娠したら絶対に抱かないのに、抱いたこともあった。
「子供って……そう簡単に流れないんだな……」
私をクンクンしてサル・シュくんがくちびるを尖らせた。
笑顔がまったくない声。
不機嫌というより、敵意?
「ナニをする気なのサル・シュくん」
「ガリメキアの子を流して、来月俺の子を当てる。一カ月ぐらいばれないって」
「ばれるよ。一カ月じゃなくて、二カ月ずれるんだから。大体、それって……裏切りじゃない?」
サル・シュ君に抱き締められてるから、顔は見えないけど、なんか、凄いトゲトゲしてるのはわかる。
「ハルに俺の子だけ産ませたい……」
それはわかるけど…………リョウさんがそうしたとき、ガリさん凄い怒ったし……レイ・カさん殺されたし……
でも、とにかく今、ほぼ毎日サル・シュくんに抱かれてる。ガリさんがお城にいない時だけ。おなかは、確実に脹れてきた。サル・シュくんがまだ私抱いてるから、これはガリさんの子なんだろうな……
ガリさんの子が、すごく生まれたがってるんだよね。サル・シュ君でも負けるぐらい。
次にガリさんが帰って来たとき、サル・シュくん、出会い頭におなか殴られてた。
装具点検してた戦士がとっさによけた壁にぶつかった。あの勢いで、頭両手で抱えてるの凄い。それに、『倒れなかった』から、四位もそのままだよね。
多分、『よける』ことはできたよね? でもよけないんだよね。『上位』の拳だから。
ガリさんに楯突いたのかと思ったけど、まだ、『族長の下』に、いる気ではいるんだ?
よかった……
また、『キラ・シが血に沈む』のかと、一瞬だけゾッとした。
とにかく、ばれたんだ? やっぱりダメなんだ。そりゃそうだよね。
それからは私をギュッとするだけ。
10日ぐらい、壁を伝って歩いてたし、20日ぐらいご飯食べられなかったみたい。ギリギリお水飲めるだけで、食べてたけど、ずっと吐いてたから、「食べるのやめた!」って宣言して、もう15日目。
おなか空いた、とか言わないの、凄い。
「昨日さ、ル・マに、孕み日、かがされた」
ベッドにごろんとして耳元で囁かれた。
「それってどういうこと?」
「今、ル・マがガリメキア襲ってるんじゃないかってこと」
「ガリさんを、襲う?」
たしかに、ル・マちゃん、凄いガリさんに迫ってた。ガリさんが帰って来なくなるぐらい。
嫁姑問題があって帰宅したくないお父さんみたい、って思ったんだ。
ル・マちゃんが戦場に走ろうとするのを、サル・シュ君が止めてたな。
「キラ・シが滅びない戦から出ろ」って。
新進気鋭のキラ・シが負けたら、どれも全部滅びるよ。
つまりは、『出陣させない』ってことなんだろうけど、ル・マちゃんは、歯ぎしりして、馬から降りてた。
ル・マちゃんも、サル・シュくんがいないと無茶しないんだよね。だから、『自分が出陣しちゃいけない』し『止めてくれる』っていうのはわかってるんだと思う。
多分、一生、出陣できないよね。
ガリさんがさせないよね。
翌朝。
ル・マちゃんが朝早くから私達の部屋に殴り込んできた。
「サル・シュっ! 当たった? 当たった?」
ベッドに乗り上がって、サル・シュくんに喉元押しつけるル・マちゃん。朝から騒々しい。というか、寝起きに鼠花火投げ込まれた感じ。
「おう、当たってる当たってる……」
スンスンしたサル・シュ君が親指立てて超笑顔。
「シャーッ!」
ル・マちゃんガッツポーズ!
「なーなー、どうしたらいいんだ? あっためたらいいのかっ!」
おなか押さえてニッコニコしてるル・マちゃんカワイーッ。
「そうだね、温石帯、三つぐらい巻いておいで」
「マキメイーっ!」
「ル・マちゃん、走っちゃダメっ! タネが流れちゃうっ!」
ピタッと止まった細い後ろ姿。いつもキラ・シのごっついの見てるから、ホント小柄。つまようじみたいに見える。
「していいのは歩くことだけ。剣を振り回したりしちゃ駄目だよ」
「えーっ! 鍛練も?」
「当たり前でしょ!」
「ハルも大声だすな……」
また寝ようとしてるサル・シュ君が抱きついてきて、顎の位置を私の肩周りでさぐってる。
下ろそうとしてたくせに。
「重いのも持っちゃ駄目。おなかに力が入ること全部ダメ。ル・マちゃん初産だからね! 去年の私ぐらいしか動いちゃ駄目! まぁ……キラ・シのみんなが動かしてくれないから、大丈夫だと思うよ」
「……内緒にしてる……」
くちびるとがらせてシュンとしたル・マちゃん。
無理だよね。
サル・シュくんがベッドから飛び下りて、階段を駆け下りて行った。全裸で。
「ル・マがガリメキアの子を孕んだぞーっ!」
お城にハウリングっ! そして指笛が鳴ってる鳴ってる! みんなが全員が呼び集めてる。
「サル・シュっ!」
「内緒にしたいこと、サル・シュくんに言っちゃ駄目だよ」
ギシッ……と歯ぎしりしてるル・マちゃんを、ベッドに呼び寄せた。二人でゴロンとなって額をゴツン。
『初めて』の『予言の成就』なんだよね。どうなるんだろう?
ワクワクするというか、ハラハラするというか……ル・マちゃんが、幸せそうにおなかをさすってるのが、凄くかわいい。
「……俺の入る隙間がなーいっ!」
サル・シュくんがわめいてた。
私を後ろから抱き締めればいいのに、なんで間に入ろうと考えてるの。
それからは、ガリさんが頻繁にお城に帰って来るようになった。
とにかくル・マちゃんが心配みたい。相変わらず子煩悩ね。
元々、サル・シュくんがいなければ私も抱きしめてくれてたし、優しい人だもんね。身内には。
私もル・マちゃんとずっと一緒にいて、私の出産が終わったころに、ル・マちゃんが脹れてきた。
「凄い……俺の腹がこんな脹れてる……!」
「びっくりするよね…………初産は時間がかかるから、ちゃんと食べて、ちょっと脂肪をつけておこうね。二回目は楽になるから大丈夫だけど」
「二回目?」
「……うん? 二回目……凄く楽だったよ、私も、マキメイさんも」
スポンッ、て感じ。
「俺は、この子を産んだら死ぬから、二回目はないぜ?」
「え?」
思わずサル・シュくんと顔を見合わせてしまった。彼も青ざめてる。
「父上は、お前を失いたくない、って、言ってくれた。
だから、産むんだ…………キラ・シの未来のために」
たしかに、サル・シュくんとル・マちゃんの子だと、キラ・シが早くに滅びちゃう。ただ……そこまで私も、何回も長い間生きてなかった。
生きてたときに、粛清をくらったけど……でも、あれを、されないことって、ある?
どんどんル・マちゃんのおなかは大きくなって、ガリさんは無口になった。日がな一日ル・マちゃんを抱いてることもあった。臨月では、もう、部屋から出てこなかった。
キラ・シの全員が見守る中、二日かかってル・マちゃんは子を産んだ。
ガリさんが赤ちゃんを引っ張りだした時には、もう、息をしてなかったル・マちゃん。
「ル・ア」
ガリさんが、名前をつけて………悲鳴を、上げた。
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