【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。149 ~ナガシュは車李より暑い砂漠の国。~”

 

 

 

 

  

 

 ナガシュは車李より暑い砂漠の国。

 今が一番涼しいからって、次の国、摩雲に移動することになった。

 みんな白い布をかぶって、子供と白い人を真ん中にして夜に出た。

 ガリさんも白いから、真ん中。いつもは先頭を走ってるのに。黒い戦士より厳重に布をかぶってるから戦えないのね。サル・シュくんもそう。私ももちろんそこに居るけど、私よりサル・シュくんのほうが白いから、大変そう。朝日でも指先がしもやけみたいになってた。

「ねぇ……あれ………………ナニ?」

 周りがざわついた。

 見張る貸す限り青空の筈なのに、黒い……

「『その世』の雲だっ!」

 誰かが叫ぶ。

 砂嵐?

 こんなところで?

  

 

  

 

  

 

 いつもの、軽く煙る砂嵐じゃなかった。

 息もできないぐらい、長くて激しくて、ガリさんの末っ子の、マッちゃんが飛んで行くのは、見えた。でも、何も、できなかった。

 できなかったの……

「じっとしてろハル! 俺たちが死ぬ!」

 サル・シュくんが私を抱き締めて、ただ抱き締めて……

 摩雲まで、たどり着いた戦士は少なかった。みんな、摩雲までの水は馬に積んでたからギリギリ大人は助かったみたい。

 砂嵐でちりぢりになって、とにかく、星を見て進めた戦士はいたけど……子供たちが……

 砂嵐が去ったときに、サル・シュくんは私をリョウさんに任せて砂漠に戻った。

 ガリさんも、リョウさんも子供を助けには、行かなかったのに。

 ガリさんも白いから。もう、この砂漠で力が無くなってた。

「ダメよサル・シュくんっ! キミだって白いのよっ! 早く北に行かないとッ! 水はあと二日分も無いのよ!」

 キラ・シの誰もが、自分が生き残ることに必死になった。

 もう、子供はたくさんいるから。

 世界中に幾らでもいるから。

 三日後に、サル・シュくんが帰って来た。

 ずっと玄関前で待ってた私には、見えた。

 でも……そこまで……

 王城の門で、私に手を振って、彼は……馬から落ちた。

 周り中で悲鳴があがり、キラ・シが走り、みんなが首を横に振る。

 どうして?

 服を、着て……ない…………

 胸に布を抱きしめて、動か……ない…………

「サル・シュくんっ! リンなのっ? リンを連れてきたのっ!」

 サル・シュくんは、息をしてなかった。

 真っ赤にただれた肌は、はち切れて血を滴らせてた……

 服を全部子供にやって……自分の影で守って、来た…………

「ハルっ! 中天だぞっ! 影に入れっ!」

 リョウさんや戦士が駆けてきて、サル・シュくんを影に運んでくれる。

「サル・シュくんっ! 息をしてっ! 息をしてっ! 嘘でしょっ!」

 全身が火傷で真っ赤で……水ぶくれも出て…………もうすこし焼けたら、顔の判別もつかなかった。

 誰も、子供を捨てたのに…………どうして……

 君がいたら、君の子は幾らでも産まれたのにっ!

「大丈夫、サル・シュくん…………リンはちゃんと育てるから…………」

 そう、思った、のに…………

 サル・シュくんが抱いてた布から出てきたのは、ル・アくんだった。

 ガリさんも、リョウさんも、目を見開いてる。

「どうして……サル・シュくんっ…………っ…………なんで、リンじゃないのっ?」

 ル・アくんが、屋敷の中に連れて行かれた。

 サル・シュくんはここに放置されてるのにっ……

 ガリさんもただ、サル・シュくんを見つめて…………

「どうしてサル・シュくんがあなたの子を救うのよっ!」

 あの時、ガリさんが『ル・アを助けろ』と言ったわけじゃなかった。ガリさんも瀕死だった。

 サル・シュくんが、自分で、ル・アくんを助けたんだ!

 どうしてっ!

 ガリさんが、少しも揺らいでくれないのがっ肚立だしいっ! 少しぐらい叩かれて動いてよっ! 押し下がってよっ! そんなっ! 壁みたいに立ってないでっ! 少しは傷ついてよっ!

「いなくなったっ! サル・シュくんがいなくなったっ! サル・シュくんの子も居なくなったっ! もうっ産まれないっ! サル・シュくんの子なんて、産まれないっ! どうしてっ!」

 また、豪雨が世界を覆った。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 【ハルナを見つめるル・ア】

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

「ル・ア、ハルに近寄るな」

 ハルがこけそうになったから支えようとしたら、リョウ・カに止められた。父上がハルを抱き上げて、部屋に連れて行く。

 あんなにいつも笑ってたハルが、泣きはらして真っ赤な目をして、俺を、睨む。

「あなたが死ねば良かったのに……」

 そう言って、俺を、睨む……

「ハルはル・マが死んだときもああだった。しばらくすれば治るから、近寄るな。特に、ル・アはな」

「どうして……サル・シュは俺を助けたの?」

 ハルが怒るのは正しいよ。

「どうして? 見つけたのがル・アだからだろう?」

「違うよ、リン・シュもいたんだ。一緒に馬の影にいたんだよ」

「……どういうことだ?」

「サル・シュは、リン・シュが生きてるのを知ってた。ちゃんと、リン・シュを抱きしめてた。でも、俺を馬に乗せたんだ」

 父上、どうしてっ! ってサル・シュを呼んでたリン・シュの声が耳から離れない。

「どうして? って聞いたら、『二人乗せたら全員死ぬ』って……」

 サル・シュは、自分の服を脱いで俺にかぶせて、布でくるんで、馬を走らせた……

 なら、サル・シュが助けるのはリン・シュじゃないの? ……と思ったけど…………言えなかった。

 俺が、置いていかれるから……

 ハルが怒るのは当然だ…………サル・シュは、リン・シュを助けるべきだった。自分の子なのに!

『キラ・シのために生きろ、ル・ア…………お前を産むために、ル・マが死んだ。

 お前がキラ・シを救うから、と先見をしたから、ル・マは、自分の命を掛けてお前を産んだんだ』

 それが、サル・シュの最後の言葉だった。

 だから、俺を助けた?

 自分の子より?

 俺一人のために、何人が死んだの?

 誰にも言うな、ってリョウ・カに言われたけど……

「ねぇル・アくん…………ごめんなさいね、サル・シュくんが死んで、私、どうかしちゃってて……」

 ようやく笑ってくれるようになったハルに、みんながホッとしてた時、話しかけてきた。

「仕方ないよ………………あんな時だったもの」

「サル・シュくん……最後にナニカ言ってた? 君と会ったあと、彼、どうだった? 聞かせてくれる?」

 誰にも言うな、ってリョウ・カに言われたけど、でも…………全部、話した。

 俺がハルでも聞きたいと思うから。

「そう……」

 ハルの手が、俺の頬を撫でる。

「ガリさんに良く似て……白いわね……あなた」

 サル・シュの方がもっと白いけど……って、言えな……かった。

「リンだって同じくらい白かったんだから…………生き残れた筈なのに……」

 ハルはもう、笑って、なかった。

「死んでもキラ・シを助けなさいよ」

「う……ん…………」

 それは、絶対に、する。

「ル・アくん…………そうじゃないと、ル・マちゃんも、サル・シュくんもリンも、子供たちも報われないわ。

 あなたはガリさんも、殺すの…………それがル・マちゃんの先見だった……」

 そんなのは……知らない…………そんなこと、ある筈ない……

「私が愛した人を、あなたが全部殺したの」

 刀に、貫かれたかのよう。

「嘘つきには、私が百石、投げるからね」

 ハルの目から、血の涙があふれて落ちた。

 

 

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