【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。156 ~ガリさんに飛び蹴り~

 

 

 

 

  

 

 朝。

 朝、朝あさ!

 全身筋肉痛っ!! うがーっ! 痛い!

 この、初エッチの時の痛み、マシにならないのかな…………

「ハルー…………寝てろよー……」

 朝が遅いサル・シュくんが蛇みたいに巻きついてる。私のちいさな胸に顔押しつけてぐりぐり。昨日君がさんざんすった乳首が痛いからやめてほしい。というか、サル・シュくんが動くたびに筋肉痛がビシビシ来る。

「おしっこしてきて」

「……え?」

 ふにゃっと上目づかいに私を見る白い顔。かわいい。

「朝したいなら、その前におしっこしてきて」

 ぼやぼやしてたサル・シュくんが、何回かまはたきをして、起き上がった。

 うらやましいほど直毛の黒髪が、肩に胸に膝に流れてるの凄い綺麗。スマホあったら写真撮るのに!!

「なんで?」

「サル・シュくん、私の中におしっこするから」

「はっ?」

 まだローテンションだから、声も低い。それが、ちょっと機嫌悪いときの問い返しに似てて、微妙に胸の奥でゾワッとした。

「それで、キラ・シの全員からぼっこぼこにされるから」

 ぱちくり。猫がまばたきするみたいに、ゆっくりと。ホント、猫。

「ぼっこぼこに?」

 そこなの? 聞き返すの。

「ぼっこぼこに。ガリさんに飛び蹴りされるから」

「……それは見たいかも」

 たしかに面白かったけど。

 そういや、サル・シュくん、泣いてはいたけど、全然反省はしてなかったな……

 しまった。

 押し倒された。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 ぼっこぼこになって玄関に正座してるサル・シュくんとショウ・キさん。

「たしかにガリメキアが飛び蹴りしたっ!」

 あんなに泣いてたのに、サル・シュくんはそれを凄く喜んでた。

 夜も、まだ体バッキバキだし、おなかとか青痣が凄いんだけど、凄い上機嫌!

 ベッドの上であぐらを組んで、ふわふわ揺れながら、髪を梳いてる。

 お城だと夜がのんびり。髪をまぁ、山でも髪の手入れはしてたけど、お湯で洗うわけではなかったから、梳いてすぐにまた三つ編みにしたり、髪飾りつけたりしてた。そこから、寝るんだよね。

 今はお風呂で洗う前に髪を梳いて、部屋に戻ってから乾かしながらもう一度梳いて、朝梳いて飾りつけ。ガリさんとかリョウさんは気にしてなかったけど、サル・シュくんは頭が濡れてるのが気持ち悪いらしくて、乾くまでは寝ない。だから今も梳いたり、布巾で頭や髪を拭いたり、忙しい。ドライヤーがないから、乾くのは時間かかるよね。その長い髪。

 それでも、先に私の髪を拭いてくれるの。これは、リョウさんもガリさんもだった。ホント、キラ・シって女に優しい。

 今は、サル・シュくん、私の髪を梳くために腕を上げるだけでもイテテ、って笑ってる。

「ほんっっっとうに…………キミは馬鹿よね」

 そんな、痛い目を見てまで確認することなの? と思うけど、これぐらいキラ・シにとっては『痛くない』というか、『どうでもいい』のかな?

「馬鹿の方が楽だろ」

 なに?

 喜んでた顔が、フン、って嘲ったように笑ってあっち向いた。

「……わざと?」

 くちびるを尖らせて、むいーって顔の中心にしわを寄せてる。五歳児。かわいすぎ。

「しっかりしたら、レイ・カとかリョウ叔父みたいに頼られるだろ。邪魔臭い」

 ああ……サル・シュくんはわざと上位に行かない子だった、そう言えば。

 そっか、それは、『「面倒みが良い」って思われるのがいや』、ってのもあったんだ?

 そりゃそうだよね。

 キラ・シってナニカするときに『上位10位行け』とか言うもんね。進路を決めるときとかは『上位三位集まれ』だし、サル・シュくんの『四位』だと、それに加わらなくて済む。

 この、『強さ』だけが部族内のステイタスの世界で、わざと勝たないんだから、相当だよね。

 でも、みんなサル・シュくんがそうだ、って知ってるから、『弱い』扱いはされてない。今でも部族四位だし。

 たしか、三位のレイ・カさんが四つ上で、一位と二位のガリさんとリョウさんが12上だよね?『異常に強い』のは確かなんだ。

 だってまだ、サル・シュくん、成長期前だもん。15才だっけ?

 幼児じゃないけど、『現代日本』だと結婚年齢ではないから、『最初』は罪悪感みたいな変なのがあったな。『今』はもう、どうでもいいけど。『姉さん女房』って想像したよりどうでもよかったし。誰もそんなこと気にしてないし。

 あの……『帰って来た』時のサル・シュくん…………かっこよかった……天使が大天使になって帰って来た感じ。今回も絶対、アレ見たい!

 絶対、生きるぞ生きるぞ生き残るぞっ!

「弱い奴の世話なんかしたくねぇよ。レイ・カとかリョウ叔父とかホントよくやるよ」

 口には出さなかったけど『馬鹿馬鹿しい』って、くちびるは言ってた。

「『変』だと思われたほうが楽だろ。何しても何も言われない」

「でも、普通は『変』だと捨てられるんでしょ?」

 サル・シュくんが一瞬、遠い目をした。

「誰が俺を殺せるの?」

 冷たい目。

 死んだ魚みたい。

 全然、『強さを誇ってる』って感じではないな。さげすんでるみたい。

 自己嫌悪なんて感じそうにないと思ってたけど、そりゃあるよね。なんか、トラウマでもあるのかな?

「ハルは俺に、しっかりしてほしいの?」

「無理でしょ」

「うん」

 大きくこっくり。かわいい。

「別に、そんなことは望んでないよ。サル・シュくんが好き勝手してるのが好き」

 だって、その時が一番輝いてるから。

「じゃあ、朝までしていい?」

 このコは…………っ!

「私には好き勝手しないで」

「えー」

 ベッドの上であぐらをくんだまま、左右にじたばた揺れる。

「サル・シュくんに好き勝手されたら、私、すぐに死んじゃうから」

「しないよっ!」

 すっごい真剣な顔で膝立ちされてまで言われて、私がびびった。

「ハルにはそっと触るから」

 本当に…………ソッ……と、頬を撫でられて、私が笑っちゃった。

「ね?」

 小首傾げて、チュッ。

 かわいすぎる……

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 車李(しゃき)組凱旋、ゼルブからの便り、サル・シュくん凱旋。

 ル・マちゃんが妊娠、出産……死亡。サル・シュくんがル・アくんをつれて山へ。

 今回は、私にも覚悟があったから、冷静で、いられた。

 ガリさんを抱きしめてあげられた。

 ガリさんは初めてだもんね。痛いよね。苦しいよね。

 毎日、ガリさんに抱かれたのは前と一緒だけど、前ほどガリさんに頼ってなくて、私も楽だった。

 ずっとあの半年、覚悟して、来たから。

  

 

  

 

 でも、ル・マちゃんの死は…………痛い、なぁ…………

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

「制圧行ってらっしゃい!」

 努めて笑顔で居るようにした。

「お帰りなさいっ! お疲れさま!」

 ずっと玄関にいて、とにかく戦士と交わってた。

『前回』は凄く暗くしちゃったから。せめて声だけでも、元気にしたかったの。

 それに、自分の声に励まされる。

 キラ・シって結局、男の人ばかりだから声が低くて、滅入るんだよね。

 ああそうか、だから結構高いサル・シュくんの声が響くんだ? 彼の笑い声は、お城を明るくしてくれてた。

 本当に、そこに太陽があるみたい。きっとみんな、サル・シュくんとル・マちゃんの元気さに救われてたと思う。

 あそこまで、私はパワーないけど、でも、笑顔でいることはできるから。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 そういえば『前回』、キラ・シに羅季(らき)鶏とか羅季豚とか出さなくていい、って言ったら、余って死んじゃったから、帰還組にだけ出してみた。

 タンザクをつけてるから、レイ・カさんも帰って来てはいたんだけど、なんか、凄い、好評!

「ハルっ! ただいまっ! 鶏っ! 鶏食わせてくれっ!」

 レイ・カさんから最初におねだりされた時は驚いたなー。

 初めてレイ・カさんをかわいいって思ったわ。

 もちろん、『彼が旦那の時』もかわいかったけど、そうじゃないときはホント、クールビューティーだから。

 なんて言うのかな? 食べものをねだられると母性本能が疼くというか……うん。かわいーっ! って抱き締めたくなる。食事の用意をしてるのは私じゃないのにね。

 他の人も、凄く気に入ってくれたみたい。逆に、制圧の回転が上がった。

 お城に居たら、食べられないから。

 嘘でしょ、山登りの鍛練してただけでしょ? って人もいた。そういうのは戦士から突き上げ食らってたので、すぐしなくなった。

 キラ・シって凄い監視社会だよね。

 誰かが『変』なことをすると、すぐに部族全部に伝わって、制裁を受けるの。

『現代』と違って良いのは、『変』は捨てようとするけど『凄い』方を邪魔しない、ってこと。

 足の引っ張り合いをしないんだ、キラ・シって。

『得をした人のまね』をするんだよね。そして、その『まね』が高度すぎてできない場合は、そことかぶらないところ、を即座に考えて実行していくんだ。みんな頭いい。

 固まって制圧した方が危険性は低いのに、最初からばらけてた。もちろん、強さに自信があるからもあるだろうけど。

 ああそうか、足を引っ張ったら殺されるから、しないんだ。そうだ。

 サル・シュくんの足なんかひっぱったら、そりゃもう……ねぇ…………?

 この『足を引っ張らない』精神を『現代』でも使えたら、って思ったけど、『殺す』が前提にあるからしないだけで、『勉強が凄い』とか『技が凄い』じゃ、やっぱり、足を引っ張る人は出るよね。殺されないもんね。

『殺す』って、そりゃ、『凄い権力』だよね。

 リョウさんも『殺してない』のを『厚遇』だと思ってるし…………たしか、『前』そんなこと、言ってた。…………そう、車李の大臣が使者できたときに。いい人だから、良くしてあげて、ってお願いしたら『殺してない』って言ったんだよね、リョウさん。

『基本が殺す』だから、それをしてないのは厚遇なんだね。そうだね。

 もうなれちゃったけど。キラ・シの中は民主主義なんだよね。

 違う。社会主義なんだ。まぁ、どうでもいいや。論文書けるわけでもないし。

 そうそう、サル・シュくんとレイ・カさんも『相棒』って両方が言うぐらい仲いいけど、制圧は一緒にいかない。

 まぁ、サル・シュくんと一緒に制圧行きたい人、いないけど。やっぱり数人で行くと、大多数がサル・シュくんに集まるらしい。

 キラ・シの顔って、引き目鉤鼻の上に、同じ髪形でひげもじゃだから、『現代』でも言われる『外国人から見た日本人の見分けのつかなさ』と凄く似てる。

 けど日本人の中の美人は、世界でも美人のことがある。

 サル・シュくんはそこまで行ってるんだよね。目は切れ長なんだけど、綺麗な二重なんだよ。

 マキメイさんだって『あの白いお綺麗なかた』って最初から言ってた。

 そんな彼が私の旦那です……

 自分で思って照れる……

 私の中にも乙女は居たんだなぁ。

 心がかゆい。

 心だからかけなくてもどかしい。

 胸を指先で掻いてみるけどやっぱり届かない。

 カリカリ……

 リョウさんとか、ガリさんのときは全然思わなかったよね。

 サル・シュくんに会うたびに一目惚れしてて、苦しいし、楽しい。

 毎朝起きるたびに神様に感謝しちゃう。

 今日も私の天使は綺麗だわー、で始まる一日は素晴らしい!

 そう言えば、ガリさんとかシル・アさんとかも、顔の作りでいうとそんな感じだよね。ガリさんは黒い隈取りがあるから、一瞬顔がわからないんだけど、すっぴんだと、けっこう目、大きいんだよ。だから特に、睨まれると怖いんだ。

 キラ・シの血族結婚で、突然変異で白くなったのかと思ってたけど、もしかして、二つの人種がいたのかもしれない。

 山の上の過酷な環境だから、弱い方が廃れたのかも。

 どれぐらいの高度かわからないけど、『山の上』って寒いのに反して紫外線強いから、『白い』っていうのは、即、寿命を縮める要因だよね。

 リョウさんもレイ・カさんも、ガリさんとかサル・シュくんに対して『白いから早死にする』ってよく言ってた。

 私も、確かに車李(しゃき)の日光で火傷して死んだけど、サル・シュくんも、ナガシュの朝日で火傷したんだよ。

 それぐらい日に弱いのに、ル・アくんを助けに行ったんだ。

 あぁ、あの時のこと考えるとダウナーなる。

 この両手に持った骸骨の重さとか、ぬるっとした腐肉とか……すぐ思い出せる。

 私の腕の中で腐って行ったサル・シュくん……

 リョウさんが水車小屋で腐って行ったときは、私も命の危機だったから、怖いとか、気持ち悪いとかなかった。必死だった。

 でも、サル・シュくんが死んだときは、安全だったし……

 大体『旦那様』が目の前で死んだのは、『最初の頃』のガリさん以来だった。

『現代』で生きてたときは『お葬式』にいくことはあっても、死体を見たこともなかったし、誰かが大きな流血することもなかった。

 ガリさんが死んだときは私も一緒に死んだから、『助けに来てくれた』から、『嬉しい』だけだったんだけど……

 市場のど真ん中で『山ざらい』して死んだときも、私がちょっとおかしかったから、『今度はこんな目に合わせない!』ってだけで、『悲しさ』って、なかったな。

 サル・シュくんが死んだのは、本当につらかった。

 仕方ないよね。

 この先ずっと一緒、って思った彼が、あんな死に方したんだから。

 血が滴るほどの火傷って、どれだけ痛いんだろう……

 ル・アくんに影を作るために前かがみでいた、ってどれだけ苦しいだろう。

 だって、一人なら馬に寝ころんでても運んでもらえるけど、ル・アくんを潰すわけにはいかないんだから。ル・ア君に体重をかけることはできないんだから。

 最後に、手を上げるだけの気力、ってどれだけだっただろう。

 私を見て、くれたのかな?

 笑ってくれたから、そうだと、思う、けど……

 最後の最後で、『あの時の』サル・シュくんは、何を考えたんだろう?

 私達のコであるリンちゃんよりル・ア君を守った彼は……

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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