その最後の一瞬でも、私を見て、安心、してくれたかな……
逆に、私がいたから気が抜けたんじゃないかとも思うけど…………
『弱い奴の世話なんかしたくねぇよ。レイ・カとかリョウ叔父とかホントよくやるよ』
そう言い捨てる彼が、みんなが見捨てたル・アくんを、生き延びさせたんだ。
そのおかげで、キラ・シは残った。
ル・アくんは『夕羅(せきら)丞相』として、『キラ・シの擁護者』になったんだ……
『俺や他の黄色い肌の者達も、キラ・シとともに、滅びねばならないか? この体に流れる血、すらも滅びねばならないのか?』
あの『大演説』のおかげで、そのあとも、一度もキラ・シ粛清はされなかった。『未来』でも、キラ・シは生き残った。
あの『未来』では、キラ・シが生き残ったせいで、オリンピックがなくなってたんだよね。
世界中に散ったキラ・シ。
とにかく身体能力高い人が多いから、各国のオリンピック代表団がキラ・シ人になっちゃったんだ。
元々、『能力の高いキラ・シ人』ってのはなんとなくみんな知ってた。そこにナール・サス教授がキラ・シについての論文とか本をガンガン出したから、一気に世界に広まったんだ。黄色人種で身体能力の高い人が『名前を売るため』に『キラ・シ人』って名乗り始めた。
『スポーツと戦争はキラ・シがいないと始まらない』って言われてた。スポーツ選手にも多かったんだけど、傭兵になった人も多かったから。『キラ・シの傭兵』ってだけで凄い高給なんだ、って戦争反対の友人が凄く怒ってた。
『ハル・ナはどうみてもキラ・シ人なのに、とろいよねぇ』って何度も言われた。うるさい。
私はどうみても日本人だと思うけど、あの世界に『日本』ってなかったのかな? あの時の私はあまり世界に興味なかったみたいで、わかんないな。
あの時『一番好きだったこと』はゲームだったかな? たしか、ナニカのゲームの新発売が、推薦入試の前日で、買おうかどうしようか迷ってた筈。
キラ・シについても、ただ『私のルーツ』だから本を買ってみただけで、そんなに知ってるわけじゃないんだ。
各国で、微妙に違う顔だちだったり肌の色が変わったりはもちろんある。でも、結果的にはオリンピックが『キラ・シ人だけの大会』にほぼなっちゃってた。そして、内戦でも結果的にキラ・シ人同士の傭兵が争ってたりとか、そっちでも有名になったんだ。アメリカでは、白人比率が35%まで低下して、もうすぐ少数民族扱いされそうだった。それもあって、白人至上主義が強くなってきたから、スポンサーが降りちゃったんだよね。
もともと、オリンピックって白人が勝つためのものだから。白人が勝てなくなったら即座にルール変える。それでも黄色人種のキラ・シが勝ち続けて、白人がそっぽ向いたんだ。
キラ・シは、脳筋だったから……
政治家の上の方はキラ・シがあまりいなかった。『民族平等』があるから、比率的にはキラ・シも政治家にいたんだけど、あまり力を持ってなかった。
スポンサーがいなくなったから、オリンピックできなくなって、立ち消えたんだ。各国が大不況連発して、オリンピック誘致に名乗りを上げなかったってのもあるらしいけど。日本も不況だったのかな? オリンピックなんて、お金払ってもしたい、って感じだったのにな。Eスポーツがはやってたから、リアルスポーツを屋外でする、ってことが敬遠され始めてきてたんだよね。
空気は悪いし、ジョギングや自転車の交通事故も多発してたし。老人が増えたから『走っちゃいけない歩道』が出たのもあって、リアルに走る人は激減したんだ。
あの時、日本に興味なかったから、調べてなかったな……富士山噴火したのは『この地球』だったんだろうか?
もう一度『未来』に行って、ちゃんと確認したい。
そのためにも『今生』を生き抜かないといけないんだよ。
けっこう、ちょっとしたミスで死んじゃうからなー。
心を強くもって、指さし確認して……
そう『心を強くもって!』これが、私に足りない。
私、結構簡単に精神破壊してる。
でも、こんな人生なら、たまにはそうなっていいよね……って、どこかで思ってる。
もう、300年分ぐらい生きてるんだよ……ナニがナニカわからなくなって来ることは、ある。あれ? これ今回言ったっけ? みたいなの。
うん、仕方ないよね。
それでも、生きていかなきゃいけないんだから。
留枝(るし)城を騎羅史城としてしばらく動いてた。
ナガシュに行かなければ、そもそも、焼け死ぬなんてこと、なかったんだよね。
『前回』は殆ど記憶ないし、やる気もなかったから、地図の管理だけしたんだ。
なんで、ナガシュなんて砂漠の国に入ったのか、わかった。
車李(しゃき)をキラ・シが制圧して、塔ごと雅音帑(がねど)王を殺して、戦士も殺してしまったから、軍備の減った所を突くために、ナガシュが車李を攻めてきたんだ。
車李を守るために、騎羅史城から車李に移って、そのまま、キラ・シ全軍でナガシュを制圧した。
その、『たった一度の移動』時期に、二年ぶりの大雨が降ったから、砂漠が冷たかったんだ。
そのあと、『ナガシュの暑さ』のために、出られなくなったんだった。車李に戻るには、また雨を待たなきゃ行けない。
雨の中動いたのに、制圧した後、ガリさんも長いこと寝込んでた。
あの人の寝込むって、たんに朝が遅いとかそれぐらいなんだけど、『普通の体調』では全然なかったよね。覇気がなかったし。けっこう、座ってた。基本的にキラ・シって歩かずに走るし、座ることが無い。そのキラ・シが『座る』って本当に体つらいんだよ。
「このままここにいると白い奴が死ぬぞ」ってことになって移動せざるを得なかったんだ。
つまりは、『ナガシュから逃げた』んだよね。
車李に行くよりは、もっと北の摩雲(まう)に行く方が、『涼しい』から移動がラクってことだったんだ。砂漠より岩盤の方が多かったから馬で走りやすかった。
キラ・シって『撤退』はかまわないんだけど『逃げる』って駄目だよね。
みんなイケイケだから、一歩遅れるんだ。
特に前回は、『ガリさんが役に立たない』状態だから、余計につらかった。砂嵐が来たときも、ガリさんはただ逃げるしかできなくて、指示が出せなかった。
もうちょっと早く思い出したら、ナガシュまで来なかったのに……来ちゃってから思い出すとか…………
とにかく、ナガシュまで来ちゃった。今ココ。
あの砂嵐が行ってから、出る。
それしかない。
今までもさわっとくる砂嵐はあった。でもあんな、闇夜になるほどじゃなかったんだ。
本当に『『その世(キラ・シの宗教での地獄)』の雲』だったな、あれは。
あれだけ方向感覚のあるキラ・シがちりぢりばらばらになっちゃったんだもの。
結果的には、大人は数日以内に摩雲に集まったんだけど、子供はル・アくん以外全滅だった。子供を乗せてた戦士も、子供を捨てて駆け抜けてきたけど、誰も責めなかった。一人だけ、子供を抱えて帰って来た人いたけど、子供は死んでた。
その人も『帰って来た』だけで、サル・シュくんみたいに、『往復した』わけじゃなかったんだ。
あれで、キラ・シの戦士が12人行方不明。死亡者一名。
ナガシュを制圧したより痛い戦禍だった。
数万人の12人じゃないからね。200人の12人だから、5%死んだことになる。本当に痛かったな……
今回は、ガリさんが山に戻ってから、ナガシュに来ちゃったんだよね。
『最初』にリョウさんと羅季(らき)城を『当日脱出』したみたいに、慌ててリョウさんが、私を抱えて戦士を追い駆けたんだ。
ナガシュの太陽は、本当に地獄だわ。
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