ああ、前も言ってた。ル・アくんを育てたご褒美に、私の権利がずっとサル・シュくんになった、って。
「うん……ずっと……私は、サル・シュくんのものだよ」
ニャハ……って笑うから、もっとキスした。
キスしてるウチに、サル・シュくんが起き上がってきた。そこにあったスポーツドリンクをガバガバ飲んで、またキスして。私を抱き上げる。
えっ?
「ヘヤどこ?」
なんか……もう、いつも通り……? 嘘でしょ?
「あっち」
走ったよ!
私を抱き潰したよっ!
キラ・シの体力って……本当に化け物……!
何日ぐらい経ったかしら。
ずっとサル・シュくんと一緒に居たわ。
マキメイさんが部屋の前までご飯を持ってきてくれたから、本当にずっと一緒だったの。
サル・シュくん、相変わらずお寝坊さん。
でも、それがいいの。
朝日を受けた天使を、ずっと見て居られるから。
焼けたところが布団につくと、痛い痛いって肩をすくめるのもかわいい。
抱き上げられたときにも思ったけど……
サル・シュくん、凄く、大きくなってる? よね?
前は、抱きしめたら私の指が背中で触れたと思うんだけど、肩甲骨までしか届かなかった。
ああ、そう。レイ・カさんぐらい?
「……ハル…………他の男のこと考えてるだろ?」
「サル・シュくん……、レイ・カさんぐらい大きくなったなぁ……って…………」
「他の男のこと考えるなって」
「……身長のことじゃないの」
「でも駄目」
「ハイハイ……」
抱き寄せられるまま力抜いたら顔中にキスされた。
そうよね。15才から19才だものね。それで前も驚いたんだわ。
寝てるのがつらい。
「起きちゃだめー」
「寝てるの飽きたわ」
もう、起床スイッチ入っちゃった。
「飽きるのっ? ハルとだったらいつまででも寝てられるのにー!」
「お風呂も入りたいし…………シーツもべしゃべしゃだし……」
「えー……」
サル・シュくんが私の腰を抱え込んでじたじたしてる。でも押し倒して来ないってことは、もうサル・シュくんも起きる気なんだよね?
「ナニ?」
多分この声、聞こえてるの私だけなんだよね。サル・シュくん、口は開いてないんだけど『ナニ?』って言った気がするの。
膝の上の子猫がニャン? って鳴いた感じ。
あくびで涙目のサル・シュくん、骨が抜けそうなほどかわいい。
「私をお風呂に、連れて行ってくれないの?」
「ここにいてよー」
じたじた。
「ル・アくんにも会いたい」
「あー……ここにいないよ」
「……どういうこと?」
まさか、死んだの?
「合流地点に来なかったから、捨ててきた」
捨ててきた? キラ・シのそれって、ヤバくない?
「なんですって!」
マキメイさんにお湯を用意してもらって、ベッドを降りようとしたら立てなかった。
やっぱり、腰が抜けてる……
もちろん、こける前にサル・シュくんが抱き寄せてくれてるけど……
「寝ようよー」
「お風呂」
「うー……」
またそこからジタジタして、結局、連れて行ってくれた。台所の隣の部屋。たらいにお湯をためて流すだけ。
「ぁっ……痛いっっ! ナニ?」
お湯を掛けてもらったら全身になんか、細かい痛みが……
隣のたらいでも、サル・シュくんが痛い痛いって鳴いてる。ネコが洗われるのいやがって鳴いてるようにしか聞こえない。かわいい。彼のは火傷が治りきってないからだけど、私のは?
「ハルナ様……長袖をご用意しました。スカーフも、使われますよね?」
キスマークと歯形っ!
「サル・シュくん、玄関でちょっと正座」
「仕方ないだろっ! 四年間、ほぼ禁欲してたんだからっ!」
「『ほぼ』ってナニ? 山には女の人、いないんだよね?」
サル・シュくんが本気で青ざめた。
なんか面倒臭そうな理由があるわね、これ。
「聞かないであげるから、正座」
「……はい…………」
本当に正座して、みんなに笑われてるサル・シュくん。しなくてもいいのに……四年間も禁欲できると思ってないよ。
「リョウさん、ル・アくんがいないってどういうこと?」
彼は、凄く大きなため息をついた。
「『来なかった』とガリは言ってる」
相変わらず説明しない人ねガリさん。
「ショウ・キ達が探しに行った」
「羅季(らき)からここまで、子供一人を探し出せるもの?」
「キラ・シの馬に乗っているから、目立つだろう」
「だって……ガリさんだって、方向がわからなかったら進まなかった荒れ地があるのよ?」
「だから、そこまでショウ・キとサガ・キたちが行ってる。多分、詐為河(さいこう)を超えたところで南に行ってしまうだろうからな」
やっぱり、リョウさんがいないとキラ・シはダメダメね。
自分の子をおいてくるなっ!
「ガリさんの方も元気になった?」
「もう制圧に行った」
はっやいっ! 本当に絶倫っ!
「まぁ……このシロで女の部屋を渡り歩いているだけだが」
それでもすごいわ……本当…………
「ハルー、ハルー……助けてー……ハルー……」
正座してる猫が鳴いてる。
砂岩に正座は痛いわよねぇ……
早くル・アくん探しに行きなさいよ、って言いたいけど、ガリさんもサル・シュくんも白いから、動かない方がいいものね……正座で泣いてるサル・シュくんって、ホント……かわいすぎる……前にしゃがむと、助けて? 助けて? って、顔でかわいい。
パタパタって軽い足音!
「あっ! サル・シュくんっ立って! 早くっ!」
「痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
サル・シュくんの腕を引っ張りあげたら、小さく泣くのがかわいい。
あー……私の旦那さんがこんなにカワイイなんて、ホント、天国。
「母上ーっ!」
ナンちゃんとナッちゃんとインちゃんとルイちゃんとアルちゃんが他の子供達と走ってきた。ガリさんと、サル・シュくんと私の子供達。そうね、そろそろ午前の鍛練の終わりの時間ね。
ぎりぎり立ってたサル・シュくんのそばに、ガリさんまでいたっ!
ガリメキア! ガリメキアっ! って、子供たちが二人の周りを走り回る。
「どれが俺の子?」
「わかるでしょ」
一番白くて綺麗な子よ。
たしかに、次男のナツのほうが、ガリさんの血を引いてるからか、大きいのよね。白いし。
名前を忘れたとか言ったら、一日正座させるわよ。
「ナン・シュ!」
「ハイッ!」
ナンが両手を上げて、サル・シュくんの前に立つ。
今度は、ちゃんとサル・シュくんの武勇伝吹き込んでおいたからね! だって、放置してたらサル・シュくんの馬鹿バナばっかり戦士が話すんだもの!
「お前が俺の子かーっ!」
抱き上げて肩に座らせたサル・シュくん。
「ナンかっ! ……ここらへんの食い物にこんな名前のなかった?」
よく知ってるわね……
「……ナンって言うパンがあるわ……でも、名前をつけたのはサル・シュくんよ」
羅季(らき)で生まれた子だし、出産直後に名前言われて、それ、パンの名前よ、って思い付かなかったのよね。
というか、前の子にかぶらないように、カタカナ二文字の名前って難しいわよね。
同じでもいいんだけど……みんな、死んじゃったから………つけたくないというか…………
クシュン、となると、サル・シュくんが無言で抱き締めて、頭を撫でてくれる。遠慮なく抱きつく。『前回』が酷すぎたから、『今』心が折れかけるのも仕方ないよね、って鼓舞して立ち上がるしかない。『今回』がサル・シュくんじゃなかったら、また、山で何度も死んだんだろうな。
ガリさんが、子どもたちと軽い殴り合いを始めてる。キラ・シって子どもにも容赦ないから、殴られてはあげないのよね。もちろん、ガリさんの方は寸止めしてくれるんだけど、よくもまぁ、子ども数人に囲まれて、逃げきるもんだわ……
ガリさんは一年で三千人名付けるとか……その時点で、同じ名前が入っちゃうわよね? どうしてるのかしら?
あ、マキメイさんがお茶を持ってきてくれた。
「ご飯にしましょうか? 凄くからいものが食べたいわ、マキメイさん」
「はいっ、ただいまご用意いたします。食堂へ? こちらで召し上がります?」
サル・シュくんとガリさんのおなかが同時に鳴った。
「ここにお願い」
「はい……かしこまりました」
マキメイさんまで笑ってる……ガリさんも、女の人のところで食べてくればいいのに。おなかがすいたから帰って来たのかしら? ナガシュのスパイシーさがキラ・シは嫌いなことが多いから、王宮では塩で焼いただけのものを出してる。それが食べたいのかな? 案外、ガリさんって、食べものに対してわがままなのよね。サル・シュくんレベルで。騒がないから気付かないけど、嫌いなものはそっと避けるのよ。キラ・シは大皿料理だから、残されたものは誰かが食べちゃう。だから、『何を食べてないか』って、見てないと分からないのよね。
ガリさんが旦那さんの時も、そう言うところ、かわいいと思ったなぁ。
頭のてっぺんに刺さった顎でぐりぐりされた。見上げたら、サル・シュくんがくちびるを尖らせて睨んでる。なんで、他の男の人のことを考えたことが分かるのかしら?
池のそばにクッションをおいて、大きなお皿を並べていく。地べたなのはいつも気になるけど、もう、これも慣れよね。
ナン、サル・シュくん、私、ガリさん、ガリさんの子供たち、で車座になったら、サル・シュくんが私を膝に抱き上げた。
ル・マちゃんもいなくなってからは、椅子もクッションもあったから、ガリさんが私を膝に座らせることってなかったのよね。子供たちもみんなびっくりしてる。
「サル・シュくん、クッションがあるのよ」
「ナニ? ハルのおすすめどれ?」
「……その鶏肉……だけど」
腰をがっちり掴まれてて全然動けない。前はこうしたら、そばに顔があったのに、私の頬が顎にぶつかっちゃう。さっきも遠目だったし、いつも抱えられてるから身長差がわかんないな。でも、腕がすっっごく太くなってる。太股も、骨がこりっとしないわ。どんな筋肉なの?
「すごいっ、美味いっ!」
ガリさんとアルちゃんはバクバク食べてるけど、子供たちがまだ呆然としてる。
「サル・シュくん、下ろし……」
イラッ……とした雰囲気を、サル・シュくんが、出した。
気迫の一種だけど、たまに、あった、これ。
私が離れようとしたら出るやつだ。
子供たちが咄嗟に下がって刀を構える。
ガリさんが大皿を4つ持って逃げた!
えっ! 仲裁してよ! それにその小エビのチリソース、まだ食べてなかったのに! パンも!
「……………………俺に、刀を抜いたな?」
サル・シュくんが、笑って子どもたちをにらみつけた。
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