”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。162 ~鷹で文を渡しても~”


「うん。ヨウヨウはラキ語しかわからないから。あ、ねぇハル。ヨウヨウがどうして俺についてきたのか聞いてくれる?」
それを知らずに連れてきたの? 確かに、さらってるわね。サル・シュくんの教育の悪影響でしょ、これ。
「本当にさらってきたの?」
「ヨウヨウが来たいって言ったからだよ!」
「ヨウヨウくん。どうしてル・アくんと一緒に来たの?」
「俺の父さんがナガシュにいるんだ。母さんが死んだから、父さんのところに行きたくて、ル・アがキラ・シのところに行くっていうから、今、キラ・シはナガシュにいるって聞いて、連れて来て貰ったの」
キョロキョロしながら、少し青ざめて……これは……嘘をついてる顔だわね。
「どこまでが本当?」
「えっ?」
「ル・アくんを騙して連れて来させたなら、殺されるわよ?」
彼が、もっと青ざめた。
「…………母さん……が、父さんがナガシュにいる……って、俺に言ったのは、本当……」
「嘘は?」
「その父さんが俺の父さんかどうかはわからない」
ああ、そういうこと。
頭を撫でようとしたらビクッとした。
雅音帑(がねど)王のハーレムにもこういう子がいたわ。あの人も男女関係なかったから……
痛いことしかされなかったから、警戒し続けるのよね。
頬を撫でたら、気持ち良さそうに目を閉じた。
「じゃあ、今後どうするの? もう羅季(らき)には帰らないの?」
「ル・アと一緒にいたい」
それも、嘘ね。
ル・アくんは腕に抱きつかれて赤くなってる。
ちょっと待って……
「ル・アくん、彼、……彼、よね? 男の子よね?」
「うん」
「彼のことが好き?」
「うんっ!」
これ、駄目なんじゃない?
子供だから、境界線無くていいの? 友達を好きって意味? ちょっと違う気がするんだけど……
「ヨウヨウ君は、ナガシュにお父さんがいるから来たかったって。でも見つからなかったとしたら、ル・アくんと一緒にいたいって」
ル・アくんが、一瞬右に視線をやった。ヨウヨウ君は左側にいるから、考えてるんだろうけど、すぐに私を見る。考える時間がサル・シュくんより早い。
「キラ・シって、移動するよね?」
「そうね……」
「その時にヨウヨウを連れて行ける?」
「それは、リョウさんに聞いておくわ」
「ありがとうっ、ハル!」
ああ眩しいっ!
「それと、今のが通詞? ラキ語なの?」
「多分ね」
「今のハル、キラ・シ語と全然違う言葉を喋ってたよ」
「そうなのよ。なんでも喋れるんだけど、私は同じ言葉を喋ってるだけなの。
だから、ヨウヨウ君みたいに、羅季(らき)語の人と喋ると羅季(らき)語を喋ってるし、ル・アくんと喋ってるとキラ・シ語になってるの。
だから『羅季(らき)語でこういう言い方を教えてくれ』ってリョウさんに言われても、教えてあげられないのよ」
「そう言うときはどうするの?」
「さっきの、マキメイさんに、その言葉をリョウさんに言ってもらうの」
「あぁ…………」
首の振り方がガリさんそっくりっ!
考えるときに視線だけ動いて表情が動かないのもガリさんね。顔全体で笑うのはル・マちゃんかサル・シュくんね。ル・アくんは、頭を撫でようとしてもびくついたりしない。逆に、掌にすり寄ってくる。ああもうっ! かわいいっ!
「ああっ、ル・アくんかわいいっ!」
抱きしめたら他の子たちが寄ってきたから、みんな抱きしめた。ああもう、みんなかわいいっ!
みんながあっちに駆けて行ったから、ヨウヨウ君も抱きしめたら、泣きだした。しがみついてヒンヒン言ってる。
「大変だったね。ヨウヨウ君。キラ・シの子になれば、キラ・シの戦士が守ってくれるわよ。キラ・シの子になる?」
「ル・アと一緒にいられる?」
「そうね」
付和雷同せずに条件を確認するのはいい癖ね。
きっと、騙され続けて来たんでしょうね……
戦士の体つきはしてないし……どうだろう? キラ・シについて来られるかしら? 近くのキラ・シの村に預ける? ル・アくんの友達だからって、キラ・シの戦士がこの子を甘やかすわけはないと思うんだけど……戦士になれる?
ル・アくんが真っ赤な顔をしてた。
ヨウヨウ君に対しての赤面では、ないのよね? ずっと私を見てるし……
「どうしたの? 暑い?」
「……うん……」
「池に足をつけておくといいわ。私は地図のところにいるから、いつでも来てね」
「あの玄関のところの大きなナニカ?」
「そうそう、釘が立っているあれ。地図って言うの」
「チズ?」
「大陸の、国の位置とかを描いてあるのよ」
「えっ! ナニソレッ! 今どこっ! キラ・シの山はどこっ!」
ル・アくんが玄関に走って、ヨウヨウ君がお城の奥に歩いて行ったけど……ル・アくんにばれないように歩いたわよね、今…………あの子一体何者?
「サギさん」
「はい、ハルナ様」
「あの子、どういう子なのか、わかったら教えてくれる?」
「あの子は男娼です」
ああ……そうなの……やっぱり…………
「それをリョウさんも知ってる?」
「はい」
知ってるの?
「それ以上調べましょうか?」
「ル・アくんかキラ・シの障りになりそうなら、その時教えてくれる?」
なんかあの子……長生きしない気がする。
キラ・シの倣いに反しないならそれはそれでいいのよ。リョウさんが何も言わないなら、いいわ。気にかけることは他に一杯あるから。悪いけど、敵じゃなくて、すぐに別れる人なら、関わりたくない。
もう、泣きたくないから。
ル・アくんが、地図とか、車李(しゃき)のお城の絵とか、裏を回って眺めてる。
「これ、ラキのシロって言ってたの? この上の方、見た」
「そうよ。山を下りた最初にここに長く居たから。
今はここ。ナガシュ。ここに大きな街道があって、橋を越えて、羅季(らき)。ここがこの絵のお城ね」
「エ?」
「そう、絵。こうやってね……筆で形を写し取るの」
床に筆でガリさんの顔をさらっと描いた。
「えっ! 鷹が持ってきた父上の顔って、ハルが描いたの?」
「……鷹のことは知らないけど、みんなが欲しがるから、何十枚も描いたわよ」
「凄いっ! ナニコレっ!」
ル・アくんは、地図の基礎を聞いたら、そのあとは『絵を描く』ことに夢中になったみたい。
「こんなのが欲しかったんだよっ! 山でさっ、鷹がいろいろ持ってきてくれるけど、どうしようもなかったんだっ!」
「キラ・シには文字が無いから、鷹で文を渡しても、通信には使えないわよね」
「そうっ! その、モジ? 教えてくれる?」”

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