”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。163 ~円グラフ~”


「何語が知りたい?」
「この『下』で、一番使われてる言葉」
 選択がいいわね。
「じゃあ、羅季(らき)語ね」
 サギさんに、この王宮にある羅季(らき)語の書簡で、羅季(らき)語初心者に良さそうなのを見つけてもらった。それを指さし確認しながら、私がキラ・シ語で読む。サギさんが羅季(らき)語で読む。
 三日ぐらい、何回か繰り返しただけで、ル・アくんはその書簡の意味が分かるようになった。
「ル・アくん、やっぱり凄く頭いいわ……顔以外にル・マちゃんの血が入っていないのかしら?」
 マキメイさんに話したら、凄く笑ってる。彼女も、ル・マちゃんは馬鹿だ、って思ってたみたい。同じように育った筈のサル・シュくんはもうちょっと頭良かったよね? だから、ル・マちゃんの能力の限界なんじゃないかと思う。
 ただ『女の子だから』、乳幼児の時に男の子ほど『喋りかけられなかった』んじゃないか、って懸念はあるのよね。その頃はさすがに、サル・シュくんとも別だっただろうし。
 戦士が付きっ切りだったとしても、弓の世話とか剣を研いだりとか、別のことをしていて、ル・マちゃんと喋ってないと思う。
 歩きだすまでに喋りかけられないと、喋る能力が下がるって聞いたことがあるような気がする。本当か嘘かわからないけど、ル・マちゃんはああだった。サル・シュくんに言いくるめられて蹴り返してたもの。
 ル・アくんはもう、四六時中サル・シュくんに話しかけられて育った筈。人が居なくてもしゃべるから、彼。
 私を見上げてたル・アくんが、私の後ろを見て両手を上げた。
 私の頭のてっぺんにコツン。同時にぐるっと抱き込まれた。
 前は、私の肩から顔を出してたのに、頭の上に顎が刺さるとか。腕も凄く太くなってて、他人の手みたい。においも随分変わったわね。山は食べ物が違うから?
「制圧、行ってらっしゃいよ。この町でいいから」
「もう、今日の分行ってきた」
「短冊いる?」
「6枚」
 本当に絶倫ね。どういう体の構造してるの?
「タンザクってナニ?」
「ハルが作ったわかりやすいのん」
「ナニが分かりやすいの?」
「どこに女がどんだけいるか」
「それを知ってどうするの?」
「空いた女が居るところに制圧にいく」
「セイアツってナニ?」
「その村を、キラ・シの言うこと聞くようにさせること。お前が山でキラ・ガンにしたこと」
 何したの? 今の『制圧』は女の人を抱きにいくことでしょ? ル・アくんがしてるわけないじゃない。
「ああ……あれ? そこに女の人がどう関係があるの?」
 だよね?
 でも、本当に、面倒くさいことを聞くわね、ル・アくん。
 ……サル・シュくんは『女』って言ってるのに、ル・アくんは『女の人』なんだ? どこでそんな言葉覚えたのかしら? サル・シュくんが『女の人』なんて言ったの、一度も聞いたことないよね? というか、リョウさんでも言わないわよ?
 サル・シュくんが私を見た。
 ナニ? 今さら私に聞かれたくないの?
 まぁいいけど……ル・アくんの顔でも描こうかな。
 小さな画板を持ってきてもらって、笑ってるル・アくんを描いたら、後ろに戦士が鈴なりになってた。
「マキメイさん……この大きさで、ありったけの画板を作ってくれる?」
 次から次に描いて渡した。もう慣れたもんで、二分で一枚ぐらい描けるから、苦ではないけどね。この、写真がない時代に似顔絵って本当に便利。ナガシュは絹よりパピルスだから、ちょっと筆がつっかかるけど。そんな芸術的なものは描いてないからしゃしゃっと終わり。ル・アくんの似顔絵を手に、戦士たちがすごい喜んでる。描き甲斐あるわー。私も嬉しい。
「凄いねっ! ハル、凄いねっ! 俺ってこんな顔してるの?」
「そんな顔してるしてる!」
 サル・シュくんが手を叩いて笑ってた。
「ハルっ! 俺も作ってっ! これっ!」
「サル・シュくんの顔は綺麗すぎるから、描けないよ」
「えーっ! なんでーっ!」
「ちょっとでも不細工になったらいやじゃないっ!」
「えーっ! これでいいからっ!」
 私は説明図が描けるだけで、アーティストじゃないのよ。似てるけど劣化でしかないから、美人は描きたくない。
「サル・シュくんの顔が不細工になるなんていやよーっ!」
 言ってるそばから、ル・アくんが描いてた。
 おめめぱっちりで、睫毛が長くて顔一杯に笑ってる口で、眉毛が吊ってる!
「まぁっ、サル・シュくんだわっ! 似てる似てる!」
 幼稚園児よりは巧いわ! 初めて筆を持ったのに!
「えー……これ、俺ー? ハルので描いてよー」
「サル・シュくん、ホント、こうよ? いつも笑ってる」
「ねーっ!」
「ねーっ!」
 ル・アくんもご満悦。
 あら、銅鑼が鳴ったわ。
「夕方の鍛練の時間ね」
「今の音がシルシ?」
「そうよ。鍛練自体はいつしてもいいんだけど、ナガシュは暑いから。普通の戦士が日の下に出て良い時間を知らせてるの。
 ル・アくんとか、サル・シュくんとかガリさんとか『白い』人達は、この時間でも日を浴びちゃ駄目なのよ? 練兵場にも影があるから、そこの中にいてね。死ぬからね」
「リョウ・カも言ってたけど、どう死ぬの? 山より明るいだけだよね?」
 本当に、理由が先なのね。
「その『山より明るい』が駄目なの。私達の肌は『山の明るさ』ぐらいにしか耐えられないの。
 私達がこの日の下に長い間立っていると、炎にまかれたみたいに火傷になるのね。だから、一瞬日の下を駆け抜けるぐらいは大丈夫なんだけど。
 長い間日の下にいると、真っ赤に晴れ上がって、皮膚が割れて、血がしたたって、体が腐るのよ……特に、白いあなたは、焼けやすいから。
 サル・シュくんなんて、朝日を少し浴びただけでも真っ赤になって腫れるのよ。空から『その世』の光が降り注いでるの」
 ル・アくんが鼻白んだ。『その世』はやっぱり知ってるのね。
「『長い間』ってどれぐらい?」
 サル・シュくんが肩をすくめてあっちに行っちゃった。こういう説明が、彼はできないのよね。
 床に円グラフを書く。
「ここが夜ね、ここが夜明け。ここが中天。ここからここまでは、出ちゃいけなくて、ぎりぎり死なない時間は、これぐらい。これが二時間ぐらいね」
 それぐらいの時間単位がキラ・シには無いから、このほうが分かりやすいと思うけど、どうかしら?
「ニジカン?」
「私の家では、一日を24に割って、その一つを一時間、って呼んでたの。それが二つで二時間。夜明けから中天までの時間の三分の一ぐらい」
「……つまりは、それがわかるようなモノが、ハルの家にはあったんだよね?」
「そうね。家にはあるんだけど、ここには無いし、私はそれを作れないから、ないのよね」
 ツールに興味を持ったか……
「これも二時間一杯いていいわけじゃないの。ぎりぎり死なないだけ、だからその日に体調が悪いと死ぬの。
 だから、本当に、この時間は、建物の影の中にいて。中天の前後は、一瞬日の下をよぎるのでも駄目。
 あと、日の光は地面とか建物とか、水にも反射するから、それが目や体に当たるところも駄目よ」
「ハンシャって何?」
 池に連れて行った。ここは光は当たらないけど、水のハンシャで壁がキラキラしてる。
「この、壁がキラキラしてるのはわかる?」
「川のそばでも木がそうなってる……の? とか、雪が真っ白いのとか?」
 ああ、そんなに雪が深いのね。
「それそれ」
「川のそばの木が光るのはなぜ? って聞いたら、サル・シュが、自分で考えろって言ってたから、ずっと考えてた。もしかして、それがハンシャ?」
 そういう教育方針なわけね。
 まぁ、キラ・シの倣いだと、そこで『つまらないことを考えるな』って殴ってそうだから、随分マシなんでしょうね。サル・シュくんは『自分が「変」』だから、『他人の「変」』への許容値が高いんだ。
「そう、これが反射って言って、上からの光とほとんど同じ強さなの。だから山でも、雪をあんまり見るな、っていわれなかった?」
「言われた。サル・シュが目の周り真っ赤になって、かゆいかゆいって、雪に顔をおしつけてた」
 まぁかわいい。”

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