”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。164 ~祝福を受けた天使~”


「そうそう、そのかゆい時点で、既に肌が悪くなってるの。それをもっと浴びてると痛くなってきて、皮膚が焼けて、はじけて、血が出るの。
サル・シュくんは、朝日……ここらへんの、他の戦士は大丈夫な時でも、ぼんやり立ってて、しもやけみたいになったわ」
「なんでぼんやり立ってたの?」
「馬鹿だから」
あの時は、朝日の中のサル・シュくんが凄く綺麗で、私も注意するのを忘れてたから、私も馬鹿なんだけど……
だって、本当に、祝福を受けた天使みたいだったんですものっ!! 東向きの窓を背に立ってた、ってだけで、太陽光が直接当たってないと思ったら、指先だけ当たってたの……
「うん、影にずっといる。でも、なんでそんな怖いところにいるの?」
「たまにね、この『その世』の光が弱くなることがあるの。今回は、この南隣の車李(しゃき)で戦をしていて、この国が攻めてきたから追い払うために追い駆けたら、丁度、光が弱くなったから、ここまで来ちゃって、次に、光が弱くなるときに脱出するのを待ってるの」
「でも、ここのクニの人、一杯いるよね? ヨウヨウも平気みたい」
「黒いでしょ」
「ああ……」
「私よりル・アくんが白くて、ル・アくんよりサル・シュくんが白いの。だから、この中では、私がこの国には一番強いのよ」
私も日焼けで死んだことあるけど……
私とサル・シュくんの子供のナンが私より白いのよね。だからやっぱり、この『白さ』は人種的白さじゃなく、『肌が弱い』っていう白さなんだろうとは思う。白人、黄色人種、とかいう遺伝なら、サル・シュくんと私の子が白くなる確率なんて低いんだから。
ナンがサル・シュくんに似てるのは嬉しいけど、その弱さまで似てほしくはなかったわね……
ガリさんも白いし、ル・マちゃんもサル・シュくんよりはましだったけど、私よりは白かったから、ル・アくんが白くなるのは当然よね。サル・シュくんほどじゃなかっただけでもマシかな。
でも、だからかな。白い子は強いのね。
ル・マちゃんが居た頃で、上位五位に、ガリさん、サル・シュくん、ル・マちゃんと三人も白い人がいた。しかも下二人は15才。
ナンも凄く強いの。ただ、他の子もガリさんの子だからそんなに目立たないんだけど、『制圧で生まれた子』よりははるかに強いのよね。
『制圧で生まれた子』は、三歳で『キラ・シ村』に移動させる。ゼルブが手を打ってくれたから、やっぱり詐為河(さいこう)東岸にだけ集めた。大体はお母さんもついて来たから人さらい扱いされてしまったけど……
もう、詐為河(さいこう)東岸は結構大きな村になった。
最初に荒れ地を耕すのだけ、車李(しゃき)の人足に牛でやってもらって、あとはお母さんたちに芋を植えてもらってる。これは、収穫も子供にできるし、すぐ食べられるし、食べ残しを埋めたらいいから、楽。しかも、紫芋だから、凄い高価に売れるのよね。
側溝の両側に水田、その水田の周りに芋畑。間にナツメヤシを植えて、将来的に日陰になるようにしてる。そして、芋畑、水田、側溝、水田、芋畑、という繰り返し。
水田も、冬でも水を入れてるといいらしいってテレビで聞いたから、冬も水を入れたまま。雑草も取らないまま。すっっっごい、実る。私が『現代』で食べてたお米の二倍ぐらいの大きさで、四倍ぐらいの房になった。食べ応えあるわー。虫を食べに鳥とか獣が来るから、狩人の腕も上がる。
水田も放置、芋畑も放置、だから、けっこう時間があって、そのあとの時間は子供たちがずっと鍛練。リョウさんの甥っこのリン・カさんが面倒見てくれてる。
子供を10人で小隊。それが10個で中隊。それを10個で大隊。今は、中隊長6人をリンカさんが指導して、各隊長が下に教える。隊長になれそうなのが下から出てきたら、大隊長を戦士村に引き抜いて、中隊長の『勝ち上がり』を大隊長にする。小隊の『勝ち上がり』を中隊長にする。10日に一度ぐらい小隊同士で『勝ち上がり』をする。順位をつけると、みんな必死で鍛練する。
学校で、小テストを何回もして、定期テストがあるみたいに、テストのかわりに『勝ち上がり』をさせて、競争意識の強いのを騎羅史城に連れて行く。そこでゼルブに練兵してもらって、『勝ち上がり』をキラ・シ本隊に呼ぶ。
どうにか、このシステム、整った!
そしてやっぱり、父親がキラ・シでも、闘争本能のない子がいる。そういう子は、狩人の鍛練をして、それにも興味なさそうなのは農業専業か、村に帰す。女の人全員移動しちゃった村とか、滅びちゃうからね。
女の人が殆どいなくなったとかは地図の短冊でわかるから、そこに子供をおいていく。親がいないところに子供がポンと来るから、多少は困るだろうと思ったけど、戦災孤児を人手のために引き取ることは普通にあるらしいから、どの村も嬉しいみたい。
それに、農業しかしたくない、というか、闘争本能のない子を、競争意識はあるけど勝てない子が、ものすごいいじめるみたい。
そういう問題行動のある子。つまりは、キラ・シなら捨てられる子』も、村に送ってしまう。大人ばっかりだといじめ先が無いからまじめにやってるみたい。
最近、ようやく女の子も生まれるようになってきた。
これで、若い世代も爆発的に増える。
だから子供は今、このナガシュでも400人ほどいる。
その中では、ナンたちは抜群に強い。とりあえず、単独で、キラ・シ戦士の上位50位には入っている。
「ハル、ありがとう」
「ん? なにが?」
ル・アくんから突然お礼言われてしまった。
ああ、玄関でル・アくんと話してたんだっけ?
「自分で考えろ、って、ハルは一度も言わなかった」
「ああ……サル・シュくんはよく言うわよね。考えるのを面倒くさがるから」
「ほんっっっとうにっ!」
だよね。
「でもその分、凄く強いでしょ?」
ル・アくんこっくり。
「考えることをやめて、生き残ることだけに集中すると、ああなるのよ」
あぁー……って、気の抜けた声だしたわね。感動半分諦め半分。そりゃ、あのサル・シュくんと四年って、きついよね。記憶があるのは一年ちょっとだろうと思うけど。
「……でも、考えるのも、いいよね?」
「もちろんよ。考えた方がいいわよ。
今ね、ル・アくんが私にありがとう、って言ってくれたでしょう? 私がル・アくんに教えたこと、ル・アくんは嬉しかったでしょう?」
「うん」
「考えると、『教えられる』ようになるの。
ル・アくんがいっぱい考えて、キラ・シの戦士に良いことを教えられるようになると、キラ・シはみんな良くなるの。わかる?」
「俺も、教えられるの?」
ル・アくんが掌で自分の胸を押さえて、満面の笑顔。
長い指ね。ガリさんに良く似てるわ。
「もちろんよ。
でもね、教えられてばかりだと、考えられなくなるの。
今、ル・アくんはサル・シュくんに『考えろ』って言われて凄く考えたわよね? だから、考える力がついたのよ」
「それはわかる。全部教えられたら、絶対考えなかった」
「どういうことがあったの?」
「サル・シュの弓をまねて、竹で弓を作ったんだ」
弓ってそんなに簡単に作れるもの?”

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