この子は今後も、こうしてキラ・シに人をつないでくれるんでしょうけど…………敵になるのよねぇ……その時が凄く恐ろしいわ。
あの結末になるとは知ってても『負ける側』だから、キラ・シは。
つまりは多分……この時期が『夕羅(せきら)丞相(じょうしょう)』の『苗床』なのよね。いっぱい勉強して、キラ・シを倒すのよね……それを考えるとうんざりする。
ガリさんの夢はかなうけど、私の愛する人が全員死ぬ。
今度こそ、未来に行って、幸せに眠りたい。
「そういえばリョウさん、辛巳(しんし)さんがあんなに動いてくれてるって、凄く砂金渡してるでしょ?」
「ああ、キラキラ石な」
キラキラ石……なんてラブリーな言葉が熊さんの口から出るのかしら。笑ってしまいたい。
「どこからそんなに砂金が出てるの?」
「それはサル・シュに聞け」
なぜにサル・シュくん?
サル・シュくんが持ってきたらしい。夜聞いたら、小学生みたいに頭をふらふらさせながら話してくれた。
「キラ・シの山じゃないけど、キラ・ガンの近くにあるんだ、これがびっしりある洞窟が。元々、これの小さいのは川に一杯ある」
「砂金が川に一杯あるの?」
「サキン? キラキラ石って言って、ル・アがやたら集めてた。それは鷹で下ろしたぞ」
「それは、受け取ってたけど、そんなにたくさんあると思ってなかった。あれ、助かったわ、凄く! どれぐらいあるの?」
「どれぐらい?」
「川の石を何日あさったら一つとれるの?」
「川の石の半分以上がそれ。ル・アが取ったら取っただけ流れてくるぜ? 春なんか、雪解けでこんな塊が流れてくることもある」
サル・シュくんの頭より大きそうなんだけど、それ……
キラ・シが桁違いなのは人間だけじゃなかった。
詐為河(さいこう)にもたまに砂金が流れてるって、どこかの文献にあった! そっか、金鉱脈があると考えたから、皇帝が大規模に山脈踏破しようとしたんだ? そして、本当に金があったんだ?
でも、山の金って、細かく散らばって岩の中にあるものよね? そんな塊である?
ああ……キラ・シのご先祖様が、そこに金を溜めてた可能性! なの?
キラ・シの山って凄すぎない?
というか、半分が砂金の川って見てみたい! ファンタジー世界の話だよね! って、ここもファンタジー世界だけど。
「今でも、鷹がキラキラ石の袋、持って降りてくる」
「どうやって?」
「放したら、勝手に山に戻るから、その時にキラキラ石を袋につめて下ろしてくれたら、女の赤子を連れ帰ってやるから、って約束」
「それって……、何カ月に一度ぐらい、鷹が持ってくるの?」
「月に二、三回?」
「え? キラ・シの上位みんな鷹持ってなかった?」
「うん、その全部が、持って帰って来る」
ナニ、その、現金収集機!
「鷹って、両足に拳ぐらいの小袋つけてたよね? あれが、月に二、三回増えてるの?」
「そうそう」
あの小袋一つで砂金2000あるのよ? それが両足で4000。月に二回でも8000増えてる! それが、上位何人分?
それは、辛巳(しんし)さんも寄ってくるわ。
ル・アくんがぶつかったんじゃなく、辛巳さんがぶつからせたんだろうな……多分、ヨウヨウ君と羅季(らき)語で喋ってるのを見つけたんだわ。
サギさんに調べてもらっても、煌都(こうと)の大きな商人で、ナガシュにも大きな店を出していた、のは確か。だから、煌都に帰ればいいのに、キラ・シについてきてる。
辛巳さん、細いけど、凄くたくましいのよね。ル・アくんに、駱駝の乗り方を教えてくれたのもこの人。キラ・シもみんな、駱駝に乗れるようになったって。『第二の馬』として、砂漠では大活躍だったらしい。
「そんなに金がたくさんあるのに、なんでキラ・シは身につけないの?」
「ミニツケナイノ?」
「えっと……金で飾り物を作るとか……」
ああ『飾り』をしないからか。
「キンって、やわらかいし、光るし、重たいし、どうしようもない」
サル・シュくんが、両手を肩の辺りで開いて天を仰ぐ。
「どうしようもないって?」
「刀にできるわけじゃなし、小手とか鍋にしたら重たいだけだし。キラキラ光るから、ばれるし」
「……そうね…………」
違うのよ、キンはそういうものに使うものではないのよ!
でもたしかに、物々交換すらしないキラ・シには、いらないものね。
私が皇帝でも、山に入って採りたいわ!
「でも、私が見た川には、キラキラ石、なかったわよ?」
あの崖を降りてきて羅季に出たんだから、そこらへんの水が詐為河(さいこう)に流れてるはず。
「キラ・シの山の端に湖があって、そこにたまってるんだろ。夏にル・アがもぐってごそっと取ってきた」
お金の価値をしらなくて、サル・シュくんがこうってことはキラ・シみんな砂金の価値を知らないのに、拾ってるル・アくん凄い。先見の明があるわ。
まぁ……シル・アさんも光り物が好きだから……
「シル・アさんもキラキラ石拾ってなかった?」
「……ああ、拾ってたな。ル・マも好きだったぞ」
リョウさんにも聞いてみたら、ガリさんもこっそり砂金取ってたらしい。ガリさんの血が烏族なんだ! あの、光り物一切身につけないガリさんが烏族! 意外すぎる!
「ガリが、おいていけばいいのにそれを袋一杯持って下りてた。たき火に転がしてよく見てたな。何が面白いのかと思ったが、こっちでは助かった。あれがゼニになると知ってたわけでもなかったのにな」
「……羅季に下りた最初の頃、毛皮と物々交換してたよね? あの時に出してくれたら良かったのに」
「アレが使えると知ったのは、シャキに出てきたからだ」
そっか。
ガリさん、本当に砂金の価値を知らずに持って下りたんだ? 肌身離さず持っていたいほど光り物が好きなんだ? 飾る習慣があったらきっと、ガリさんってジャラジャラ宝石つけてたんだろうな。『現代』だと、アラブのお金持ちみたいに……うわ怖い。あの体格であの雰囲気で金装飾じゃらじゃらつけてるとか。ボリウッドスターみたいになっちゃうよ。
「東に降りるときに、山を探し回ったと言ったかな?」
『今回』聞いたかどうかは忘れたけど『過去』には、何回か聞いた。
「聞いたよ、どうしたの?」
「その時に、キラキラ石が目印においてあったんだ」
「どういうこと?」
それは初耳。
「これぐらいの大きさのキラキラ石を三つつなげたものだ」
それで長さ三センチぐらいになってるけど……
「それが、崖とか、『ここを行くか? 戻るか?』というときに、必ず刺してあったんだ。木のささくれとか、岩の隙間とかに」
「400年前に、白い人が来た時、誰かが下りたってこと?」
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