【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。178 ~キラ・シのお正月~

 

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 たしかに、降りてたよ甚枝(じんし)に。甚枝の王子様がキラ・シの顔してたもん!

「そうだろうな。あの崖も、下にそれがあるのをガリが見つけたから、下りたんだ。死ぬ思いだった……そうじゃなかったら、あんな崖、絶対降りない」

「私も二つの崖を下ろされたけど?」

「最初の崖が一番大きかった。あの手前にハルがいたら、連れては降りれんかっただろう」

 あの崖以上の崖なんて、きっと大陸の人は上がらないよ。『現代』の、それに命をかけるロッククライマーぐらいだよね、挑戦するの。だから、羅季(らき)の大軍団が踏破できなかったんだ?

「二つ目の崖から先はその目印がなかったから、探した」

『探した』の一言が重たい。

 私達は羅季に出て、400年前のキラ・シはあんな北西の甚枝に出たんだから、最初の崖を下りた後、まったく違う方向に行ったんだよね。

「そんな小さな金塊なんて、見落とすよ」

「本当にな……実はガリが細工をしたのではなないかと疑ったこともあったが、あの崖の下にあったからな」

「リョウさんがガリさんを疑ったんだ?」

「十年探して、なかったからな。ガリが見つけたといっても、木のささくれをほじくったとか、岩の割れ目のクズを払ったら出てきたとか、馬が足を踏みならした穴に転がってたとか、変な見つけ方をしていたからな」

「だよね? 四百年前の目印なんて、ウエには無いよね?」

「そうだな…………だから、ガリがそれを見つけたというのが、うさん臭かったのだ」

 大きなため息。

「ガリが、あとの奴のために、四連の金塊を作って木に刺して行った。だから、来れる奴は来るだろうが……もう、山にはそんな奴はおるまい」

「でも、そんな小ささじゃ、見落とさない?」

「ラキまでの分を考えると、それぐらいじゃないとキラキラ石を持っていけない。できれば腕ぐらいある棒にして刺したかった」

 そっか、金って重たいもんね。

 そこで布とか蔓とかじゃなく、砂金使うのが凄い。

 たしかに、枝を折ったって、400年後には朽ちてるよね。

「あのね、まだ今回、キラ・シが全員で行ったことがない北西に、甚枝(じんし)って国があるの。多分400年前の人はそこに下りたんだと思うよ?」

「ジンシ?」

 地図で確認してリョウさんが頷いた。

「それで、途中でキラキラ石を見失ったのだな。まったく方向が違う」

「羅季(らき)の人も、山に入ろうとはしてたみたい。でもこの、紅隆(こうりゅう)から上がったらしいから、道がなかったんだろうね」

 普通に話してるけど、この熊さんの口から『キラキラ石』って出るのが、何度聞いても凄いおかしい。

 キラ・シ語ではそんな言葉じゃないんだろうけど、私の耳にはそう聞こえてる。

 サギさんに、ル・アくんの『キラキラ石』を聞いてもらって、そのまま発音してもらっても『キラキラ石』って聞こえた。もうこれは仕方ない。

「そう言えばリョウさん。キラ・シでいう美人ってどんなひと?」

「美人? ガリだな。一番強い」

「そうじゃなくて…………女の人の好みとして」

「女の好み? ならあれだ、オウジサマといるジョカン」

「まびさん?」

「ああ、それそれ。みんなあれが好きだな」

 たしかに、引き目鉤鼻でちょっと太ってる。『現代』日本でも、あまり美人では……ないよね……ああそう、平安美人だ。お多福のお面みたいな顔してる。

「ル・マちゃんとか、美人じゃないの? 私は彼女とか、サル・シュくんの顔とか、凄い好きなんだけど」

「目玉が大きい。凶つ者に取り憑かれると、目玉が大きくなると言われるから……多分、ハルのいう美人ではないな。サル・シュはそこまで大きくはない」

 ああっ! そっか、太ったら目が細くなるから!

 サル・シュくんは、横には長いけど縦に大きな目じゃないから? キラ・シの好みってピンポイントで目なんだ?

「じゃあ……もしかして、リョウさんにとっては、ル・マちゃんより私の顔の方が美人なの?」

「当然だ」

 ふぁっ!

 久々に、驚きで鼻水が出た。

「……もしかして、サル・シュくんより私のほうが、リョウさんにとっては美人?」

「今さらなんだ? 当たり前だろう」

 凄い嬉しいっ! 良かった!

 もちろん、いまの旦那はサル・シュくんだけど、リョウさんはずっと好きだから!

「サル・シュくんも、キラ・シの美人ではあるんだよね?」

「あいつは眩しい」

 たしかに。

「ガリもそうだろう。ナニカがある」

「……うん『ナニカ』はあるよね」

 全世界の暗雲を背負ったようなナニカが。

「あれが、美しい」

 ああ……、たしかに、リョウさんにはないもんね。カリスマオーラみたいなの。

「サル・シュくんが美人ってよく言われるけど、顔じゃないんだ?」

「顔は、目と鼻が働いて、見分けがつけばいい」

 ザ・大雑把。

「まぁ、あの顔は、キラ・シでも美人ではある。俺はどうでもいいから気にしてなかったが、キラ・ガンにさらわれて生きていたのも、あの顔だったからだろう。あいつは、50向こうの山でも名が知られていたからな」

 サル・シュくん、山でも有名人なんだ?

 これは……もしかして、たんに、リョウさんが不細工好きってのもあるんじゃない? ま……まぁ、メンクイではない、って思っておこう。今、メッチャ自分で自分の胸にナイフ突き立てた感じした。

「あの系の顔の奴は『下』でも女が寄ってくる」

「ル・マちゃんみたいな顔の人はいないの?」

「いる」

「その人も来るでしょ?」

「……そうだな」

「そういうのをかわいいって言うんだよ」

「かわいい……なぁ……………」

 リョウさんは、そこらへんが抜け落ちてるのかな?

 まぁ、メンクイって、全人類の七分の一だよね。

 と、思っておこう。

  

 

  

 

  

 

 央枝(おうし)国から、南東の海嶺(かいれい)国に移動した。

 レイ・カさんがお城を開城させるとそこに移動、というのを繰り返してる。本当に働き者のレイ・カさん。もちろん、殆どはガリさんが先頭。そして、ショウ・キさんが、若戦士と、ナンちゃんたち、子供の年上組を連れて行ってくれてる。実地で戦闘を見てるから、子供が一気に強くなった。

 そりゃ……戦うガリさんはかっこいい!

 ガリさんに憧れたら努力するよね。

 レイ・カさんが攻城本隊。そこにガリさん、リョウ・カさん、サル・シュくんが交代で入る。

 ホント、レイ・カさん、全然帰って来ない。ものすごく戦が楽しいみたい。ゼルブの人達がいるから、『地図』の短冊自体は書面に残してくれてて、交代で帰って来る人が、一気に全員分刺してる。だから、一気に地図が変わって、唖然とする。

 今、それが少し早くなった。

 なぜかと言うと、山の上で初日の出を見たいらしい。

 羅季(らき)の山でも見えるのは見えるけど、『山の東から登ってくる朝日』がキラ・シには重要なんだって。つまりは、『東側に山脈』がないといけないんだとか。

 暑さの危険を押しても、ナガシュに行ったのは、北の山岳地帯にいきたかったからみたい。留枝(るし)からは、どこにも山は見えないから。

 大陸中央の、煌都(こうと)の北にも大きな山がそびえてる。ただそれは、富士山とまでは言わないけど、円錐形の山が一つだけなので、山に登ると向こうは平地だから、『初日の出』の条件を満たさないんだって。

 もう、ここ数年、その条件の山がなかったから、諦めてたらしいけど、大陸北東にそういう山脈があるって辛巳(しんし)さんが教えてくれたの!

 辛巳さんと知り合ったのは今回が始めてなんだよね。車李(しゃき)のあの大臣とも、『あの時以来』めったに会わないし。会う前にその『キラ・シの初日の出』の条件を私が知らなかったから聞けなかったんだ。

 海嶺(かいれい)の首都は山の麓にあって、東に山脈がある。

 日の出の前日から山に入って、たき火を作った。

 そして、日の出の前に起きて、残してたお肉を焼いて、日の出を見ながら食べる。そして、この日一日、『血は流さない』らしい。

 それがキラ・シのお正月。

 でも、これだけ。

  

 

  

 

  

 

 

 

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