たしかに、降りてたよ甚枝(じんし)に。甚枝の王子様がキラ・シの顔してたもん!
「そうだろうな。あの崖も、下にそれがあるのをガリが見つけたから、下りたんだ。死ぬ思いだった……そうじゃなかったら、あんな崖、絶対降りない」
「私も二つの崖を下ろされたけど?」
「最初の崖が一番大きかった。あの手前にハルがいたら、連れては降りれんかっただろう」
あの崖以上の崖なんて、きっと大陸の人は上がらないよ。『現代』の、それに命をかけるロッククライマーぐらいだよね、挑戦するの。だから、羅季(らき)の大軍団が踏破できなかったんだ?
「二つ目の崖から先はその目印がなかったから、探した」
『探した』の一言が重たい。
私達は羅季に出て、400年前のキラ・シはあんな北西の甚枝に出たんだから、最初の崖を下りた後、まったく違う方向に行ったんだよね。
「そんな小さな金塊なんて、見落とすよ」
「本当にな……実はガリが細工をしたのではなないかと疑ったこともあったが、あの崖の下にあったからな」
「リョウさんがガリさんを疑ったんだ?」
「十年探して、なかったからな。ガリが見つけたといっても、木のささくれをほじくったとか、岩の割れ目のクズを払ったら出てきたとか、馬が足を踏みならした穴に転がってたとか、変な見つけ方をしていたからな」
「だよね? 四百年前の目印なんて、ウエには無いよね?」
「そうだな…………だから、ガリがそれを見つけたというのが、うさん臭かったのだ」
大きなため息。
「ガリが、あとの奴のために、四連の金塊を作って木に刺して行った。だから、来れる奴は来るだろうが……もう、山にはそんな奴はおるまい」
「でも、そんな小ささじゃ、見落とさない?」
「ラキまでの分を考えると、それぐらいじゃないとキラキラ石を持っていけない。できれば腕ぐらいある棒にして刺したかった」
そっか、金って重たいもんね。
そこで布とか蔓とかじゃなく、砂金使うのが凄い。
たしかに、枝を折ったって、400年後には朽ちてるよね。
「あのね、まだ今回、キラ・シが全員で行ったことがない北西に、甚枝(じんし)って国があるの。多分400年前の人はそこに下りたんだと思うよ?」
「ジンシ?」
地図で確認してリョウさんが頷いた。
「それで、途中でキラキラ石を見失ったのだな。まったく方向が違う」
「羅季(らき)の人も、山に入ろうとはしてたみたい。でもこの、紅隆(こうりゅう)から上がったらしいから、道がなかったんだろうね」
普通に話してるけど、この熊さんの口から『キラキラ石』って出るのが、何度聞いても凄いおかしい。
キラ・シ語ではそんな言葉じゃないんだろうけど、私の耳にはそう聞こえてる。
サギさんに、ル・アくんの『キラキラ石』を聞いてもらって、そのまま発音してもらっても『キラキラ石』って聞こえた。もうこれは仕方ない。
「そう言えばリョウさん。キラ・シでいう美人ってどんなひと?」
「美人? ガリだな。一番強い」
「そうじゃなくて…………女の人の好みとして」
「女の好み? ならあれだ、オウジサマといるジョカン」
「まびさん?」
「ああ、それそれ。みんなあれが好きだな」
たしかに、引き目鉤鼻でちょっと太ってる。『現代』日本でも、あまり美人では……ないよね……ああそう、平安美人だ。お多福のお面みたいな顔してる。
「ル・マちゃんとか、美人じゃないの? 私は彼女とか、サル・シュくんの顔とか、凄い好きなんだけど」
「目玉が大きい。凶つ者に取り憑かれると、目玉が大きくなると言われるから……多分、ハルのいう美人ではないな。サル・シュはそこまで大きくはない」
ああっ! そっか、太ったら目が細くなるから!
サル・シュくんは、横には長いけど縦に大きな目じゃないから? キラ・シの好みってピンポイントで目なんだ?
「じゃあ……もしかして、リョウさんにとっては、ル・マちゃんより私の顔の方が美人なの?」
「当然だ」
ふぁっ!
久々に、驚きで鼻水が出た。
「……もしかして、サル・シュくんより私のほうが、リョウさんにとっては美人?」
「今さらなんだ? 当たり前だろう」
凄い嬉しいっ! 良かった!
もちろん、いまの旦那はサル・シュくんだけど、リョウさんはずっと好きだから!
「サル・シュくんも、キラ・シの美人ではあるんだよね?」
「あいつは眩しい」
たしかに。
「ガリもそうだろう。ナニカがある」
「……うん『ナニカ』はあるよね」
全世界の暗雲を背負ったようなナニカが。
「あれが、美しい」
ああ……、たしかに、リョウさんにはないもんね。カリスマオーラみたいなの。
「サル・シュくんが美人ってよく言われるけど、顔じゃないんだ?」
「顔は、目と鼻が働いて、見分けがつけばいい」
ザ・大雑把。
「まぁ、あの顔は、キラ・シでも美人ではある。俺はどうでもいいから気にしてなかったが、キラ・ガンにさらわれて生きていたのも、あの顔だったからだろう。あいつは、50向こうの山でも名が知られていたからな」
サル・シュくん、山でも有名人なんだ?
これは……もしかして、たんに、リョウさんが不細工好きってのもあるんじゃない? ま……まぁ、メンクイではない、って思っておこう。今、メッチャ自分で自分の胸にナイフ突き立てた感じした。
「あの系の顔の奴は『下』でも女が寄ってくる」
「ル・マちゃんみたいな顔の人はいないの?」
「いる」
「その人も来るでしょ?」
「……そうだな」
「そういうのをかわいいって言うんだよ」
「かわいい……なぁ……………」
リョウさんは、そこらへんが抜け落ちてるのかな?
まぁ、メンクイって、全人類の七分の一だよね。
と、思っておこう。
央枝(おうし)国から、南東の海嶺(かいれい)国に移動した。
レイ・カさんがお城を開城させるとそこに移動、というのを繰り返してる。本当に働き者のレイ・カさん。もちろん、殆どはガリさんが先頭。そして、ショウ・キさんが、若戦士と、ナンちゃんたち、子供の年上組を連れて行ってくれてる。実地で戦闘を見てるから、子供が一気に強くなった。
そりゃ……戦うガリさんはかっこいい!
ガリさんに憧れたら努力するよね。
レイ・カさんが攻城本隊。そこにガリさん、リョウ・カさん、サル・シュくんが交代で入る。
ホント、レイ・カさん、全然帰って来ない。ものすごく戦が楽しいみたい。ゼルブの人達がいるから、『地図』の短冊自体は書面に残してくれてて、交代で帰って来る人が、一気に全員分刺してる。だから、一気に地図が変わって、唖然とする。
今、それが少し早くなった。
なぜかと言うと、山の上で初日の出を見たいらしい。
羅季(らき)の山でも見えるのは見えるけど、『山の東から登ってくる朝日』がキラ・シには重要なんだって。つまりは、『東側に山脈』がないといけないんだとか。
暑さの危険を押しても、ナガシュに行ったのは、北の山岳地帯にいきたかったからみたい。留枝(るし)からは、どこにも山は見えないから。
大陸中央の、煌都(こうと)の北にも大きな山がそびえてる。ただそれは、富士山とまでは言わないけど、円錐形の山が一つだけなので、山に登ると向こうは平地だから、『初日の出』の条件を満たさないんだって。
もう、ここ数年、その条件の山がなかったから、諦めてたらしいけど、大陸北東にそういう山脈があるって辛巳(しんし)さんが教えてくれたの!
辛巳さんと知り合ったのは今回が始めてなんだよね。車李(しゃき)のあの大臣とも、『あの時以来』めったに会わないし。会う前にその『キラ・シの初日の出』の条件を私が知らなかったから聞けなかったんだ。
海嶺(かいれい)の首都は山の麓にあって、東に山脈がある。
日の出の前日から山に入って、たき火を作った。
そして、日の出の前に起きて、残してたお肉を焼いて、日の出を見ながら食べる。そして、この日一日、『血は流さない』らしい。
それがキラ・シのお正月。
でも、これだけ。
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