”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。182 ~『一緒に来て』~”

 

 

 

 

 

 

 ある朝突然、サル・シュくんが聞いてきた。

「ナニ? 馬でお散歩?」

 そんなこと初めて言われたわ。

「いや、次の国に移動する」

 そっか。今までそう言えば、私のお産が終わってから移動してたっけ?

「次の国って茘枝(れいし)だっけ?」

「レイシ……じゃなくて、その東のセンシに今、レイ・カが向かってる」

 陥とせるかどうかわからないのに移動するんだ?

 まぁ別に、私がお城でしてることなんて、短冊の管理だけだから、それがいらないなら、支障ないよね?

「私は、大丈夫」

「次の城につくまで、フロ入れないぜ?」

「…………諦めるよ……」

「ずっと雪の中だぜ?」

「サル・シュくんが暖めてくれるんでしょ?」

「……うん」

 どこかがかゆいようなムニャッとした笑みを浮かべて、チュッ、てキスしてくれた。

「じゃあ、ずっと二人きりだね?」

「うん」

 じわーっと、サル・シュくんが赤くなっていった。

 なんで? ナニがツボだったの?

「あれ? そうすると、サル・シュくん、制圧行けないよ? 私は別に、牛に荷馬車引いてもらってもいいのよ?」

 前に、そうやって運ばれたことあるし。

「やだっ! ハルと一緒にいる!」

「駄目だよ、サル・シュくんの子供たくさん作らないと!」

「えーっ!」

「ナニ言ってるのっ! 15年後のキラ・シの戦士の数に関わるじゃない!」

 でも、ル・アくんに滅ぼされるんだよな……ヘタに抵抗して、キラ・シが夕羅(せきら)将軍殺しちゃったら、あの未来にならないかもしれないし……

 あの時、夕羅くん何才だっただろう? 全然記憶にないな……でも、たしか、16年経ってたよね? ガリさんが47才だったから、私がこの世界に来た20年後……だよね? ということは、今七年目だから、13年後か……

 今作った子供は14年後に元服。

 夕羅将軍の紅渦(こうか)軍には、キラ・シの子供たちがいたって言うから、やっぱり、今年あたり産まれた子供を引き取ったんじゃないのかな? ル・アくんなら、キラ・シの戦士村知ってるし、可能だよね。ああそうか、じゃあ、戦士村も教えておかないといけないんだ?

 というか、煌都(こうと)に入ったル・アくんって、普通に政務執ってくれてたから、その時にわかるか。なら、今は、力一杯遊ばせるのがいいのかな?

 とにかく、去年から来年ぐらいの子供が、紅渦軍に入る確率が高い。サル・シュくんの子供がたくさん紅渦軍に入って、生き残る!

 紅渦軍が強い方がいいなら、サル・シュくんの子供たくさん居た方がいいよね?

「サル・シュくんは、今年、三千人、子供を作ること」

「……サンゼン……?」

「一日10人ぐらいだから、できるでしょ? ガリさんと、女の人の権利が並んでるんだよね? ガリさん、ここずっと、それぐらいやってるから」

「いや……いや…………ハル……ちょっと、それ、移動日が入ってない!」

「私の、お城への移動は、リョウさんに話を聞いてみる。

 お産が終わった後に一気に移動した方がいいと思うの。いつも通り」

「違うよっ!」

 サル・シュくんが、悲鳴みたいな声、出した。

「ナニ?」

「俺が、ハルと一緒に居たいんだよ!」

「うん、わかってる。ありがとう。私も、サル・シュくんがそう言ってくれるの、凄く嬉しい」

「そしたら……」

「でも、一人でも多く、サル・シュくんの子供に生き残ってほしいから」

 真っ赤になって泣いてるサル・シュくん。

 かわいすぎて、なんでも言うことを聞いてあげたいと思うけど……

「サル・シュくんの子供ね、白く産まれることが多いの。

 万が一『黄色い子供を殺せ』って命令が出たときに、生き残ることができやすいのよ……

 キラ・シの血が、残る数が、多くなるの」

 サル・シュくんが首を横に振るから、涙が飛び散って……真珠みたい。

「ガリさんの夢でしょ? キラ・シの夢でしょう?

 かなえられる夢でしょ?

 キラ・シの存続を願って山を下りたんでしょう?

 その夢が、第一、で、しょう?」

 前にサル・シュくんが私を連れて逃げたとき。結局、一年もたずに二人とも死んじゃったんだから。

「俺は、ハルと一緒に居たいんだよ……」

「私は、キラ・シと一緒にいるよ?」

「ハルとだけ、一緒に居たいのっ! 他の誰にも、ハルを見られたくないのっ!」

 叫ぶ彼のくちびるに、キス、した。

「来世では一緒にいられるよ」

「……らい……せ………………?」

「ずっと一緒にいられるよ。

 もう、キラ・シの存続も何も、考えなくていいから……ずっと、サル・シュくんと二人きりでいられるよ」

「ホントに?」

「うん、本当だよ」

 あの未来なら、私は何もない、無名の女。

 先見ももう関係ない。キラ・シを存続させなきゃいけないとか、ない。

 サル・シュくんも、きっと、『ただの人』の筈。

「来世も先見できるの? ハル」

「うん。一瞬だけだけどね」

「来世ってどれぐらいあと?」

「三千年後」

「サンゼン……」

「人間が普通に、100才まで生きられるようになってるんだよ。お金持ちは、いろいろやって300年生きるって言われてる世界」

「……俺、多分、今世は30才まで生きられないよ?」

「……そう、なの?」

「白い奴は早く死ぬから。だから、リョウ叔父が最近凄いイライラしてるの。ガリメキアが30超えたから。もう、いつ死んでも仕方ないから、って」

 そうね。

『あの時』ももうボロボロだったわね。

『前』、全方位に『山ざらい』を掛けた時、骨が砕けてた。

「ガリさん、47才まで生きてるよ」

「47っ! すげぇっ! 俺は?」

 サル・シュくんは、砂漠でル・アくんを助けて死んだ……

 真っ赤に……焼けただれて……

「言わなくていいよ」

 サル・シュくんが抱きしめてくれた。

「思い出さなくていいよ」

 頭から背中へ、何度も撫ぜてくれる。

「サル・シュくん、ル・アくんを助けて、死んだの…………砂漠で…………自分の体で影を作って、自分の服をル・アくんにあげて、サル・シュくんは……焼け死んだの……」

 忘れてた、真っ赤な死に顔……

 抱きしめてくれるけど、押しはなして、今の、顔を見た。

「サル・シュくんの子供も死んだの……みんな、死んじゃったの……サル・シュくんのものが私の元に何も残らなかったの…………」

「俺はここにいるよ。ハル」

「うん……」

「ずっとハルといるよ」

「うん…………」

 わかってる……

 きっと、最後の決戦で、サル・シュくんは、お城に残る。

 私を逃がしてくれるのは、リョウさんだ。

 きっと、サル・シュくんは、ガリさんと一緒に死ぬ。

 だって、サル・シュくんはキラ・シの三番手だから。

 副族長では、ない、から……

 でも、どうだろう?

「ねぇ……私が、一度だけ、……一生に一度だけ『一緒に来て』っていうから……」

「ハル?」

「その時に、来て、くれる?」

「うん」

 抱き締めて、くれる。

「絶対にハルと行く」

 ……多分、嘘、よね……

 絶対、無理、よね……

 キミはいつでも、私よりキラ・シを取った。

 でも、一度だけ、キラ・シより私を取ってくれたことも、あった。

 二人で滅びたけど……

 サル・シュくんにはキラ・シで働いてほしい。

 いいの。

 それでいいのよ。

 それでキラ・シは未来に残る。

 それで……いい、ん、だけど……”

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました