”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。185 ~私はキラ・シの人だよ~”

 

 

 

 

 

 

 うっ……わっ! ガリさんがっ、全開っ! バサバサバサバサバサッ……って、こちらから向こうに、何万羽の鳥が飛び立った。

「ナン! ハルを守れっ!」

 サル・シュくんが私を馬から下ろして駆けて行った。

 目はずっと、矢が飛んできた方向を見てる。

「射手と解毒剤を見つけろっ!」

 レイ・カさんが叫んでサル・シュくんの後を追った。レイ・カさんの部隊が360度散っていく。リョウさんとショウ・キさんがガリさんを守るように周りを警戒して、全員が殺気だった。

「母上っ、俺の馬に乗ってくださいっ!」

「いや、ハル、こっちに来い。ナンの馬では、二人乗りでここらへんの崖を降りられん」

 リョウさんが、前に私を引っ張りあげてくれた。

「ナニがあったの? ル・アくんは?」

 ガリさんの前に抱えられてるル・アくんの髪がぎりぎり見えるだけ。

「ハルっ! 解毒剤を聞きだせっ!」

 サル・シュくんが、男の人を私に差し出してきた。サル・シュくんの頬にかすり傷がある。大陸の人と戦って怪我をしたの? 万全の状態のサル・シュくんが?

 その人、そんなに強かったの?

「ボロボロ過ぎて喋れないよ……解毒剤は? 解毒剤っ、あの矢に塗ってた解毒剤を教えてっ!」

 その人は、私を見たけど、コトン、と首を落とした。

「くそっ…………」

 サル・シュくんが死体を地面に投げつける。

「どうしてこんなにボコボコにしたの?」

「強すぎて、無傷で押さえられなかったんだよっ!」

「サル・シュくんが?」

 このチートの塊のキラ・シの中でもチートのサル・シュくんに対等って凄くない?

「どうする? ガリメキアっ! ル・アは?」

 サル・シュくんがル・アくんを覗き込む。ギシッて、こんなに離れてるのに歯ぎしりの音が聞こえた。

 矢を受けただけじゃなかったの? なんであの瞬間的に毒矢だと、みんな思ったの? 本当にキラ・シって毒に敏感だな……

「似たような格好の奴連れてくるっ! 誰かが解毒剤知ってるかも……」

 ガリさんが、左後ろを指さした。聞き返しもせずにサル・シュくんがそちらに走る。ガリさんもリョウさんも走る。私は咄嗟に、服の裾を丸めて噛みしめた。

 森の向こうに、お城がっ! ガリさん、わかってて指さした?

 え? こんなところに国があるなんて、辛巳(しんし)さんも、車李(しゃき)の大臣も言ってなかったよ! もちろん、地図にだって書いてない! この山の東に我火洲(がかす)って国がある筈だけど、それなの? 凄く位置が違うよ!

 遠目に見ても、凄く綺麗なお城。崖の突端にあるけど、モンサンミッシェルみたいな、優雅な白い建物だ。白大理石かな?

 無慈悲に城下町を蹴散らして、ガリさんは城への崖を駆け上がった。階段には、兵士がたくさんいたから。

 四方八方から、キラ・シが崖を登っていく。

 多分、階段から上がったら、追い落としやすいってことでこんな山の上に作ったお城なのに、キラ・シの千人が一気に登ったよ……リョウさんも、私をつれたまま軽々登った!

 もう、サル・シュくんが入ってるから、お城の中死体だらけ。

「ガリメキアっ!」

 奥の奥からサル・シュくんの声がした。

 凄い……ピンポイントで薬師のいる部屋を捜し当ててるサル・シュくん。

 何も挨拶せずに私も問いただす。

「この毒の解毒剤ある?」

 いきなり毛皮の蛮族に睨まれて失禁してた男性が、ガリさんの差し出した矢を見て私を見て、ル・アくんを見た。

「……そ、……その子に、触っていいかい? 様子を見たい」

 古代でもお医者さんの鑑だな。患者が居たら、怖いより先に触診なんだ?

 ガリさんに説明して、ル・アくんを寝台に寝かせた。

「これは森の狩人が良く使う、リュウゼンボクの毒だ。痺れるだけだけれど、量が多いと、子供なら死ぬこともある。解毒剤はこれだけれど、飲んだら熱が出るんだ。すごくこの子は苦しむと思う。けど、薬なんだ。毒を飲ませたわけではないって、説明してくれるかな?」

 この状況では、彼を信じるしかない。

 そのままガリさんに伝えたら、頷いてくれたから、彼はそれをル・アくんに飲ませた。

「リョウさん、解毒剤あったよっ!」

 私の声を聞いて、リョウさんが指笛を鳴らした。

 全軍撤退。……だけど、どこに撤退?

「高熱が出るから、子供は産めなくなるかもしれない。それも、言っておいて」

 うわぁ、キラ・シとしては致命的だけど、仕方ないよね。

『あの』夕羅(せきら)さんは私に子供を産ませたけど、『前回』もここでこんなことになってたかな? 全然覚えてないな。時期的には、サル・シュくんが死んでから二年ぐらい? だよね? まったく記憶ないな……

 大体、キラ・シはたくさんいたのに、間違いなくガリさんを狙ったんだから、あの狩人さんの目は確かだよね。

「撤退ってなんだ? リョウっ! ル・アはどうした?」

 レイ・カさんが馬で走ってきた。もう、この綺麗なお城、どろどろ……

 事態を説明したら、安堵の息は吐いたけど、眉間にしわが寄ったまま。

「ここは我火洲(がかす)か?」

 レイ・カさんに言われて初めて、それを思い出した。

「ここは、マリサスです。我火洲(がかす)はもっと東です。南に賀旨(かし)があります」

 マリサス? そんな国、あったの? 賀旨と我火洲(がかす)は知ってる。賀旨は、大昔に皇帝のお姫様が降嫁した国。だから、皇帝の分家? に当たるのね。銀髪の王子がいる、って文献に書いてた。

「そうか……じゃあ、もう、新年を祝う気にもならんし、我火洲を陥として来る。いいな、ガリメキア。サル・シュも連れて行くぞっ!」

 ガリさんが黙ってるのを二秒見て、レイ・カさんは出て行った。『レイ・カっ! サル・シュっ!』ってレイ・カさんが叫んでる声が廊下をこだましてきた。お城の中にいた戦士がザーッと出て行く騒音。

 シン……とした白亜の宮殿。

 リョウさんの馬が、ボトリと糞を落とした。

「あの…………馬を、下げて貰えませんか? この部屋薬草ばっかりなので、塵が入ると困るんです……この子は、死なせませんからっ! 僕の薬を信じて飲んだのなら、僕も信用してください。城の中に、馬で入らないでください」

 ガリさんたちに伝えると、馬を外に出して、居すわるようだった。

「ハルナ様! こちらにいらっしゃったのですね。このお城に滞在なさるのですか? 廊下をお掃除しましょうか?」

 マキメイさんが走って来た。

「どうするリョウさん? このお城、綺麗にする?」

「いや、すぐに出るから、キラ・シが獲ってきた獣を焼いて出してくれ。この城のものには手をつけるな」

 マキメイさんに伝えると、頷いて駆けて行った。

「長居しないの? ル・アくんが治るまでは居るでしょ?」

「今、大勢殺したからな。そんなところに長居したら、こちらも狙われる。毒を使う部族だぞ。長居するのは、おとなしく明け渡したシロだけだ」

 ああ、そうか……キラ・シは吹き矢とか毒とか、凄く怖がってた、そう言えば。

 そうだよね。

 お酒に仕込まれた毒で、ガリさんもリョウさんも、何度も死んだもんね…………毒って強さ関係ないもんね……

 私も、車李(しゃき)王妃になったときに、毒で男の人でも殺したわ。

 毒って怖いよね。

「……き……君は、マリサスの人なのかい?」

 薬師の人が聞いてきた。

「私はキラ・シの人だよ。ナニ?」

「どうしてマリサス語がわかるの?」”

 

 

 

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