【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。187 ~マイペース~

 

 

 

 

 

  

 

 山の中で熊と橇で降りてきて、賀旨(かし)王城に招かれてしまった……

 ガリさん、リョウさん、レイ・カさん、サル・シュくん、ル・ア君、私。

 サル・シュくんが、付け髭を面白がって私にグリグリと顎を押しつけてくるのが、痛い!!

 みんな、目しか出てない毛皮のまま、玉座のある部屋に通された。床に座布団を敷いてあぐらが正式みたい。ココまでの国の大体は、椅子生活だったのに。マリサスも……椅子、だったわよね?

 部屋に入ったら、おなかを割いたらしい熊の毛皮が真ん中におかれてた。まだ生臭い……

 正面奥には、椅子と机にキラキラした豪華な服の男性や女性。そこから入り口に向かっての壁際は、座布団に膳。こちらはみんな男性。男の人はみんな、キラ・シみたいなあごひげがわっさわさしてるわね。左側は武官とか文系っぽい人が膳を前に並んでる。右側の一番上座から、ガリさん、リョウさん、サル・シュくん、その膝に私、レイ・カさん、ル・アくん。その下座に、他の武官の人達が並んでる。服装からして、やっぱり、奥の人たちが豪華。ただ、豪華と言っても、ナガシュのきらびやかさはないから……でも、海嶺とかよりはよっぽど高そうな毛皮には見えるけど、装飾品があまりないから、どんな身分なのかがわからないな。

 それより、キラ・シがナニカしたら、取り押さえ安そうな配置。

 でも、この人達は、ぱっと見た感じ、『大陸』の人達と同じぐらいの強さだよね。ウィギの族長とか、マリサスの狩人さんみたいな『威圧感』がまったくない。

 ガリさんが毛皮をかぶったままだから、ル・アくん以外、目しか出てない。手袋もつけたまま。キラ・シだ、って、ばらさないつもりなのかな? 食事の席で?

 凄い……清酒が出た!

 大陸ではみんな濁り酒だったのに!

 あ……さっきの史留暉(しるき)君が、礼装で入ってきた。ポニーテールの位置で髷にしてる。現代目線で言うと、さっきの、全部髪を下ろしてる方が綺麗だけど、汚れが無い分、白さが際立ってる!!!

 すっっっっっごい、美人っ!

 銀髪金目って言うのもあって、サル・シュくんより綺麗じゃない? 凄いっ! 初めてみた、サル・シュくんより美人っ!

「ナニ? ハル。ああいうのが好きなの?」

 目を両手でふさがれた。そんな必死に見てた? ごめん。

 唯一出てる鼻の上当たりの掌をぺろん、と舐めてあげると、サル・シュくんが一気に機嫌良くなった! 良かった! こんなところでキレられたらたまったもんじゃない。

 え? 史留暉君が、机の末席についた。真中に年配の人、向かって右側に女の人が三人。左側に、王様より若くて史留暉君より年上の人が一人。その左に史留暉君。

 史留暉君って第二王子だったよね? その史留暉君が末席ってことは、彼の右側の人が第一王子?

 え? となったら、真中の人、王様????

 私達は切らしたと名乗ってないから『山の民』だよね? 一般人だよね?

 一般人と王様が同じ席につくの? 机と膳で、高さは違うけど。

 まさか、本当に王様?

 王様がお酒を飲んだから、みんな飲みだした。

 けど、キラ・シは誰一人、動かない。

 だって、手袋してるから、お箸とかが持てないし、顔を隠すつもりなら口を出せないから食べられない。サル・シュくんも、何も言わずにただあぐら。ル・ア君も、黙ってじっと座ってる。

「そろそろ酒も入って温かくなって来たでしょう。どうですかな、毛皮をとってくつろがれては。その坊も、顔を拭くといいですよ。これ、女官。あたたかく濡らした絹を持っておいで」

 なんということでしょう! 王様っぽい人が、わざわざ水を向けてくれたわ。王様だとしたら、なんて気さくな人なのかしら。

 ル・アくんがガリさんを見た。ガリさんは真正面をぼんやり眺めてる感じ顔が見えない。何も言われないからか、ル・ア君は手袋を脱いで、貰った絹で顔を拭った。

 えっ? ってあちこちで上がった疑問。お箸や皿が落ちる音がした。

『黄色い肌』はこの大陸にキラ・シしかいないからね。

「あーっすっきりしたー……」

 ル・アくんが、本当に気持ち良さそうに伸びをする。

 史留暉(しるき)君も、上座で青ざめてた。

「三の息子がこの城の偵察に出て……」

 ガリさんが、喋った! 目の前に注がれた杯を飲み干して、それを王様に向ける。

「どうして熊を倒しているのかと。馬鹿が熊の足でも踏んだのではないか、と笑っていた」

「そんなこと言ってたのかよーっ!」

 ル・アくんがはしゃいでるのが、凄く、浮いてる。

 全然、そんな雰囲気じゃ、ない。

 じわじわと……ガリさんが『開放』してる。『圧』が広がっていく。

 サル・シュくんが、私をギュッと抱きしめてくれた。

 来たっ!

 ガリさんの全開っ!

 上座のお姫さまが、吹っ飛んだみたいに壁に下がった。向かいの上座の将軍以外、みんな、煽られてひっくり返り、青ざめて震えてる。

「手間は、はぶけたな」

 ガリさんが、飲み干した杯を玉座の王に向かって掲げた。

「飲むか?」

 小さく、それでもはっきりと、告げる。

 それとも、殺し合うか?

 言わなくてもわかる脅しに、王様もガタガタ震えだした。

 これだけ人数がいるんだから取り押さえることは可能だ、と思ったら、ここが血の海になる。

 だってこっちは、キラ・シの上位全員が来てるもの。

 ガリさんの一振りで、全員、殺せる。

 それを彼らは知らないだろうけど、どうするだろう。

 できたら、向かって来ないでほしい。

 おなかを押さえてくれてるサル・シュくんの手が、あたたかい。

 戦いが始まったら、どうしたらいいだろう? サル・シュくんは前に出るだろうから、私は、壁際に……ル・ア君の後ろに隠れたら、いい? それともサル・シュくんは私を持ったまま戦う? なら、思いっきりサル・シュくんに抱きつかないといけない。どっち?

「我等はキラ・シ」

 リョウさんが、ガリさんを掌で指し示して名乗る。

 サル・シュくんが、私の腰を肘に抱え込んで、抱き締めた。よし。サル・シュくんにびったり抱きつく。

「ガリ族長だ」

 ヒャッ、と誰かの悲鳴が聞こえた。

「わしは副官のリョウ・カ。これは族長の三番目の息子ル・ア。わしの弟、レイ・カと相棒のサル・シュ。この二人は羅季(らき)語は片言しかわからない。今、我が部族がこの城を囲んでいるだろう」

 リョウさんが『わし』なんて言うの初めて聞いた。

 ああそうか、これ、羅季語、だよね?

 たしかに、お城の外からキラ・シの圧を感じる。

 彼らが、中にいるガリさんの『圧』を感じて鬨の声をあげてた。

 黒大理石のお城が、蛮族の気に呑まれて、真っ白になりそう。

 できたら、生き残って、欲しい。

 こんなところで戦いたくない。

 あの史留暉(しるき)君と、話をしたい。

 王さま、逆らわないで! お願いだから!

 武官の人たちが、片膝をたてたり、剣の柄を持ったり、してる。

 もう一度、だれかが悲鳴でもあげたら、一気に戦闘に、なる。

 ごくり……

 誰かの生唾を呑む音が、聞こえた。

 私ではない。キラ・シでも無い。サル・シュくんなんて、わさわさ音を立てそうだもの。可と派見えないけど、戦え戦え、って笑ってるのがわかる。

 カチン……

 誰かが、音を、立てた。持ち上げようとした碗が膳に触れたような、かすかな、音。

 そちらにサル・シュくんが剣を抜いた。

「なあ、あんたが王だろ?」

 そのまま哄笑をあげて、飛んで行きそうだった彼が、カクン、と止まった。

 ル・アくんが史留暉(しるき)君を掌で指し示してる。

 サル・シュくんの目が、その指の向いてる方に、向いた。

「俺は、アイツを殺したくない」

 史留暉君と、その隣の王太子が壁際に立ち上がってた。

「降伏しろ」

 サル・シュくんの剣はまだ、抜かれたまま。

 でも、この場で抜いているのは彼だけ。

 ガリさんもリョウさんもレイ・カさんも座ったまま。

「今なら、無条件降伏じゃなく、従属国として対処する」

 ル・アくん、凄いこと言ってる。

 意味分かってる?

 従属国って、キラ・シって国の? まぁ、一応『騎羅史(きらし)』城はあるから、国なのかな?

 サル・シュくんが、カチカチ……って、短く歯を鳴らした。早く争いに、なれ、なれ、なれ、って思ってる。

「今なら、俺たちは誰も殺さない」

 ル・ア君は、言い切った。

 うん。本当に、『今なら』誰も死なないから、お願い、降伏してっ!

 サル・シュくん一人がきっと、逆らえ逆らえと思ってる。熊の血を見てから、ずっと誰かを殺したくてうずうずしてるから。

 王さまが立ち上がった!

 犬を見た猫みたいに、サル・シュくんが王様の方に剣を向ける。

 私を抱いて、片膝を立てて、多分、キラ・シの誰より遅そうに見えるだろうけど、私を抱いていても、サル・シュくんが一番速い。

「キラ・シの王よ、彼の言葉はあなたの決定と聞いてよろしいのですかな?」

 ガリさんが、ゆっくりとル・アくんを振り返って、私を見て、リョウさんを見て、王さまを、見た。何も言わずに杯をあおる。

「では、その言葉に甘えさせていただきましょう。我が賀旨(かし)はキラ・シに従属いたします」

 王さまが、頭を下げた。

 こんな無血開城、ありなんだ?

 私がナニカ翻訳しなきゃいけないのかと思ってたけど、もう、リョウさんもル・アくんも、羅季(らき)語巧い巧い!

「キラ・シの王よ、玉座へ」

 王様が、腰を抜かしたお姫様とか抱えて、ガリさんの正面の席に移った。それに伴って向かいの席の人達が膳を持ってずらっとずれる。

 お膳ってこういうとき、楽だねぇ。羅季とか留枝(るし)はテーブルだったから、こうはできなかったな。

 でも、ガリさんは、動かない。

 清酒を、凄くおいしそうに飲んでる。別に、リョウさんも、あっちに行けとかうながさない。みんなマイペースで飲んでる。キラ・シだなーっ!

 誰もキラ・シが動かないから、王様が、ル・アくんの席より下座に移動したので、末席の人達がかなり追い出された。

「女はいらん。同じ酌なら男の、子がいい。女は出て行ってくれ。ここで抱くわけにいかんからな。目の毒だ」

 リョウさんが、女の子がお酌してくれようとしたのに、杯を下げた。

 だから、女官さんには手を出すな、といつも言ってるのに!

 というかこれは、キラ・シと来てる女官さんは誰の恋人か分かってるから手を出さないだけなんだよね。『制圧』であちこち手を出してるから『初めての女の子』はやっぱりすぐ抱きたいんだ?

 サル・シュくんが、これ美味い、コレ! って、私の口に入れてくる。ありがとうありがとう。でも、おいしいものは君が食べていいから! 私はチョットでいいから! すごい量突っ込んでこないで。

「父上ッ、遊んで来ていいっ?」

 ル・ア君が、史留暉君の手を取って元気よく叫んだ。

 君はここにいなさい!!!

  

 

  

 

  

 

 

 

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