【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。188 ~白い刃~

 

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 ガリさんが何も言わない。

 ル・アくんが、史留暉(しるき)君を連れて出て行った。

 コラッ! 君が話をつけたのに、最後までいなさいよっ!

 結局このあと、ガリさんは好きなだけお酒を飲んだあと、酒瓶と女の人とどこかに消えた。

 私とリョウさんで賀旨(かし)の大臣や話し合い…………

 サル・シュくんが退屈がって、棚のものを落とし出したので、女の人を呼んでもらって追い出した。

「やだっ! ハルといる!」

「うるさいっ! 言ったでしょ! 今年は3000人子供を産むの! 行ってらっしゃい!」

『契約』のためにいろいろ書類を作らされた……私、こういうの嫌いなんだってば……ただでさえ嫌いな作業をしてるのに、サル・シュくんがうろうろしたら本当に目障り!

 女の人を10人呼んでもらって、サル・シュくんの手を引いてもらったら、「リョウ叔父、ハル頼むぜっ!」って叫びながら、歩いて行った。さっさと行け!

 そして、辛巳(しんし)さんが凄く手伝ってくれた。

「この文面を放置すると、毎年キラ・シの誰かが確認に来ないと、従属国を抜けられるようになっていますよ」

 とか、教えてくれた。たしかに、そういうふうに書いてあるけど、言われなかったら読みとばしてたわ。

 読まなきゃいけない書類の量にうんざりしたけど、ル・アくんが『遊び』に行ったのはこの時だけだった。大体『遊び』なんて言葉、キラ・シに無いのに、よく覚えたわね。

 辛巳さんに教わって、一生懸命書類を読んでるル・アくん。凄い、政治に興味があるみたい。

 まぁ、夕羅(せきら)さんになるんだからね……こういうので鍛えられたのかー。こっち方面は全部任しても良さそう。

 やっぱり『政治』は面倒だわ。騙しあいの確認はしたくないわ。

 これ、辛巳さんとル・アくんがいなかったらどうなってただろう?

『前回』は辛巳さんがいなかったのにどうしてたんだろう?

 ああ、だから、紅渦軍(こうかぐん)がまっすぐ北に進んで、賀旨(かし)を取り込んだんだっけ? 私がさっきの書面に気づかなくて従属国じゃなくなってたから、キラ・シに上納してなくて、お金に余裕ができてたんだ?

 どうする?

 夕羅さんの手助けを、今から、する?

 でもとにかく、『キラ・シの存続』をしておかないと、『あの時点』までキラ・シがもたなかったら意味ないんだよね?

 先見ができるのってこういうとき面倒だな。

 先が見えるから、雅音帑(がねど)王と、ゼルブのチヌさんを先に殺す、とかはすぐ実行できる。それは『全力で進める』だけだから。でも、将来負けるために、今、手を抜く、というのは、つらい。

 だから、やっぱり、『できる限り精一杯』してなくちゃいけないんだよね?

 私の信条としては、今すぐル・アくんを殺したい。

 キラ・シを滅ぼす一人だから。

 でも、キラ・シの最大の擁護者になるのもル・アくんなんだ。

 だからって、あの時にキラ・シが綺麗に負けるために整えるとか、できない。

 二位を目指したら十位にも入れない。

 やっぱり一位を目指さないと。

 確実な生き残りを狙っていかないと、この歴史に飲み込まれる。あそこにいくまでにキラ・シが負けたら意味ない。

 うん。

 全力で、いこう。

『ル・アくんを殺す』以外は、全部先見で見た危険なことを回避していこう。

 となると、この史留暉(しるき)君も、殺してしまいたい。

 でも、紅渦軍の餌になるから、この子は置いておかないといけない。

 本当に面倒だな……ここから先の人間関係が。

 それでいったら、たしか、あのマリサスの王様も、紅渦軍につくんだから、殺したい……とかになるよね。そういや、王様とか全然あわなかったけど、マリサスの。元気なのかな?

「戦にならなくて良かった」

 史留暉君は、ただそれだけを真っ直ぐに喜んだ正直な子。

「史留暉君は皇帝の跡取りだ、って言う気は無いの?」

「賀旨の王になるのもいやだ。兄上を支えて、軍事面だけやっていきたい。政治は無理」

 うん……顔は綺麗なのに脳筋らしいのがかいま見える。

 ル・アくんが書簡を見せて読み方を聞いても、首を横に振ってた。書簡を読むのが嫌いみたい。98%脳筋だ。

 でも、お城を守ることはできるレベルよね。だから、リョウさんレベル……まで行くかな?

 大体、今はお父さんもお兄さんもいるから、責任を感じてなくて軽いだけってのもあるだろうし。

「今の賀旨の脅威ってなんだと考えてる?」

「我火洲(がかす)が年に三度ほど国境侵犯をしてくる! うっとうしい」

 違うでしょ。今、キラ・シの属国になったんだから、キラ・シの敵国が脅威でしょ。このコは99%脳筋だ。

「今は、キラ・シが押さえたから、属国同士で争ったらキラ・シが潰しに来るわよ。だから、我火洲はもう攻めて来ないわ」

「そうかっ! それはありがたいっ!」

 素直な子! かわいい。脳筋はかわいい。

「キラ・シは軍隊に女性がたくさんいるのですね。行軍はつらくはないですか?」

 史留暉君が、私を見てつらそうな顔をする。

「もうなれちゃったわ。10人以上産んでるし」

「えっ? 10人っ!」

 そうよね。『普通』だとびっくりするわよね。これが普通なのよね。

 こんな話をしてると、大魔神が寄ってくるのよねー。

 史留暉君が『男』ならこんなに話せなかった。

「剣出せ」

 サル・シュくんが私を左肘に抱いてどこかにいこうとしたのに、史留暉君を振り返った。珍しい。何が気になったの?

「どうしたの? サル・シュくん」

「その、腰に吊ってる剣だ。抜け」

 慌てて私が通訳する。どうしたの? 一体。

「えっ? ……あ……」

 サル・シュくんが出した右手に、史留暉君が自分の鞘から抜いた剣の塚を、渡す。その手が震えてた。

 それには、刃が無い。途中で折れてる。

 白い刃。なんの金属? ここらへんの武器って、銅の合金だから、金色が一番強度があるんじゃないの? 銀色ってそれより上? 下?

 サル・シュくんがその折れた刃で壁をガツガツ殴った。壁もはがれたけど、刃ももっと欠けた。ねぇちょっと……この壁、黒大理石よ、サル・シュくん。まぁ、価値なんて知らないよね。知ってもどうでもいいよね。

「これが、この国の武器か?」

 史留暉君が真っ赤になって俯いた。

「さっき、そう言って、ル・アに、折られたんです」

 ル・アくんも脳筋爆発させてるわね……武器を折るとか、何考えてるの?

「他の奴らは金色の刃を持ってた。もっと固かったぞ。なんでこれは白くてもろいんだ」

「…………僕に……似合うから…………って……」

「似合う? 何が?」

「僕が髪とか白いから、剣も白い方が似合う……て……」

「ハル、『似合う』、って『格が同じ』、って意味じゃなかったか?」

「そうだよ」

「この剣とこいつと、何が似合う?」

 通訳したら、史留暉君が涙目で顔を上げた。

「僕が、銀髪で白いから、白い見がにあうって…………兄上が、下さった剣なのです」

「こんなもろい剣を? お前、結構強いだろ」

 ついに、史留暉君が泣きだした。

「ぼく……僕っが…………前線に出ることは、ない、から…………奥にいろ、って……言われて………………見た目だけの……剣…………鍛練しても折れるようなの………………もたされ……て…………る…………ん……です……」

 膝に拳を握って、真っ赤な顔でぼろぼろ泣く。

「そうやって泣いてるから、そんなもん持たされるんだ。背筋伸ばして、俺を見ろ」

 ビッ、と跳び上がった史留暉君が、サル・シュくんを見上げた。

「お前、キラ・シに来い。俺のものになるなら、鉄剣をやって、もっと強くしてやるぜ?」

 なんですって?

  

 

  

 

  

 

 

 

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