聞いてしまってから、これは先に教えちゃいけなかったかな? と思ったけど、もう仕方ない。
先見できるって知ってるし、その名前をル・アくんが実際に聞いたときに、ああ、と思うだけだよね。
「セキラ? セ・キラ…………『次にキラ』だから、『キラより強い』ってこと、かな? キラ・シに言ったら怒ると思う」
「どうして怒るの?」
「『キラ』は『山の最初の神』だから。
キラの長男が『キラ・シ』。次男が『キラ・ガン』みんな『キラの下』ってこと。
『キラ・セ』なら、『キラの次』って意味だけど、『セ・キラ』は『キラの上』ってことになる。そんなものは、ない、から」
キリストよりエライ、って言うようなもの?
ああ、でも、キリストより上って神様がいるのよね? だから、『神様より上』ってこと?
夕羅(せきら)くんって、名前でもキラ・シを怒らせてたんだ?
音は綺麗だし、漢字もかっこいいし、あの時真っ赤だったから、名は体を表すってことで、名前としては申し分ないけど……そっか、名前でキラ・シに喧嘩売ってたんだ?
凄い名前見つけたわね。
「ル・アくんのルはどういう意味?」
ル・アくんが、真っ赤になった。ナニ?
「どうしたの? ル・マちゃんと同じ名前だから、名前としておかしいわけじゃないんでしょう?」
「……一文字の名前は女の名前だから…………」
そんな区分?
ああ、だからサル・シュくんが『ル・ア』呼びなんだ?
サル・シュくんはレイ・カさんをたまに『レイ』って呼ぶことがある。リョウさんとかもそうだから『親しい人』って『ファーストネーム』で読んでるのよね。なら、育てたル・アくんなんて凄く近いんだから『ル』って呼びそうもものなのに、一文字は女の子の名前だから『ルア』で二文字呼びしてくれてるんだ?
ガリさんもナニを考えてそんな名前を……
でも、ル・アくんもサル・シュくんを三文字で読んでるから、そこまで愛称だとかなんだとかは無いのかな?
「『シュ』は長老筋ってことだから、仲良くてもつけるよ。他の人から見て、サル・シュの血筋がはっきりするから」
そういうことなんだ?
サル・シュくんって、いろいろな『特別』の集まった子ねぇ。
「それで?」
「ナニ?」
「ルはどういう意味?」
ル・アくんが、クッ、て一瞬苦しげに呻いた。
話をそらそうとしたのね? 残念でした。
「……愛…………」
そんな単語、キラ・シにあったのねぇっ!
そっか。ル・マちゃんについてたってことは『愛子』みたいな名前なんだ? そりゃ、男の子につけられたら恥ずかしいかな。
「『ルア』二文字ならどういう意味?」
「大事」
本当? でも『愛』よりは、たしかに、マシよね。男の子としては。
逃げたそうだったので話を変えた。
「ル・アくんは『女の人』って言うの、なぜ?」
ほぼあっち向いてた彼が、そのまま少しして私を見上げた。
「……変なこと言ってる? 俺」
「変なことかどうかは知らないけど、サル・シュくんに育てられたんだから、サル・シュくんの口調で言葉を覚えたでしょう? サル・シュくんだけじゃなく、キラ・シみんな『女』としか言わないのに、なぜル・アくんは『女の人』って言うのかな、って」
ル・アくんが右を見て下を見て、私を見上げた。
「…………ハルって、凄いトコ見てるよね、いつも」
「キラ・シと違うこと、って言うなら、私は戦士じゃないから、キラ・シと同じものの見方はしてないしね」
「そういうことかな?」
「話をそらそうとしてる?」
「……ん? ううん…………別に、気にして言ってたわけじゃなかったけど…………『人』だよね。『人』が男と女とあるんだから、男の人、女の人、だよね?」
「うん……それはそうなんだけど、どうしてル・アくんは『人』を必ずつけるの?」
ぱちくりしてる。
「……人、だから……?」
「その『人』だと思ったのはどうして?」
目をつむって考え込んでしまった。腕を組んで俯いて、左を見て、右を見て……ガリさんと同じ癖が100倍早く動くの。かわいい。
「『人』は『凶つ者』とか『動物』とは別だから!」
「動物は普通、『オス』『メス』だよね? 凶つ者に男女の別があったのを見たの?」
「見てない……けど………………」
また考え込んだ。
「そういえば俺、なんで『女の人』って言うんだろう? 考えておく、でいい?」
「じゃあ、宿題ね」
「シュクダイ?」
「とりあえず、後回しにしたけど、すること」
多分、『女の人に敬称』をつけたかったんだろうな、とは思ったんだけど、ル・アくんがはっきりしてないなら、私が言うのも野暮よね。
山には女の人が少ないって言うのに、何か、女の人とあったんでしょうね。
サル・シュくんに聞いてみたら、アア、って、イヤそうな顔をした。
「キラ・ガンを潰したときに、あいつ女を見てるんだよな。一応、隠そうとはしたんだけど」
「どうして隠そうとしたの?」
「手足を切られてたから」
ため息をつくようなサル・シュくんの声。
「キラ・シでも、足の腱を切ったとか大昔はあったみたいだけど、今はしないから。その、殺すつもりも無いのに積極的に傷つけるってのは、……見せたくなかった」
キラ・シは、敵でも即死させるんだものね。
苦しませたくないから。
そんな考えのキラ・シで育って、それは、つらいよね。
「なんでキラ・ガンを潰したの?」
「潰したかったから」
だから……
「山に戻るってなったときに、絶対潰してやろうとは思ってたけど…………キラ・ガンの方に、いくのがイヤで、後回しにしてたら、ル・アが凄く強くなったから、ル・アの初斬にいいな、と思い付いたんだ」
このサル・シュくんが、怖がってる?
腕を撫でてあげたら、するりと抱き寄せてくれて、アリガトって囁いてくれた。
サル・シュくんが子供の頃に拉致されて酷いことをされたって聞いた。この彼が、『行くこと』すらできないぐらい、トラウマになってはいたんだ?
「ル・アくんがいたから、キラ・ガンまで行けたのね」
「うん……」
ずり下がって私の胸の中にちんまりと収まってしまったサル・シュくん。
不安なときの癖ね。抱き締められたいのよね。ギュッてしてあげる。私の力いっぱいで。
潰してしまってもまだ、キラ・ガンが怖いのね……
「もしかして、サガ・キさんとかも、怖いの?」
「怖くはないけど…………あいつは、止めてくれても、いた、から……ありがたかった、と、覚えては、いる……」
でも、見られた人が残ってるのが、いやなのね……
「サガ・キは、いい奴だ」
私の胸にぐりぐりと額をおしつけて、チュッてキスした。
「最初に『勝ち上がり』をしたときに、聞きにきた。
俺が邪魔か、と」
あの人も真っ直ぐな人だものね。
「邪魔じゃないけど、思い出すからいやなのはイヤ、って答えた」
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