【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。190 ~トラウマ~

 

 

聞いてしまってから、これは先に教えちゃいけなかったかな? と思ったけど、もう仕方ない。

 先見できるって知ってるし、その名前をル・アくんが実際に聞いたときに、ああ、と思うだけだよね。

「セキラ? セ・キラ…………『次にキラ』だから、『キラより強い』ってこと、かな? キラ・シに言ったら怒ると思う」

「どうして怒るの?」

「『キラ』は『山の最初の神』だから。

 キラの長男が『キラ・シ』。次男が『キラ・ガン』みんな『キラの下』ってこと。

『キラ・セ』なら、『キラの次』って意味だけど、『セ・キラ』は『キラの上』ってことになる。そんなものは、ない、から」

 キリストよりエライ、って言うようなもの?

 ああ、でも、キリストより上って神様がいるのよね? だから、『神様より上』ってこと?

 夕羅(せきら)くんって、名前でもキラ・シを怒らせてたんだ?

 音は綺麗だし、漢字もかっこいいし、あの時真っ赤だったから、名は体を表すってことで、名前としては申し分ないけど……そっか、名前でキラ・シに喧嘩売ってたんだ?

 凄い名前見つけたわね。

「ル・アくんのルはどういう意味?」

 ル・アくんが、真っ赤になった。ナニ?

「どうしたの? ル・マちゃんと同じ名前だから、名前としておかしいわけじゃないんでしょう?」

「……一文字の名前は女の名前だから…………」

 そんな区分?

 ああ、だからサル・シュくんが『ル・ア』呼びなんだ?

 サル・シュくんはレイ・カさんをたまに『レイ』って呼ぶことがある。リョウさんとかもそうだから『親しい人』って『ファーストネーム』で読んでるのよね。なら、育てたル・アくんなんて凄く近いんだから『ル』って呼びそうもものなのに、一文字は女の子の名前だから『ルア』で二文字呼びしてくれてるんだ?

 ガリさんもナニを考えてそんな名前を……

 でも、ル・アくんもサル・シュくんを三文字で読んでるから、そこまで愛称だとかなんだとかは無いのかな?

「『シュ』は長老筋ってことだから、仲良くてもつけるよ。他の人から見て、サル・シュの血筋がはっきりするから」

 そういうことなんだ?

 サル・シュくんって、いろいろな『特別』の集まった子ねぇ。

「それで?」

「ナニ?」

「ルはどういう意味?」

 ル・アくんが、クッ、て一瞬苦しげに呻いた。

 話をそらそうとしたのね? 残念でした。

「……愛…………」

 そんな単語、キラ・シにあったのねぇっ!

 そっか。ル・マちゃんについてたってことは『愛子』みたいな名前なんだ? そりゃ、男の子につけられたら恥ずかしいかな。

「『ルア』二文字ならどういう意味?」

「大事」

 本当? でも『愛』よりは、たしかに、マシよね。男の子としては。

 逃げたそうだったので話を変えた。

「ル・アくんは『女の人』って言うの、なぜ?」

 ほぼあっち向いてた彼が、そのまま少しして私を見上げた。

「……変なこと言ってる? 俺」

「変なことかどうかは知らないけど、サル・シュくんに育てられたんだから、サル・シュくんの口調で言葉を覚えたでしょう? サル・シュくんだけじゃなく、キラ・シみんな『女』としか言わないのに、なぜル・アくんは『女の人』って言うのかな、って」

 ル・アくんが右を見て下を見て、私を見上げた。

「…………ハルって、凄いトコ見てるよね、いつも」

「キラ・シと違うこと、って言うなら、私は戦士じゃないから、キラ・シと同じものの見方はしてないしね」

「そういうことかな?」

「話をそらそうとしてる?」

「……ん? ううん…………別に、気にして言ってたわけじゃなかったけど…………『人』だよね。『人』が男と女とあるんだから、男の人、女の人、だよね?」

「うん……それはそうなんだけど、どうしてル・アくんは『人』を必ずつけるの?」

 ぱちくりしてる。

「……人、だから……?」

「その『人』だと思ったのはどうして?」

 目をつむって考え込んでしまった。腕を組んで俯いて、左を見て、右を見て……ガリさんと同じ癖が100倍早く動くの。かわいい。

「『人』は『凶つ者』とか『動物』とは別だから!」

「動物は普通、『オス』『メス』だよね? 凶つ者に男女の別があったのを見たの?」

「見てない……けど………………」

 また考え込んだ。

「そういえば俺、なんで『女の人』って言うんだろう? 考えておく、でいい?」

「じゃあ、宿題ね」

「シュクダイ?」

「とりあえず、後回しにしたけど、すること」

 多分、『女の人に敬称』をつけたかったんだろうな、とは思ったんだけど、ル・アくんがはっきりしてないなら、私が言うのも野暮よね。

 山には女の人が少ないって言うのに、何か、女の人とあったんでしょうね。

 サル・シュくんに聞いてみたら、アア、って、イヤそうな顔をした。

「キラ・ガンを潰したときに、あいつ女を見てるんだよな。一応、隠そうとはしたんだけど」

「どうして隠そうとしたの?」

「手足を切られてたから」

 ため息をつくようなサル・シュくんの声。

「キラ・シでも、足の腱を切ったとか大昔はあったみたいだけど、今はしないから。その、殺すつもりも無いのに積極的に傷つけるってのは、……見せたくなかった」

 キラ・シは、敵でも即死させるんだものね。

 苦しませたくないから。

 そんな考えのキラ・シで育って、それは、つらいよね。

「なんでキラ・ガンを潰したの?」

「潰したかったから」

 だから……

「山に戻るってなったときに、絶対潰してやろうとは思ってたけど…………キラ・ガンの方に、いくのがイヤで、後回しにしてたら、ル・アが凄く強くなったから、ル・アの初斬にいいな、と思い付いたんだ」

 このサル・シュくんが、怖がってる?

 腕を撫でてあげたら、するりと抱き寄せてくれて、アリガトって囁いてくれた。

 サル・シュくんが子供の頃に拉致されて酷いことをされたって聞いた。この彼が、『行くこと』すらできないぐらい、トラウマになってはいたんだ?

「ル・アくんがいたから、キラ・ガンまで行けたのね」

「うん……」

 ずり下がって私の胸の中にちんまりと収まってしまったサル・シュくん。

 不安なときの癖ね。抱き締められたいのよね。ギュッてしてあげる。私の力いっぱいで。

 潰してしまってもまだ、キラ・ガンが怖いのね……

「もしかして、サガ・キさんとかも、怖いの?」

「怖くはないけど…………あいつは、止めてくれても、いた、から……ありがたかった、と、覚えては、いる……」

 でも、見られた人が残ってるのが、いやなのね……

「サガ・キは、いい奴だ」

 私の胸にぐりぐりと額をおしつけて、チュッてキスした。

「最初に『勝ち上がり』をしたときに、聞きにきた。

 俺が邪魔か、と」

 あの人も真っ直ぐな人だものね。

「邪魔じゃないけど、思い出すからいやなのはイヤ、って答えた」

  

 

  

 

  

 

  

 

 

 

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