「サガ・キさんはなんて?」
「俺はキラ・シのために死に物狂いで働くから、その俺を見ろ。俺を見て、キラ・シの輝ける未来を思えるようにしてやる……って」
熱い!
松岡修三バリに熱い!
「だからあいつはいつでも、敵を倒したら俺に見せに来る。
返り血を浴びて笑うあいつの顔しか、もう、思い出さない……」
クスクスクス……って、サル・シュくんが笑った。
「今のキラ・シは、いいやつしか、いない……」
ギューッと私を抱き締める。
「気持ち、いい……」
珍しく、せずに寝てしまったサル・シュくん。
そっか。
山には気持ち悪い人がいたんだね。
ル・アくんを育てるときに、その人達と一緒に居たんだよね。
でも、吹っ切れたのかな?
ガリさんは、サル・シュくんのそのトラウマを消すためにも、彼を山に送ったのかな。
本当にキラ・シって、いい人ばかり。
でも……夕羅(せきら)くんに滅ぼされるのよね……
賀旨(かし)を出ていくつか国を越えて煌都(こうと)に入ったら、やっぱりいろいろ大変だった。
まず、誰もが羅季(らき)礼をしてくるから、どれだけキラ・シが、重鎮から書記官から、誰彼無しに殺したか。
先に羅季礼をしないで、って私とル・アくんでずっとお願いしてたのに……
「羅季礼は殺さなくなってたんじゃなかったの?」
リョウさんに聞いたけど、彼も眉を寄せるばかり。
「村で羅季礼をされるのは、手を振られたあとだった。だから、武器を持っていないことがわかってたから、みな気にしなかっただけだ」
それを聞けたから、『先にキラ・シ礼をして』ということで落ち着けた。
どうやっても、煌都(こうと)の大臣たちは『羅季(らき)礼をやめられない』みたいだったから。そりゃ、挨拶できないのは気持ち悪いものね。わかるんだけど、殺されるって言ってるのに、まだするのって、馬鹿なだけよ!
「制圧したのはキラ・シなんだから、キラ・シ礼を先にして。そのあとで羅季)礼をしてくれるのはかまわないから。武器を持っていない、という証拠を先に見せて、そのためのキラ・シ礼なの」
そう言って初めて、羅季礼で殺される人が減った。
まぁ、私達の言うことを聞かない人が羅季礼をして殺されてるから、そのあとは、スムーズと言えばスムーズで良かったけど。
今残ってる人は、羅季礼すら滅多にしない人ばかり。そしてみんな頭いいわ。その彼らが言ってたのよね。
「キラ・シの初入城で、ハルナ様とル・ア様があんなに「羅季礼をするな」とおっしゃっていたのにした彼らは、家柄だけが良くて、政務を遅らせる名人ばかりでした。その名家全部からキラ・シは嫌われてしまいましたが、国政は圧倒的に早く進むようになりましたよ」
ですって。
とにかく、そう言ってくれた彼らを信用して全部任せた。
しばらくはリョウさんが毒見もさせたし、ガリさんたちキラ・シは自分で獲ってきた獣しか食べなかった。ただ、私が平気で王宮から出された料理を食べてたから、そのうち信用したみたい。
それでも、手の込んだ料理を嫌がるから、厨房の予算は100分の1になったわ。塩焼きが一番好きなんですものね。
ル・アくんと王宮とかを見て回って、ずっと質問攻めの日々が続いた。予想はしてたから、覚悟はあったけど、質問に答え『続ける』のってこたえるわー……
その中で、キラ・シが引っかかったのが刑務所だった。
キラ・シには『量刑』ってものが無いのね。
盗みも、人殺しも、首を刎ねるの。
『変な人』を生かすことは絶対にしないのよね。
だから、刑務所の人達は、ル・アくんが見つけた数日後に、全部ショウ・キさんに殺された。それで、その人達にかかってた経費が全部浮いた。政治犯だけは別房にいたので、全員出したわ。頭の良い人たちばかり。今は、キラ・シに恭順してくれてるっぽい。
そして街でももちろん、『盗み』でも『捨てられる』。
キラ・シが巡回しているときに見つけた犯罪者は、かっぱらいでもその場で殺されるから、街から無頼がいなくなった。
量刑がないことを非難した人もいたけど、一刀両断にされて終わったわね。それに、圧倒的に安全になった街に、キラ・シは感謝されたわ。
そしてもちろん、『制圧』をあちこちでするから、一気にキラ・シ人気は上がった。サル・シュくんなんて、かなり凄い追っかけとか、出待ち入り待ちが出てるみたい。たまに一緒に馬で出ると、嫉妬の炎が凄い凄い。その中に体格のいい男の人までいる!
「ねぇ……サル・シュくんが人気あるのはわかるけど……男の人も凄いいるよ? サル・シュくん、凄い美人なんだから、気をつけてよ?」
「ナニを?」
「男の人がサル・シュくんを狙ってる」
サル・シュくんがキョン? とした顔で私を見て、追っかけを振り返った。
私に合わせて並足で歩いてるから、追っかけがずっとついてきてる。どの時代でも一緒よねぇ……どこのお城でも一緒だったけど、さすがに煌都(こうと)は規模が違うわ。100人ぐらいがついてくるって凄い……
これ、サル・シュくんだけじゃなくて、数は違うけど大体のキラ・シがこうみたい。探しに行かなくても入れ食いだ、って凄く喜んでる。
「ハルがいやなら帰ろうか?」
「……何しに出てきたの?」
「ハルと煌都(こうと)を『ブラブラ』したかっただけ。こういうの、好きだろ? ハル」
摩雲(まう)で散歩したときのことね。うん……好きだけど……
「ちょっと……ああいうのがいるところでは、落ち着かないかな……」
「俺は、ハルをみせびらかせて楽しい」
「私をみせびらかしてどうするの!」
「万が一、ハルがさらわれたって、誰かが助けてくれるぜ?」
「……『サル・シュくんの女』になりたい人に殺される確率の方が高い気がする……」
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