追っかけに男の人もいるから、余計怖い。
「え?」
そうよね。正妻とか、妾とか、キラ・シに言葉自体ないもんね。考えてないよね。
サル・シュくんが、私と追っかけを何度も見比べて、私の花の頭にチュッ、てした。キャーッて黄色い声と、アー……って、呪うような声が同時に聞こえる。それに彼も、苦笑した。
「じゃ、帰ろっか」
「うん」
帰るのは走ったからすぐだった。でも、一度サル・シュくんと出かけてるから、どこに行っても『サル・シュ様の』って言われるのは変わらない。大体、リョウさんとル・アくんと一緒だし、最低でもル・アくんと出かけてるから、大丈夫だけど……『圧』が凄いんだよ。『圧』が。
それに、サル・シュくんとセットで私を好きになってくれる人もいるみたい。
子供相手なら、って、私を拉致しに来た人達がいたけど、一瞬だったわ。ル・アくんも容赦しないから、全員殺してるし。まだ7才だけど、強い強い。容赦のなさはさすがキラ・シ。全部一刀で致命傷ってのも凄い。
「ル・アくん、一人は生かして、身元を聞かないと駄目よ。この人達がただの手先の場合、何回でも同じことがおこるから」
「ああ……そっか…………そうだよね」
まぁ24人居たから、必死になったのはわかる。
ル・アくん一人が狙われたのなら、身元聞いてたのは前にあったから。
ル・ア君が私を馬に乗せてくれて、その前に彼が乗りあがる。小さいから抱きつききれなくて、つらいんだよね、この体勢。リョウさんに乗せてほしいけど、割くジュニアくんが『ル・アの馬にのれよ!』ってうるさいんだ。浮気なんて、しないっての。
「私がいつも足手まといになってごめんね」
「謝るな。
ハルを守るために、居る」
キラ・シ独特の台詞回し、ル・アくんもするんだな。これ、責められてる気分になるんだよね。
本当に、額面通りしか思ってないって知るまでは、ウウッてなってた。
『最初』にリョウさんがこんな感じだったから、好かれてると思わなかったんだ。
キラ・シは『たとえ』とか『持って回った言い回し』を一切しないし、嘘つかないんだから、出た言葉はそのまま受け取ればいいんだよね。
謝らなくていいし、本当に、私を守るためにいてくれてるから、守られたことに罪悪感を持たなくていいんだ。甘えればいいんだ、って。
謝られるようなことじゃないのに謝られることも、面倒くさいらしい。
「…………ありがとう」
ル・ア君がにっこり頷いてくれた。
「ハルは動かないでいてくれるから、守り安くていいよ」
「ヨウヨウくんはうろちょろしたんだ?」
びくっと肩を震わせて、ル・ア君がくちびるを噛んだ。ゆっくりと口を開閉して、頷く。
「…………まぁ……うん、…………そう……」
歯切れ悪い! いつも竹をスパンと割った感じのするから、珍しい。
思いっきり傷えぐったよね、ごめんね。でも、聞いておきたかったんだ。
「私がどうしてれば守りやすいの?」
「動かないでいてくれるのがいい」
「どうして?」
「そこにハルがいるという頭で動いてるから。居てくれた方が安心する」
居てくれないってどういう状態? 私は、特別なことはしてないよ?
「ヨウヨウくんはどうしたから困ったの?」
「俺が動いたらついてくる」
ああ……そういうこと。
「戦士にくっついて歩いたら、戦士が刀を振るえないよね? 私もあぶないじゃない」
「うん。そうなんだよ。
ヨウヨウは知らないウチに動いてるから、さっきの場所にいないっ! さらわれた? って焦るし、知らないウチに後ろにいるから、敵かと思って殺し掛けたことが何度もある。
腕を振り上げたらヨウヨウにぶつかって吹っ飛んだとか、……じっとしてて、って、何度か説明したんだけど、『じっとしてて』ってラキ語がわからなくて、通じなかった。
ハルは、そこにいろ、ってサル・シュに言われたから、そうなの?」
「ううん。動けないだけ」
ちょろちょろする機敏さなんで私にない。
「ああ、そうなんだ。その方がいいよ。
助かる。
多分、キラ・シみんなそうだと思う」
どうせ動けたって、キラ・シみたいに俊敏に動けないからついていくのなんて無理。
「あのね、ル・アくん。危険なときに、女の人は動かなくて、男の人は動くのよ」
「……どういうこと?」
いつもは目を見て離してくるル・ア君が、目をそらしてたんだけど、また、私を見上げてきた。
ル・ア君が私を見上げていても、馬は、ぽっくぽっくと、リョウさんの馬の後ろを歩いてる。リョウさんの追っかけも、少し後ろをついてくる。サル・シュくんほどではないけど、『副族長』だということが知られているのか、リョウさんの追っかけも凄い人数。
リョウさんは、一人で馬に乗ってるから、なんか、いろんなプレゼントをもらってた。
「ル・アくんとかキラ・シとか、危険だと動くでしょ? 今の場所が危険だと思うから。
女は、今私が生きてるんだから、この場所が一番安全、と思うの」
「……あぁ……!」
一瞬、前を向いたル・ア君が、叫んでから私を振り返った。その声に、リョウさんも寄ってくる。今の話を、ル・ア君がリョウさんにかいつまんで話した。要約も巧い。
「だから、私が動かなくて、ヨウヨウ君が動くのは当然なの。私は女で、ヨウヨウ君は男だから」
ル・アくんが凄い頷いてる。私も聞きかじりなんだけど、嘘だったらどうしよう?
「もちろん、どっちが正しいとかはないんだけど、基本的に、女は動かないのよ。
ウィギの女の人達みたいに、戦うことを訓練した人は知らないけど、女の人は、うずくまっちゃうの。
逆に、逃げろ、って言っても逃げないのよ」
ル・アくんが凄い頷いてた。リョウさんも『ほお』って顔してる。
「ナガシュで、キラ・シがマチを駆け抜けたときに、男の人は逃げてたけど、女の人、ぼーっと立っててはね飛ばされ掛けてた。アレ、そういうのなの?」
「全部の人がそうではないけど、多分ね。
だから、私を逃がしたいときは、『来い』とか『逃げろ』じゃなく、引っ張ってくれるとか、押しくれるとかの方がいい。そうじゃない限り、じっとしてるから」
「わかった。突き飛ばす」
「それ、死んじゃうからやめて……」
ル・アくんもクスクス笑ってる。リョウさんに頭をかいぐりかいぐりされて、二人で走り出した。
後日、サル・シュくんに凄い拗ねられてしまった。
「ハル! ル・アに押していいって言ったって!」
ソコ!
「俺にはそんなこと言わなかったのに、ル・アにはすんごい長く話したって!」
ベッドでジタジタしてる。かわいい。
「だって、サル・シュくんは何かあったら私を『持って』逃げてくれるから、言う必要なかったじゃない」
ジタジタが止まった。
「幾らル・アくんが強くても、私を抱いて連れて行くことはできないんだから、ああいう話はするよ」
「そっか」
よし! 大魔神が笑った!
こんな細かいところで嫉妬してくるのね……
というか、ル・アくんだから、そうなんだろうけど。
子供って、あっと言う間に育つもんねぇ……
二、三日、ナンちゃんを見ないと思ったら、左頬にキラ・シ紋を描いてた!
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