【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。192 ~キラ・シ紋~

 

 

 

 

 追っかけに男の人もいるから、余計怖い。

「え?」

 そうよね。正妻とか、妾とか、キラ・シに言葉自体ないもんね。考えてないよね。

 サル・シュくんが、私と追っかけを何度も見比べて、私の花の頭にチュッ、てした。キャーッて黄色い声と、アー……って、呪うような声が同時に聞こえる。それに彼も、苦笑した。

「じゃ、帰ろっか」

「うん」

 帰るのは走ったからすぐだった。でも、一度サル・シュくんと出かけてるから、どこに行っても『サル・シュ様の』って言われるのは変わらない。大体、リョウさんとル・アくんと一緒だし、最低でもル・アくんと出かけてるから、大丈夫だけど……『圧』が凄いんだよ。『圧』が。

 それに、サル・シュくんとセットで私を好きになってくれる人もいるみたい。

 子供相手なら、って、私を拉致しに来た人達がいたけど、一瞬だったわ。ル・アくんも容赦しないから、全員殺してるし。まだ7才だけど、強い強い。容赦のなさはさすがキラ・シ。全部一刀で致命傷ってのも凄い。

「ル・アくん、一人は生かして、身元を聞かないと駄目よ。この人達がただの手先の場合、何回でも同じことがおこるから」

「ああ……そっか…………そうだよね」

 まぁ24人居たから、必死になったのはわかる。

 ル・アくん一人が狙われたのなら、身元聞いてたのは前にあったから。

 ル・ア君が私を馬に乗せてくれて、その前に彼が乗りあがる。小さいから抱きつききれなくて、つらいんだよね、この体勢。リョウさんに乗せてほしいけど、割くジュニアくんが『ル・アの馬にのれよ!』ってうるさいんだ。浮気なんて、しないっての。

「私がいつも足手まといになってごめんね」

「謝るな。

 ハルを守るために、居る」

 キラ・シ独特の台詞回し、ル・アくんもするんだな。これ、責められてる気分になるんだよね。

 本当に、額面通りしか思ってないって知るまでは、ウウッてなってた。

『最初』にリョウさんがこんな感じだったから、好かれてると思わなかったんだ。

 キラ・シは『たとえ』とか『持って回った言い回し』を一切しないし、嘘つかないんだから、出た言葉はそのまま受け取ればいいんだよね。

 謝らなくていいし、本当に、私を守るためにいてくれてるから、守られたことに罪悪感を持たなくていいんだ。甘えればいいんだ、って。

 謝られるようなことじゃないのに謝られることも、面倒くさいらしい。

「…………ありがとう」

 ル・ア君がにっこり頷いてくれた。

「ハルは動かないでいてくれるから、守り安くていいよ」

「ヨウヨウくんはうろちょろしたんだ?」

 びくっと肩を震わせて、ル・ア君がくちびるを噛んだ。ゆっくりと口を開閉して、頷く。

「…………まぁ……うん、…………そう……」

 歯切れ悪い! いつも竹をスパンと割った感じのするから、珍しい。

 思いっきり傷えぐったよね、ごめんね。でも、聞いておきたかったんだ。

「私がどうしてれば守りやすいの?」

「動かないでいてくれるのがいい」

「どうして?」

「そこにハルがいるという頭で動いてるから。居てくれた方が安心する」

 居てくれないってどういう状態? 私は、特別なことはしてないよ?

「ヨウヨウくんはどうしたから困ったの?」

「俺が動いたらついてくる」

 ああ……そういうこと。

「戦士にくっついて歩いたら、戦士が刀を振るえないよね? 私もあぶないじゃない」

「うん。そうなんだよ。

 ヨウヨウは知らないウチに動いてるから、さっきの場所にいないっ! さらわれた? って焦るし、知らないウチに後ろにいるから、敵かと思って殺し掛けたことが何度もある。

 腕を振り上げたらヨウヨウにぶつかって吹っ飛んだとか、……じっとしてて、って、何度か説明したんだけど、『じっとしてて』ってラキ語がわからなくて、通じなかった。

 ハルは、そこにいろ、ってサル・シュに言われたから、そうなの?」

「ううん。動けないだけ」

 ちょろちょろする機敏さなんで私にない。

「ああ、そうなんだ。その方がいいよ。

 助かる。

 多分、キラ・シみんなそうだと思う」

 どうせ動けたって、キラ・シみたいに俊敏に動けないからついていくのなんて無理。

「あのね、ル・アくん。危険なときに、女の人は動かなくて、男の人は動くのよ」

「……どういうこと?」

 いつもは目を見て離してくるル・ア君が、目をそらしてたんだけど、また、私を見上げてきた。

 ル・ア君が私を見上げていても、馬は、ぽっくぽっくと、リョウさんの馬の後ろを歩いてる。リョウさんの追っかけも、少し後ろをついてくる。サル・シュくんほどではないけど、『副族長』だということが知られているのか、リョウさんの追っかけも凄い人数。

 リョウさんは、一人で馬に乗ってるから、なんか、いろんなプレゼントをもらってた。

「ル・アくんとかキラ・シとか、危険だと動くでしょ? 今の場所が危険だと思うから。

 女は、今私が生きてるんだから、この場所が一番安全、と思うの」

「……あぁ……!」

 一瞬、前を向いたル・ア君が、叫んでから私を振り返った。その声に、リョウさんも寄ってくる。今の話を、ル・ア君がリョウさんにかいつまんで話した。要約も巧い。

「だから、私が動かなくて、ヨウヨウ君が動くのは当然なの。私は女で、ヨウヨウ君は男だから」

 ル・アくんが凄い頷いてる。私も聞きかじりなんだけど、嘘だったらどうしよう?

「もちろん、どっちが正しいとかはないんだけど、基本的に、女は動かないのよ。

 ウィギの女の人達みたいに、戦うことを訓練した人は知らないけど、女の人は、うずくまっちゃうの。

 逆に、逃げろ、って言っても逃げないのよ」

 ル・アくんが凄い頷いてた。リョウさんも『ほお』って顔してる。

「ナガシュで、キラ・シがマチを駆け抜けたときに、男の人は逃げてたけど、女の人、ぼーっと立っててはね飛ばされ掛けてた。アレ、そういうのなの?」

「全部の人がそうではないけど、多分ね。

 だから、私を逃がしたいときは、『来い』とか『逃げろ』じゃなく、引っ張ってくれるとか、押しくれるとかの方がいい。そうじゃない限り、じっとしてるから」

「わかった。突き飛ばす」

「それ、死んじゃうからやめて……」

 ル・アくんもクスクス笑ってる。リョウさんに頭をかいぐりかいぐりされて、二人で走り出した。

 後日、サル・シュくんに凄い拗ねられてしまった。

「ハル! ル・アに押していいって言ったって!」

 ソコ!

「俺にはそんなこと言わなかったのに、ル・アにはすんごい長く話したって!」

 ベッドでジタジタしてる。かわいい。

「だって、サル・シュくんは何かあったら私を『持って』逃げてくれるから、言う必要なかったじゃない」

 ジタジタが止まった。

「幾らル・アくんが強くても、私を抱いて連れて行くことはできないんだから、ああいう話はするよ」

「そっか」

 よし! 大魔神が笑った!

 こんな細かいところで嫉妬してくるのね……

 というか、ル・アくんだから、そうなんだろうけど。

 子供って、あっと言う間に育つもんねぇ……

  

 

  

 

 二、三日、ナンちゃんを見ないと思ったら、左頬にキラ・シ紋を描いてた!

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました