【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。198 ~盗ってないか?~

 

 

 

 

 みんなル・アくんが大好きだものね。

 キラ・シの戦士たちも、大好きだものね。

 突然の、こんな仕打ち、許せないわよね。

 でも、もっと、ガリさんを、好きなの。

 だから、誰も、反論しない。

 あんなに愛した後で、こんな突き放し方を、するのね。

『……俺は、父上の子を産んで……死ぬから……』

 ル・マちゃんはそう言ってた。

『そして、父上も、その子に殺される』

 そうだ。

 ガリさんは、ル・マちゃんにそれ以上のことを、聞いてない、筈。ル・マちゃんがそれ以上を『見て』なかった、から。

 だから、『殺される』のなら『嫌われる』のが一番だと、思った、ん、じゃ、ない?

 まだ、こんなんじゃ、駄目なんだわ。

 ル・アくんは、誰をも嫌うことなんてなかった。

 そんな彼が、ガリさんを嫌うなんて、このままじゃ、あり得ない。だから、拷問まで、行ったんだ?

 ル・アくんが、それより先に王宮を出てくれたら、いいの?

 少しでも、傷を小さくしたい、と思っちゃ、いけない、の、かな?

 それじゃあ『夕羅(せきら)』くんに、ならないの、かな?

 どうしたら、いいだろう?

 ル・ア君に、早く、キラ・シを見限ってもらうには?

  

 

  

 

  

 

「ル・アくん、賀旨(かし)の史留暉(しるき)君のところには行かないの?」

 ウィギの馬乳酒をお土産に持ってきてくれたから聞いてみたら、彼はカチン、と止まった。

 鍛練も政務も出陣もできないから、彼はけっこう頻繁にあちこち行ってて、必ずお土産を持ってくる。けれど、賀旨に行ったと、聞いたことがないわ。

 ル・ア君が、ターミネーターみたいにギギギッて振り返った。

 すぐに反応しないのは、気に入らないことなのよね。

「なぜ、シルキ」

「あれだけ俺のもの俺のもの言ってて、会いに行かないのかな、って」

 最初から賀旨にいれば、『皇軍』で叛乱を起こしやすいわ。

「シルキ、男だよ?」

「ああ、それでなの? 良かった」

 全然、そんな気は、まだ、なさそう。

 そうよね、こんなことで世を拗ねるような性格では、なかったものね。だから、『拷問』されちゃったのね。

「なにが良かったの?」

「ル・アくんが好きになる子ってみんな男の子だったから、ちょっと将来が心配だったのよ。今、子供何人いる?」

「数えてない」

 キラ・シとして良い答えだわ。

 これで安心するって『現代』だと顰蹙だけど、キラ・シはこれでいいのよ。

「シルキに姉が居たのは知ってる?」

 お姉さん? 確か、最初にお城に言ったときにもいた、あの上品な人ね。

「凄く綺麗な人だったわよね。お兄さんと結婚する予定だったかしら?」

 この大陸では、お母さんが違えば結婚できるから。たしか、磨牙鬼王子する予定だった……よね?

「父上の子を産んで、気が違ったって」

 ル・アくんが、廊下を歩いて行った。

 ナニ? どうして今それを私に言ったの?

『父上』って、彼女のお父さんじゃなく、ガリさんってこと?

 賀旨(かし)にガリさんが行ったのなんて何年前?

 リョウさんに聞いてみたら、把握してた。

「オウが娘を差し出してくることはよくある。怖がってる女は抱かないから、その女もそうではなかったのだろうが…………生まれた子を城の上から投げ捨てた、というのは聞いた」

 ……子供を投げ捨てたっ!

 そんなことが……できるヒトがいるんだ? どれだけショックだったんだろう……

「それって、子供が黄色かったから?」

 いやそうに、リョウさんが何度か頷いた。

「そうだろうな。ガリの子なら白くていいのに、まぁガリの白さでも、こっちの白よりは黄色いからな」

「それ、あの、無血開城した翌年の話よね?」

「そうだな。ガリはそのあとカシには行っていない。ハルこそ、今頃どうした」

「ル・アくんが、突然話題に出してきたから」

 リョウさんも意味がわからないみたい。

 もう史留暉(しるき)君の話題は出すな、ってことなのかな?

 別に、そんな大したことじゃないからどうでもいいんだけど。逆に気になるな。

 最近、ル・アくんは全然他国に行かなくなって、あちこちの豪族のパーティーを梯子してる。どこかのお姫様の部屋に寝泊まりしてるみたい。王宮で全然見なくなった。

 それでも、帰ってくるのよね。叛乱がおこった、って聞くと。

 あの、地図のある玄関の、そばの廊下で、自分の名前が呼ばれないかと、待ってる。

 もう、ル・アくんより二つ下のルイちゃんまで出陣したわ。

 戦士たちが散る前に、廊下を逃げようとしたル・アくん。その彼を、サル・シュくんに、近くの部屋へ拉致してもらった。

 あんなところで呼び止めて聞ける話じゃないし、二人きりで部屋に入ったら、今度こそサル・シュくんがル・アくんを殺しちゃう。こういうのはサル・シュくんにしてもらえばいいのよね。別にサル・シュくんに内緒の話ではないのだから。

「ねぇ、ル・アくん。どうしてあの時、私に賀旨(かし)のお姫様の話をしたの?」

 ル・アくんが、凄くいやそうな顔をした。

 ごめんね。それで引くようなおとなしい心、もう持ってないんだ。確認しておかないと『次』に困るから。

 サル・シュくんは、ドアのそばで、腕を組んで立ってる。そのそばを、すり抜けることは不可能。今のル・アくんでは、本気でやってもサル・シュくんには勝てないから。

「別に……二度と、その話をハルにしてほしくなかったから、イヤなことを出しただけだよ」

 ドア以外に出口が無いか、ル・アくんが探してる。そんな部屋、最初から選んでないのよ、残念ね。

「最近、煌都(こうと)を出なくなったのはなぜ?」

「煌都を出たら百石(ひゃくせき)を投げる、と父上に言われた」

 百石? キラ・シの死刑よね、それ。なんで?

 私より、サル・シュくんの方が身じろいだ。

「お前、何やったんだ? ル・ア」

「何も」

 ル・ア君が肩をすくめて見せる。

「何もしてなくて、ガリメキアがそんなことをお前に言うわけが無い」

「何もしてない」

「ガリメキアの女を盗ってないか?」

 君の心配は本当にそれだけなのね!

「それなら、殺されてると思わない?」

「……思う」

「生きてるよ」

 変なところで納得してるサル・シュくん。違うでしょ!

「十年後に会いに来いって言われたから、ラキシタ君のところには行ったのよね? どうして賀旨(かし)には行かないの?」

「それが、拉致してまで聞くことなの?」

「あなたが逃げるからじゃない」

 話をそらそうとしてる。

「逃げてはいないよ。追い駆けられてないのに」

「今、逃げようとしてるでしょ」

「突然こんなところに突っ込まれたら、そうなる。行かなきゃならないところがある。出して」

「尾丹大臣の宴なら遅れてかまわないでしょ」

 今日開催されるパーティーは調べてる。

 ル・アくんが、大きなため息をついて、腕を組んだ。

「何が聞きたいの」

「なぜ、賀旨(かし)に行かないの?」

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました