みんなル・アくんが大好きだものね。
キラ・シの戦士たちも、大好きだものね。
突然の、こんな仕打ち、許せないわよね。
でも、もっと、ガリさんを、好きなの。
だから、誰も、反論しない。
あんなに愛した後で、こんな突き放し方を、するのね。
『……俺は、父上の子を産んで……死ぬから……』
ル・マちゃんはそう言ってた。
『そして、父上も、その子に殺される』
そうだ。
ガリさんは、ル・マちゃんにそれ以上のことを、聞いてない、筈。ル・マちゃんがそれ以上を『見て』なかった、から。
だから、『殺される』のなら『嫌われる』のが一番だと、思った、ん、じゃ、ない?
まだ、こんなんじゃ、駄目なんだわ。
ル・アくんは、誰をも嫌うことなんてなかった。
そんな彼が、ガリさんを嫌うなんて、このままじゃ、あり得ない。だから、拷問まで、行ったんだ?
ル・アくんが、それより先に王宮を出てくれたら、いいの?
少しでも、傷を小さくしたい、と思っちゃ、いけない、の、かな?
それじゃあ『夕羅(せきら)』くんに、ならないの、かな?
どうしたら、いいだろう?
ル・ア君に、早く、キラ・シを見限ってもらうには?
「ル・アくん、賀旨(かし)の史留暉(しるき)君のところには行かないの?」
ウィギの馬乳酒をお土産に持ってきてくれたから聞いてみたら、彼はカチン、と止まった。
鍛練も政務も出陣もできないから、彼はけっこう頻繁にあちこち行ってて、必ずお土産を持ってくる。けれど、賀旨に行ったと、聞いたことがないわ。
ル・ア君が、ターミネーターみたいにギギギッて振り返った。
すぐに反応しないのは、気に入らないことなのよね。
「なぜ、シルキ」
「あれだけ俺のもの俺のもの言ってて、会いに行かないのかな、って」
最初から賀旨にいれば、『皇軍』で叛乱を起こしやすいわ。
「シルキ、男だよ?」
「ああ、それでなの? 良かった」
全然、そんな気は、まだ、なさそう。
そうよね、こんなことで世を拗ねるような性格では、なかったものね。だから、『拷問』されちゃったのね。
「なにが良かったの?」
「ル・アくんが好きになる子ってみんな男の子だったから、ちょっと将来が心配だったのよ。今、子供何人いる?」
「数えてない」
キラ・シとして良い答えだわ。
これで安心するって『現代』だと顰蹙だけど、キラ・シはこれでいいのよ。
「シルキに姉が居たのは知ってる?」
お姉さん? 確か、最初にお城に言ったときにもいた、あの上品な人ね。
「凄く綺麗な人だったわよね。お兄さんと結婚する予定だったかしら?」
この大陸では、お母さんが違えば結婚できるから。たしか、磨牙鬼王子する予定だった……よね?
「父上の子を産んで、気が違ったって」
ル・アくんが、廊下を歩いて行った。
ナニ? どうして今それを私に言ったの?
『父上』って、彼女のお父さんじゃなく、ガリさんってこと?
賀旨(かし)にガリさんが行ったのなんて何年前?
リョウさんに聞いてみたら、把握してた。
「オウが娘を差し出してくることはよくある。怖がってる女は抱かないから、その女もそうではなかったのだろうが…………生まれた子を城の上から投げ捨てた、というのは聞いた」
……子供を投げ捨てたっ!
そんなことが……できるヒトがいるんだ? どれだけショックだったんだろう……
「それって、子供が黄色かったから?」
いやそうに、リョウさんが何度か頷いた。
「そうだろうな。ガリの子なら白くていいのに、まぁガリの白さでも、こっちの白よりは黄色いからな」
「それ、あの、無血開城した翌年の話よね?」
「そうだな。ガリはそのあとカシには行っていない。ハルこそ、今頃どうした」
「ル・アくんが、突然話題に出してきたから」
リョウさんも意味がわからないみたい。
もう史留暉(しるき)君の話題は出すな、ってことなのかな?
別に、そんな大したことじゃないからどうでもいいんだけど。逆に気になるな。
最近、ル・アくんは全然他国に行かなくなって、あちこちの豪族のパーティーを梯子してる。どこかのお姫様の部屋に寝泊まりしてるみたい。王宮で全然見なくなった。
それでも、帰ってくるのよね。叛乱がおこった、って聞くと。
あの、地図のある玄関の、そばの廊下で、自分の名前が呼ばれないかと、待ってる。
もう、ル・アくんより二つ下のルイちゃんまで出陣したわ。
戦士たちが散る前に、廊下を逃げようとしたル・アくん。その彼を、サル・シュくんに、近くの部屋へ拉致してもらった。
あんなところで呼び止めて聞ける話じゃないし、二人きりで部屋に入ったら、今度こそサル・シュくんがル・アくんを殺しちゃう。こういうのはサル・シュくんにしてもらえばいいのよね。別にサル・シュくんに内緒の話ではないのだから。
「ねぇ、ル・アくん。どうしてあの時、私に賀旨(かし)のお姫様の話をしたの?」
ル・アくんが、凄くいやそうな顔をした。
ごめんね。それで引くようなおとなしい心、もう持ってないんだ。確認しておかないと『次』に困るから。
サル・シュくんは、ドアのそばで、腕を組んで立ってる。そのそばを、すり抜けることは不可能。今のル・アくんでは、本気でやってもサル・シュくんには勝てないから。
「別に……二度と、その話をハルにしてほしくなかったから、イヤなことを出しただけだよ」
ドア以外に出口が無いか、ル・アくんが探してる。そんな部屋、最初から選んでないのよ、残念ね。
「最近、煌都(こうと)を出なくなったのはなぜ?」
「煌都を出たら百石(ひゃくせき)を投げる、と父上に言われた」
百石? キラ・シの死刑よね、それ。なんで?
私より、サル・シュくんの方が身じろいだ。
「お前、何やったんだ? ル・ア」
「何も」
ル・ア君が肩をすくめて見せる。
「何もしてなくて、ガリメキアがそんなことをお前に言うわけが無い」
「何もしてない」
「ガリメキアの女を盗ってないか?」
君の心配は本当にそれだけなのね!
「それなら、殺されてると思わない?」
「……思う」
「生きてるよ」
変なところで納得してるサル・シュくん。違うでしょ!
「十年後に会いに来いって言われたから、ラキシタ君のところには行ったのよね? どうして賀旨(かし)には行かないの?」
「それが、拉致してまで聞くことなの?」
「あなたが逃げるからじゃない」
話をそらそうとしてる。
「逃げてはいないよ。追い駆けられてないのに」
「今、逃げようとしてるでしょ」
「突然こんなところに突っ込まれたら、そうなる。行かなきゃならないところがある。出して」
「尾丹大臣の宴なら遅れてかまわないでしょ」
今日開催されるパーティーは調べてる。
ル・アくんが、大きなため息をついて、腕を組んだ。
「何が聞きたいの」
「なぜ、賀旨(かし)に行かないの?」
コメント