【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。203 ~史留暉皇帝~

 

 

そうだよね。

『ル・アくんに殺されるため』に整えてるなんて、わからないものね。

 やっぱり、ガリさんは、その気なんだ?

 リョウさんがこんなに悩むほど、何も言ってないんだ?

 本当に、『そこ』に向かって突っ走ってるんだ?

 ル・マちゃんの、先見の夢、一つのために?

 ガリさんは、あの未来を知らないのに?

 ル・マちゃんを、信じて?

「副族長っ!」

 伝令が走ってきた。慌ててリョウさんが、顔を拭いて立ち上がる。

「賀旨(かし)が叛乱を起こしましたっ!」

「カシ? あんな遠いクニ、」

「リョウさんっ! 賀旨から王宮はお米を輸入してるんだよっ! あそこが背いたら、煌都(こうと)が飢えちゃうよ! あと、リョウさんが好きな清酒も、賀旨のだよっ! 他の国は清酒を作ってないよ!」

「セイシュもかっ!」

 大事なのはお米じゃないのねっ!

 とりあえず、目先の大事ができたからか、リョウさんが元気になった。良かった。お酒って凄い。

 ああそうか……最近リョウさん、凄くお酒を飲むようになってた。サル・シュくんのようにならないように、まだ、お酒で押さえてるんだ? 逆に、サル・シュくんはお酒を飲まないから……

 そうだ。だから、『以前、グア・アさんが車李から毒酒を持って帰って来たとき』も、サル・シュくんとショウ・キさんが生きてたんだ。

 そっか。サル・シュくんは『お酒に逃げる』ことが、できないんだね。しらふなんだ。

 しらふであれなんだ。

「サル・シュくんは、あのままで、いいの? リョウさん」

「ガリがとめてない」

 リョウさんは、一度も私を見ずに¢ため息をついた。

 そうなのね。

 ガリさんを見放したとか言っても、まだ、信じるのね。

 もう、『キラ・シの副族長』なのね?

 このすぐ後に、ガリさんもサル・シュくんも帰って来たから、リョウさんが賀旨(かし)鎮圧に出た。

 そして、大魔神が出るんだな、これが。

「ハル、リョウ叔父に抱きつかれてたって?」

 すっっごい怒ってるサル・シュくん。

 また噛みつかれる!

 まぁ、それは覚悟してたけど……

 絶対、サル・シュくんに諜報を担ってもらった方がいいと思うの。

 あそこで見てたの誰? それをサル・シュくんに報告する人って誰?

「リョウさんが……泣いちゃったから…………」

「なんで? リョウ叔父がなんで泣いた?」

 ちょっとだけ、サル・シュくんの怒気が薄れた。

「最近、ガリさんのやることがわけわからない、って、困って」

「あぁ……」

 サル・シュくん、納得してくれたみたい。良かった!

「でも、ル・アに関してのことだけだろ」

「それが問題なんじゃない」

「それは、ル・アがなにかガリメキアにしたんだって。女盗ったんだって」

 そればっかりっ! そんな理由じゃないわよっ! て、言いたいっ!

「サル・シュくんは、息子に女の人盗られたら殺すの?」

「当たり前だろ」

「当たり前なのっ?」

 一瞬の逡巡も無し?

 というか、普通に喋ってくれてるわ! 良かった!

 叛乱先に強い人がいたのかしら?

 なんか、凄いっ! 前のサル・シュくんだっ!

「当たり前だろ。そんな馬鹿、生かしてどうする」

「山ではお母さんにも子を産ませたんでしょ?」

「こっちでそんなことする必要ないだろ。幾らでも女居るのに。ここで、誰かの女を盗る馬鹿は生かす理由がない」

 サル・シュくんは悩まなくていいなぁ……

 でも、ル・アくんが生きてると知ったらどうするだろう?

 連れ戻すよね?

 だから、言えないよね?

 リョウさんの心痛が増えるだけね。

 私も胃が痛い……

 ゼルブがいないから、情報も遅いし……

 本当に、でも、『滅びる前』ってこうなんだろうな……

 櫛の歯が抜けるように重要な人がいなくなって、残った人達も、どんどんおかしくなって来る。

 敗戦国の最後ってこうだよね。段々バラバラになって、保身しか考えなくなって、逃げていくの。

 キラ・シは保身が無いから、まだ、マシなのかな。

「サル・シュくん、元気ね。嬉しい」

「東で出た叛乱、面白そうだ」

 牙を見せびらかすように、サル・シュくんは、笑った。

 闘いの前の顔だ。

 凄く闘いで楽しめると、思ってる、その、一番楽しいときの顔だ。

 その報で元気になったの? 現時点では、他の叛乱と同じなのに? そこに夕羅(せきら)くんが、強い人がいる、って、気がつくの? それで、サル・シュくん、元気になったの?

 やっぱりサル・シュくんの『感覚』ってとんでもないな……

 死に花を咲かせるためだけに、『元に戻った』んだ?

 フンフンフフーンって、楽しそうにふわふわしてる。かわいい。

 私を見て『ん?』って笑ってくれる。にちゃって猫が目を閉じたみたいになって、ふわっと開いた大きな眼で、見つめてくれるの。

 綺麗……

 一杯キスをして、二人でキャッキャッと笑って、抱き締め合って静かに眠ったわ。

 強い腕。

 熱い胸。

 サル・シュくんの穏やか寝息。

 嬉しいけど……悲しいね…………

『普通』にしてたら、まだ30年は生きていられる筈なのに……ショウ・キさんだって50過ぎて、まだ元気なのに……

 キラ・シの全員が、ショウ・キさんほど自分が生きられる訳無い、って、自分に呪いを掛けてる。

 長生きしようと思えばできるのに。

『戦うこと』をやめればいいだけなのに。

 それは、考えの隅にもないのよね。

『強くなりたい』とさえ思わなければ、普通に60でも70でも、山の長老ぐらい生きて行けるのに。

 キラ・シのチートすぎる強さは、本当に、命を燃やした強さなんだね。

 強すぎてずるい、と『最初』の頃は思った。

 けど今は、その強さが、悲しい。

 まるで花火のような生き方。

 そして私はまた、あと80年も長生きするんだ……

 サル・シュくんがいないのに……

  

 

  

 

 賀旨(かし)で出た反乱は、やっぱり紅渦(こうか)軍だった!

『史留暉(しるき)皇帝』を担いで出てきた! 賀旨の南の川科果(せんかか)国が無条件降伏して通したって! リョウさんが慌てて帰って来た。押さえられる規模ではない、って。

「いつもの叛乱と違うんだろ?」

 サル・シュくんが凄く楽しそう。

「ものすごく強い人が居るわよ。ガリさんぐらい」

 キャッ! って、子供みたいにサル・シュくんが両手をあげて満面の笑顔! ああ、サル・シュくんが戻ってきてくれた! 嬉しい! もう、どうでもいいよっ!

「殺していいんだよな!」

「もちろん!」

 本当に夕羅くんを殺されたらまた『やり直し』だけど、いいよ、もう。サル・シュくんの好きにして。こないだも死ぬ覚悟したし、もう、何回死んでも、いいよ!

 サル・シュくんが楽しければ。

 問題は、キラ・シ本隊なんだよね……

 紅渦軍……これ、まっすぐ煌都(こうと)に来るんじゃない?

 どうする? 騎羅史(きらし)城に沙射(さしゃ)君いるよ? 出す?

『前回』は私が沙射君を担ぎ上げたんだよね。

 だから、私が言わなければ、キラ・シの誰も、『本当の皇帝』がこっちにいることは、知らない。

  

 

 

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