そうだよね。
『ル・アくんに殺されるため』に整えてるなんて、わからないものね。
やっぱり、ガリさんは、その気なんだ?
リョウさんがこんなに悩むほど、何も言ってないんだ?
本当に、『そこ』に向かって突っ走ってるんだ?
ル・マちゃんの、先見の夢、一つのために?
ガリさんは、あの未来を知らないのに?
ル・マちゃんを、信じて?
「副族長っ!」
伝令が走ってきた。慌ててリョウさんが、顔を拭いて立ち上がる。
「賀旨(かし)が叛乱を起こしましたっ!」
「カシ? あんな遠いクニ、」
「リョウさんっ! 賀旨から王宮はお米を輸入してるんだよっ! あそこが背いたら、煌都(こうと)が飢えちゃうよ! あと、リョウさんが好きな清酒も、賀旨のだよっ! 他の国は清酒を作ってないよ!」
「セイシュもかっ!」
大事なのはお米じゃないのねっ!
とりあえず、目先の大事ができたからか、リョウさんが元気になった。良かった。お酒って凄い。
ああそうか……最近リョウさん、凄くお酒を飲むようになってた。サル・シュくんのようにならないように、まだ、お酒で押さえてるんだ? 逆に、サル・シュくんはお酒を飲まないから……
そうだ。だから、『以前、グア・アさんが車李から毒酒を持って帰って来たとき』も、サル・シュくんとショウ・キさんが生きてたんだ。
そっか。サル・シュくんは『お酒に逃げる』ことが、できないんだね。しらふなんだ。
しらふであれなんだ。
「サル・シュくんは、あのままで、いいの? リョウさん」
「ガリがとめてない」
リョウさんは、一度も私を見ずに¢ため息をついた。
そうなのね。
ガリさんを見放したとか言っても、まだ、信じるのね。
もう、『キラ・シの副族長』なのね?
このすぐ後に、ガリさんもサル・シュくんも帰って来たから、リョウさんが賀旨(かし)鎮圧に出た。
そして、大魔神が出るんだな、これが。
「ハル、リョウ叔父に抱きつかれてたって?」
すっっごい怒ってるサル・シュくん。
また噛みつかれる!
まぁ、それは覚悟してたけど……
絶対、サル・シュくんに諜報を担ってもらった方がいいと思うの。
あそこで見てたの誰? それをサル・シュくんに報告する人って誰?
「リョウさんが……泣いちゃったから…………」
「なんで? リョウ叔父がなんで泣いた?」
ちょっとだけ、サル・シュくんの怒気が薄れた。
「最近、ガリさんのやることがわけわからない、って、困って」
「あぁ……」
サル・シュくん、納得してくれたみたい。良かった!
「でも、ル・アに関してのことだけだろ」
「それが問題なんじゃない」
「それは、ル・アがなにかガリメキアにしたんだって。女盗ったんだって」
そればっかりっ! そんな理由じゃないわよっ! て、言いたいっ!
「サル・シュくんは、息子に女の人盗られたら殺すの?」
「当たり前だろ」
「当たり前なのっ?」
一瞬の逡巡も無し?
というか、普通に喋ってくれてるわ! 良かった!
叛乱先に強い人がいたのかしら?
なんか、凄いっ! 前のサル・シュくんだっ!
「当たり前だろ。そんな馬鹿、生かしてどうする」
「山ではお母さんにも子を産ませたんでしょ?」
「こっちでそんなことする必要ないだろ。幾らでも女居るのに。ここで、誰かの女を盗る馬鹿は生かす理由がない」
サル・シュくんは悩まなくていいなぁ……
でも、ル・アくんが生きてると知ったらどうするだろう?
連れ戻すよね?
だから、言えないよね?
リョウさんの心痛が増えるだけね。
私も胃が痛い……
ゼルブがいないから、情報も遅いし……
本当に、でも、『滅びる前』ってこうなんだろうな……
櫛の歯が抜けるように重要な人がいなくなって、残った人達も、どんどんおかしくなって来る。
敗戦国の最後ってこうだよね。段々バラバラになって、保身しか考えなくなって、逃げていくの。
キラ・シは保身が無いから、まだ、マシなのかな。
「サル・シュくん、元気ね。嬉しい」
「東で出た叛乱、面白そうだ」
牙を見せびらかすように、サル・シュくんは、笑った。
闘いの前の顔だ。
凄く闘いで楽しめると、思ってる、その、一番楽しいときの顔だ。
その報で元気になったの? 現時点では、他の叛乱と同じなのに? そこに夕羅(せきら)くんが、強い人がいる、って、気がつくの? それで、サル・シュくん、元気になったの?
やっぱりサル・シュくんの『感覚』ってとんでもないな……
死に花を咲かせるためだけに、『元に戻った』んだ?
フンフンフフーンって、楽しそうにふわふわしてる。かわいい。
私を見て『ん?』って笑ってくれる。にちゃって猫が目を閉じたみたいになって、ふわっと開いた大きな眼で、見つめてくれるの。
綺麗……
一杯キスをして、二人でキャッキャッと笑って、抱き締め合って静かに眠ったわ。
強い腕。
熱い胸。
サル・シュくんの穏やか寝息。
嬉しいけど……悲しいね…………
『普通』にしてたら、まだ30年は生きていられる筈なのに……ショウ・キさんだって50過ぎて、まだ元気なのに……
キラ・シの全員が、ショウ・キさんほど自分が生きられる訳無い、って、自分に呪いを掛けてる。
長生きしようと思えばできるのに。
『戦うこと』をやめればいいだけなのに。
それは、考えの隅にもないのよね。
『強くなりたい』とさえ思わなければ、普通に60でも70でも、山の長老ぐらい生きて行けるのに。
キラ・シのチートすぎる強さは、本当に、命を燃やした強さなんだね。
強すぎてずるい、と『最初』の頃は思った。
けど今は、その強さが、悲しい。
まるで花火のような生き方。
そして私はまた、あと80年も長生きするんだ……
サル・シュくんがいないのに……
賀旨(かし)で出た反乱は、やっぱり紅渦(こうか)軍だった!
『史留暉(しるき)皇帝』を担いで出てきた! 賀旨の南の川科果(せんかか)国が無条件降伏して通したって! リョウさんが慌てて帰って来た。押さえられる規模ではない、って。
「いつもの叛乱と違うんだろ?」
サル・シュくんが凄く楽しそう。
「ものすごく強い人が居るわよ。ガリさんぐらい」
キャッ! って、子供みたいにサル・シュくんが両手をあげて満面の笑顔! ああ、サル・シュくんが戻ってきてくれた! 嬉しい! もう、どうでもいいよっ!
「殺していいんだよな!」
「もちろん!」
本当に夕羅くんを殺されたらまた『やり直し』だけど、いいよ、もう。サル・シュくんの好きにして。こないだも死ぬ覚悟したし、もう、何回死んでも、いいよ!
サル・シュくんが楽しければ。
問題は、キラ・シ本隊なんだよね……
紅渦軍……これ、まっすぐ煌都(こうと)に来るんじゃない?
どうする? 騎羅史(きらし)城に沙射(さしゃ)君いるよ? 出す?
『前回』は私が沙射君を担ぎ上げたんだよね。
だから、私が言わなければ、キラ・シの誰も、『本当の皇帝』がこっちにいることは、知らない。
コメント