【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。213 ~おヒゲ~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 そうだ、ダンプにひき殺されたんだ!

 今回も、ダンプは突っ込んできた、けど、ギリギリ、リョウさんが私を抱いて歩道に逃げてくれた!

 私のバイクはスルメ。

「……よくわかったな、ハル…………俺も死んでいたぞ、助かった!」

 なんか、うん……思い出せて良かった。

 ああ、そうか。

 あの時代に死んで、あの世界の未来に、生まれ変わったんだ?

 いまさら思い出した。

 ほんとに?

 もう、富士山爆発は、しないの?

 あの歴史を繰り返さなくてもいいの?

 私はもう、地図を書かなくても、いいの?

「だから追い駆けてきたの?」

「ああっ! もちろんだっ!」

「危ないじゃないっ! 私が事故ったらどうするのよっ!」

「あんなとろとろ運転でこけても怪我はせんだろ。自転車より遅かった。バイクを使っている意味があるのか? 逆に、なぜこけないのかと心配になるスピードだったぞ。はっきり顔が確認できたから良かったが」

「どれだけ怖かったと思ってるのよっ!」

 リョウさんが私を見て、ククッ……て笑って、抱きしめてくれた。

 あーっリョウさんの腕だーっ! ワーイっ!

「……けほっ……リョウさん、香水くさい……」

「まぁ……この服だからな」

 そうだよね。ダブルスーツの三つ揃え。

「マフィアのボスみたい」

「よく言われる」

「リョウさんが香水……」

 思わず笑ってしまった。

「似合わんのは分かってる。しかもな、聞いて驚け。エゴイストだ」

「どこで笑ったらいいのかがわかんないよー」

 ぎゅーーーーーって、されるのが、気持ち、いい!

「ハル……やってくれたのだな……、ガリの望みを、かなえてくれた…………こんなに、キラ・シが、世界中にいるっ!」

「うんっ……うんっ………………いるよっ! みんな生き残ったよっ! 私も122才まで生きたんだよっ!」

「122っ? 凄いな! …………俺は、いつまで生きてたのだったか……」

 ふわっとリョウさんが泣いたから、ハンカチでぬぐって、頬にキスした。

 つらかったよね……戦って死んだんだもんね…………

 私はその最後、見てないけど、死体は見たよ。

 針鼠になってた。サル・シュくんが首を取ったから、しばらく城門前にさらされてたよ。ガリさんと並んで。

「リョウさんも、凄かったよ……48まで生きてたよ………………ガリさんと一緒に、48までっ……ショウ・キさんだって、59まで生きたんだよっ!」

「俺が今48だっ!」

「わーんっ……私17だよーっ! おじさんじゃないのーっ! 馬鹿ーっ! アンチエイジング死ぬほどやってよね! 長生きしないと承知しないよっ!」

「任せておけ! 金はある。300才まで生きてやるさ。そのころになったら、31才差なんて誤差だ!」

「凄い! お金はあるんだ? まぁ……この格好にリムジンだもんね……」

「とりあえず、食事でもせんか?」

「もうバイク、車にのせてるじゃないっ! 他の返事なんか無いでしょっ! もうっ!」

 全壊のバイク、リムジンの屋根に乗せられてる。

「もちろんだっ! もう離すものか! 俺は独身だ。ハルもだろうっ! 今すぐ親御さんに挨拶に行きたいぐらいだっ!」

 腰を持って、リムジンに連れ込まれた。はたから見たら誘拐じゃない? これ。バックシートいっぱいにリョウさん。たしかにリムジンぐらい無いと狭そう……しかも、脂肪で太ってるんじゃないよこれ。固いよ腕! こんな筋肉ってつくものなの?

 テーブルに花瓶とシャンパンと果物いっぱいっ!

「私に彼氏がいるとか聞かないところが本当にキラ・シのままだねっ!」

「いるのか?」

「いたらどうするの?」

「決闘しよう」

 リョウさんが出した力こぶを、上等なスーツの上から叩いてみた。メッチャ硬い。シュワちゃんよりでかいっ! 私のウエストぐらいある?『前』より大きいんじゃない?

「いないので……心配しないでいいです……」

「だろうな」

「なんでわかったのっ!」

「あんな抱きつき方をしておいて、恋人がいるとは思わんだろう。素直に乗せられてるし」

「…………そっか……」

 そうかな、ガリさんでもサル・シュくんでもル・アくんでも、似たように抱きついたと思うけどな……

 こんな人、彼氏ですって連れて帰ったら、母さんも父さんも腰抜かすだろうな……31才違い……って、父さんより年上!

「そういえば、仕事はナニ? 私は高校生だよ。もうすぐ大学受験」

「民間派遣会社のCEOだ。去年が……年商2500億ドルだな。今年はもっと行くぞ」

 すっご…………たしかに、『金はある』のね。

「ついこの前除隊したところだ。大佐まで行ったぞ! その仲間だけで会社を作った。最初から人手不足で仕方がない。誰か知り合いに強い奴はおらんか?」

「……民間派遣会社って言ってなかった?」

「戦闘員を派遣している」

 戦・闘・員、派遣!

「……うわー……それ、民間なの?」

「民間だ。まぁ、クライアントは『国家』だがな」

 国家相手に戦闘員を派遣……さすがキラ・シの副族長。脳筋には変わりないけど頭使ってる!

「会社作れるほど頭いいの? リョウさん」

「俺は看板だ。書類は別の奴が作った」

 良かった! あの頃からそんな頭良かったのかと思った。でも、まぁ、頭良かったよね、あの頃から。

「今だからわかることだが、こんな仕事をしていたらサル・シュとかガリとかの噂を聞きそうなモノなのに聞かん。俺が軍隊にいるのだ。あいつらも軍人じゃないのか? 目立っていないとおかしいぞ」

 リョウさんが、私の膝に置いたタブレットを、私の腰から回した手でぐるぐる回してる。顔写真が飛んで行く。

「これはなんの写真?」

「『強い系』で名前がてる奴らだ。ハルに会ったから記憶が戻ったのなら、前に会っていてもわからなかっただけかもしれん。とりあえず、知った名前に『キラ・シの奴ら』はいないしな……名前が違うかもしれんが……」

「そういえば、リョウさん、フルネームは?」

「リョウ・カ。そのままだ。キラ・シ人だしな。

 だから、あいつらもそのままだろう?」

「そうだね。その可能性は高いよね。私も、キラ・シ人だよ。名前もハル・ナで、キラ・シ風になってるし……」

「……偽名が通り名なら、名前だけではわからんな……そうなると……やっかいだな」

「それって、どういう場合?」

「スパイとか、著名人とか……コードネームとか、ペンネームで有名なら、名前ではわからんし………逆に言うと、本名がわからなくて顔写真がない奴の方が心当たりがある」

「……顔写真がない? ってどういうこと? フェイスブックでみんなの顔が公開されてるのに?」

「殺し屋とか、スパイとか、裏家業だな」

「あー…………サギさんとか、ありえるよね」

「そうだな、ゼルブはその可能性が高いな……情報系で顔写真やフルネームが出てない奴なんてごまんといるぞ。どう捜せばいいものか……」

「サル・シュくんなんて、どこかの国でアイドルかモデルやってるんじゃない? 芸名でもわからないよね?」

「そうだな。そっちは俺も興味がないし、ハルにあうまで顔写真を見ても気づかなかったとしたら、ありえるな……」

 私の端末でリョウさんを検索したらすぐに出てきた。本当に軍人さんだったんだ? 軍服……戦争反対派の友人がアレルギー起こすな…………うっとうしかったし、これを機会に縁が切れるといいな。

「リョウさんのフェイスブック……おヒゲがないよ?」

 

 

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