そうだ、ダンプにひき殺されたんだ!
今回も、ダンプは突っ込んできた、けど、ギリギリ、リョウさんが私を抱いて歩道に逃げてくれた!
私のバイクはスルメ。
「……よくわかったな、ハル…………俺も死んでいたぞ、助かった!」
なんか、うん……思い出せて良かった。
ああ、そうか。
あの時代に死んで、あの世界の未来に、生まれ変わったんだ?
いまさら思い出した。
ほんとに?
もう、富士山爆発は、しないの?
あの歴史を繰り返さなくてもいいの?
私はもう、地図を書かなくても、いいの?
「だから追い駆けてきたの?」
「ああっ! もちろんだっ!」
「危ないじゃないっ! 私が事故ったらどうするのよっ!」
「あんなとろとろ運転でこけても怪我はせんだろ。自転車より遅かった。バイクを使っている意味があるのか? 逆に、なぜこけないのかと心配になるスピードだったぞ。はっきり顔が確認できたから良かったが」
「どれだけ怖かったと思ってるのよっ!」
リョウさんが私を見て、ククッ……て笑って、抱きしめてくれた。
あーっリョウさんの腕だーっ! ワーイっ!
「……けほっ……リョウさん、香水くさい……」
「まぁ……この服だからな」
そうだよね。ダブルスーツの三つ揃え。
「マフィアのボスみたい」
「よく言われる」
「リョウさんが香水……」
思わず笑ってしまった。
「似合わんのは分かってる。しかもな、聞いて驚け。エゴイストだ」
「どこで笑ったらいいのかがわかんないよー」
ぎゅーーーーーって、されるのが、気持ち、いい!
「ハル……やってくれたのだな……、ガリの望みを、かなえてくれた…………こんなに、キラ・シが、世界中にいるっ!」
「うんっ……うんっ………………いるよっ! みんな生き残ったよっ! 私も122才まで生きたんだよっ!」
「122っ? 凄いな! …………俺は、いつまで生きてたのだったか……」
ふわっとリョウさんが泣いたから、ハンカチでぬぐって、頬にキスした。
つらかったよね……戦って死んだんだもんね…………
私はその最後、見てないけど、死体は見たよ。
針鼠になってた。サル・シュくんが首を取ったから、しばらく城門前にさらされてたよ。ガリさんと並んで。
「リョウさんも、凄かったよ……48まで生きてたよ………………ガリさんと一緒に、48までっ……ショウ・キさんだって、59まで生きたんだよっ!」
「俺が今48だっ!」
「わーんっ……私17だよーっ! おじさんじゃないのーっ! 馬鹿ーっ! アンチエイジング死ぬほどやってよね! 長生きしないと承知しないよっ!」
「任せておけ! 金はある。300才まで生きてやるさ。そのころになったら、31才差なんて誤差だ!」
「凄い! お金はあるんだ? まぁ……この格好にリムジンだもんね……」
「とりあえず、食事でもせんか?」
「もうバイク、車にのせてるじゃないっ! 他の返事なんか無いでしょっ! もうっ!」
全壊のバイク、リムジンの屋根に乗せられてる。
「もちろんだっ! もう離すものか! 俺は独身だ。ハルもだろうっ! 今すぐ親御さんに挨拶に行きたいぐらいだっ!」
腰を持って、リムジンに連れ込まれた。はたから見たら誘拐じゃない? これ。バックシートいっぱいにリョウさん。たしかにリムジンぐらい無いと狭そう……しかも、脂肪で太ってるんじゃないよこれ。固いよ腕! こんな筋肉ってつくものなの?
テーブルに花瓶とシャンパンと果物いっぱいっ!
「私に彼氏がいるとか聞かないところが本当にキラ・シのままだねっ!」
「いるのか?」
「いたらどうするの?」
「決闘しよう」
リョウさんが出した力こぶを、上等なスーツの上から叩いてみた。メッチャ硬い。シュワちゃんよりでかいっ! 私のウエストぐらいある?『前』より大きいんじゃない?
「いないので……心配しないでいいです……」
「だろうな」
「なんでわかったのっ!」
「あんな抱きつき方をしておいて、恋人がいるとは思わんだろう。素直に乗せられてるし」
「…………そっか……」
そうかな、ガリさんでもサル・シュくんでもル・アくんでも、似たように抱きついたと思うけどな……
こんな人、彼氏ですって連れて帰ったら、母さんも父さんも腰抜かすだろうな……31才違い……って、父さんより年上!
「そういえば、仕事はナニ? 私は高校生だよ。もうすぐ大学受験」
「民間派遣会社のCEOだ。去年が……年商2500億ドルだな。今年はもっと行くぞ」
すっご…………たしかに、『金はある』のね。
「ついこの前除隊したところだ。大佐まで行ったぞ! その仲間だけで会社を作った。最初から人手不足で仕方がない。誰か知り合いに強い奴はおらんか?」
「……民間派遣会社って言ってなかった?」
「戦闘員を派遣している」
戦・闘・員、派遣!
「……うわー……それ、民間なの?」
「民間だ。まぁ、クライアントは『国家』だがな」
国家相手に戦闘員を派遣……さすがキラ・シの副族長。脳筋には変わりないけど頭使ってる!
「会社作れるほど頭いいの? リョウさん」
「俺は看板だ。書類は別の奴が作った」
良かった! あの頃からそんな頭良かったのかと思った。でも、まぁ、頭良かったよね、あの頃から。
「今だからわかることだが、こんな仕事をしていたらサル・シュとかガリとかの噂を聞きそうなモノなのに聞かん。俺が軍隊にいるのだ。あいつらも軍人じゃないのか? 目立っていないとおかしいぞ」
リョウさんが、私の膝に置いたタブレットを、私の腰から回した手でぐるぐる回してる。顔写真が飛んで行く。
「これはなんの写真?」
「『強い系』で名前がてる奴らだ。ハルに会ったから記憶が戻ったのなら、前に会っていてもわからなかっただけかもしれん。とりあえず、知った名前に『キラ・シの奴ら』はいないしな……名前が違うかもしれんが……」
「そういえば、リョウさん、フルネームは?」
「リョウ・カ。そのままだ。キラ・シ人だしな。
だから、あいつらもそのままだろう?」
「そうだね。その可能性は高いよね。私も、キラ・シ人だよ。名前もハル・ナで、キラ・シ風になってるし……」
「……偽名が通り名なら、名前だけではわからんな……そうなると……やっかいだな」
「それって、どういう場合?」
「スパイとか、著名人とか……コードネームとか、ペンネームで有名なら、名前ではわからんし………逆に言うと、本名がわからなくて顔写真がない奴の方が心当たりがある」
「……顔写真がない? ってどういうこと? フェイスブックでみんなの顔が公開されてるのに?」
「殺し屋とか、スパイとか、裏家業だな」
「あー…………サギさんとか、ありえるよね」
「そうだな、ゼルブはその可能性が高いな……情報系で顔写真やフルネームが出てない奴なんてごまんといるぞ。どう捜せばいいものか……」
「サル・シュくんなんて、どこかの国でアイドルかモデルやってるんじゃない? 芸名でもわからないよね?」
「そうだな。そっちは俺も興味がないし、ハルにあうまで顔写真を見ても気づかなかったとしたら、ありえるな……」
私の端末でリョウさんを検索したらすぐに出てきた。本当に軍人さんだったんだ? 軍服……戦争反対派の友人がアレルギー起こすな…………うっとうしかったし、これを機会に縁が切れるといいな。
「リョウさんのフェイスブック……おヒゲがないよ?」
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