「たまに生やしたくなるんだ……最近の写真はそこにないし。元々、俺がそのページを作っているわけではないから、ナニが載っているかも知らん。
髭は、みっともないから、剃れ剃れと言われていた。
多分、ハルにすぐに分かってもらうために伸ばしていたのだろうな。絶対剃らない、と思っていたが、今はもう、剃りたい。凄く。そこの散髪屋に入っていいか、と聞きたいぐらいだ」
「行ってもいいよ? そんなかからないでしょ?」
「…………いや、明日にしよう」
「お髭のないリョウさんもカッコイイ!」
照れてる熊さん超カワイイ。
「リョウさん……凄い勲章取ってるね! ……このツーショット写真、大統領に似てる…………歴代大統領のそっくりさんが三人も……」
「本人だ」
「えっ!」
「聞いて驚け。救国の英雄だぞ。
本当にこっちの業界に興味がないのだなハルは。何度もテレビに出たし、本もたくさん出したし、新聞にも出たし、もうちょっと若い頃はカレンダーも出たんだぞ! 一億枚売れたのに!」
「一億枚……」
桁が違う……
「お前の知り合いは俺のことを知ってる奴が大勢いるぞきっと。Twitterのフォロワーは5億人越えてるからな」
「えーっ? 私が知らないんだから、周りみんな知らないと思わない?」
「……そうだな…………戦争反対集会に来るような奴には腐った卵を投げられるからな……」
「わー……大変…………私も出たことあるわ、そういう集会。戦争反対、じゃなく、平和集会の方だけど…………あ、なんかメッセがいっぱい来た……」
ライン確認したらなんか……みんな焦ってる。ナニ? あ、私がリムジンに連れ込まれるところの写真……なんでこんなのがっ!
読む前に、肩を抱き寄せられて額にチュッてされた。ヒャッ、てなる。記憶は120歳の婆でも、体はまだ17才なんだもんっ!
「落ち着かんな……」
って……膝に乗せられたっ!
そのままキスっ!
ディープっ!
「ファーストキスだよーっ! リョウさーんっ! もっとロマンティックなのが良かった! 最初からディープってナニッ!」
「俺はハルがラストキスだっ!」
また、キス、キス、キス。
アー、もー、やだー…………リョウさんが、サル・シュくんみたいになんか、スマートになってるぅっ!
「お子さんは?」
「今回は、今のところいない。童貞だとは言わん」
「ホントに? 別にいいんだよ? 私、もう数百人育ててきたんだからっ!」
「いや、本当にいない。
ハルが、俺の子を産んでくれる最初で最後の女だ」
うっ………………いや、そういやこういうこと、前もリョウさん言ってたな…………あの世界だったし、殺伐としてたから、聞き流してたけど……この上等スーツ着て、エゴイスト香って、リムジンの後部座席にいると、凄い、キザ!
「あー、そっかーガリさんとかサル・シュくんとかもいるんだっ! ワクワクするねーっ!」
思わず話そらした。リョウさんがクスクス笑いながら、何度も私の顔にキスをする。うにゃー……気持ちいー。うれしーいっ!
「抱いて降りていいか? あの頃みたいに」
「それはいいけど……なんで降りるの? レストランじゃないよ?」
本当に、左肘に座るみたいに抱かれて車下りた。あー、この動きにくさも久しぶり! 違うな。私が足腰立たなくなってからは、みんなに抱き上げられて移動してたもんな。36人も子供産んだにしては元気だったよね、私!
女の人って、子供を産めば産むほど若返るらしい。妊娠中に若返りホルモンが出るんだって。私、17才の時から、年子で子供産んでて、ずっと妊娠状態だったから、長生きしたのかも。子供たちは誰かが育ててくれたから、私はなんの苦労もなかったし……結局、悠々自適だったし……
って……若いころの記憶はあっても、年取ってからって覚えてないなー……リョウさんのことばっかり考えてたことしか頭にない。
「会いたかった……リョウさん………………」
「俺も、会いたかった、ハル。こんな状態になるなどと、夢のようだ……」
「私も……本当に夢みたい……嬉しい…………って、だから、ここ、なに?」
「ブティックだ。ドレスを作ろう」
「なんでっ!」
既に採寸されてるしっ!
「丁度パーティーに呼ばれていた。断るつもりだったが、ハルが行くなら行こう。顔だけ出して、食事だ」
「え? パーティー? なんで? というか断るつもりでその服なの?」
「これは普段着だ」
シルクの三つ揃えが普段着…………秋物の下着着て、玄関を裸でうろうろしてた人が……
「……そうですか…………というか、行くなら行こう、って…………行かないならドレスいらないよね?」
「俺一人のために着飾ってくれてもいいんだぞ?」
うっわー…………背骨が溶けそう。でも、嬉しいっ! なんか私の中の乙女がかゆいっ! やっぱり、ドレスって楽しいっ! 孫にも衣装だよ! うわぁ……マーメイドドレスっ! 胸とお尻はヒラヒラで隠れてるしっ! 最高!
「あの時は、何もやれなかったからな。
なんでも言え。なんでも揃えてやれる。
金の亡者と言われたが、ハルとこうして遊ぶために貯めていたのだと、ようやく理解した。
会社も誰かに譲って南の島にでも行こう。
のんびりしたい。ただ、ハルと二人だけでいたい……」
ギュギュッ……って、熱い腕。
「じゃあ、お別れのためにもパーティーで挨拶、したほうがよくない?」
「では、行こうか。俺のお姫様」
ファッ……鼻から心臓が出そう……
リョウさんもタキシードに着替えた。
「結婚しろしろとうるさかったからな。前披露宴だ」
なんかリョウさんの口からパーティーとかブティックとか出てくると、『キラキラ石』より凄い不思議。今度は凄い文明人だね!
白いパーティードレスに豪華なネックレスとティアラ。エステまで連れてかれた。パーティーを幾つか回って、イブニングドレスに着替え。リョウさんは燕尾服。初めて生で見た、燕尾服! この巨体で燕尾服っ! 迫力在る! ただ、『燕』には見えない。黒駝鳥みたい。
パーティー会場でも、ずっと私、リョウさんの左肘にいた。
「ねぇ……ちょっと……みんな見たことある顔だし…………あそこにいるの大統領だよっ! なんのパーティーなのコレッ!」
「大統領主催の国際慈善パーティーだ。カメラは全部世界同時放送だぞ」
はぁうっ! リョウさんっ、私を抱いたまま、大統領と握手してるぅっ!
「余程大事なおかたかな? 今まで見たことのないお嬢さんだ」
そりゃそう言うしかないよね……フラッシュまぶしくて何も見えない……消えたい…………
「永遠につなぎ止めておきたい唯一の女です。抱いておかないとどこに飛んで行くかわからないもので」
「酷いっ! 私、浮気したことなんて一度もないのにっ! 女の人に手が早いのはリョウさんでしょっ!」
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