【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。217 ~二人しかいない世界へ~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「もちろんだよっ!」

「サル・シュがいないな」

「まぁ、サル・シュくんは」

「神出鬼没だから」

 リョウさんとル・アくんと私の声が揃った。

 またゲラゲラ笑っちゃう。

 私が、誰かと会うのが記憶の引き金だったのかな。ガリさんには会ってなくても、あっちから連絡が来たんだものね。リョウさんの世界放送のせいだよね?

 あのあとリョウさん、帰ってすぐ髭を剃ったんだ。多分、あれを世界放送したかったから残してたんだよね。分かりやすいから。

「ル・アくんは、リョウさんの世界放送聞いてないの?」

「噂には聞いてるけど、見てないな。赤の他人の冠婚葬祭に興味ない…………」

 気持ちは分かる。私も以前はそうだった。

 ああ、だから、私と会うまで記憶が蘇らなかったのかな?

「……って、あんた、これ、駄目だろ。なに浮かれてんだジジイ、気持ち悪い!」

 端末でその動画出して眉を寄せたル・アくん。

「あんたの演説は聞いた事あるぞ。いいこと言うなぁ、と思ってたのに、なんだこれっ! 人前で処女とか言ってやるなよ!」

「あーっそれっ! ホントっ! もっと言ってもっと言ってル・アくんっ! メッチャ恥ずかしかったのよアレッ!」

「当たり前だ、ホント、ジジイ、頭のネジ跳びすぎ!」

「飛んでた、確かに。友人達からも突き上げを食らった! わかってるっ!」

「分かってるじゃねーだろっ! 馬鹿っ! どんだけハルが恥かいてると思ってんだこの筋肉ダルマ! 大統領と話すときぐらい、ハル下ろせよ!」

 ル・アくんの罵倒大作戦になった。

 リョウさんがあの体でキュウッて小さくなってる。

 ちょっと胸がすいた。

 まぁ、別に、もう、いいんだけどさ。

 あのあと、日本もね、調べてみたんだ。

 1000年前に、富士山の噴火で沈没したんだって。

 富士山が噴火して、みんなが避難してる間に徐々に沈んで、200年後に、二つに割れた富士山のてっぺんと日本アルプスのてっぺん以外、沈んじゃったって。でも、ぽつぽつと無人島はたくさんあって『日本国』自体はあるから、そこらへんが中国とか韓国の領海になったわけではないって。

 その他は、全部、私の記憶と同じ国がある。

 ただ、キラ・シが下りた山と、下りた大陸は、私の知ってた地図と違ってた。

 太平洋のど真ん中に、あったんだ。ミッドウェーの辺りから、赤道にかけて。

 ムー大陸がありそうな所。

『羅季(らき)大陸』って名前がついてた。西鹿毛山脈は『キラ山脈』になってる。ガリさんたちと行かなかった『キラ』の部族が、残ってたみたい。

 もう、考えるのはやめたけど……なんだったんだろうね……

 ここは私の生まれた地球じゃないのは確定したんだ。

『日本国』は地図に残ってるけど、住める土地が無くなったから。日本人とキラ・シ人が同じ黄色人種で『国土がない』ってことで、同じ扱いをしてる人も多い。だから、頭が良くて、運動も凄い、っていう、両極端な人種だと思ってる人いる。

 日本自体は、結果的に『洋上都市』を『領海全体』に作ってた。だから、国土があったより居住地域は広がってる。

 まぁ、それはいいけど。

 ここも『地球』なんだよね。もう、住んでた時間の方が、長い……

 いまさら『あの地球』に戻りたいとは思わないけど、どうなるんだろう? こっちの世界でも自然死したら、こっちの世界の未来に転生するのかな?

 いつ、死ねるのかな?

 できたら、この、キラ・シの戦国時代の記憶を忘れたいんだけどな……

 ル・アくんと物凄い喋り込んでるリョウさん。ガリさんとも端末で喧々囂々してるみたい。ガリさんの組織とか調べるのに命令飛ばしてる。あちこちから連絡が入って大変そう。あのパーティーのあとも『三日』が終わった後、怒濤のように連絡が入って、リョウさん、32時間寝てなかった。また凄いことになるんだろうな……

 ちょっとトイレにこそっと抜けた……ら、金髪のお人形さんみたいな……!

「沙射君っ!」

「…………………………ハルナさん? ……え? なんです? これ……」

「ああ、それ、中に、夕羅丞相とかナール・サス国王とかいるから、そっちとやって! 私、トイレ!」

 恥も外聞もない別れ方でトイレに駆け込んだ!

 個室にいる間に、誰かが入ってきたみたい。出てから手を洗ってたら、隣の個室から出て、来た……人が…………すっごい美人さん。

「ハイ、ハル。元気そうねー。テレビで見たわよー?」

 高い声で挨拶されて、誰だっけ、と思った。けど、テレビで見ただけなら知らない人かもしれない。愛想笑いだけして手をハンカチで拭いた。

 鏡の私ににっこにこしてくれるから、私も笑って返した。

 ヒラヒラ両手を振って歩いてくる、白いロングタイトスカートの、すれ違っただけでも嬉しくなりそうな絶世の美女。マネキンみたいなフルメイク。

 ウォータープルーフのマスカラがあるのに、粉の方が綺麗だから、ってモデルさんが使ってるって言ってた粉マスカラだ。ちょっとこなこなしてるばっさり睫毛。泣いたり汗かいたら大変なことになるのに、でも、がっつり黒くていいんだって。どこがどう違うのかわからないけど、こんなにフルメイクしてると、そっち使うんだなぁ、ってなぜかいまさら納得してしまった。

 黒い髪を金色の簪で豪華なアップにして、ハイネックの金色のレースが顎先まで隠してる。彼女も手を洗って、白い手袋を、はめた。

「あらいい匂い。なんの香水?」

 首元でクンクンされてしまった。

「何も香水は……つけて……な……」

 簪の一本を、抜いて、私の首に、当てた……のが、鏡で見えてる。

 え? ナニ?

「誰と結婚式だって?」

 低い、声。

 男の人だ。え? 女装?

「他の男に触られたら殺す、って」

 簪の先端で喉を撫でられる。

「言った、よ、な?」

 サル・シュくん……だ…………

 凄い、化粧で顔変わってるけど、この目はサル・シュくんだ。

 そうだ。

 この『歴史』、最初がサル・シュくんで始まってたんだ?

 あの森で、最初に会ったの、サル・シュくんだった!

 長すぎて、忘れてた。

 リョウさんも、全然、違和感なかった、から……

『ずっと、こうするのが夢だった……』

 あれは、そう……なの?

 サル・シュくんと私がそうしてたから?

 ガリさんと私がそうしてたから?

 自分もしたかった……と、いうこと?

「行こうか? ハル」

「……ど…………どこ、に……?」

「俺と、ハルと……二人しかいない世界へ」

 顔から血の気が引いた。

  

 

  

 

 

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