「もちろんだよっ!」
「サル・シュがいないな」
「まぁ、サル・シュくんは」
「神出鬼没だから」
リョウさんとル・アくんと私の声が揃った。
またゲラゲラ笑っちゃう。
私が、誰かと会うのが記憶の引き金だったのかな。ガリさんには会ってなくても、あっちから連絡が来たんだものね。リョウさんの世界放送のせいだよね?
あのあとリョウさん、帰ってすぐ髭を剃ったんだ。多分、あれを世界放送したかったから残してたんだよね。分かりやすいから。
「ル・アくんは、リョウさんの世界放送聞いてないの?」
「噂には聞いてるけど、見てないな。赤の他人の冠婚葬祭に興味ない…………」
気持ちは分かる。私も以前はそうだった。
ああ、だから、私と会うまで記憶が蘇らなかったのかな?
「……って、あんた、これ、駄目だろ。なに浮かれてんだジジイ、気持ち悪い!」
端末でその動画出して眉を寄せたル・アくん。
「あんたの演説は聞いた事あるぞ。いいこと言うなぁ、と思ってたのに、なんだこれっ! 人前で処女とか言ってやるなよ!」
「あーっそれっ! ホントっ! もっと言ってもっと言ってル・アくんっ! メッチャ恥ずかしかったのよアレッ!」
「当たり前だ、ホント、ジジイ、頭のネジ跳びすぎ!」
「飛んでた、確かに。友人達からも突き上げを食らった! わかってるっ!」
「分かってるじゃねーだろっ! 馬鹿っ! どんだけハルが恥かいてると思ってんだこの筋肉ダルマ! 大統領と話すときぐらい、ハル下ろせよ!」
ル・アくんの罵倒大作戦になった。
リョウさんがあの体でキュウッて小さくなってる。
ちょっと胸がすいた。
まぁ、別に、もう、いいんだけどさ。
あのあと、日本もね、調べてみたんだ。
1000年前に、富士山の噴火で沈没したんだって。
富士山が噴火して、みんなが避難してる間に徐々に沈んで、200年後に、二つに割れた富士山のてっぺんと日本アルプスのてっぺん以外、沈んじゃったって。でも、ぽつぽつと無人島はたくさんあって『日本国』自体はあるから、そこらへんが中国とか韓国の領海になったわけではないって。
その他は、全部、私の記憶と同じ国がある。
ただ、キラ・シが下りた山と、下りた大陸は、私の知ってた地図と違ってた。
太平洋のど真ん中に、あったんだ。ミッドウェーの辺りから、赤道にかけて。
ムー大陸がありそうな所。
『羅季(らき)大陸』って名前がついてた。西鹿毛山脈は『キラ山脈』になってる。ガリさんたちと行かなかった『キラ』の部族が、残ってたみたい。
もう、考えるのはやめたけど……なんだったんだろうね……
ここは私の生まれた地球じゃないのは確定したんだ。
『日本国』は地図に残ってるけど、住める土地が無くなったから。日本人とキラ・シ人が同じ黄色人種で『国土がない』ってことで、同じ扱いをしてる人も多い。だから、頭が良くて、運動も凄い、っていう、両極端な人種だと思ってる人いる。
日本自体は、結果的に『洋上都市』を『領海全体』に作ってた。だから、国土があったより居住地域は広がってる。
まぁ、それはいいけど。
ここも『地球』なんだよね。もう、住んでた時間の方が、長い……
いまさら『あの地球』に戻りたいとは思わないけど、どうなるんだろう? こっちの世界でも自然死したら、こっちの世界の未来に転生するのかな?
いつ、死ねるのかな?
できたら、この、キラ・シの戦国時代の記憶を忘れたいんだけどな……
ル・アくんと物凄い喋り込んでるリョウさん。ガリさんとも端末で喧々囂々してるみたい。ガリさんの組織とか調べるのに命令飛ばしてる。あちこちから連絡が入って大変そう。あのパーティーのあとも『三日』が終わった後、怒濤のように連絡が入って、リョウさん、32時間寝てなかった。また凄いことになるんだろうな……
ちょっとトイレにこそっと抜けた……ら、金髪のお人形さんみたいな……!
「沙射君っ!」
「…………………………ハルナさん? ……え? なんです? これ……」
「ああ、それ、中に、夕羅丞相とかナール・サス国王とかいるから、そっちとやって! 私、トイレ!」
恥も外聞もない別れ方でトイレに駆け込んだ!
個室にいる間に、誰かが入ってきたみたい。出てから手を洗ってたら、隣の個室から出て、来た……人が…………すっごい美人さん。
「ハイ、ハル。元気そうねー。テレビで見たわよー?」
高い声で挨拶されて、誰だっけ、と思った。けど、テレビで見ただけなら知らない人かもしれない。愛想笑いだけして手をハンカチで拭いた。
鏡の私ににっこにこしてくれるから、私も笑って返した。
ヒラヒラ両手を振って歩いてくる、白いロングタイトスカートの、すれ違っただけでも嬉しくなりそうな絶世の美女。マネキンみたいなフルメイク。
ウォータープルーフのマスカラがあるのに、粉の方が綺麗だから、ってモデルさんが使ってるって言ってた粉マスカラだ。ちょっとこなこなしてるばっさり睫毛。泣いたり汗かいたら大変なことになるのに、でも、がっつり黒くていいんだって。どこがどう違うのかわからないけど、こんなにフルメイクしてると、そっち使うんだなぁ、ってなぜかいまさら納得してしまった。
黒い髪を金色の簪で豪華なアップにして、ハイネックの金色のレースが顎先まで隠してる。彼女も手を洗って、白い手袋を、はめた。
「あらいい匂い。なんの香水?」
首元でクンクンされてしまった。
「何も香水は……つけて……な……」
簪の一本を、抜いて、私の首に、当てた……のが、鏡で見えてる。
え? ナニ?
「誰と結婚式だって?」
低い、声。
男の人だ。え? 女装?
「他の男に触られたら殺す、って」
簪の先端で喉を撫でられる。
「言った、よ、な?」
サル・シュくん……だ…………
凄い、化粧で顔変わってるけど、この目はサル・シュくんだ。
そうだ。
この『歴史』、最初がサル・シュくんで始まってたんだ?
あの森で、最初に会ったの、サル・シュくんだった!
長すぎて、忘れてた。
リョウさんも、全然、違和感なかった、から……
『ずっと、こうするのが夢だった……』
あれは、そう……なの?
サル・シュくんと私がそうしてたから?
ガリさんと私がそうしてたから?
自分もしたかった……と、いうこと?
「行こうか? ハル」
「……ど…………どこ、に……?」
「俺と、ハルと……二人しかいない世界へ」
顔から血の気が引いた。
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