【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。220 ~『二十世紀の記録』~

 

 

 

 

 

「嘘、だよ」

 サル・シュくんが肩をすくめて見せる。ケラケラケラッて笑った。

「数メートル爆発する爆弾なんて、どうやって作るの?」

「そ……そうだよね? ないよね?」

 本当に? ドッキリ?

 誰が仕掛けたの? リョウさん? ガリさん?

「ハルっ! そこにサル・シュがいるって? 早く出てこい、会いたい!」

「リョウさんっ!」

 やっぱり、サル・シュくんのこれ、冗談? だよね?

 そうだよね?

 え? でもさっき、サル・シュくんは殺し屋だ……って…………リョウさんから、メッセが……

 あれも、ドッキリ?

 どっちが嘘?

 見上げたサル・シュくんは、ドアから私を見て、ニッと、笑った。

「ハルはやっぱり、頭のいい子」

 ん? って、小首を傾げてニチャッと子供見たいに、笑う、サル・シュ、くん……

「ハルっ! そこにサル・シュがいるって? 早く出てこい、会いたい!」

 ドアからまた同じ、声?

 録音? コンピュータで作った音声? こんなに、リョウさんの声に聞こえるのに?

 それより、ここでこんなに騒いでいるのに、リョウさんたちには、聞こえ、ない、の?

 純白のドレスのサル・シュくん。

 彼は、私のあとに、トイレに、来た。

 あの、部室に、リョウさんは、生きて、いる、の?

「じゃあ、行くよーっ! ハル!」

 胸がギュウッ、と痛くて、息ができなくて、視界が真っ赤になった。

 鼓動がドラムを叩いてるみたいにダダダダッてなってるのに、サル・シュくんの笑い声は、聞こえた。

 目の前に、窓。

 トイレの、窓?

 その下の窓も見える。上の、窓も……

 大学の、外壁?

 外壁!

 校舎が、小さく、なっていく。

 胸が、苦しいっ!

 見上げたら、サル・シュくんの白い顎の裏と、あれは……なに?

 ヘリコプター?

 開いたドアから卸された梯子に、サル・シュくんの左手が絡みついて握りしめてる。

 私、サル・シュくんの右手だけで胸を抱かれて、宙に、浮いてる!

 足の下に、空が……!

 サル・シュくんの腕が、両腕が、私を抱き締めて、……すっぽり埋まっちゃって、何も、聞こえなく、なった。逆らう気力なんて、なかった。

 突き飛ばす腕力なんて、なかった。

 指一本、動か、ない。

 体がぶわっと浮いた。

 フリーフォールで落ちる時みたいな、胃液が上がってくる、吐きそう……

「ほーら、ハルー。見ろよっ!」

 サル・シュくんが、私をくるっと腕の中で回転させた。

 空でっ!

 もう家が米粒みた……い………………

 大学がっ燃えてるっ!

「アハハハハッッ! 数メートルの爆弾ってのが、嘘っ!」

 ヘリの轟音の中で、サル・シュくんの笑い声が雷みたい。

 ナニ? どうなってたの? ヘリから下ろされた梯子にサル・シュくんがつかまってる!

 大学の建物がっ……崩れ落ちてるっ!

 ル・アくんは? リョウさんは? 教授はっ! いっぱい来てたカメラマンの人達はっ?

「はい、ここにおっちんしてー!」

 ヘリに私を抱き上げたサル・シュくんが、シートに私を座らせて、肩をポンポンした。

「はい、あ・げ・る」

 天使の笑顔でナニか差し出してくる。

 私のではない携帯端末でのニュースが表示されてた。リトアニアの山岳部が突然爆発したって……

 リトアニアって……ガリさんが居る、所?

 その端末は、サル・シュくんの手から空へと落ちて行った。

 まだ、爆発を続けている大学の、校舎を崩している炎の中に……

「……なんてことっ……」

 リョウさんも、ガリさんも……爆死? そんな……こと…………

「生きてるかもよっ!」

「ナニ……をっ!」

「ハルに『サル・シュは殺し屋だ』ってメッセ送った時点で、逃げてたよ」

「本当に?」

「嘘」

 耳を噛まれた!

「かもね……」

 ヘリの下を、なんか、変な飛行機……が……いっぱい、空を、埋めつくした……

『二十世紀の記録』の、白黒映像で見たような、B29の爆弾……みたいなの、バラバラバラッて……落として…………

「やめ……やめてっ!」

「レトロなやつらにレトロな焼夷弾……じゃぁ、不安だから、Seテルミット弾………………ボンッ!」

 大学の周り数キロが……隙間無く火を噴いた。

  

 

  

 

 

 

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