「嘘、だよ」
サル・シュくんが肩をすくめて見せる。ケラケラケラッて笑った。
「数メートル爆発する爆弾なんて、どうやって作るの?」
「そ……そうだよね? ないよね?」
本当に? ドッキリ?
誰が仕掛けたの? リョウさん? ガリさん?
「ハルっ! そこにサル・シュがいるって? 早く出てこい、会いたい!」
「リョウさんっ!」
やっぱり、サル・シュくんのこれ、冗談? だよね?
そうだよね?
え? でもさっき、サル・シュくんは殺し屋だ……って…………リョウさんから、メッセが……
あれも、ドッキリ?
どっちが嘘?
見上げたサル・シュくんは、ドアから私を見て、ニッと、笑った。
「ハルはやっぱり、頭のいい子」
ん? って、小首を傾げてニチャッと子供見たいに、笑う、サル・シュ、くん……
「ハルっ! そこにサル・シュがいるって? 早く出てこい、会いたい!」
ドアからまた同じ、声?
録音? コンピュータで作った音声? こんなに、リョウさんの声に聞こえるのに?
それより、ここでこんなに騒いでいるのに、リョウさんたちには、聞こえ、ない、の?
純白のドレスのサル・シュくん。
彼は、私のあとに、トイレに、来た。
あの、部室に、リョウさんは、生きて、いる、の?
「じゃあ、行くよーっ! ハル!」
胸がギュウッ、と痛くて、息ができなくて、視界が真っ赤になった。
鼓動がドラムを叩いてるみたいにダダダダッてなってるのに、サル・シュくんの笑い声は、聞こえた。
目の前に、窓。
トイレの、窓?
その下の窓も見える。上の、窓も……
大学の、外壁?
外壁!
校舎が、小さく、なっていく。
胸が、苦しいっ!
見上げたら、サル・シュくんの白い顎の裏と、あれは……なに?
ヘリコプター?
開いたドアから卸された梯子に、サル・シュくんの左手が絡みついて握りしめてる。
私、サル・シュくんの右手だけで胸を抱かれて、宙に、浮いてる!
足の下に、空が……!
サル・シュくんの腕が、両腕が、私を抱き締めて、……すっぽり埋まっちゃって、何も、聞こえなく、なった。逆らう気力なんて、なかった。
突き飛ばす腕力なんて、なかった。
指一本、動か、ない。
体がぶわっと浮いた。
フリーフォールで落ちる時みたいな、胃液が上がってくる、吐きそう……
「ほーら、ハルー。見ろよっ!」
サル・シュくんが、私をくるっと腕の中で回転させた。
空でっ!
もう家が米粒みた……い………………
大学がっ燃えてるっ!
「アハハハハッッ! 数メートルの爆弾ってのが、嘘っ!」
ヘリの轟音の中で、サル・シュくんの笑い声が雷みたい。
ナニ? どうなってたの? ヘリから下ろされた梯子にサル・シュくんがつかまってる!
大学の建物がっ……崩れ落ちてるっ!
ル・アくんは? リョウさんは? 教授はっ! いっぱい来てたカメラマンの人達はっ?
「はい、ここにおっちんしてー!」
ヘリに私を抱き上げたサル・シュくんが、シートに私を座らせて、肩をポンポンした。
「はい、あ・げ・る」
天使の笑顔でナニか差し出してくる。
私のではない携帯端末でのニュースが表示されてた。リトアニアの山岳部が突然爆発したって……
リトアニアって……ガリさんが居る、所?
その端末は、サル・シュくんの手から空へと落ちて行った。
まだ、爆発を続けている大学の、校舎を崩している炎の中に……
「……なんてことっ……」
リョウさんも、ガリさんも……爆死? そんな……こと…………
「生きてるかもよっ!」
「ナニ……をっ!」
「ハルに『サル・シュは殺し屋だ』ってメッセ送った時点で、逃げてたよ」
「本当に?」
「嘘」
耳を噛まれた!
「かもね……」
ヘリの下を、なんか、変な飛行機……が……いっぱい、空を、埋めつくした……
『二十世紀の記録』の、白黒映像で見たような、B29の爆弾……みたいなの、バラバラバラッて……落として…………
「やめ……やめてっ!」
「レトロなやつらにレトロな焼夷弾……じゃぁ、不安だから、Seテルミット弾………………ボンッ!」
大学の周り数キロが……隙間無く火を噴いた。
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