「ガリメキアは……おいしかった……」
カップラーメンを茹でるだけの時間もなかったけど……って、睫毛を揺らす。凄くポスターにしたい顔してるけど、言ってることが、酷い。
「奴らを殺してる間、俺は、どんどん、強く、なれる……」
満面の笑顔。
「見ただろ? 俺一人でこれぐらいのことは、できる」
もうわかった!
「俺は、あの時でも、キラ・シ最強だった。
ガリメキアが『山ざらい』を出したら勝てないけど、その前に、俺は、ガリメキアの首を、落とせた」
それは、多分、リョウさんも、分かってた……筈。
「俺が、キラ・シを潰さなかったから、キラ・シは存続した、それだけ」
それに今は『組織』がついた。
『前』のサル・シュくんは、単体で動くしかできない戦士だった。けど、参謀が、ついたんだ。全力で彼をサポートする、強力な、実働部隊が……
「だから、ハンデを上げたんだよ?」
ねっ? って、かわいい、顔。
「俺のハンデは、お前。ハル」
指さされて、本当に、撃たれた気が、した。
死ねたらいいのに……
「愛する人を守る、というハンデ」
どうする?
「愛する人が逃げようとしている、というハンデ」
ここで私が自殺したらどうなる?
「そして」
抱きしめられた。
「愛する子供達を守る、という……ハンデ……」
くちびるの上で囁かれる。
頭を首に押しつけられて、また首筋で深呼吸、された。
「いいにおい……」
クスクス笑う。チュッチュッ、とキスする。
『前』なら、どんなに幸せだっただろう。
リョウさんと出合う前にサル・シュくんに出合えたら、どれだけ楽しかっただろう……
「ハル、お前の処女は残念だったけど、お前はまだ、妊娠してない」
してたら、殺そうかどうしようか迷ったけど、と、笑う、サル・シュくん。
『あらいい匂い。なんの香水?』
あれだ。
あの時に、確認したんだ。
あの、排卵日がわかる嗅覚は、そのままなんだ?
『そう。絶対俺の子を孕まない、ってにおい。いやなにおいっ!』
いっそのこと、妊娠してて、あそこで殺されたかった……
せめて、リョウさんの足手まといにだけは、ならなかったのにっ!
ベッドに、押し倒される。
あ、そうだ…………
ソレが、あったんだ。
「い……いや……っ……いやよっ! それだけはいやっ!」
「お前は一生、俺の子を産め……ハル……」
「産んだ……産んだじゃないっ! たくさんたくさん産んだじゃないっ! もう許してよっ!」
「ハル・ナ、未来永劫、俺の妻になってくれ」
サル・シュくんが囁いた。
リョウさんの、プロポーズの、言葉。
「未来永劫?」
キャハハハッ、とサル・シュくんが笑う。
「そんなものにすがるなんて、本当にあいつもジジイだな」
また、耳を噛まれる。もう、ジンジンしてるのにっ!
「あ、そうそう」
サル・シュくんは、枕元からペンチを出してきて、リョウさんの指輪を、切った。
ダイヤを砕いて、ゴミ箱に投げる。
そして、新しい指輪を、はめた。
緑色の、大きな、石。
「はい、あげる。グリーンダイヤだよー。写真に写った時に、別の指輪だ、って、分かりやすいだろ?」
私の舌を、噛み切った。
どこ?
富士見台の家?
富士山が噴火する?
サル・シュくんの……笑顔。
「死なせないってばーっ! 馬鹿だな、ハル」
看護婦さんに、お医者さんが……いっぱい。
「俺専属の医療スタッフ。整形も巧いから、安心してね? 怪我しても、跡なんて、残さないからっ!
生きる意欲がわくように、あげる」
端末?
『ハル? ハルなのか? どこにいるっ! サル・シュといるのか?』
「リョウさんっ?」
『ハルッ! 無事か? ガリからのメッセはダミーだった。ゼルブらしいのは全部殺されてるっ!』
本当に、リョウさん?
だって、さっき、リョウさんの声、してた。オンタイムであれができるなら、私と会話することも、可能……だよ、ね? この情報だって、サル・シュくんが知ってる、というより、作った、こと……
ナニカ、質問…………『あの頃』に、サル・シュくんが居なくて、絶対にサル・シュくんに回答がわからない、質問…………
「リョウさんっ……機織りのおばあさんに羅季(らき)語でなんて言ったか、覚えてる?」
これは、どのリョウさんも言ってた。このリョウさんも言ってたはず!
「ナガイキシテクダサイ」
端末じゃなくて、直に、耳に、聞こえた。
サル・シュくんがクスクス笑う。
「残念」
なんて楽しそうに笑うのか……一緒に、笑えたらいいのに…………
「ソレ、リョウ・カは年寄りみんなに言ってたから、俺も知ってる。その質問じゃ、本人確認はできないなー」
……誰にも言ってないこと? ナニがある?
サル・シュくんと初めて会ったときの……リョウさん…………? あの時、だって……他の男の人と二人きりになるの、サル・シュくんが凄く嫌がったから……ならないように、してたし…………職人さんと回ってるときも、誰かがいたし……『あったこと全部サル・シュに報告しろって言われてるから』って言ってたから、全部、知ってる、筈……
第一、そんな細かいところまで思い出せない……
あの時は『サル・シュくんだった』もの……
違う。
今も『サル・シュくん』なんだよ。
サル・シュくんを好きになれば、何も、問題、ない……
あの戦国時代まで倫理観を戻せば、誰が死んだって、気にならない……
それが、できたらっ、ここで泣いてっ、ないっ!
端末の、通信が、切られた。
「残念。
ハルはもうちょっと頭いいかと思った」
「そんなこと……ない…………」
私、偏差値、高く、ない……
「あの時代だから。
『普通のこと』を知らない時代だったから、役に立てた、だけ……」
「違う」
サル・シュくんが、私の頬をつかんで覗き込んできた。
「リョウ・カを焦らせるためにつないだんだから、泣きわめかないと駄目だろ」
「本物だったの?」
「あれじゃあ、『ハルの映像が本物かどうかわからない』から、助けに来てもらえないだろ?」
「本物……だったの? あのリョウさん、本物?」
コメント