【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。223 ~戦国時代~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「ガリメキアは……おいしかった……」

 カップラーメンを茹でるだけの時間もなかったけど……って、睫毛を揺らす。凄くポスターにしたい顔してるけど、言ってることが、酷い。

「奴らを殺してる間、俺は、どんどん、強く、なれる……」

 満面の笑顔。

「見ただろ? 俺一人でこれぐらいのことは、できる」

 もうわかった!

「俺は、あの時でも、キラ・シ最強だった。

 ガリメキアが『山ざらい』を出したら勝てないけど、その前に、俺は、ガリメキアの首を、落とせた」

 それは、多分、リョウさんも、分かってた……筈。

「俺が、キラ・シを潰さなかったから、キラ・シは存続した、それだけ」

 それに今は『組織』がついた。

『前』のサル・シュくんは、単体で動くしかできない戦士だった。けど、参謀が、ついたんだ。全力で彼をサポートする、強力な、実働部隊が……

「だから、ハンデを上げたんだよ?」

 ねっ? って、かわいい、顔。

「俺のハンデは、お前。ハル」

 指さされて、本当に、撃たれた気が、した。

 死ねたらいいのに……

「愛する人を守る、というハンデ」

 どうする?

「愛する人が逃げようとしている、というハンデ」

 ここで私が自殺したらどうなる?

「そして」

 抱きしめられた。

「愛する子供達を守る、という……ハンデ……」

 くちびるの上で囁かれる。

 頭を首に押しつけられて、また首筋で深呼吸、された。

「いいにおい……」

 クスクス笑う。チュッチュッ、とキスする。

『前』なら、どんなに幸せだっただろう。

 リョウさんと出合う前にサル・シュくんに出合えたら、どれだけ楽しかっただろう……

「ハル、お前の処女は残念だったけど、お前はまだ、妊娠してない」

 してたら、殺そうかどうしようか迷ったけど、と、笑う、サル・シュくん。

『あらいい匂い。なんの香水?』

 あれだ。

 あの時に、確認したんだ。

 あの、排卵日がわかる嗅覚は、そのままなんだ?

『そう。絶対俺の子を孕まない、ってにおい。いやなにおいっ!』

 いっそのこと、妊娠してて、あそこで殺されたかった……

 せめて、リョウさんの足手まといにだけは、ならなかったのにっ!

 ベッドに、押し倒される。

 あ、そうだ…………

 ソレが、あったんだ。

「い……いや……っ……いやよっ! それだけはいやっ!」

「お前は一生、俺の子を産め……ハル……」

「産んだ……産んだじゃないっ! たくさんたくさん産んだじゃないっ! もう許してよっ!」

「ハル・ナ、未来永劫、俺の妻になってくれ」

 サル・シュくんが囁いた。

 リョウさんの、プロポーズの、言葉。

「未来永劫?」

 キャハハハッ、とサル・シュくんが笑う。

「そんなものにすがるなんて、本当にあいつもジジイだな」

 また、耳を噛まれる。もう、ジンジンしてるのにっ!

「あ、そうそう」

 サル・シュくんは、枕元からペンチを出してきて、リョウさんの指輪を、切った。

 ダイヤを砕いて、ゴミ箱に投げる。

 そして、新しい指輪を、はめた。

 緑色の、大きな、石。

「はい、あげる。グリーンダイヤだよー。写真に写った時に、別の指輪だ、って、分かりやすいだろ?」

 私の舌を、噛み切った。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 どこ?

 富士見台の家?

 富士山が噴火する?

 サル・シュくんの……笑顔。

「死なせないってばーっ! 馬鹿だな、ハル」

 看護婦さんに、お医者さんが……いっぱい。

「俺専属の医療スタッフ。整形も巧いから、安心してね? 怪我しても、跡なんて、残さないからっ!

 生きる意欲がわくように、あげる」

 端末?

『ハル? ハルなのか? どこにいるっ! サル・シュといるのか?』

「リョウさんっ?」

『ハルッ! 無事か? ガリからのメッセはダミーだった。ゼルブらしいのは全部殺されてるっ!』

 本当に、リョウさん?

 だって、さっき、リョウさんの声、してた。オンタイムであれができるなら、私と会話することも、可能……だよ、ね? この情報だって、サル・シュくんが知ってる、というより、作った、こと……

 ナニカ、質問…………『あの頃』に、サル・シュくんが居なくて、絶対にサル・シュくんに回答がわからない、質問…………

「リョウさんっ……機織りのおばあさんに羅季(らき)語でなんて言ったか、覚えてる?」

 これは、どのリョウさんも言ってた。このリョウさんも言ってたはず!

「ナガイキシテクダサイ」

 端末じゃなくて、直に、耳に、聞こえた。

 サル・シュくんがクスクス笑う。

「残念」

 なんて楽しそうに笑うのか……一緒に、笑えたらいいのに…………

「ソレ、リョウ・カは年寄りみんなに言ってたから、俺も知ってる。その質問じゃ、本人確認はできないなー」

 ……誰にも言ってないこと? ナニがある?

 サル・シュくんと初めて会ったときの……リョウさん…………? あの時、だって……他の男の人と二人きりになるの、サル・シュくんが凄く嫌がったから……ならないように、してたし…………職人さんと回ってるときも、誰かがいたし……『あったこと全部サル・シュに報告しろって言われてるから』って言ってたから、全部、知ってる、筈……

 第一、そんな細かいところまで思い出せない……

 あの時は『サル・シュくんだった』もの……

 違う。

 今も『サル・シュくん』なんだよ。

 サル・シュくんを好きになれば、何も、問題、ない……

 あの戦国時代まで倫理観を戻せば、誰が死んだって、気にならない……

 それが、できたらっ、ここで泣いてっ、ないっ!

 端末の、通信が、切られた。

「残念。

 ハルはもうちょっと頭いいかと思った」

「そんなこと……ない…………」

 私、偏差値、高く、ない……

「あの時代だから。

『普通のこと』を知らない時代だったから、役に立てた、だけ……」

「違う」

 サル・シュくんが、私の頬をつかんで覗き込んできた。

「リョウ・カを焦らせるためにつないだんだから、泣きわめかないと駄目だろ」

「本物だったの?」

「あれじゃあ、『ハルの映像が本物かどうかわからない』から、助けに来てもらえないだろ?」

「本物……だったの? あのリョウさん、本物?」

 

 

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