「まぁ……ガッチガチに罠仕掛けたから、さすがに突っ込んで来ないとは思うけどさ」
「リョウさん生きてるの? 本当に生きてるの?」
「生きてなきゃ、追い駆けっこできないだろー?」
「リョウさん、本当に、生きてる……の? あんな、爆発あったのに?」
「次の罠、作んないとなー……今度は、ハル。ちゃんと叫んでくれよ?」
さっき、サル・シュくんが、言ってた、よね?
『そのうえで……ナニ? リョウ・カとハルの結婚式のお祝い?』
あれは、ガリさんの、こと?
ガリさんからリョウさんへのメッセの、こと?
なら、ガリさんは、あの時点では、生きて、た……?
あのあと、サル・シュくんは私といたんだから、殺させることはできても、自分で殺すことは、できない。
『ガリメキアは……おいしかった……』
あれも、嘘?
ガリさんを殺したというのが嘘? ゼルブも、嘘?
それなら、本当に世界中のキラ・シ全部に追い駆けられる。そんな危険なこと、する?
危険だから、する?
ナニが本当?
ナニが嘘?
「……喋らない」
端末を口元にぱたぱたさせてるサル・シュくんが、目の端で私を、見た。
「今度も、喋らない………………リョウさんにサル・シュくんを攻撃させるようなこと、させない」
白い肌の中で、黒い切れ長の瞳が、すうっと細められる。眉がつり上がって、口元から、笑みが消えた。
ベッド脇に血のパックが転がってる。私の腕に、注射針が刺さってた。右手は、点滴……だよね。透明なパックがつってある。
「……輸血……?」
「献血」
「え?」
「ハルが暴れると危ないから、瀕死まで血を抜いておくの。怪我した時の輸血にもなるし。ハルがいい子になったら、浄化して、戻して、ア・ゲ・ルっ。キャハッ!」
「ナニ? ……そんな…………」
起き上がれ……なかった……
「最低でも、300才まで生きさせるからな」
抱き上げられた。
「俺の、側で」
なんていう、地獄への誘いなんだろう……
あの、ベッドまで、抱いて連れて行かれた。
飛行機の中にあるのに、豪華なキングサイズのベッド。
「いやっ……やだっ! リョウさんがいいっ! 私リョウさんがいいっ! 結婚するのっ! やっと平和に幸せになれるっ……のにっ……っお願いっ! 許してっ! 許してっ……今回だけは許してぇっ!」
「はい、送信」
「え?」
動画? 撮ってた?
「はい、本物だよ」
『ハルっ! 必ず助けるからっ、待ってろ!』
「来ないでリョウさんっ!」
もう、通信は、切れてた……
「叫んじゃったね」
「あ……」
「ハルの決心ってもろいねー?」
その綺麗な顔を叩いてやりたいのに、腕が、あがら、ない……
「ね? 罠、発動っ! ドーン!
よかった。無駄にならなくてっ」
もう……ダメだ…………
意識が……なくなってく……
「ちょっと血を抜きすぎたかなー?」
誰か入ってきて、注射針、追加で刺された。白い点滴と、赤いパックが、つられて、る。
「失神されたら俺が面白くないだろ」
「…………もう……許して……」
「もう、ってナニ?」
顎を、掴み上げられた。
「俺を裏切ったのは、お前だよ、ハル」
「……ごめんなさい……」
「あの日、俺もお前を追い駆けてた」
「え?」
「ハルが怯えないように、道でぶつかってみようかとか、喫茶店で隣に座ってみようかとか……俺、単体で動いてた」
サル・シュくんに、先に出合えていれば…………多分、彼と、そう、なってた…………
「あいつがっ……リムジンでハルに突っ込んだっ!」
ベッドを殴りつけて、サル・シュくんが、泣いて、た。
「あんなとろとろ走ってた小さなバイクをあんな大きなリムジンであおり続けて、前から接触ってっ! …………ハルがこけたらどうなってた? 人間、滑って転んで頭打ったって死ぬんだぞっ!」
ずっと……見て、た……の?
「なんで……その時、出てきて、くれなかったの?」
「もう、ハルがあいつを好きになってた」
「あ……」
「あそこで俺が出て行ったって、何もできなかった! お前と友人関係でどうする? ずっと、あいつと笑ってるお前を見続けなきゃいけないのか? ふざけるなよっ!
浮気したことが一度もないっ? 今、してるだろっ! 俺の目の前でっ!」
「っっ!」
大統領の前での……? アレ?
「……ごめん……なさい…………」
サル・シュくんの怒りは、正当だ。
私が、忘れてた、から。
サル・シュくんが『最初』だとさえ覚えていれば、あそこでリョウさんに抱きつかなかった!
「……でも…………122年……生きたのよ…………っ」
悪いことをした、とは……思ってる、けど……
「122年…………生きた……の………………あの世界で……」
サル・シュくんが、否定、しないで、くれた。
「キミも、リョウさんもガリさんも…………一瞬でいなくなった……あのあとから…………ずっと、生きて、たの…………」
サル・シュくんが、輸血のスピードを、上げてくれた。
体が、楽に、なって、く……
「キラ・シと過ごしたより、何倍も、一人で……生きた……の………………」
サル・シュくんも、泣いてた。
「キミも……よく出陣したから………………お城に、いなかったよね?
お城を、後方を守ってるリョウさんと、一番長く、過ごした……の………………」
たくさんたくさん喋ったの。
「122年の人生が閉じるときに、思い出したのは…………リョウさん、だったのよ…………」
私の、『初めて』の、人……
「あなたたち……死んじゃったじゃないっ!」
転生するたびに、みんなを好きになっていって、誰が誰だかわからない……あんな、こと、話しても、理解、しても、もらえない……
「勝手に、死んじゃったじゃないっ!」
枕をサル・シュくんに投げつけた。
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