【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。225 ~お花畑~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「私を置いて…………死んじゃったじゃないのよっ! ガリさんやリョウさんはいいよっ! 戦士だもの!

 キミはナニ?

 勝手に死んだんじゃないっ!

 生きてることはできたのにっ、私に何も言わずに勝手に殺されたんじゃないのっ!

 あのあとっ、私がどれだけ悲しかったかっ! 分かりもしないでっ!

 どうにかっ、夕羅(せきら)くんにサル・シュくんが殺されるようにっ、キラ・シを追い詰めたのよっ!」

「ごめん……ハル……」

「70年以上…………一…生きた……の……よ……私…………キラ・シで動いていた三倍以上っ! 生きたのっ!

 勝手に死んだくせにっ! 今さら私を裏切り者扱い?」

「ごめん、ハル、ごめん……」

「私も……サル・シュくんと一緒に…………死にたかった……」

 思い出した。

 最初から『二年』って言ってたから…………その日が来るのが、凄く、怖かった……

「女は死ねないのっ! 子供を育てなきゃいけないから、死ねないのっ! あなたたちの子をっ、育てないといけないからっ!

 あの時だって、サル・シュくんの子供が、おなかに、いたのよ!」

 夕羅くんの子供も産んだ。もう、意味がわからなかった。でも、夕羅くんの子供も、キラ・シの子供だから…………

 ガリさんの、子供だから……

「私が居たって勝手にサル・シュくん狂ったじゃないっ!」

「だから…………今回は、そうならないように、したんだよ」

「私を巻き込まないでよっ!」

「お前が欲しかったからだっ!」

「少しぐらい我慢しなさいよっ!」

「いやだっ!」

「もうちょっとまともになりなさいよっ!」

「我慢したって何もいいことなんてないっ! 我慢し続けて俺は狂った。もう、あんなのはいやだっ! 絶対にいやだっ! もう……壊れていく体に、泣いたり……しない……っ!」

 ベッドを殴り落とされて、私の体が浮いた。

「欲しいものはすぐに盗る。邪魔な奴は殺す」

「民主主義の現代でっ、いつまであの古代の好き勝手するつもりなのっ!」

「リョウ・カだって、それで勲章を貰ったんだぜ?」

「ナニを……」

「勲章は、仲間を救助しても出される。勤続年数でも、射撃の名手とかでも、でる。だから、軍人の勲章全部が人殺しのものじゃない。

 ハルだって何度も平和集会出てただろ? あれを、一番嫌がってたのが、リョウ・カ。平和になったら仕事が無くなるから。自分が活躍できなくなるから。

 戦争の英雄。120の敵拠点を殲滅させた人殺しの勲章。生きてるウチに『伝説』になった偉人。

 たたき上げなのに、もうちょっとしたら将軍になれたぐらいの戦果を上げた。

 なんで除隊したか知ってる?」

「聞きたくない……」

「金が欲しかったからだよ?」

 耳を噛むみたいに囁かれる。

「軍隊じゃどうあがいてもたかがしれてるから」

 左耳ばかり、さっきから、もう……千切れそう。

「軍隊で命令されてるだけだと平和になりそうだから、自分で戦争をコントロールして世界を不穏でいさせるため……味方には戦闘員を派遣して、敵には武器を渡して、勝ちそうな方の指揮官を密かに暗殺して、拮抗を保つ……ため」

 絶対嘘に決まってる!

「無料に近い金で国に奉仕してたのを、金を取るようになったの。

 俺はさ、俺が嫌いな奴を殺してるだけだよ?

 あいつはナニ? 上の命令で誰でも殺す。

 国家のため、って言いながら、今は、民間派遣会社で、同盟国にも兵士を派遣する。裏で暗殺も請け負ってる。

 今年は年商一兆ドル越えるんだぜ?

 俺はダメで、あいつはいいの?

 敵拠点を絨毯爆撃して民間人も殺したぜ?

 俺があいつを殺すために大学を絨毯爆撃するのはダメなの?」

「そんなの……ダメに決まって……」

「ハルはさ? ガリメキアに、車李(しゃき)の王城に『山ざらい』掛けさせたよな?

 あれで、何人の民間人が死んだか、数えた?」

 なんですって?

「キラ・シが、戦の行きずりで、どれだけの民間人を殺したか? 数えた?」

「今さら……そんなこと…………」

「留枝(るし)を陥としてきて、って簡単に言ったけど、街が半壊した時に、どれだけの民間人が死んだか、数えた?」

「あ……あの時はっ……仕方なかったじゃないっ!」

「ナニが仕方なかったの?」

「戦時中だったっ! 殺さないと殺されてたっ! ゼルブをあの時点で味方にしてなかったら、留枝が羅季(らき)城を攻めて私達殺されるのよっ!」

「俺は、ハルを、責めてないよ? 泣かないで」

「だって……」

「泣いてる女とは話ができない」

 もう一個の枕で叩いた。軽く受け止められて、枕元に枕を投げられる。

「泣き止んでくれると嬉しい。あとまで引きずりたくないから」

「キミが泣かせてるのよっ!」

「だから、泣き止んで、と、お願いしてる」

 腹が立つっ!

「話を戻すよ?

 だから、俺も、してる、だけ」

「ナニをっ!」

「今が、俺にも、リョウ・カにも、戦時中、なんだよ?」

「あ……」

 サル・シュくんの顔には、からかいの色が、まったく、なかった。

「先進国がたまにテロを受けるだけ。ハルの周りが戦争反対だ、平和が一番だ言ってるけど、この国だって出撃してる。他国を攻めて、他国の人間を殺してる。世界中が戦争をしてる。

 戦争中なんだよ? この国が、何カ国と交戦中だと思ってるの?

 相手が『国』じゃなく内紛だから、『国家単位での戦争』になってないだけだろう?

 12部族と戦争してて、軍隊を130カ国に派遣してる。

 ハルはどうして、これで『戦時中』じゃ、ないの?」

 そんなこと言われたって……

「ニュースでも毎日、軍隊がどこに移動した、戦闘した……と流れてるだろう? そういうの、一切見てないの?」

 見てはいる……けど…………あまりに毎日だから、記憶に残ってない。

「お花畑の連中が、自分の周りだけ安全だったらいい、って、思ってるだけだろ?」

 ……そうだね…………

「自分の周りが安全だから、世界も安全?

 なんで?

 飢えてるやつが何億人いる? まともな水を飲めない奴が何十億人いる?

『受験生』なんて肩書で親に養護されて、一度も働いたこともなくて、三食腹一杯食べられるのが普通だと思って、水が綺麗なのは無料だと思って、平和集会に出ておきながら、戦闘員派遣会社のCEOと電撃結婚する、ハルの頭は、まともなの?」

 

 

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