【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。112 ~川を、人の手で作る~

 

 

 

 

  

 

  

 

 馬に乗ったまま『山ざらい』したらそんなことになるんだ?

「だから、サガ・キは、俺の代では絶対にキラ・シに逆らわない、って、俺には言ってた。キラ・シ側がもっと攻めて来たらもっと下がったかもしれない。

 今回、『ガの筋』が嫌いな奴らが全部降りてきたから、キラ・ガンは……本当に、卑劣なのしか残ってない。

 まぁ、上がガリ・ガだし、キラ・シに向かっていくことはないだろうがな……」

「どれぐらい弱いの?」

「族長のガリ・ガが、キラ・シの500位に入らない」

 キラ・シ、今、400人しかいない。

「それでも人数だけはいるからな……しばらくは『キラ・ガン』の名前で生きてられるだろ。口も巧いしな。

 周りの部族に、寄ってたかって潰されてることを願う」

「お子さん、心配だよね?」

「まぁ……来年にはこっちで百人ほど増えそうだし…………気にしないことにした。もう、助けに行けるわけじゃないし。降りてきた12人は全員、子に恨まれて『その世』に行くことは覚悟してる」

 つらい覚悟だなぁ……

「子供を連れてあの崖は降りられないからな。

 キラ・シは馬も凄い……というか、キラ・シが獲った後の弱い馬しか、俺たちは使えないからだろうが…………あの馬が俺の言うことを聞くとは思えない」

 無理無理、と首を横に振るヤム・イさん。

 というか、ヤム・イさんでも百人増えるのか……

 絶倫はキラ・シだけじゃなかったんだ?

 というか、来年、大陸の人の子供は産まれないんじゃない?

 あの短冊は、そういうことになるよね?

「だからまぁ、『四紹介』ってのは、ガリ・ガが三年前に言い出したことだ。倣いで言っちゃいけないとか、そういうことじゃぁ、ない。

 四人紹介したいほど強い奴がいるキラ・シが凄い、って話だ」

 ヤム・イさん凄い! 話を戻してくれた!

「キラ・シはありがたい。『キラ・ガン』と、一度も言われたことがない。もちろん、『キラ・ガンからきた』という説明では仕方ないが、それで何も区別されない。

『勝ち上がり』でも二十位に入れたし、働きがいがある。

 ゼルブの奴らより、役に立ちたいっ!」

 最後の言葉を通訳したら、ショウ・キさんがヤム・イさんの背中をバシバシ叩いて「やれやれっ! 役に立て! いっぱい子を残せっ!」って、喜んでる。

「ヤム・イっ! やろうぜっ!」

 ル・マちゃんが私の腕からはがれて走って行って、さっそくヤム・イさんを後ろから蹴り倒してた。

 そしてやっぱり、キラ・シ本陣が車李(しゃき)に移動することになった。

 ただ、牛車じゃなくて、キラ・シの馬10頭で一気に牽いた。河を渡って周り中をキラ・シに囲まれる。三枚重ねの布団の上で、私もマキメイさんもサギさんもはいつくばってた。

 速い速い速い!!!

 地図とか、大きいものも馬車に乗せてる。

 女官さんとか、職人さんはキラ・シの馬に二人乗りで恐怖に泣いてた。

 皇子様も一緒に移動。ガリさんが背負ってた。本当に、面倒見る気があるんだな。

 車李についたら、あの貴族の小宮殿を本拠地にした。

 羅季(らき)のお城は空っぽ。どうせ『制圧』の見回りでうろうろするから、その時に夜盗がいたら退治するらしい。覇魔流(はまる)と貴信(きしん)は、普通に女の人もいるから、キラ・シが交代で守ってる。そうそう、豚とか鳥も、荷馬車で一緒に運んだんだ。練兵場の隣の庭でぶひぶひコケコッコーって元気。

 詐為河(さいこう)の東側は、覇魔流の海岸に自生してる植物を幾つか植えてもらった。キラ・シも、覇魔流に行くときに持てるだけ持って、そこらへんに差してきて、って頼んでる。

 羅季を出発する前にしてたことだけど、最初に植えた若木が、根がついたみたい、って報告を貰って凄く嬉しかった。

 とにかく、植物があれば、じわじわとあそこも緑地になるよね。氾濫したってガジュマルなら平気だし。ガジュマル自体が、堤防になってくれる。塩水が平気な植物は在るだろうから、あの塩辛い大地をどうにかできたらいいなぁ。

 とりあえず、ガジュマルだけでも生えてくれたら『日陰』ができる! 樹木があれば獣が住む。そうなると狩人が生きていける。山からウサギを連れてきてもいいよね。勝手に繁殖してくれないかな。荒野はけっこう狼がいるから、それがそのウサギとかで大繁殖してくれれば、『腕のいい狩人』がもっともてはやされる。

 15年後には、あそこに緑地ができる。

 キラ・シの『戦士にならなかった子』が耕すか、狩るかしてくれる。

 15年後かぁ……

 とにかく私は、リョウさんの子供の顔が見たい。

 今回は体力つけるぞっ! 立ってる時間を徐々に増やして、お屋敷を歩き回る。千人がざこ寝できる大フロアがあるから、室内でも延々と歩いてられる。そこで、延々と鍛練してるキラ・シ見てると、歩いてることぐらいなんでもないよね。モチベーション落ちないわー。

 サギさんとキラ・シのことを話しながらずっと散歩してる。思い付いたことをサギさんがかたっぱしから実行してくれるから、いろんなことが凄い速さで進んでいく。

 サギさんとリョウさんと、こっそり車李の王城を見に行った。ガリさんが崩した塔の瓦礫が、まだ全然、回復してない。撤去作業が半分終わったって感じ。正門は崩れたままだし、中央のお城が壊れて埋まってるから、大臣さんとか書記の人とか、随分亡くなったらしい。ハネム王がぼんくらだから指示が遅くて何もかも進まないとか。修復のために重税にもなって、町の人も悪口ばかり。逆に、雅音帑(がねど)王がどれだけ良かったか、ってみんな噂してる。

 だよね。政治なんて、そう簡単にできるもんじゃないよね。それをキラ・シに期待する方が間違ってる。

 ガリさんは分を知ってるよ。『あの大きいのをとってもキラ・シではどうしようもない』って、手を出そうとしなかった。

 そして、街の噂で聞いた。

 車李の『図書館』が埋もれた、って。

 車李に図書館があったんだ?

 もしかして、古代エジプトのアレクサンドリア図書館みたいなの? 読みたいっ! 是非発掘してっ!

「あ、そうだ、サギさん」

 ちょっと彼女にお願いして、リョウさんに見せた、書簡。

「詐為河(さいこう)の東側に、河に並行に、垂直に、用水路を掘ってもらう、っていう書類」

「これをどうする?」

「キラ・シから、って、車李の王様に渡して?」

「それで、どうなる?」

「あの河一帯が緑地になるから、そこにキラ・シの子供を住ませよう! そして、お母さんにも来てもらおう。元は農民の人達だから、『耕す』ことはやってくれるし。戦士になりそうなコだけ前戦に引き抜いて育てればいい。

 とにかく、何十万人キラ・シが増えるんだよ。

 増えるんだから、今、誰かが住んでいるところには増やせないの。誰も住んでないところを住めるようにするしかないんだよ。

 人間が住むには水と食べ物が必要で、その両方が揃ってるところは、もう、人が住んでるの。

 なら、今住んでないところに、それを揃えなきゃいけないの。

 詐為河(さいこう)東岸は、水があるのに、土が悪いから農民が来ない。農民が来ないから村ができない。農民をこさせるためには植物が生えるようにしないといけない。そのためには、あのカラッカラの荒野に水を撒かないといけないの。そのためには、川を何本か、人力で作ってしまう必要があるんだよ」

「川……? 川を、人の手で作るのか?」

「用水路って言ってね、小さな川を作るの。ナニカ、キラ・シでの倣いにそむく? 土をいじっちゃいけないとか、ある?」

「……それは、ない……が…………意味がわからん」

「これ、私に一任してくれてたよね? 止めないなら、やるよ?」

「………………ああ……やってくれ。ハルが良いと思うのなら」

「ガリさんに確認しなくていいの?」

「あいつはそういうものを理解しない」

 興味がないんじゃなく理解しないんだ?

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました