これは、ガリさんが王様に押しつけて印璽貰って、すぐに事業が始まった。設計図と進捗管理はゼルブの頭脳派に任せる。
まず、大地の表面を覆ってる塩の層を除去して、煮出して塩にして売った。これだけでも凄い収入になった。もちろん、人足を車李(しゃき)から借りてて、人件費が無料状態だからだけど。車李の財政はまだ大丈夫そうなので、キラ・シでストックしておく。
上流に100メートルぐらいの用水路を一本掘ってリョウさんに見てもらった。もちろん、私はおなかが大きいので、連れて行ってはくれなかったけど。一カ月後にはそこに雑草が生え揃っているのを見てもらった。農家の人を雇って、水田を作ってもらい、この大陸では東でしか作っていない『米』をそこで栽培した。ここらへんはゼルブに任せた。
西の人はヒエとかアワとか作ってるんだよね。お米は東の国から輸入する高級品。そういうのから作っていけばいいよね。
半年後に、水田に稲を植えたのをリョウさんに見てもらったら、唖然としてた。
まだ用水路の両側に二面分しかないけど、凄く緑!
「ここは……ひび割れた『その世』だったぞ? 馬で走ったら蹄が欠けそうな……」
「うん。それを、人力で川を作って、『この世』に変えたの」
リョウさんがキラ・シを次々呼んで、みんなで唖然大会。ガリさんも言葉を無くしてたみたい。
「これを、この川一帯でやりたいわけ。キラ・シの子供を育てるには十分な食料になるし、戦士になれない子たちにも働いてもらえるよ」
「やれ」
ガリさんのゴーが出た。よし!
とりあえず、この幅で次々用水路を作っていけば、そこらへんに雑草が生えるから、虫が来て小動物が来て、獣は狩れるようになる。水田に関しては、あとは農家の人をどれだけ呼べるかだけど……と思ってたら、用水路を引いたところから、なんか勝手にみんな水田作ってくれてた。用水路も勝手に延長してどんどん水田作ってくれてるし、用水路のメンテナンスもしてくれてる。そのうち、用水路も勝手に掘ってくれるようになった。
開墾した土地は自分のものにしていいよ、って車李(しゃき)と留枝(るし)から公布してもらったからだろうな。
ここは、荒れ地のうちに、車李から留枝に割譲してもらった土地で、留枝国はいま『騎羅史(きらし)国』って名前変えてる。管理は車李にしてもらってるから、内情はまだよくわからないけど、これも見ておいた方がいいよね。
とりあえず、ここらへんの税金が六公四民なので、五公五民にした。作物の種も上げます、育て方も教えます、ってぶち上げた。それでやっていけるのかどうかは計算してない。今はやりかたもわからない。騎羅史国にどれだけ税金が入っているのかもわからないし……とにかく、ここに人を増やしたかったから。
「ハルナ様っ! あの荒れ地に似合った作物を見つけましたわっ! 覇魔流(はまる)の砂浜に自生する芋ですっ! 多少砂や塩が合っても大丈夫ですし、一度植えたら、手入れしなくても延々増えます。塩水をかぶっても、砂や泥をかぶっても大丈夫ですわ」
サギさんが持ってきてくれた紫芋!
「あそこって作物より、掘り返すのが大変じゃない?」
一面分の田んぼも凄く大変だったみたいだよ?
「来年の黄龍で氾濫した直後に、牛を数千頭入れて、一気に掘り返しましょう。用水路で掘るのも良いですが、川の砂を畝に使えば、川も深くなりますし、粘土質の土壌の上に水はけの良い砂が乗ります」
「思い付いたこと全部やってっ! ゼルブの男性の子供もみんなそこで育つからねっ!」
「はいっ! 任せてくださいっ!」
マインドマップで書いた、詐為河(さいこう)西側の耕作地は、これで土壌管理はできそう……かな。とりあえず『解決』にしておいた。
あとはやってみないとわからないもんね。
とにかく、車李の王様がいるから、数万人規模の土木工事ができるのは大きい。
逆に、車李が傾くかもしれないけど……大陸の人数が増えれば税金も増えるし、大丈夫、だよね?
でも、他の土地でキラ・シの子を産んでもらって、連れてくるなら、他の土地では一気に人口が減る……よね?
でも、毎年産んでたわけでも無いから、そんな変わらないのかな?
ハーフで白い子も産まれるだろうから、黄色い子だけ連れてきて、ってすれば、キラ・シの白い子が村に残りそうな気がする。ただ、黄色い肌の方が優性遺伝子じゃなかったっけ?
キラ・シが増えたら、きっと、白人が駆逐されるよね。
「車李から大臣が派遣されるなら、制圧があらかた済んだ国はお城も取ってしまう? 村より町や城下町のほうが女性多いし。別に騎羅史国の城下町でも、キラ・シが無理してないから、嫌われてないようだし。あれができるなら、いいんじゃないかと思うんだけど?」
羅季(らき)でリョウさんが好かれているように、騎羅史国の城下町でも、別段、石を投げられたりはしてない。既に『制圧』で性欲自体はいつも晴らしてるからキラ・シが全然焦ってないからだと思う。物欲ないから、盗まない、ってのが大きいんだろうな。
「制圧が済んだところと言うと……今すぐ五つぐらいの国が取れるぞ?」
地図を前に、リョウさんとガリさんと打ち合わせ。
「そんなに向こうまで行ってたの?」
「黒いやつらがサバクのほうも道を見つけたようだ。馬が走れるぐらいの、砂が動かないところがあるらしい」
「あっちまで行ってたの! サル・シュくんが怖がってたから、みんな行ってないものだと思ってた!」
「サル・シュは怖がりだからな。あいつが怖がるところを好んで行く奴がいる」
「なんで? 特攻隊長が怖がるところなんて危なくない?」
「サル・シュと動くと、いい女を取られるから」
なーるほど。
サル・シュくんも、ガリさんがいないところを漁ってたもんね。そうだよね。『穴場』を狙った方がいいもんね。
「サル・シュくんが怖がりってどういうこと?」
「あいつは、俺たちが怖がることを怖がらないが、変なところでものすごく怖がりだ。
凶つ者が見えないというのもあるし……巧く言えんが……
サル・シュが好むところも得なことが多いが、サル・シュが嫌うところも得なことが多い。それが『変』なところでもあるな」
本当に不思議な子。
とにかく、既にキラ・シの制圧は北にも及んでるってことね。
村を制圧してからお城って、順番違うよね?
サル・シュくんが留枝(るし)を攻略した方法を広めたことで、『お城の陥とし方』をみんな知ってるんだよね。
甲佐(こうさ)を陥としたときの話も面白かった。
朝一番で跳ね橋が下げられたときに、全員で馬のまま特攻して、向かってくる人だけ殺して、王様殺した。ってさ。
簡単すぎて意味わからない。
その足でまわりの街を制圧。
そうそう『騎羅史』の国旗を作ったんだ。
黒に雷の染め抜き。現代でよく雷書くときにする、アルファベットのSに似たカクカクの雷を一つだけ書くの。
それを騎羅史の城と街にかざしたんだ。だから今は、甲佐の街とお城もそれが翻ってる。
既に村は全部制圧されてるから、バラバラ集まって、朝一番で集合して、パッと攻めて、若戦士とか、居たい人だけ見張りに置いて、パッと村に散る。その間他の村を制圧して、車李(しゃき)から大臣が来るころにパラパラ『制圧(懐柔)』していくって。
「なんでお城を陥としたときに『制圧』しないの?」
「怖がってる女抱いても面白くない」
サル・シュくんが、肩をすくめながら言ってた。
本当に無理しないんだな。
若戦士は基本的に無茶しないから、街の人もキラ・シに怯えなくなってるんだって。普通はわかい人が無茶して嫌われるものなのになぁ……騎羅史の若戦士って、本当にお行儀がいい。
とにかく、徹底的に争わないように回すんだなぁ、って感心する。
サル・シュくんがアンマン食べながらにっこり。
「他に抱ける女いっぱい居るのに、一カ月待ったら争わなくていいのに、無理やり押し倒すとか、どっちも面倒だろ。中には、陥としたあとでもすぐによって来る女いるから、それ目当てはそのまま残ってるぜ?」
「アンマンおいしい?」
「コレ? あんまん? 美味い!」
羅季(らき)でもたまにあったけど、留枝(るし)では蒸したパンに甘く煮込んだマメをいれた、『餡蒸し餅』がある。現代だと、蒸しパンで作ったどら焼きみたいなの。餡は小豆じゃなくて、緑色。鶯豆みたいな感じ? お砂糖は高価だから、現代のアンマンと比べるとそんなに甘くはないけど、この時代にしてはものすごく甘い。
これが、サル・シュくんの大好物。10個ぐらい一気に食べちゃう。サル・シュくん帰って来た、ってなると、子供たちが慌てて買いに行ってくれるんだ。
よく動くキラ・シはこういうので栄養補給しないと、体持たないよね。山下りのときも、みんなあちこちから木の実をもいで、のべつまくなしにナニカ食べてた。
そうそう、留枝(るし)を騎羅史って名前変えたときに、砂漠から留枝に本拠地を移してた。留枝はまだ湿度高いから、リョウさんも凄く気持ち良さそう。ガリさんは、相変わらず、全然いない。
地図からするに、そろそろ、ガリさんのお子さんが3000人を突破。一日10人じゃないな。
羅季(らき)の方へ行く人が、詐為河(さいこう)東岸の様子を教えてくれる。
100メートルの用水路が10本できて、田んぼは四枚、雑草が生えだして、ウサギとか出てきたって。植樹したガジュマルも根付いたみたいだし、種をテキトーに植えたのも芽を出してたって。
いい感じいい感じ。
それと、これはリョウさんも驚いてたけど、街道のハタに、キラ・シが勝手に井戸を掘ったらしい。全然水が出ないから、ものすごい大きな穴を掘ったところもあるみたい。馬の水飲み場がもっとほしいからって理由だって。
この時代はまだ、個人が国をまたいで動くことなんてまずない。最低でも馬車を持ってる商人が、馬の水とか飼い葉とか、全部持って動いてる。軍隊も一緒。
キラ・シは水も草も豊富な山で育ってるから、基本的にそういうのを持たない。だから、馬が喉乾くと、進めなくて、前の水飲み場に戻るしかできないんだよね。
『最初』はそれで進めなかったんだから。
今は、『少し我慢』すれば次の村にいける。そう知ってるから突破してたんだけど、どうしても我慢できなくなったらしい。『馬がかわいそう』っていう理由。
羅季(らき)のお城で井戸を掘ったのはみんな知ってるから、ここにどうしても水場が欲しい、というところを、集まって掘ったって。あのキラ・シが『大きな穴』って言ったんだから、本当に深くまで掘ったんだろう。
そのうち噂が回ってきた。
『誰かが大街道に穴をあけたから迂回しなくちゃいけなくなったが、その穴の下に水がある。
あまりに急な穴だから、馬車で降りることはできないから、馬を離して、勝手に飲みに行かせるが、それでも助かる。キラ・シが穴を掘ってるのを見た商人がたくさんいる。ナニをしているのかとみな不思議がっていたが、あんな大きな穴を掘るなんて凄すぎる。そんな、水のための穴が街道に五つできた。『キラ・シの泉』だ』
だって。
キラ・シって、体力馬鹿過ぎて面白い。
誰も、あんな荒野を掘って水が出るなんて思ってないから掘らなかったんだろうに。
掘れば水が出る、ってキラ・シは信じてるから、三倍掘ったんだろうな。まぁ、羅季(らき)の井戸もかなり深くまで掘ったもんね。丘の上だったから。
本当に馬鹿だなぁ…………かわいい。
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