【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。114 ~三千人分~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 私のおなかが大きくなってきたら、リョウさんがずっとお城にいてくれる。

「制圧行っておいでよ」

「生まれないか?」

「まだ全然生まれないよ。それぐらい、わかってるでしょ? あと何カ月あると思ってるの? 何人も子供居るくせにナニ言ってるの?」

「いや、だが……そんな…………腹が破れないのか?」

「…………妊婦さん、見たこと、あるよね? 山で三人お子さんいたんでしょ?」

「あいつらは……これぐらいだったから、腹が脹れてるのなんてわからなかった」

 リョウさんが、掌を横に広げて見せる。

 たしかに、キラ・シはみんな、このおなかに驚いてた。というか、『下』の人はそんな太ってないから。

 私を見て凄く騒ぐ。

「うるさいわね。あなたたちの女の人も見てきなさいよ。こうなってるから!」

 って言ったら、本当に見に行って、もっと大騒ぎになった。うるさい……

 全員が全員、『細い女の妊婦』を知らなかったらしい。

 なんでキラ・シの山の女の人ってそんなに太ってるの?

 そう言えば『前』に聞いたことがあったかな。その時に、ああ、アフリカにものすごく太ってる女の人がいるのと同じ理由ね、って思ったんだった。

 せっかく、ずっと歩いてたのに、みんなが歩かせてくれなくなった。私が階段に居ると支えてくれようとするから邪魔で仕方がない。

「歩かないと死ぬからっ! 歩かせてっ!」

 そう言ってようやく、いつもどおり、練兵場を歩けるようになった。ここで怠けたら、また、お産のときに体力切れて死んじゃうじゃないっ! もう、冗談じゃないのよあんなのはっ!

 マキメイさんも似たような出産予定日だから安心。というか、前は一緒に出産開始したもんね。

 私もドキドキだったけど、キラ・シがなんか、みんな制圧にも行かないでお城にいて、私に対してヒヤヒヤしているので笑ってしまう。

「制圧行かないの?」

「近場は行ってる」

 みんなもう、私のおなかばっかり見てる。

 今回はやったよ!

 私生きてたよ!

 リョウさんの赤ちゃん、かわいーっ!

 黒い!

「男の子だっ! 名前は? リョウさん」

「え? あ…………ハル」

「私と同じ名前はやめてほしい、ややこしいから」

「いや…………ハル……よくやった…………」

「ああっ……うん、ありがとうっ! ……抱かせて?」

「えっ?」

「え? ってナニ? 抱かせてよ私の赤ちゃん」

「重いぞ。無理だ」

「座ってるから大丈夫だ……よ…………ぁ……」

 くらっとした。

 頭元気なのにな……

  

 

  

 

  

 

「はっ! ここどこっ!」

 まさか、富士見台の家?

「騎羅史(きらし)のお城でございますよ。ハルナ様。よかった……お目覚めになられましたね」

「マキメイさんっ!」

 同じベッドに彼女がいてくれたっ! 良かった!

 ここ、私の部屋だ。お城の上の方の。

「お隣で申し訳ありません……」

「いてくれてありがとうっ! 心強いーっ!

 ずっと手を握っていてくれたよねっ! ありがとうっ!」

「三日もお休みでございましたよ。みなさんご心配なされて、大変でした」

 三日! あれだけ運動してもちょっと足りなかったのかな……今度はもっと運動しよう。

 あ、左隣にル・マちゃんも寝てた。狭い!

「赤ちゃんは? 赤ちゃんは?」

「リョウ様が抱いてらっしゃいますよ。片時もお離しにならずに。おしめの交換とかも凄くお上手で驚きました。ル・マ様、ル・マ様、リョウ様をお呼びくださいませ」

 マキメイさんがル・マちゃんを揺さぶる。

「んぁ? あっ! ハルが起きてるっ!」

「おはよう、ル・マちゃん」

「リョウ・カーっ!」

 耳を塞ぐ余裕がなかった……寝てるのにくらっとする。

「リョウ・カっ! リョウ・カっ! リョウ・カっ! ハルが起きた!」

 ル・マちゃんが叫びながらお城を駆け回ってる。

 もちろん、最初に飛び込んできたのはサル・シュくん。

 枕元で子供みたいに泣き崩れた。ガリさんまですっごい駆け足で飛び込んできた。びっくり。

 頭撫でてくれて、頬にキスしてくれた。これぐらいは、いいよね。リョウさん。

 他の戦士たちも駆け上がってきて、ハル! ハル! ハル! って、なんか、大合唱に!

 やっと来てくれたリョウさんが、抱きしめてくれて、安心、した。

 リョウさんと私の子は、マルちゃんになった。

 絶対に、リョウさんみたいな熊さんになるのに、マルちゃん。もう髪の毛もふっさふさ。

 マキメイさんとサル・シュくんの子、リオ・シュくんと並ぶと、まぁ……黒いわ、太いわ、へちゃむくれだわ。赤ちゃんの時点で足の長さってわかるのね!

 けど、かわいいッ!

 というか、リオ・シュくん、生まれたばかりなのに天使!

 リョウさんもサル・シュくんも、赤ちゃんあやすの巧い! 私が寝ててもお乳上げてくれるの。

「……わたくし、何も赤ちゃんの世話をしておりませんが……よろしいのでしょうか?」

 マキメイさんが逆に不安になるぐらい。

「キラ・シは男の人が育児するんだって」

「そのようでございますよね……逆に、抱かせても下さらないのですけれど……」

「だよね。それ問題だよね」

「ミアの時は、初産でもあり、夫も死んでおりましたので、臨月前に羅季王城にやっかいになりまして、女官と育児と大変だったのでございますが…………わたくしここ数日、ここに寝ているだけです。女官仕事もさせていただけていませんわ」

 今でも、ナニをどうしたらいいのか? の指示を仰ぎにはこられてるけど、リョウさんとか、ベッドから出してくれないんだよね。

「マキメイさんも『キラ・シの母』だから。甘えるといいよ。リョウさんたち、家族なんだから」

「ガリ様にも、リョウ様にも頭を撫でていただきました…………恐れ多いことにございます……」

 恐れ多いんだ?

 キラ・シのみんなも、羅季(らき)や覇魔流(はまる)まで、様子を見に行って、何人生まれた! と自慢し合ってる。

 四万人が生まれる超ベビーブーム!

「そうだ、リョウさん。地図の短冊、差し替えないと」

「もうそれぞれがやってる。自分の名前のを次の制圧に使ってる」

「そうじゃなくて……どの村に誰の子供が何人居るとか、書き留めないと」

「なぜ?」

「三年後に、回収するんでしょう? どこに誰が何人いるか、まとめないとわからなくなっちゃうよ?」

「それは、自分の子だからわかる。戦士たちに連れてこさせればいい。その時に、女が来るなら、くればいい」

「……ガリさんとか、三千人いるでしょ? 全部覚えてるの?」

「自分の子はな」

 あっさり言ったよ。

「だから、必要なのは、新しい女だけだ。今さら誰も、他人の女を盗らない。次も同じ女に子を産ませる」

「女の人、嫌がらない?」

「行くたびに近隣の獣を持っていくから今のところは、嫌がられた者は少ないようだ」

 ああ……養育費。

「マルちゃんの名前、リョウさんがつけてくれたけど、ガリさんも、三千人分名前つけるの?」

  

 

  

 

  

 

 

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