【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。116 ~『さらし者』~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 悪いことをした自覚はあったんだ?

『これで、ガリメキアの子供産むのは遠ざかったけど?』

 サル・シュくんは、分かってたはず。

 それでも『自分の叔父が喜ぶ』から、教えたんだ?

 ガリさんが、あり得ないほど全力疾走。

 うっわ……お城の中、走り回ってるまわってる。

 羅季(らき)城と同じように、このお城も回廊がぐるっとまわってるから、延々と走り続けることができる積んだ。何回か玄関を通りすぎた。

 サル・シュくんが外に逃げないってことは、放置したら殺されることで、隙あらば、ガリさんが諦めてくれることを願ってるんだろう。

 …………無理だよね……きっと……

「リョウさん大丈夫?」

 完全に失神してる。呼吸も脈もある。

 どう見ても、ガリさんより打たれ強いはずのリョウさんを、あの一瞬で気絶させるとか……

 一週間ご飯食べられないコース、とかいうアレだと思う。

「誰か手伝って? リョウさんを横にしてくれない? 吐いたら死んじゃう」

 みんなビクビクしてたけど、リョウさんをゴロンと俯せにしたあと、パッと離れた。

 女官さんに、いらない布を持ってきてもらって、顔の下に敷く。案の定、吐いた。

 その上に、似たような状態のサル・シュくんが投げられる。もう吐いてた。水を貰って二人の口元を拭く。

 ガリさんがハァハァ肩を揺らしてるみたいだけど、怖くて振り返れない。さっきからもう、ずっと気迫全開、痛い痛い。

「二つ貸しだ、と伝えておけ」

「……わ………かりました……」

「ハル」

「はいっ!」

 思わず立ち上がったら、腰を抱かれてキスされた。

  

 

  

 

  

 

  

 

 目覚めたら、騎羅史のお城のベッドだった。良かった。

 なんか最近、いつ富士見台に戻るかとヒヤヒヤする。

 隣には、安定のル・マちゃんカイロ。あったかい。

 おなかなでなでしてくれてた。

「ル・マちゃん……私どうなったの?」

「父上に口を吸われて寝たから、ベッドまで運ばれてた」

 そっか…………あのあとか…………

「リョウさんとサル・シュくんは?」

「まだ玄関で寝てるんじゃないか? 父上、すげぇ怒ってたな!」

「だよね? 凄い怒ってたよね? リョウさんとかサル・シュくん、おなか大丈夫かな?」

「10日ぐらい食えないだろうな」

「ソレだけで済むの?」

「父上が本気で蹴ったら、腹が破れる」

「たとえじゃなくて? 見たことあるの?」

「羅季(らき)の町を見てたとき、夕方だったかな、悲鳴がするから駆けつけたら女が押し倒されてたから、父上が男を横様に蹴ったら、千切れた」

 羅季の人達、柔らかいからねぇ……

「そのあとどうしたの?」

「女を父上の服でぐるぐるにして、家まで連れてった」

 紳士。安定の紳士。

 マキメイさんに話を聞いたら、その女の人、あとでお城までお礼に来たらしい。ガリさんの服と、新しい毛皮の服と持ってきてくれたって。

 もしかして、ガリさん、たまにまったく違う服着てるけど、あれって貢ぎ物?

 キラ・シの武勇伝って、本当にやってるから凄いよねぇ……普通さ、『蹴ったら体千切れる』とかって、比喩だよ。

 その千切れた男の人、野ざらしで町のみんなが見に来て、『キラ・シすげー!』に拍車かかったらしい。とりあえず、誰もキラ・シから不当に殴られたりしてないし、その人が随分悪党だったのもあって、キラ・シへの不評にはならなかったって。

 多分、もう、羅季の町も、『キラ・シの身内』なんだろうな。私は知らなかったけど、羅季城の周りに、キラ・シに抱かれたい女の子が集まってるっていうから、なんか凄いね。今も、キラ・シの移動先に行きたいって、見回りのキラ・シの戦士に連れられて騎羅史城に来る女の子とかいるんだよね。

 キラ・シの総意として女の子は城に入れない、養わない。だから、女の子たちは自動的に、詐為河(さいこう)東の開拓地に送られるんだけど、凄い働いてくれてるらしい。だからキラ・シもよく見回りに行くようになったし、ちょっとした『農村』になってるって。100%キラ・シファンの『制圧先』。

 なんか、アイドルに出待ち入り待ちして貢ぐファンみたい。『制圧』でパトロネス増やすとか、おかしい。

 男の人もどんどん来てて、家をいっぱい建ててるみたい。

 なんか不思議だなぁ。自動的に村ができるとは、思ってなかった。だから、車李(しゃき)の人足をあてにしてたんだけど……

 町の女の人じゃこうはならなかっただろうから、先に人口密度の低い村を制圧したのが正解だったんだね。ガリさんの『大きい村は後回し』が良かったんだ。

 どうにか玄関に下りたら、まだリョウさんとサル・シュくん、積み重なってた。吐いてる吐いてる。くさいくさい。

「リョウさん、サル・シュくん、起きて、起きて……キャッ!」

 ル・マちゃんが、サル・シュくんを蹴り陥とした。

「ごめんなさいっガリメキアっ! 悪いのはリョウ叔父です!」

 サル・シュくんが、叫びながら飛び起きる。

 まぁね、実行したのはリョウさんだからリョウさんが悪いんだけどね。教えておいて、そんな言いぐさ、アル?

「ハルか……というか、ル・マっ! 蹴っただろっ!」

「今さら、一つ青痣増えてもいいだろ」

「なんの夢を見てたのサル・シュくん」

「ガリメキアにボコボコにされる夢」

「それ、夢じゃないよ」

「夢の中でまで蹴るってひどくない? 何回体ちぎれたか……」

「その訴えは、ガリさんがかわいそう」

 ハー……って、鉄球吐き出すような溜め息のサル・シュくん。

「リョウ叔父まだ寝てるってすげぇ。何されたの?」

「こう、おなかを殴られたあと、肩を持たれて、膝蹴り。倒れたところを蹴り転がした」

 ヒッ、てサル・シュくんが肩をすくめた。

「リョウさんが浮くって凄いよね……

 サル・シュくん、食事、いつぐらいからできそう?」

「とりあえず、明後日はまず無理そう」

「リョウさんもかなぁ?」

「まだ寝てるんだから、もっと酷いだろ」

「ベッドに運んで上げてよ。あ、サガ・キさんっ! リョウさんを部屋に連れてってあげてくれない?」

 ぞろぞろ帰って来たキラ・ガン組に頼んでみた。

「断る。そいつはガリメキアに不義理をしたと聞いた。ここにさらされているのが似合いだ」

 ああ……そういう理由かー……

『不義理』なの? 扱いとして、かなり悪くない?

「何してるハル!」

 リョウさんの腕を階段へ引っ張ってみる。ル・マちゃんも手伝ってくれた。びくともしないっ! けどっ! 引っ張る! 一ミリ動いた? きっとル・マちゃんの力だろうな。でも、女二人じゃ、リョウさんは動かせないっ!

「こんなところに二日も寝てたら体おかしくなるよっ!」

「よせ、ハル。お前もう孕んでるんだぞっ!」

 そう言いながらも、サル・シュくんも手伝ってはくれない。『さらし者』って、キラ・シはかなり、厳格な決まりがありそう。

「お父さん死んだら意味ないでしょ!」

「まぁっ、ハルナ様! 何をなさってるのでございますかっ!」

 マキメイさんが寄ってきた。

「殿方がこのような放置をっ? なんてことでしょうっ! でもハルナ様は、今ご無理をなさってはなりません」

 マキメイさんにまで止められた。

 私も限界だったから手を離す。全然動かない。

 昨日と同じポーズで寝てたし、既に右側に褥瘡ができてるんじゃないかな。真上向けたら、吐いたときに死ぬし、とにかく、左側に……転がしたい……

「今度はナニしてんの? ハル」

 引っ張るのを諦めた私に、サル・シュくんが覗き込んでくる。

「同じ体勢だと、体が腐っちゃうから、向きを変えさせてる」

「ああ、それなら」

 サル・シュくんがごろん、と足で転がしてくれた。

「……サル・シュくんも力持ちだね」

「男だから」

 ル・マちゃんがカチン、と来てたけど、反論はしないらしい。

「リョウさん持ち上がる?」

「ショウ・キでも担げる」

「ショウ・キさんまで? 嘘でしょ? そんな細いのに?」

「細かねーよっ!」

 サル・シュくんがリョウさんを、なんかして肩に担ぎ上げた。

「本当に担いでるっ!」

 サル・シュくんの右肩の幅、リョウさんの脇腹ぐらいしか引っかかってないのにっ!

「担げるっつっただろっ!」

「そのままお部屋までお願い?」

 サル・シュくんが私をみて、大きな溜め息をついたけど、階段を上がって部屋まで運んでくれた。全然危なげないのが逆に怖い。男の人の筋力って底知れないな……

 まさに、チーターが象を担いでる感じ。

 リョウさんをベッドに落として、サル・シュくんが肩を回した。

「あー……また、ガリメキアに怒られる…………」

「怒られる?」

「怒られるよ…………さらし者は触っちゃいけないんだから」

「それは、キラ・シの倣い?」

「……そうなのかな……とりあえず、ダメなんだ……」

「でもやってくれたんだよね、ありがとうっ!」

「そりゃ……ハルがあれ以上して、子が流れたりしたら本当に殺されるし……あれ以上さらしたくなかったし……」

 思いっきり夢ではリョウさんのせいにしてたけど、本当にいい子。

 翌日、サル・シュくんは、ガリさんにまた蹴られて玄関にさらされてた。

  

 

  

 

  

 

「リョウがまだ寝てるって?」

 レイ・カさんが帰って来て、すぐにリョウさんの部屋に来てくれた。

 もう、リョウさんは起きてベッドに座ってて、肩を叩いて笑う。

「ついさっき起きたのよ」

「そりゃ、ガリメキアに本気で食らったならそうなる。サル・シュはまだ寝てるぞ」

「……あれは、リョウさんをここに運んだから……リョウさんごめんね」

「なぜ、ハルが謝る」

「私が嫌がってたら、リョウさんしなかったでしょ?」

 グビ……と、無理やり水を飲んで、吐きそうになったのを口を押さえて呑み込んでる。まだ胃が悪いよね、そりゃ。あんだけおなか蹴られたら。

「ガリさんが私に何度も『次は俺だ』って言ってたんだから、私だって、止めなきゃいけなかったんだよね?」

「ハルは悪くない」

「だって……」

「した」

 リョウさんが、拗ねた子供みたいにくちびるを尖らせる。

「した……」

 レイ・カさんが、ちょっと笑って腕を組んだ。

 リョウさんが大きな溜め息をつく。

『「勝ち上がり」の時にハルがまだ孕んでいれば、ガリも諦めるかもしれない』

『最初』の時、リョウさんはそう言って、延々と私を抱かなかった。

 それを考えたら、確かに、サル・シュくんが教えてくれたことは渡りに舟だったのかもしれない。

「サル・シュくんが蹴られたのはなぜ?」

「あいつもされたのか?」

「うん、リョウさんの上に捨てられてた」

 リョウさんはやっぱり右側が全面的に青黒くなってた。もうちょっと寝てたら、褥瘡になってたよね。

「『さらし者』のリョウさんを、ここまで運んでくれたのも、サル・シュくんだよ。だから、また蹴られてた。

 助かったけど、本当に、サル・シュくんには申し訳ないことになっちゃって……」

「また? 二回もガリメキアがやるなんて、珍しい……」

「ハル……もういい、玄関で、他の奴らの相手をしてやってくれ……ガリもそこにいる筈だ」

「今のガリさん、怖いよ……」

「……だが、ここにいても仕方がない」

 そりゃ……そうだけど…………

「立ってるのもつらいし」

「つらいことをしないと鍛えられないのだろう?」

「…………そうですね……」

 レイ・カさんとお話がしたいのかな?

 なら、仕方ないよね。

「すぐ俺も降りるから、ハル」

 リョウさんが、手を振ってくれた。

  

 

  

 

 

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