【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。118 ~口説きゲー~

 

 

 

 

 【ハルナ】

 

  

 

  

 

「ハルー、タンザク書いてくれー」

 戦士が一杯持ってくるから、新しいタンザクに名前を書いていく。

 地図が一瞬で真っ黒になったわ……

 子供の確認と、再制圧で、みんな短冊の差し替えが大変そうだった。

「リョウさん、キラ・シの戦士って、本当にマメね。ちゃんと、最初の村に帰ってまた制圧してきたのね」

 なぜか、リョウさんがゴホゴホと噎せながら、あっち行った。風邪かな? あんなところで寝てたし、褥瘡もどきが体中にあるし、今弱いよね、リョウさん。

「ハル、今日も元気だな」

「ありがとう、レイ・カさん。どこ回ったの? 短冊は?」

 手を出したら、刀を出された。

 なんで、抜いてるの?

「レイ・カっ! お前っ、ナニをっ! ハル! 避けろっ!」

 リョウさんがこっちに走ってきてくれてる、けど、その最初の一歩より先に、レイ・カさんの刀が、私の、おなか、に……

 え?

「ハルナ様っ! アアアアアアアァァァァァァッッッ!」

 マキメイさんの悲鳴が甲高く玄関に響く。

「お前がいるとキラ・シが割れる、ハル」

 ナニ?

 リョウさんと、ガリさんの、こと?

 あれって、もしかして、もっと、重大な事態、だったの?

「サル・シュが凶つ者(まがつもの)に取り憑かれたっ!」

 レイ・カさんがそう叫んだ。

 凶つ者? サル・シュくんに? どうして? なぜ、わかったの?

 リョウさんの刀が、レイ・カさんの首を刎ねた。

 飛び散ったのは、レイ・カさんの血だったのか、血走ったリョウさんの涙だったのか……

「馬鹿だな……レイ・カは、本当に……」

 玄関の入り口に立っていたサル・シュくんが、手近の戦士を切り殺した。

 そこには、キラ・シの戦士しか、いない、のに?

「なにっ? サル・シュっ……うわっ!」

「サル・シュに凶つ者がついたっ! 逃げろっにげっ…………ぐっぁっ……」

 玄関が、突然ちまみれ。倒れてる私に、どんどん血が降りかかってくる。

 ナニ? どうしてこんなことに?

 キラ・シの内紛?

 リョウさんと、ガリさん?

 サル・シュくんと、キラ・シ?

 あんなに、仲良かったのに?

 今朝もサル・シュくん、普通にみんなと笑ってたよね?

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくんが、真っ赤なドレスを翻しているかのようだった。

  

 

  

 

  

 

「はっあっ! ……あっっ!」

 富士見台の家っ?

 ナニ?

 あの死に方なに?

 あのあとキラ・シ、どうなったの?

 レイ・カさんはなぜ私を殺したの?

 サル・シュくんはどうしてキラ・シを殺したの?

『サル・シュが凶つ者に取り憑かれたっ!』

 レイ・カさんのあの声は……一体、どういう、こと?

 そしてなぜ、森の中で最初に会うのがレイ・カさんなの!

 勘弁してほしい…………

 ああ、でも、逆に考えると、こうなったら絶対、レイ・カさんは私を殺さないよね? それは、安心……かな…………

 あの時、リョウさんが、レイ・カさんの首を、刎ねた。

 私を殺されたから?

 実の弟なのに?

『お前がいるとキラ・シが割れる、ハル』

 レイ・カさんが、そう、言ってた……よね?

 私個人に対する、好きの嫌いのじゃ、なかった筈……

 リョウさんが、私を妊娠させたことで、本当にガリさんが怒ったんだ?

 部族が、割れると、レイ・カさんが考えた、ほど。

 私がいなければ、元に戻ると、考えられた、ほど。

『サル・シュが凶つ者に取り憑かれたっ!』

 リョウさんをそちらに導いたのは、サル・シュくんだった。

『ハル、今日孕むぜ、リョウ叔父!』

 あんなことをサル・シュくんが言わなければ、リョウさんは、私を、抱く筈はなかった……よね?

 あれが既に凶つ者に取り憑かれたから?

 キラ・シの凶つ者ってあの黒いの?

 アレに取り憑かれたら、どうなるの?

 サル・シュくんは、取り憑かれたから、ああ言ったの?

 キラ・シに、内紛を起こさせるために?

 どうして?

「誰だ?」

「……ハルナです」

「ハルナ。どこの部族だ?」

「日本」

「ニホン? 聞いたことがないな。キラの一族ではないのだな?」

「あなたはキラ・シのレイ・カさん」

「……凶つ者か」

「えっ?」

「ニホン部族など知らないのに、俺の名を知っているのはおかしい」

 あ……

  

 

  

 

  

 

 富士見台の家だっ!

 あそこで刎ねられたっ!

 レイ・カさん……凄い、用心深い。

 怖い。

 そして、森では、またやっぱりレイ・カさん……

 どうしよう。

「誰だ?」

「……ハルナです」

「ハルナ。どこの部族だ?」

「日本」

「ニホン? 聞いたことがないな。キラの一族ではないのだな?」

 とりあえず、首を横に振ってみよう。

「そうか。達者でな」

「え?」

 レイ・カさん、行っちゃった!

 どうしよう…………

「誰かーっ、いませんかー?」

 キラ・シのにおいが、しない。馬の足音も聞こえない。

 レイ・カさんが最後尾だったら?

 もう、近くにキラ・シが、いない?

 あ、キラ・シのにおい。

 あの、……煮出した毛皮の……にお……い…………

 狼の群れに、囲まれてた。

  

 

  

 

 そうか……キラ・シって、野生の獣のにおいだったんだ?

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 富士見台の家っ!

「どうしたの春菜。凄い汗よ?」

「……狼に…………食い殺された…………」

「なんの話?」

 私、3時間ぐらい、生きてた。体かじられてたのに……

 これ、死ぬときの怪我とかって痛さを感じてないのが唯一の救いだわ。

 そして森で会ったのはまたレイ・カさん。

 もう勘弁してっ! どうしたらいいのこの人っ!

「誰だ?」

「……ハルナです。女です」

「女?」

 レイ・カさんが、やっと私に興味を持ってくれたっぽい。

 ただ、全然、がっついて、来ない。

 逆に怖い。

 そういえば、レイ・カさんってどんな人だっけ?

 いっつも前戦走り回ってて、殆どお城に帰って来ないから……

「どうしたい?」

 なんなのこれ。口説きゲーなの?

「助けてください」

「助ける? 俺が無頼ならどうする」

「あなたは……そんなふうに見えません」

「どう見える」

 この男っ……

「悪そうには全然見えないけど、理屈が先に立って融通のきかなそうな、馬鹿」

  

 

  

 

  

 

 

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