【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。131 ~山管理の達人~

 

 

 

 

  

 

  

 

「のは、無理だな……そのあとも、毎年子供は生まれるのだし…………

 そうだな、キラ・シの戦士が子供を集めて回る必要があるわけか」

「制圧しているヒマがなくなるよね」

「……まぁ、子供を集めるときに、そこの女をもう一度孕ませればいいから、制圧の手間は、一緒といえば一緒だ」

「ああ……そうね…………そうねっ! そっか!

 特にこっちの半島は、同じ時期なんだから、一気に来て、戦士に集めてもらって馬車に乗せて、走らせればいいんだ?

 でも、馬車だって、20人ぐらいしか乗せられないよ?」

「バシャとはあれだろう? 馬に家をつけて走らせる。100人積めばいい」

「100人! 死んじゃわない? 落ちちゃうし……寝るところもないよ?」

「それで死ぬ子はいらん」

 ああ……『捨て子』理論か………ナンデも弱肉強食なんだよね。

「大人が30人ほど乗っていただろう? 子供なら200人乗るんじゃないか?」

「レイ・カさん…………子を縦に積んじゃダメ。文句言わない荷物じゃないんだから」

「間に蔦で仕切りをつければいい。上の方が面白いから登るぞ。運んでいる間に腕力がつく。村についたときに、上に居たやつから戦士に回せば、間違いなく強い奴だ」

 なーるほど…………移動の間もトレーニングさせるんだ?

 でもたしかに、それなら子供たちが勝手に遊んでくれそう。

 ナニが大変って、子供たちをずっと乗せておくことだと思うし……

 中に綱を張って遊ばせるのは、いい案かも……

 これはあとで一度試してみたけど、駄目だった。

 今、羅季(らき)にいる子供たちを全部乗せても、馬車の強度が足りない。サスが折れるし、車輪が砕けちゃうし馬車自体が壊れた。。

「サスと車輪と、馬車の底を鉄にできれば強いんだろうけど……」

「それを鉄で作るほど、鉄がないな」

「だよね。銅でやってみる? 重たくなるだろうなぁ……今度は馬が大変だと思う」

 キラ・シの馬10頭で牽けばいけるだろうけど、凄い目立つ馬車。まぁ、戦士が馬に乗ってればそのまま護衛になるし、いいのかな?

 子供でも、今の馬車なら、50人が限度。一万五千人を運ぶには、300往復。

 やっぱり、平均は片道一か月かかると思う。となると、1往復二カ月? もう、これは、計算する必要も無いよね。

 車李(しゃき)さえ落とせれば、畑の用水路はどうにかなる。

 既に『前回以前』でサギさんから、詐為河(さいこう)東岸で自生する植物は聞いてるから、それの絵を見せて持ってきてもらえばいい。

 ゼルブがいなくても、そこまでは、できる。

 あとは人の移動だけなんだけど……

 車李の一万二万を下したガリさんとリョウさんが帰って来たときに、ゼルブがいてもひそめない、エントランスの石畳の真ん中で円陣を組んだ。サル・シュくんも、『ルシ、一人じゃ無理』って帰って来てたんだ。

「あれ? どうして、私は詐為河を遡って馬車で移動しようとしてるの?」

 ふと、思い付いた。

「河をあっちに渡ってもらえばいいんじゃない」

 そうだよ、あの河、浅いんだし。両方からロープを渡せばいい。問題は、そんな長いロープ、この時代に調達できるのか、って話だけど、不可能ではない。

 一年間で一万五千人を移動させるのと、達成率は似てる気がする。難易度高すぎて、ほぼ無理、ってレベルだけど。

「車李の人足を借りるのが前提だったのと、土地がまだましだから詐為河の上流から田んぼを作ろうと思ってしまってた。

 このお向かいから作れば、ナニカあったときにすぐに帰って来られるじゃない?」

 でも、急がば回れだろうなぁ、これは。何十キロある? 季節によっても川幅は倍以上変わるし……雪解けと高波で春に大増水して逆流するんだから、その半年後が一番浅いよね? 九月ぐらいか。寒いってほど寒くもないけど……

「子供にも、女の人にも無理だよね……」

「蔦で戦士と女と子供たちをつないで、馬で渡ればいい」

 キラ・シには『紐』というものがないので、『長いもの』というと『蔦』とか『動物の腸』になるらしい。

「それは、女の人、死んじゃう。冷えすぎる」

 まぁ、私もル・マちゃんも臨月で渡ったから、無理ではないだろうけど、あの時とは意気込みが違うよね。意識朦朧としてたな。あれ一晩で行けたんだっけ? 馬に乗せてもらってたっけ? なんか、必死だったから記憶が……

「戦士の馬一頭に一人の女性と子供を運ぶのじゃ、コスパ悪すぎる。

 悪すぎるけど、二日で1往復できるから、でも、それで一年で300人ぐらいだしな……馬車と達成率似たようなものだなー。いや、一往復をぼーっと眺めてるんじゃなく、何人もに同時に渡ってもらえばいいんだ。なら、一往復の二日で、100人が渡ることも可能! なら、一万人なら、長くても一年以内に移動できる。

 小舟に乗ってもらって、キラ・シの馬で引っ張るってのもアリだよね? 小さな船でいいから、すぐ作れるし!」

「面倒癖ェな……どこかの村を全員殺して子供連れてきゃいいじゃねぇか」

 サル・シュくんが投げやりなことを言う。

「殺しちゃダメよ! 働く人が居なくなるじゃないっ!」

「じゃあ、そいつらをキラ・シで食わせて、働かせりゃいい」

「だから、村一つじゃ食べ物が足りないんだって」

「山、たくさんあるぜ? 狩ればいいだろ」

「それだと足りなくなるんだって。獣が居なくなってから、畑作ったって間に合わないんだから」

「じゃあ、ハタケ作るんじゃなく、獣を増やせよ」

「それなんだが、ハルナ。

 ……ハタケを見ていて思ったが、あいつら、ずっとハタケを触ってるが、あれでどれだけの食い物が取れるのだ?」

 レイ・カさんがそっと意見を挟んでくる。

「田んぼ一枚で、6人が一年間食べられる量……かな? それで、六公四民だから、2人が食べられるぐらい……になる? 税を払わなくて済むなら、六人食べられる」

「あれは2人ぐらいで維持できるのか?」

「あれだけ毎日ナニカをしていて、2人しか食えんのか?」

「毎日だよ? 水田一枚で、2人が一年間食べられるって大きくない?」

「鹿一頭で20人食えるぜ?」

「そんなにお肉あるの? でも、それを毎日しなきゃいけないじゃない?」

「だから、動物を狩るのなんて、十日に一度だって」

「え?」

「とにかく、あの、地面を毎日触ってるのがヤッ! あんなことしてたら、子が戦士にならねぇって!」

「でも、一万人に食べさせるには、毎日500頭の鹿がいるよ? 一年で20万頭いるよ?」

「ハルナは、その一万人の子供を、一つの山で育てるつもりか?」

「え? そうじゃないの? まとめて戦士の鍛練するんでしょ?」

「一つの山には200人がせいぜいだろう、それなら、山の動物で足りる。幾つの山がいる?」

「200人なら、山50個」

「50個ぐらい、山、あるぜ?」

「え?」

 サル・シュくんが、あっちもそこも山、山、山だぜ? って指さしてる。

「平らなところでもけっこう獣いるしな」

「だから、要るのは『サクモツ』じゃなくて、獣じゃねぇの? キラ・シは、『サクモツ』は作れねぇが、山なら育てられるぜ?」

「どういうこと?」

「実りの多い山にする、ということだ。雪崩を先に落として山が崩れないようにする。木が流れたらすぐに栗を植える。

 ハルナの言う3年後、なら、栗は十分実をつける。大体、最初は誰も手を付けてないのだから、最初の子の肉はある」

「村から近い山に移動させるだけなら、女でも子供でも勝手に行ける。水がないなら、村の井戸を使えばいいし、掘ればいい」

「村伝いにあの山までいけ、って言えば勝手に行くぜ」

 こんな平らなんだから、遠くの山だって見えるんだもん! ってサル・シュくんが遠くを見る真似をした。

「通り道の村には先に獣を渡しておけばいい」

「……でも、私の部族でも、肉は食べるけど、動物を育てるためのサクモツを育てるのが凄く無駄なんだよ。肉より、サクモツだけのほうが、効率が…………えっと……食いでがあるの」

「それはサクモツを人が育てるからだろ? 山なら勝手に草木が生えるぜ? なんでこっちのやつらはいちいちあんなことしてんだ?」

「勝手に生える植物だけじゃ足りないから……キラ・シがそれでやっていけたのは、村が500人以下だったからでしょ? 違うんだよ、毎年一万人生まれるってことなんだよ。それも死ぬのを見越してだから、純粋に生まれるのは、毎年四万人だよ? 毎年山20個増えるの? 15年で300個の山がいるんだよ」

「それぐらい山、あるって」

「えっ?」

「キラ・シが山に手をいれると言っても、枯れた木を抜いて栗の木を植えるとか、なだれたところに栗を植えるとか、それだけだ。そんな手間は年に何回もない。それだけで、山は育つし、獣も増える。我等はそれを狩るだけだ。それこそ、毎日誰かが10頭狩れば、村全部が食べていける」

「あの、ウシとかいうのを山で育てればいい。勝手に草を食って増えるし、子供でも簡単に狩れる。あの乳も飲みでがある」

「ウシは凄いな。あれは一頭で200人が食えるんじゃないか?」

 牛を山で育てる! 目からうろこ!

「牛って平原の草原じゃないと育たなくない?」

「あんだけ立派な蹄がありゃ、多少の山は大丈夫だろ」

 蹄っ! そっか……えー? そうなの? 山で牛なんて育つの? あんな大きいのが?

「草のあるところにしかいかんのだから、荒野に出て行くこともない。あの大きさなら、狼にもそうそうやられんし」

「狼と熊とかをキラ・シ全部で先に狩っちまえばいい。草食う奴だけにすりゃ、人が食う獣はすげぇ増えるぜ」

 たしかに、現代でも、狼がいなくなったら鹿が増えて大変なことになる、って言うもんね。それをキラ・シが食べるだけなら、減らない気は、するな、たしかに。

 山を草食獣だけにする……って、それ、多分、狼を絶滅させそうで怖いけど……この時代に『自然保護』って言葉は無いし……狼はどこかの山には居るだろうし……いいのかな…………

 その山だけの固有種とか、全然わかんないよ? 私、動物の見分けは全然つかないもん。キラ・シは見分けできるだろうけど、『動物愛護』って精神がまずない。食べる獣以外殺さないのは、『食べる』ためであって、種の保存……ではあるけど、動物のためではない。

「キラ・シの山にも、狼と熊がいるんだよね?」

「いるよー」

「それでも、200人で食べ物困らないの?」

「ぜんぜん」

「キラ・シは、本山のまわりに五つの山があって困らないだけだ。一つの山で200人は無理だろう」

「それはだから、狼とか熊が鹿を食っちまうからだろ? だから、それを先に食っちまおうってことじゃねーか」

「狐もだな。兎が生き残れば、食い物には困らんだろう」

 イギリスだっけ? 兎が空港で大繁殖して、飛行機の運行に支障が出てるとか。兎って放置すると物凄い増えるんだよね。

「……お肉だけで、いけそう?」

「山はヒマだよー?」

 すでに今、サル・シュくんが連続あくび。もうちょっと頑張って!

「……栗の木を植える……って、どうやって?」

「村のまわりに栗の木がたくさんあるから、その一番小さいのを掘り起こして植える」

「なんで栗の木がたくさんあるの?」

「400年前の族長が、わざとに植えたようだ。もともと栗は多いが、もっと多くなった。弓が巧くない子供でもとれる食糧だ」

「栗なんかこっちでもたくさん見たぜ? どこにでもあるだろ? そのそばに若木があるから、それを掬って他で植えりゃいいんだよ」

「今から植えたらちょうど三年だし、……幾つか実がつくんじゃないか? そのあとはもちろん、たくさんなるし、勝手に育つ」

 キラ・シって凄い……

 山管理の達人?

 そっちは全然考えてなかった……

 たしかに、詐為河(さいこう)東岸にガジュマルが増えれば、そこに植物が出て、ウサギとか来てくれて、それに肉食獣がきてくれれば、とは考えてたけど……山か…………となると、詐為河東岸開拓、って線を捨てることになる。

 いや、捨てなくていいか、同時進行すればいいんだ。

 東岸は車李(しゃき)のお金でできるんだから。

「……獣だけで食糧にすることは考えてなかったわ! 本当に? それでいける? 今後、60万人の規模になるんだよ?」

「毎年山ほど栗の木増やせばいいんじゃねーの?」

「それで……そのとりあえず三年後に、50の山に、キラ・シの子供用に村を作るとして、誰が管理するの?」

「若戦士が一人いりゃいいんじゃねーの?」

「若戦士50人いる?」

「弱いのからつけりゃいい」

「それで強い戦士になる?」

 シーン……

 でしょ?

  

 

  

 

  

 

 

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