【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。135 ~リョウ・カの兄弟~

 

 

 

 

  

 

  

 

 朝?

 私の部屋のベッド?

 ル・マちゃんはサル・シュくんの部屋かな?

 おなか……痛い…………

 食べられてはないみたい。怪我は、無い……よね?

 立ち上がったら……ブシャッ……って、ナニカ……え? 破水?

 臨月じゃないよ?

 まさか流産?

 慌ててスカートをまくったら…………

 このにおい……

 え?

 昨日の、夢じゃ…………なかった……の?

 私、誰か大勢に……犯された?

「うそ……」

 そんなこと、『今まで』一度もなかったのに……

 今までは、キラ・シにとって『女』じゃなかったから? 細すぎたから?

 とにかく、洗わないと……

 お風呂に駆け込んで、中、洗いたいのにっ、指が届かないっ!

「いやっ……いやっっっいやぁっっっ!」

「ハルナ様、どうされましたっ!」

「イヤアアアアアアアァァァァァァッッッ!」

 叫んで、た。

 吐いて、吐いて……吐いて…………

 何も、食べられなく……なった…………

 ベッドに丸まって、ル・マちゃん抱きしめて泣いてるしかできない……怖い……怖い……怖い…………

「ハルっ! どうしたっ! 食えなくなったってっ?」

 レイ・カさんが階段駆け上がってきた。

 一瞬、抱きつきたくなった……けど…………

「出て行ってっ! 私を見ないでぇっ!」

 血が出るまで吐いた。

 知られたくないっ!

 レイ・カさんにだけは知られたくないっ!

  

 

  

 

  

 

 【リョウ・カの兄弟】

 

  

 

  

 

「あの……リョウ様………………ハルナさまについて、お話があるのですが、お時間よろしいですか?」

 マキメイが俺に話しかけてくるのは今に始まったことではないが、ハルのことについて?

 フロで悲鳴を上げて気を失ったハルを、サル・シュがヘヤに連れて行った。そのあと、吐き続けてもう、二日も何も食べていない。指笛を吹いたからレイ・カがすぐに帰ってくるだろうが……

「ハルナ様……どなたかに乱暴されたのではないかと思うのですが……」

「ランボウ?」

「……えっと…………あの………………レイ・カ様以外の殿方……男のかた……に、子作りを……」

 なんだと? 誰が? ジョカンにできるわけがない。

 このシロにはキラ・シしかいないのに?

 あの太ったリョウリチョウがするか? 長老のようなモッコウショクニンがするか?

 キラ・シが? そんなことを?

 他の女に手を出せば、殺されると、みな知っている筈なのに? しかも、ハルはレイの子を孕んでいるのに?

「サル・シュ、一昨日、誰がこのシロにいた?」

「どしたのリョウ叔父。……あの日は、少なかったぜ?」

「ハルを、犯した奴がいるらしい」

「……え? ………………キラ・シが? まさか……!」

 また、ハルが吐いている声がしてる。

「ハルが招いたのではなかろう」

 子供のサナでも、ハル一人、簡単に押し倒せる。ハルに逆らえる筈が無い。

「あれっ! あれがっ、……されたからっ! えっ、どいつだよっ! いつっ? 食えなくなったの今日と昨日なんだから、一昨日?

 一昨日の、夜……?

 あ、俺、ル・マとヘヤにいたっ!」

 腹に3発埋めた。

「シロ守りでいるのに、ゲンカンにおらずにどうする……馬鹿者っ!」

「…………ごめん……」

「ごめんで済むことを祈れ」

 サル・シュがいつになく青ざめていたが、守備を怠ったのだから、百石寸前の罰がある。

「リョウっ! ハルがどうしたっって?」

 レイがカイダンを駆け上がってきた。

「出て行ってっ! 私を見ないでぇっ!」

 なぜレイをいやがる? まさか、ハルが男を呼び込んだのか?

 ル・マがトの前に立ってレイをおいやっている。

 ハルの悲鳴。甲高く泣くたびにとなりでサル・シュが息を呑んでる。

 ハルが静かになった? 寝たか?

 ル・マを押し退けてハルのヘヤに駆け込んだレイが、ハルを抱き上げて、顔を拭いていた。

 たかが二日でハルは痩せた。

 顔など、最初に拾ってきたよりげっそりしている。

「ハルは寝たか?」

「ああ…………だが、凄い量を吐いてる……血のにおいすらするぞ? 一体どうしたんだ? その様子じゃ、悪いものを食ったとかじゃないのだろう?」

「キラ・シの誰かに犯されたかもしれん」

 レイが一瞬固まって、ハルのフクをまきあげて確認した。

 ドンッ……と、ガリのような気迫が、ヘヤから城中に波うっていく。「わ……わっ…………わ…………」と、サル・シュが怯えて泣きだした。

「誰だ……?」

 やはり……そうか…………マドから、全員集合の笛を吹いた。

「サル・シュが、聞いていた。あの夜、五人の馬が帰って来て、朝出て行ったと」

「……五人? 誰か、わからないのか? サル・シュがゲンカンにいたのだろう?」

 俺が『知らんようだ』と手を上げたら、サル・シュが謝る前に、腹に二発食らわしてカイダンを蹴り落とした。

 帰って来た全員から、した奴は、すぐにわかったのがまだ良かったか……

 レイを見て、逃げ出したから。

 あとからキラ・シに来た奴らだった。

 元からキラ・シでなかっただけ俺の気は休まったが、レイはまだ気迫全開のままだ。そのままシロも、サイコウすら、凍らせてしまいそうだな。ガリすら眉を寄せてくちびるを噛み締めている。

 犯人をゲンカンに蹴り転がして、レイが首を取った。

 その首を、ハルに見せた。

 もう他にこんなことをする奴はいない。安心するだろうと、俺は思った。

 レイも、そう思ったから、見せた、筈だった。

 あのハルが、飛んで跳ねるようにテンボウダイへ駆け上がった。

 サル・シュですら追えないぐらい、早く。

 獣が鳴いているかのような叫びが、カイダンに、トウに響きわたる。

 サル・シュは走れなかったから、レイが走った。

 俺がテンボウダイに上がったとき、ハルは、ヘイの上に……あの身重の体で、どうやってそこに登った?

 ナニをする……気だ……? あそこからできることなど……

「ハル……降りてこいっ! ハル!」

 レイが、泣きながら叫んでる。

「ごめん……ごめんなさい…………レイ・カさん…………」

 なぜ、ハルが謝る?

 なぜ?

 お前は、何も、悪くないのに!

「ハル!」

 ハルは……あっちがわに………飛び下りた!

「え………?」

 レイが……いない……

 今、ここに、いた…………

 ここにいたのにっ?

 シロのイシダタミに……ハルを抱きしめたレイが転がっていた。

 じわりじわりと二人の下に血があふれていく。

 もっと、血が広がっていく。

 ぴくりとも、動かない……レイとハル……

 良かった……

 ただ、それだけを、思った。

 即死だ。

「……レイ……カ…………」

 ようやく上がってきたサル・シュがそれを覗いて、またカイダンを駆け下りていく。

「間に合ったのだな、レイ……」

 ハルが先に落ちたのに、レイの腕が、ハルを抱きしめていた。

 眠っているだけのように、見えた。

 二人のそばで、サル・シュが、泣き叫んでる。

「……一緒に………………死ねたな……? レイ……」

 来世では、近くに生まれるだろう。

「初めて、お前が執着した…………女……と…………ずっと、居ろ……」

 サル・シュの悲鳴がこだまする。

  

 

  

 

  

 

 俺の兄弟が……全員、死んだ……

  

 

  

 

  

 

 サル・シュは一言も喋らなくなった。

 ル・マに抱きつかれても引き剥がしていた。

 たまに赤い目で起きてきて、ふらりと制圧に出る。

 あれは、用を足しとるのだろうか? 女の腹から凶つ者が生まれはしないか?

  

 

  

 

  

 

 次の戦で、サル・シュは腕を失った。目も、殆ど見えておらんようだ。あの美しい顔が、ずたずたになっている。

「相棒がいないと…………ダメだな……

 これでもさ……200人ぐらい……殺したん……だけ……ど…………」

「……5000は殺してたぞ……」

 ガリが『山ざらい』の出し方を変えたように、サル・シュは、『刀折り』を変えていた。

 水平に出せるようになった『刀折り』で、敵のヨロイを切らずに胴体だけ切れるようになってた。密集した敵がバタバタと倒れるのは見事だったな……

 レイ・カの分まで戦果を上げようと、必死、だった。

 ただ、キラ・シのために。

 切れた腕を片手で止血して、笑う、サル・シュ。

 久しぶりに聞いた声は、また、泣いていた。

「ジジイたちに全部おっかぶせて悪いな……」

「本当にな…………3位と4位が先に死ぬなど…………ありえん」

「ごめんな……リョウ叔父…………」

 ようやく笑った口から血を吐いた。

 ガリに向かって、残った手を広げる。

 砕けた足。その腕さえ、地面から少し離れただけだ。

 こんなに、若いのに……

「殺して、ガリメキア…………次も、あんたのそばに生まれるから……」

 今回の戦で、ガリは何度、キラ・シを殺しただろう。

 みな、サル・シュのように、来世でガリのそばに生まれると言い置いて、刎ねられた。

「本当に、ジジイだけが残ったな」

 ショウ・キが笑う。

 まわりを、車李(しゃき)の弓兵に囲まれていた。

  

 

  

 

  

 

 

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