「来いとは、言われなかったぞ?」
「サル・シュくん一人で城攻めできるわけないじゃないのっ! 早く行って!」
「ああ、ルシとは、シロだったのか?」
あ……そっか、私が言い漏らしてた? 何回も言ってるから、ナニ言ってるか確認してなかった。
「ごめん、私が悪かったです。サル・シュくんを追い駆けてください。今すぐに」
「今すぐは無理だな、誰かが帰って来ないと」
そうだよね、上位六位の誰かがお城にいるんだよね……
「なら、ついでだから、お城の裏に井戸を掘ってください」
押しつけた。
まぁ、毎回思うけど、楽しそうに穴を掘ること、キラ・シって。
とにかく『体を動かす』ことがみんな好きみたい。にっこにこして重労働するから、凄くかわいい。
それを、レイ・カさんが腕組んで見てる。
結構レイ・カさんも、リョウさんと『好きなこと』が同じっぽい。きっと、洗濯機回ってるのとか見てるの好きなんだろうな。
私に触りたくはないらしいけど、私としゃべるのはいやでもないみたい。
「私、先見でナニ言ったかな…………
ル・マちゃん、重たいよ。左腕持ってていいから。おぶさらないで」
穴を掘ってるのを眺めながら、おんぶお化けに移動してもらう。
「そこのハシにすぐ5000の敵が来る。次に一万、二万がくる。シャキのシロのあそこを『山ざらい』で崩せ。ルシを制圧したらゼルブが手に入る。ルシを放置したらルシがラキのシロを襲って、ゼルブがオウジサマを盗ってシロを崩す、その時に、ル・マを助けたらサル・シュが死ぬ。ハルナとガリメキアが死ぬ……かな」
たしかに『留枝「城」』って言ってないな……これは私が悪かったです。
「追加で言っていいかな? 車李(しゃき)の雅音帑(がねど)王、絶対に殺して」
「どんなやつだ」
「ガリさんが老人になって痩せたぐらいの体格の、鼻の長い白髪まじりの王様」
「老人? 長老か?」
「そのたぐい。生かしておいたら……」
言っていいかな?
「グア・アさんとシル・アさんが、キラ・シの人数をばらして、キラ・シのシロに毒をまいて、ガリさんとリョウさんが毒死して、サル・シュくんも死んで、ゼルブが離反して殺しにかかってくる」
腕を組んだまま、レイ・カさん、穴を掘ってるのを見つめてる。
左腕が重たい……
「ル・マちゃん、何度も言ってるよね? 抱きついてるのはいいけど、私にもたれないで。私が折れちゃう」
「ごめんごめん」
「それは…………今、そのゼルブを手に入れるためにサル・シュが走っているのではないのか?」
レイ・カさん、考えてたんだ?
リョウさんは思い付いたことをはたから話していくタイプだけど、レイ・カさんは黙考タイプだね。
「ガリさんとサル・シュくんが死ななければ、ゼルブはずっと味方。そういう契約だから」
「ケイヤク?」
「約束」
あの離反は、本当にまいった。
キラ・シ200人に、ゼルブ400人。一対一ではもちろんキラ・シに分が有るけど、各個撃破されたらちょっと太刀打ちできない。キラ・シは大体ばらけてるから。そこを狙われたらどうしようもなかった。
大体、まだ生きてたガリさんをゼルブが殺した可能性すらある。弱った主は要らないよね。
「ゼルブがいないと困るの。ガリさんとサル・シュくんが死ぬ前に、約束する相手をガリさんとサル・シュくんじゃなく、キラ・シ全部にしておけば、大丈夫だと思う。彼らは元々が『留枝王家』と契約してたから」
ただ、『留枝王家』と契約してても、その契約を破りたいから、サル・シュくんを素通りさせたとか、そういうことはするんだよね。
だから『圧倒的強さ』を常に見せておかないといけないんだ。
チヌさんは、お母さんのサギさんでもあそこで殺してた。
ゼルブもキラ・シと一緒。『敵』には容赦しないんだ。たとえ、母親でも。
あの様子だと、車李に私達を引き渡すようになっていて、サギさんが私達を引き止める、って言ったんじゃないのかな。何も聞かずに殺したのは、私達が逃げてるから、『母の裏切り』が明らかだったからだと、思う。
「ゼルブには、キラ・シがお前らより強いんだぞっ! ってところを見せつけ続けないといけないんだよ」
ガリさんとサル・シュくんには、心の底から怯えていた筈。チヌさんには見えたんじゃないのかな。針鼠になったサル・シュくんの死体が。だから、グア・アさんの手筈が実行されたことを知って、ガリさんの確認のために馬で騎羅史城に入ったんだ。
『最初』にゼルブを手に入れたときならどうだっただろう?
あの時でも、ゼルブはガリさんがいなくなったら裏切っただろうか?
『裏切り』じゃないよね、『契約終了』なんだ。
ただ、契約終了させるために、ガリさんとサル・シュくんを殺すために、外部と手を結んだのは、裏切りだよ。組んでないとしても、グア・アさんが毒酒を持って帰って来るのを『黙ってた』のなら、裏切り。あのタイミングで帰城しておいて、知らなかったわけがない。
草の根分けてでも殺してやりたいけど、『今回』のゼルブがそれをするとは限らないし、ゼルブが離反した時には、キラ・シは立ち行かない筈……
ゼルブも殲滅しちゃえば『安全』だけど、『できること』が狭まるんだよね。
詐為河(さいこう)東岸の村の管理とか、キラ・シだけじゃできない。
「ああ……だから、ガリメキアとサル・シュが死んだら造反したのか」
そうだ……井戸を掘りながら、レイ・カさんと話ししてたんだった。
「そうそう」
「それが分かっているなら、仲間にしない方がよいのではないのか?」
「敵になったらもっとヤバイよ」
「だが、サル・シュはまだしも、ガリメキアはあと10年いないぞ? 5年もぎりぎりなのではないか? 白いから、リョウより先に死ぬだろう。サル・シュもあれだけ白いから、早く死ぬはずだ。そして、あの二人のような強さは、他にはない」
冷静すぎて、叛旗にも聞こえるわ。
レイ・カさんがこれだけはっきり言う、ってことは、キラ・シみんな、そういう覚悟はあるんだろうな。
ガリさん、五年か……今年の子の成人にあと10年足りない!
「だから、キラ・シの部族全体と約束をしてもらえば……」
「そんな面倒臭いのは潰した方がいい」
「……それができたらそうだけど……」
「そいつらはどれだけ強い?」
「族長のチヌさんが、キラ・シの8位。サガ・キさんが『勝ち上がり』でギリギリ勝った」
「人数は?」
「5000人」
戦闘部隊は400人だけど。
「あー………………」
「でしょ?」
「そうだな……その人数は、すごいな……」
「みんながみんな強いわけじゃないけど、速いんだよ。
とりあえず、彼らが入ったあとで、グア・アさんが35位だった」
「弱いな」
穴がどんどん掘れていくのを見ながら、レイ・カさんは拳を口に押しつけて、微動だにしない。
「グア・アは決して、キラ・シで弱いわけではないが、その下に殆どが入るなら、いらないんじゃないのか?」
「ゼルブがいないとできないことがあるのよ」
「どういうことだ?」
「ゼルブは、戦士は400人で、他は各国に潜入してるの」
「せんにゅう?」
「大きな町とかお城とかに、そこの人のふりをして生活をして、そこの情報を集めてるの……
キラ・シで言えば、例えば、他の村の人がキラ・シに入りたいって言って入ったけど、もとの村にずっとキラ・シの内情を話してる……って感じ」
「それは……なんの意味がある?」
「今だと、キラ・シの戦士の人数って内緒だよね? それがばれる」
「ああ……」
「そういうのが巧いところなのよ。だから、敵に回すと大変なの。
そして、この一年でね、キラ・シの子供が四万人生まれるの」
レイ・カさんは私を見ては居たけど、相槌を入れてはこない。私が喋り終わるまで黙って聞いてるタイプ?
「一年以内に病気とかで一万五千人まで減るとして、来年もそれぐらい産ませるでしょう?
そして、三年目の子供を集めて戦い方を教えるよね?
毎年一万人残っていたとしても、各地から一万人連れてこなきゃいけなくて、一万人分の食糧がいって、一万人分の住むところがいるの。それが、毎年毎年増えていくの。
ゼルブがいたら、それを全部用意してくれるんだ。
キラ・シでだけならどうする?
一万人って、キラ・シの戦士が200人としたら、50部族分だよ」
レイ・カさんの目が少し大きくなった。
何度か頷いて、また穴を掘ってるのを眺める。
「用意をさせたあとで全部殺す」
あこぎな。
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