【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。130 ~あこぎな~

 

 

 

 

  

 

「来いとは、言われなかったぞ?」

「サル・シュくん一人で城攻めできるわけないじゃないのっ! 早く行って!」

「ああ、ルシとは、シロだったのか?」

 あ……そっか、私が言い漏らしてた? 何回も言ってるから、ナニ言ってるか確認してなかった。

「ごめん、私が悪かったです。サル・シュくんを追い駆けてください。今すぐに」

「今すぐは無理だな、誰かが帰って来ないと」

 そうだよね、上位六位の誰かがお城にいるんだよね……

「なら、ついでだから、お城の裏に井戸を掘ってください」

 押しつけた。

 まぁ、毎回思うけど、楽しそうに穴を掘ること、キラ・シって。

 とにかく『体を動かす』ことがみんな好きみたい。にっこにこして重労働するから、凄くかわいい。

 それを、レイ・カさんが腕組んで見てる。

 結構レイ・カさんも、リョウさんと『好きなこと』が同じっぽい。きっと、洗濯機回ってるのとか見てるの好きなんだろうな。

 私に触りたくはないらしいけど、私としゃべるのはいやでもないみたい。

「私、先見でナニ言ったかな…………

 ル・マちゃん、重たいよ。左腕持ってていいから。おぶさらないで」

 穴を掘ってるのを眺めながら、おんぶお化けに移動してもらう。

「そこのハシにすぐ5000の敵が来る。次に一万、二万がくる。シャキのシロのあそこを『山ざらい』で崩せ。ルシを制圧したらゼルブが手に入る。ルシを放置したらルシがラキのシロを襲って、ゼルブがオウジサマを盗ってシロを崩す、その時に、ル・マを助けたらサル・シュが死ぬ。ハルナとガリメキアが死ぬ……かな」

 たしかに『留枝「城」』って言ってないな……これは私が悪かったです。

「追加で言っていいかな? 車李(しゃき)の雅音帑(がねど)王、絶対に殺して」

「どんなやつだ」

「ガリさんが老人になって痩せたぐらいの体格の、鼻の長い白髪まじりの王様」

「老人? 長老か?」

「そのたぐい。生かしておいたら……」

 言っていいかな?

「グア・アさんとシル・アさんが、キラ・シの人数をばらして、キラ・シのシロに毒をまいて、ガリさんとリョウさんが毒死して、サル・シュくんも死んで、ゼルブが離反して殺しにかかってくる」

 腕を組んだまま、レイ・カさん、穴を掘ってるのを見つめてる。

 左腕が重たい……

「ル・マちゃん、何度も言ってるよね? 抱きついてるのはいいけど、私にもたれないで。私が折れちゃう」

「ごめんごめん」

「それは…………今、そのゼルブを手に入れるためにサル・シュが走っているのではないのか?」

 レイ・カさん、考えてたんだ?

 リョウさんは思い付いたことをはたから話していくタイプだけど、レイ・カさんは黙考タイプだね。

「ガリさんとサル・シュくんが死ななければ、ゼルブはずっと味方。そういう契約だから」

「ケイヤク?」

「約束」

 あの離反は、本当にまいった。

 キラ・シ200人に、ゼルブ400人。一対一ではもちろんキラ・シに分が有るけど、各個撃破されたらちょっと太刀打ちできない。キラ・シは大体ばらけてるから。そこを狙われたらどうしようもなかった。

 大体、まだ生きてたガリさんをゼルブが殺した可能性すらある。弱った主は要らないよね。

「ゼルブがいないと困るの。ガリさんとサル・シュくんが死ぬ前に、約束する相手をガリさんとサル・シュくんじゃなく、キラ・シ全部にしておけば、大丈夫だと思う。彼らは元々が『留枝王家』と契約してたから」

 ただ、『留枝王家』と契約してても、その契約を破りたいから、サル・シュくんを素通りさせたとか、そういうことはするんだよね。

 だから『圧倒的強さ』を常に見せておかないといけないんだ。

 チヌさんは、お母さんのサギさんでもあそこで殺してた。

 ゼルブもキラ・シと一緒。『敵』には容赦しないんだ。たとえ、母親でも。

 あの様子だと、車李に私達を引き渡すようになっていて、サギさんが私達を引き止める、って言ったんじゃないのかな。何も聞かずに殺したのは、私達が逃げてるから、『母の裏切り』が明らかだったからだと、思う。

「ゼルブには、キラ・シがお前らより強いんだぞっ! ってところを見せつけ続けないといけないんだよ」

 ガリさんとサル・シュくんには、心の底から怯えていた筈。チヌさんには見えたんじゃないのかな。針鼠になったサル・シュくんの死体が。だから、グア・アさんの手筈が実行されたことを知って、ガリさんの確認のために馬で騎羅史城に入ったんだ。

『最初』にゼルブを手に入れたときならどうだっただろう?

 あの時でも、ゼルブはガリさんがいなくなったら裏切っただろうか?

『裏切り』じゃないよね、『契約終了』なんだ。

 ただ、契約終了させるために、ガリさんとサル・シュくんを殺すために、外部と手を結んだのは、裏切りだよ。組んでないとしても、グア・アさんが毒酒を持って帰って来るのを『黙ってた』のなら、裏切り。あのタイミングで帰城しておいて、知らなかったわけがない。

 草の根分けてでも殺してやりたいけど、『今回』のゼルブがそれをするとは限らないし、ゼルブが離反した時には、キラ・シは立ち行かない筈……

 ゼルブも殲滅しちゃえば『安全』だけど、『できること』が狭まるんだよね。

 詐為河(さいこう)東岸の村の管理とか、キラ・シだけじゃできない。

「ああ……だから、ガリメキアとサル・シュが死んだら造反したのか」

 そうだ……井戸を掘りながら、レイ・カさんと話ししてたんだった。

「そうそう」

「それが分かっているなら、仲間にしない方がよいのではないのか?」

「敵になったらもっとヤバイよ」

「だが、サル・シュはまだしも、ガリメキアはあと10年いないぞ? 5年もぎりぎりなのではないか? 白いから、リョウより先に死ぬだろう。サル・シュもあれだけ白いから、早く死ぬはずだ。そして、あの二人のような強さは、他にはない」

 冷静すぎて、叛旗にも聞こえるわ。

 レイ・カさんがこれだけはっきり言う、ってことは、キラ・シみんな、そういう覚悟はあるんだろうな。

 ガリさん、五年か……今年の子の成人にあと10年足りない!

「だから、キラ・シの部族全体と約束をしてもらえば……」

「そんな面倒臭いのは潰した方がいい」

「……それができたらそうだけど……」

「そいつらはどれだけ強い?」

「族長のチヌさんが、キラ・シの8位。サガ・キさんが『勝ち上がり』でギリギリ勝った」

「人数は?」

「5000人」

 戦闘部隊は400人だけど。

「あー………………」

「でしょ?」

「そうだな……その人数は、すごいな……」

「みんながみんな強いわけじゃないけど、速いんだよ。

 とりあえず、彼らが入ったあとで、グア・アさんが35位だった」

「弱いな」

 穴がどんどん掘れていくのを見ながら、レイ・カさんは拳を口に押しつけて、微動だにしない。

「グア・アは決して、キラ・シで弱いわけではないが、その下に殆どが入るなら、いらないんじゃないのか?」

「ゼルブがいないとできないことがあるのよ」

「どういうことだ?」

「ゼルブは、戦士は400人で、他は各国に潜入してるの」

「せんにゅう?」

「大きな町とかお城とかに、そこの人のふりをして生活をして、そこの情報を集めてるの……

 キラ・シで言えば、例えば、他の村の人がキラ・シに入りたいって言って入ったけど、もとの村にずっとキラ・シの内情を話してる……って感じ」

「それは……なんの意味がある?」

「今だと、キラ・シの戦士の人数って内緒だよね? それがばれる」

「ああ……」

「そういうのが巧いところなのよ。だから、敵に回すと大変なの。

 そして、この一年でね、キラ・シの子供が四万人生まれるの」

 レイ・カさんは私を見ては居たけど、相槌を入れてはこない。私が喋り終わるまで黙って聞いてるタイプ?

「一年以内に病気とかで一万五千人まで減るとして、来年もそれぐらい産ませるでしょう?

 そして、三年目の子供を集めて戦い方を教えるよね?

 毎年一万人残っていたとしても、各地から一万人連れてこなきゃいけなくて、一万人分の食糧がいって、一万人分の住むところがいるの。それが、毎年毎年増えていくの。

 ゼルブがいたら、それを全部用意してくれるんだ。

 キラ・シでだけならどうする?

 一万人って、キラ・シの戦士が200人としたら、50部族分だよ」

 レイ・カさんの目が少し大きくなった。

 何度か頷いて、また穴を掘ってるのを眺める。

「用意をさせたあとで全部殺す」

 あこぎな。

  

 

  

 

  

 

 

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