今回はリョウさんだと、思ったんだもの……
リョウさんが、一番だと…………思ったの……
もう……今回はリョウさんを好きに……なっちゃったんだよ……っ!
「だから、キラ・シを、敵に、したの」
リョウさん……助けてリョウさんっ…………ここから逃げ出す方法を、思い付かせてっ!
「敵は、強い方が、いい、だろ?」
なんて晴れやかな笑顔。
「族長と、副族長を殺そうとした。キラ・シの宝であるハルを奪った。
これで俺は、『キラ・シの敵』だ。
全キラ・シが世界中で俺を、追い駆けて、来る」
全裸で、彼が、ベッドの横に、座った。
腰が抜けてるから、動けない。サル・シュくんの近くにある私の足を、抱き寄せた。
「殺すために」
逃げようとしたけど、手を掴まれただけで、体が動かない。
「一生……追い駆け回されるわよ!
ゼルブがどれだけ凄かったか覚えてるでしょうっ?
キラ・シがどれだけ強かったかっ。リョウさんが現代にいたらああなってるのよっ! みんなそんなレベルなんだよっっ!」
「俺も、このレベル、だけど?」
掌を広げて、肩をすくめて見せるサル・シュくん。
「ハルに分かりやすく教えてあげたつもりだけど、わかんなかった?」
わからないわよっ! って、叫びたい。
でも…………わかった…………わかってる、けど、頷きたく、ない……
「誰の声でも好きなように喋らせられる。
どこにでも侵入出来る。
特別な爆弾でどこでも爆撃出来る。
空に、住んでる」
人の命をなんとも思わないところも、前のサル・シュくんと、一緒!
「…………まさか……ガリさんのメッセ………………偽物?」
サル・シュくんが、笑った。
「さぁね」
クスクスクス……と笑う。
「本当かもよ?」
小首傾げる。
「嘘かもよ?」
右に。
「本当ならなにができる?」
左に。
「嘘ならどうする?」
長い髪がサラサラ流れて、綺麗だと思ってる、私の心が凄く、痛い……
「嘘……だよね?」
どうする?
「どうして?」
どうしたらいい?
「幾らサル・シュくんでも、キラ・シ全員を一度に相手にはできないんじゃない? まずは、リョウさん、でしょう?」
彼の表情に、変化はなかった。
「ル・アくんが、私と会ってから初めて記憶が戻ってたのに、ガリさんたちが、会ってもいないのに記憶が戻ってる筈、ないんじゃない?」
「じゃあ俺は?」
「昔、会った、よね?」
初めて、サル・シュくんの目が、見開かれた。
「私が二才ぐらいの時に、凄く綺麗な子が私と遊んでた、って、母さんが、言ってた。私が、目に怪我をして包帯巻いてたころ……」
そう……私のアルバムに、在るはず。
私は見えなかったから、思い出さなかったんだ……
あのガリさんのメッセが本当かどうかはわからないけど、私も、徐々に思い出してきた。
「そう、そのころにハルに会って、俺は記憶が戻ってた」
「その時に声を掛けてくれたら良かったのにっ!」
「あの時、俺、さらわれちゃってたんだ」
「え?」
「親に売られたんだ。別の国に連れて行かれて……記憶が戻ってたからそいつらは殺せたけど、国境は、太平洋は、越えられなかった。
生半可な努力じゃどうにもならかった」
「……警察には? 領事館とか……」
「大人なんて信用出来なかった。
俺の両親、警察官だったんだ。でも、一度も、俺を探しては、くれてなかった……俺がさらわれたあと、警官やめて、田舎で農場やってて、この前、火事で死んだよ」
それって……自然出火?
「どうやっても、ハルのところに戻れなかった。ナニカが邪魔してると思った。だから、一人で、強く、なった……」
人指し指でくちびるを押さえて。内緒? それとも、ナニカに呪いを掛けてる?
「邪魔してるんじゃ、なかったんだよな? ハハッ……
俺の望みに一番近い形に、なってくれてたんだ……俺は、『組織』に引き取られて、そこを乗っ取った。ゼルブより、大きな、組織。ゼルブはもう、全員、殺したよ」
あの時でも、確かに彼らは、誰一人、ル・マちゃんにさえ勝てなかった。
「キラ・シも、ショウ・キより下は全員、殺させた」
「生き残ってるのは、上位六人だけ……?」
「六人?」
もう一度、サル・シュくんが、内緒、って……
それ……
「……まさか……リョウさん、だけ?」
人指し指の向こうで、三日月みたいにくちびるがつりあがった。
一人しか残ってない、……って、こと?
「もう少し、骨があって欲しかったけど……あいつら、単体で動いてるから、組織で動いてる俺に、勝てるわけ、ない」
「ガリさんも?」
んふっふっ……って、笑う。
ガリさんが旅行行った、とはル・アくんが言ってたけど、いつからかは聞いてなかった。
「ル・マちゃんも?」
「脳は殺したけど、試験管の中で俺の子、臨月」
電気毛布に包まれてるのに凄く、寒い。
「やっと……ル・マに、俺の子を産ませられる。
科学って凄いね!」
キャハッ、と笑う、サル・シュくん。
『他の歴史』では、サル・シュくんとル・マちゃんの子供は生まれてたけど、『この彼』はもちろん、知らない。
「俺と、ル・マの血を引く、最強のキラ・シが、この先、幾らでも、できる。促成するから1年で6才。キラ・シなら、六才で100人殺せる戦士になる。
全部、俺の組織の戦士になる。三カ月で一人生まれる。
今、ル・マのクローンを作ってる、三年後にはル・マが100人。三カ月ごとに100人、一年で400人。
リョウ・カの会社の派遣社員の数を、いつ越えると思う?」
もちろん、巧く行くならもっと増やすし? って囁く。
「俺は、ハル……お前を手に入れたらもう、何も、しなかった、きっと……」
私の顔を、指先で撫でる。ゾッとする。やめてほしいけど、逃げたら、痛いこと、される……
「リョウ・カみたいに、南の島にでもいって、二人でのんびりすることしか考えなかっただろう。ハルの知らない『あの時』の戦の話を延々して、寿命を伸ばしもせず、普通に年を取って、死ぬことを、選んだだろう……」
頑張りすぎたからな……、って、サル・シュくんは呟いた。
「でもさ……俺の望みはそうじゃなかった。
俺は、強くなりたいんだ。
だから、親から引き離された。だから強くなった。
そして……ハルを盗られたから、俺は、キラ・シを向こうにする決意が、できた」
パンッ、と手を打つ彼の動きに、私がいちいちビクッとする。
違う……
サル・シュくんは、私とか関係なくても、キラ・シを裏切ったことが、あった……
彼も、そうなんだ。
ゼルブと一緒。
裏切るか裏切らないかは、時の運なんだ……
たしかに、サル・シュくんが裏切ったあの時、リョウさんが私を二度抱いた時。楽勝ばかりだった。だからこそ、私もみんなも気を抜いてた。
あれが、サル・シュくんには、退屈、だったんだ?
ゼルブは『強さ』でついてくるけど、サル・シュくんは『面白い』からついて来るんだ?
子供の頃はル・マちゃんと競争して楽しかった。
ル・マちゃんが女になって軽々追い越せても、口説けるのが楽しかった。
『下』に降りてくるのとか、しばらくは楽しかった。
だから、『留枝(るし)攻略』とか無茶を言われて、意気揚々と出撃したんだ?
「ガリメキアへの愛を、忘れることが、できた」
ぱたぱた……って、音を立てて涙がベッドに落ちた。
私の、涙? 彼の涙?
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