【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。222 ~空に、住んでる~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 今回はリョウさんだと、思ったんだもの……

 リョウさんが、一番だと…………思ったの……

 もう……今回はリョウさんを好きに……なっちゃったんだよ……っ!

「だから、キラ・シを、敵に、したの」

 リョウさん……助けてリョウさんっ…………ここから逃げ出す方法を、思い付かせてっ!

「敵は、強い方が、いい、だろ?」

 なんて晴れやかな笑顔。

「族長と、副族長を殺そうとした。キラ・シの宝であるハルを奪った。

 これで俺は、『キラ・シの敵』だ。

 全キラ・シが世界中で俺を、追い駆けて、来る」

 全裸で、彼が、ベッドの横に、座った。

 腰が抜けてるから、動けない。サル・シュくんの近くにある私の足を、抱き寄せた。

「殺すために」

 逃げようとしたけど、手を掴まれただけで、体が動かない。

「一生……追い駆け回されるわよ!

 ゼルブがどれだけ凄かったか覚えてるでしょうっ?

 キラ・シがどれだけ強かったかっ。リョウさんが現代にいたらああなってるのよっ! みんなそんなレベルなんだよっっ!」

「俺も、このレベル、だけど?」

 掌を広げて、肩をすくめて見せるサル・シュくん。

「ハルに分かりやすく教えてあげたつもりだけど、わかんなかった?」

 わからないわよっ! って、叫びたい。

 でも…………わかった…………わかってる、けど、頷きたく、ない……

「誰の声でも好きなように喋らせられる。

 どこにでも侵入出来る。

 特別な爆弾でどこでも爆撃出来る。

 空に、住んでる」

 人の命をなんとも思わないところも、前のサル・シュくんと、一緒!

「…………まさか……ガリさんのメッセ………………偽物?」

 サル・シュくんが、笑った。

「さぁね」

 クスクスクス……と笑う。

「本当かもよ?」

 小首傾げる。

「嘘かもよ?」

 右に。

「本当ならなにができる?」

 左に。

「嘘ならどうする?」

 長い髪がサラサラ流れて、綺麗だと思ってる、私の心が凄く、痛い……

「嘘……だよね?」

 どうする?

「どうして?」

 どうしたらいい?

「幾らサル・シュくんでも、キラ・シ全員を一度に相手にはできないんじゃない? まずは、リョウさん、でしょう?」

 彼の表情に、変化はなかった。

「ル・アくんが、私と会ってから初めて記憶が戻ってたのに、ガリさんたちが、会ってもいないのに記憶が戻ってる筈、ないんじゃない?」

「じゃあ俺は?」

「昔、会った、よね?」

 初めて、サル・シュくんの目が、見開かれた。

「私が二才ぐらいの時に、凄く綺麗な子が私と遊んでた、って、母さんが、言ってた。私が、目に怪我をして包帯巻いてたころ……」

 そう……私のアルバムに、在るはず。

 私は見えなかったから、思い出さなかったんだ……

 あのガリさんのメッセが本当かどうかはわからないけど、私も、徐々に思い出してきた。

「そう、そのころにハルに会って、俺は記憶が戻ってた」

「その時に声を掛けてくれたら良かったのにっ!」

「あの時、俺、さらわれちゃってたんだ」

「え?」

「親に売られたんだ。別の国に連れて行かれて……記憶が戻ってたからそいつらは殺せたけど、国境は、太平洋は、越えられなかった。

 生半可な努力じゃどうにもならかった」

「……警察には? 領事館とか……」

「大人なんて信用出来なかった。

 俺の両親、警察官だったんだ。でも、一度も、俺を探しては、くれてなかった……俺がさらわれたあと、警官やめて、田舎で農場やってて、この前、火事で死んだよ」

 それって……自然出火?

「どうやっても、ハルのところに戻れなかった。ナニカが邪魔してると思った。だから、一人で、強く、なった……」

 人指し指でくちびるを押さえて。内緒? それとも、ナニカに呪いを掛けてる?

「邪魔してるんじゃ、なかったんだよな? ハハッ……

 俺の望みに一番近い形に、なってくれてたんだ……俺は、『組織』に引き取られて、そこを乗っ取った。ゼルブより、大きな、組織。ゼルブはもう、全員、殺したよ」

 あの時でも、確かに彼らは、誰一人、ル・マちゃんにさえ勝てなかった。

「キラ・シも、ショウ・キより下は全員、殺させた」

「生き残ってるのは、上位六人だけ……?」

「六人?」

 もう一度、サル・シュくんが、内緒、って……

 それ……

「……まさか……リョウさん、だけ?」

 人指し指の向こうで、三日月みたいにくちびるがつりあがった。

 一人しか残ってない、……って、こと?

「もう少し、骨があって欲しかったけど……あいつら、単体で動いてるから、組織で動いてる俺に、勝てるわけ、ない」

「ガリさんも?」

 んふっふっ……って、笑う。

 ガリさんが旅行行った、とはル・アくんが言ってたけど、いつからかは聞いてなかった。

「ル・マちゃんも?」

「脳は殺したけど、試験管の中で俺の子、臨月」

 電気毛布に包まれてるのに凄く、寒い。

「やっと……ル・マに、俺の子を産ませられる。

 科学って凄いね!」

 キャハッ、と笑う、サル・シュくん。

『他の歴史』では、サル・シュくんとル・マちゃんの子供は生まれてたけど、『この彼』はもちろん、知らない。

「俺と、ル・マの血を引く、最強のキラ・シが、この先、幾らでも、できる。促成するから1年で6才。キラ・シなら、六才で100人殺せる戦士になる。

 全部、俺の組織の戦士になる。三カ月で一人生まれる。

 今、ル・マのクローンを作ってる、三年後にはル・マが100人。三カ月ごとに100人、一年で400人。

 リョウ・カの会社の派遣社員の数を、いつ越えると思う?」

 もちろん、巧く行くならもっと増やすし? って囁く。

「俺は、ハル……お前を手に入れたらもう、何も、しなかった、きっと……」

 私の顔を、指先で撫でる。ゾッとする。やめてほしいけど、逃げたら、痛いこと、される……

「リョウ・カみたいに、南の島にでもいって、二人でのんびりすることしか考えなかっただろう。ハルの知らない『あの時』の戦の話を延々して、寿命を伸ばしもせず、普通に年を取って、死ぬことを、選んだだろう……」

 頑張りすぎたからな……、って、サル・シュくんは呟いた。

「でもさ……俺の望みはそうじゃなかった。

 俺は、強くなりたいんだ。

 だから、親から引き離された。だから強くなった。

 そして……ハルを盗られたから、俺は、キラ・シを向こうにする決意が、できた」

 パンッ、と手を打つ彼の動きに、私がいちいちビクッとする。

 違う……

 サル・シュくんは、私とか関係なくても、キラ・シを裏切ったことが、あった……

 彼も、そうなんだ。

 ゼルブと一緒。

 裏切るか裏切らないかは、時の運なんだ……

 たしかに、サル・シュくんが裏切ったあの時、リョウさんが私を二度抱いた時。楽勝ばかりだった。だからこそ、私もみんなも気を抜いてた。

 あれが、サル・シュくんには、退屈、だったんだ?

 ゼルブは『強さ』でついてくるけど、サル・シュくんは『面白い』からついて来るんだ?

 子供の頃はル・マちゃんと競争して楽しかった。

 ル・マちゃんが女になって軽々追い越せても、口説けるのが楽しかった。

『下』に降りてくるのとか、しばらくは楽しかった。

 だから、『留枝(るし)攻略』とか無茶を言われて、意気揚々と出撃したんだ?

「ガリメキアへの愛を、忘れることが、できた」

 ぱたぱた……って、音を立てて涙がベッドに落ちた。

 私の、涙? 彼の涙?

 

 

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