【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。133 ~餓鬼地獄~

 

 

 

 

  

 

『前回』、誰かが穴掘ったって! ショウ・キさんかっ!

「とにかく、馬がかわいそうだったから、助かったよな、あれ。やっぱりどこでも掘ったら水出るんだ? すげぇ」

「キラ・シじゃないと、あそこに穴掘らないよ」

「なぜだ?」

「誰も、あそこを掘って水が出ると思ってないから、掘らなかったんだよ」

「だが出たぞ?」

「キラ・シが、普通の10倍掘ったから。しかも、あんな堅いところ」

 実際、砂漠の地下に水脈があるのは『現代』では分かってるけど、現代でも誰も掘らないってあんなトコ。

「だが、出た」

「……うん、そうだね……運が良かったね」

「ショウ・キが三つ目を掘ってるらしいし、あとで他のにも行かせるわ」

「ショウ・キが、エンジ(円匙、スコップ)を鉄で作らせたって言ってたぞ」

 鉄のスコップとか、この時代だとオーパーツだよ。大陸では銅剣使ってるのに……

 はー……キラ・シの『力業』って凄い。

 脳筋すぎて『これダメなんじゃね?』って考えないから、『出るまで』掘るから出るんだ? 凄い。信じられない……

 普通は、10メートル掘ったら諦めるんだよ。

 そうだよね。井戸みたいに垂直な穴を掘ろうとするからたいそうな道具がいるんであって、クレーターみたいに、周りも掘っていくなら人間で掘れるんだよね…………何十倍掘ることになるけど……いったん水が出たら、大陸の人が技術で井戸を作ってくれるんだ。

 そっか、とにかく子供の移動問題として。

 山に移動させるだけなら、子供はそんな長距離を移動させなくていいんだ? 言われればそうだよね、なんで私、一カ所に集めようとしてたんだろう?

「ゼルブは見てから、だな」

「そいつ仲間にする前に、族長とか、キラ・シで上位に入る奴だけ先に殺しときゃいいんじゃねぇの?」

『二回目』に出合ったときは、サル・シュくんがチヌさんを殺してしまってたから惜しいことを、と思ったけど、サギさんが統括してくれてるなら、その方が反乱は起こされにくい……の、かな? 別にキラ・シは『戦力』はそんな要らないもんね。『手数』が欲しいだけだし。子供も大変だけど、馬問題もあったんだな……

「……サギさんっていう女の人が、ずっとキラ・シでいてくれるんだけど、その人の息子が族長のチヌさんって人で、その人がどうも叛乱したっぽい。私達を逃がそうとしたサギさんを、チヌさんが殺したの。親子なのに……」

「じゃあ、そいつ? チヌ? だけ殺そう」

「ハルナ、その時の『先見』では、どうなっていたのだ? ガリとサル・シュが死んだから、ゼルブと言う奴らは裏切ったのだろう?」

 グア・アさんが裏切ったところから、私が車李(しゃき)王太后になって、甚枝(じんし)の王子がガリさんの息子を連れてきたところまで話した。

 ガリさんが、頭撫でてくれた。

 ぼたぼたぼた……って、石畳に私の涙がしたたってく…………

「それさ、ハルナ。先見って言ってるけど、お前も痛いんだろ?」

 サル・シュくんが、そんな、ことを……

「ル・マの先見はどうみても夢だ。ガリメキアが考えないと意味がわからねぇ。ル・マがその先を感じて痛いわけじゃなさそうだ。

 でも、ハルナのそれは、肉を感じる。血がしぶいてる。その長い先見の間、ずっと痛いんじゃねぇか?」

 頷くしか、できなかった。

「一度、私が、その時間を生きて、死んだから、繰り返してるの………だから、私が生きてたところまで、私がしたことしか、わからないの……

『前』は、ガリさんもリョウさんもサル・シュくんもショウ・キさんも殺されて…………ル・マちゃんと身重のまま詐為河(さいこう)を渡ったの……………………羅季(らき)城で産んで、二人の子供を背負ってル・マちゃんが逃げて……私は、車李につかまって………………ル・マちゃんの、首が、置かれたの…………」

 サル・シュくんが抱きしめてくれた。

「レイ・カさんが……私の子を、二十年以上、守ってくれてたの……ガリさんの……子……を…………ガリさんそっくりに育ってたよ……」

 レイ・カさんが背中をポンポンしてくれた。

「ごめん……なさい………………私、雅音帑(がねど)王の子を産んで…………生き長らえたっ……あんなに頑張ったのに……っ………………キラ・シを、継げなかったっ…………! ごめんなさいっ!」

「謝るな」

 リョウさんが肩を撫でてくれた。

「ナニをしても生き残れ」

「生き残れば勝ちだ」

 ガリさんが、頭を撫でてくれた。

「その時は、キラ・シを殺せって言う命令は下げて貰えたけど…………その、あと、はダメだったの……

『黄色い子供を全滅させろ』ってお触れが出て、大陸全土でキラ・シの子供が殺されたの……

 みんな、死んだの………………だから、それと同じことを、しちゃ……駄目…………なんだよ……」

「……わかった」

「あっ、それとねっ!」

 ようやく、涙を、とめられた。

「ショウ・キさんが掘った街道の泉がね、ちゃんと井戸にしてもらってね、そこに町ができたんだよ!

 それで、歩いてる人でも、街道を行けるようになったの。

 そして、ゼルブが植えてくれた詐為河(さいこう)東のガジュマルが、川岸びっしりと森にしてくれたの。獣とか凄く多くて、村ができてた……よ……河をもう一本作って、たくさん食べ物が作れるようになったの……車李が……栄えただけ、だけど……」

「じゃあ、サイコウはそのがじゅまるってののほうがいいんじゃね? どこにあんのそれ」

「覇魔流(はまる)の海岸。海に生えてる大きな木」

「ウミってあの、動く塩の湖?」

「それ」

「あのからい水でよく生えてるなと思った! そっか。サイコウも不味い水だもんな。ハマルに行った奴に、タネ持って来いって言っておくぜ」

「デーツもあったほうがいいと思うっ!」

「それはシャキに行くたびに幾らでも女がくれるし、もげるから、街道から投げときゃいいだろ」

 ケケッとサル・シュくんが肩をすくめて笑った。

「お前は凄い女だ、ハルナ」

 サル・シュくんが、抱きしめてポンポンしてくれた。

「ありがとう…………」

「ということで、今日は俺だから、もらってくなっ!」

 サル・シュくんが私を抱き上げて、羅季城に入ってった。

  

 

  

 

  

 

 翌日、サル・シュくんがレイ・カさんと留枝(るし)に出陣した。

 ガリさんもリョウさんとシャキに出陣。ショウ・キさんが居残り。

「ハルナっ! 俺の掘った穴が井戸になったって?」

 入れ違いの筈なのに、どこで話をしてるんだろう?

「うん……15年後の話だけど」

「ははーっ! 俺もいいことしただろ?」

「凄くいいことだよっ!」

 ショウ・キさんがエッヘン、てした。思わず頭撫でたくなったぐらい。でも、触ると逃げるからニコニコする。

  

 

  

 

  

 

  

 

「マキメイさん、アツケイさんってどこにいるの?」

「アツケイですか? 最初のうちに、サル・シュ様に殺されました」

 速い……! さすが特攻隊長。

 もしかして、既にゼルブ、かなりの人数減ってるんじゃない?

 結局、留枝(るし)も落としたし、ゼルブも味方になったし、雅音帑(がねど)王はいない。

 だから、グア・アさんが裏切ることは、無い。

 だから、『あの歴史』は無い。

 となると、この先、未体験なんだ。

 怖い。

 普通なら、未来なんて見えないから、全部『未体験』なのに、少しでも見えてるから、ソレを『回避』するために頑張ってきた。その『先』が見えないのは怖い。

 でも、これが『普通』なんだ。

 キラ・シにとったって、『普通』、なんだ。

 気を入れて、いかないと……『私がうっかり死んじゃう』からね。

 健康にも気をつけてたし、食べ物にも気をつけてたし。

 でも、これは気をつけたらどうにかなったのかな?

 私が生んだ子供は、明らかにサル・シュくんのだった。

 白くて凄く美人。

「うわー、サル・シュのだな、これはっ!」

 ル・マちゃんでも一目で分かるぐらい、サル・シュくん。

 もちろん、サル・シュくんは凄く喜んでくれたし、ガリさんもリョウさんも祝ってくれた。

 その、あとが、問題だった。

「じゃあ、次は、お前は外れろ」

「はっ? リョウ叔父、それどういうことだよ」

 サル・シュくんが、眉をつり上げて、既に喧嘩腰。

「次は俺とガリだ。来年生まれた子の親が外れる」

「触るのは構わん」

「触るのはかまわんじゃねぇだろっ!」

「最初にお前のコを産んだのだぞ? なぜ怒る?」

 リョウさんもガリさんも正論なんだけど、サル・シュくんが怒るのもわかる気はする。

「来年、リョウ叔父の子が生まれたら、再来年はハルを抱かないのか?」

「ああ」

 うん、リョウさんはできるよ。簡単にできるよ……

 だって……リョウさんだけが、山から降りてきたときに私を抱かなかったもん……

 それはサル・シュくん、質問する相手を間違えてるよ……聞くのはガリさんだよ。ガリさん。

 というか、産んだばかりで疲れてるんだけど………

 別のベッドに寝かせてくれたから、綺麗でいいけど………枕元でそんな大声だすの、やめてくれないかな………………寝たいよ……

 相変わらず、赤ちゃんはずっとサル・シュくんが抱いたまま。私は顔を見せてもらっただけ。お乳も上げたけど、抱かせてはくれない。私の腕力でも赤ちゃんぐらい抱けるよー……ってのが、今まで一度も通らなかった。

「うるせぇ! 黙れ!」

 一番うるさい声……おなかにキた…………痛い……

「外でやれ! ハルナを寝かせてやれよっ!」

 ル・マちゃんだったんだ? ありがとう。

 静かになったら、すっと眠れた。

 マキメイさんが冷たいおしぼり額にのせてくれるの、凄く気持ち、いい……

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 気がついたら、私は馬で移動してた。

 辺りは全然知らない景色。

 おなかの具合から言うと、まだ産んで三日も経ってない感じ?

 鍛えてたからよかったようなものの、『最初』の体調だと、ここでもう半分死んでたよね、私。馬の振動が堪える……

 馬のツノを持つ、この白い腕はサル・シュくんだ。

 走ってるから喋れないけど、なんか、やばいんじゃない? コレ。

 並足になったときに聞いてみた。

「どこにいくの?」

「キラ・シから逃げてる」

 やっぱり。

「逃げてどうするの?」

「逃げきる」

 先の策はないんだ?

 これは、もう、『終わり』かな。

 私が、そんな生活で、生きていけるはずが無い。

 真っ先に追い駆けてきたのはル・マちゃんだった。

「ハルナは俺のだって言ってるだろっ! 返せ!」

 相変わらずの彼女。

 何度も、追い駆けてくる。ル・マちゃんだけなの?

 ガリさんも、いない。

 ああそうか。ル・マちゃんの『速さ』に誰もついてこられないんだ?

 彼女だから、サル・シュくんを追えたんだ?

 サル・シュくんに、余裕がなくなってきた。

 そりゃ、私を抱えて移動するなんて、簡単なことじゃ、ないよ。軽いって言ったって、片手はふさがるもの。

 それでも、サル・シュくんの二人目がおなかで大きくなってきた。

 強いな、子供って。

 キラ・シは、私が妊娠したら動かさなかったけど、馬で移動しても、降りなかった。

 この子は、生きたいんだろうな。

 なら、ちゃんと産んであげないとね。

 キラ・シが探してるとはいえ、たった一人で山にいるサル・シュくんはそうそう見つからないよね。

 速さ以外は、ル・マちゃんより上なんだし。

 馬の前に私を乗せたまま、弓で獣を射て、生のままサル・シュくんは食べてた。火を熾すのが大変だから。それに、血はそのまま水代わりになる。木の実しか食べてない私が生きてるのも、多分、血を飲まされてるからだろうな。なんかもう、『いやだ』って言う気力もなくて、注がれるまま飲んでる。

 寄生虫とかいたら一発でアウトだけど、とりあえず今は大丈夫っぽい。ラッキーなのか、アンラッキーなのかは、死ぬまでわかんないよね。

 サル・シュくんは産婆さんできるから、子供を産むまでは安心だけど、そのあとどうするんだろう? 私と、子供を背負って馬に乗るの? 山から降りてきたときに三人連れてきてたから、三人までは大丈夫かもしれないけど……つまりは、四年後までは、どうにかなる? かもしれない?

 この生活を四年かー……私が持つかな。

「ここってどこ?」

「……コウリュウ……かな?」

 紅隆? 羅季の北の、餓鬼地獄って書かれてたところ?

「サル・シュくんが怖いって言ってたところじゃない?」

「だから、探されてない」

 そのために怖いところに来るとか、すごいな。

 もう私、半分以上寝てるから、どうでもいいけど……

 ギュッと抱き締めてくれるの、気持ち、いい。

  

 

  

 

  

 

 でも、説得するべきだったのかな?

 キラ・シに戻ろう、って。

 キラ・シに戻ったら、サル・シュくん、どうなったのかな?

 射た獣を取るために、サル・シュくんが馬を下りた。私はじっと馬の上に、いた、ん、だけ、ど……

 後ろから、口をふさがれて、引きずり下ろされた!

 嘘っ! サル・シュくんっ! 助けてっ!

「この女、赤子がいるぞっ!」

「赤子美味いっ!」

「女の肉は美味いなぁ……」

 黒い……黒い人達。人じゃないのかな? 凶つ者かな?

 みんな楽しそう。

『山からの凶つ風で膿んだ現世の餓鬼地獄……』

 紅隆(こうりゅう)のことをそう書いてた書物があった。

『餓鬼』って本当に、そういう意味だったんだ?

 人を食べる国なんだ?

 あんなに頑張ってたのに、サル・シュくんの子供も食べられちゃった。

「ハルナ!」

 サル・シュくんが抱き締めてくれる体も、殆どなくなっちゃった。

「痛い? ハルナ。死にたいなら、すぐ殺してやるよ?」

「……あとちょっだから……抱き締めててほしい…………凄く、寒い……」

 いつも、死ぬときって痛みがないから楽よね。

 そうね、痛いときはまだ生きてるときなのよね。

『今回』も終わりなのね……

 あたたかい……サル・シュくんの腕、温かい…………

「サル・シュくんはキラ・シに戻って……」

「ハルナといるよ」

「うん……そのあと、戻ってね?」

「ハルナと一緒にいる……」

 サル・シュくんが、自分の左手首を切り落とした。

 その手で私を抱いてくれてるから、血が噴水みたいに私に降り注ぐ。

 その血が……あたたかい…………熱い………………

「ハルナと……一緒に、いる………」

 まだ、元気なのに……サル・シュくん……

「来世でも、ハルナのそばにいる……」

 サル・シュくんの血が、凄く、あたたかい……

「……二人とも、食べられちゃうよ?」

「死んだ後どうなろうが、どうでもいい」

 そうね。

 どうでもいいわね……

 あたたかいわね……

  

 

  

 

  

 

 黒い凶つ者が、まわりに……いっぱい…………

 サル・シュくんの刀で飛び散って、行った……

 

 

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