また富士見台の家……
動脈切った失血死って早いらしいから、すぐ死んだんだろうな。
あそこで、サル・シュくんまで死んでくれるとは思わなかったけど……
こんなところに連れてきてごめん、とか、後悔が全然見えなかったのも彼らしい。心ではしてたのかもしれないけど、何も言わなかった。
ただ、一緒に、死んで、くれた……
そういう人だったんだ?
女のために死ねる人だったんだ?
嬉しい……って、思っちゃ、いけないのかな?
あそこで、ただ看取られただけでもよかったのに……
確実に、サル・シュくんが、私と死んでくれる、っていう、約束の、左手。
あれがなかったら、あのあとサル・シュくんどうしたんだろう……って、私は今もずっと、悩んでたよね。
『あの時間』の来世があれば、きっと、そばに生まれ変われたよね……
あんなに、私に必死になってくれる人なんて……いない……
前途洋々たるキラ・シで、女一人のためにあんなことになるなんて……サル・シュくんの馬鹿……
そう言えば、ガリさんも、私を助けるために死んだのよね。
女の人に必死になるのは、キラ・シ全員なのかな?
レイ・カさんが変わってただけなのかな。
でも彼も、私の子をずっと育ててくれてたのよね。
みんな、必死よね。
命を賭けて生きてるのよね。
『最初のうち』は『現代』に帰りたい、死にたいって良く思ったけど、最近すごく『生きたい』って思うようになった。
別に自殺願望とまではいかなかったけど、『現代の私』は『生きる気力』なんてあったのかな?
毎日、楽しかったかな?
佐川くんのコトとか、小さな白い花とか、小さなことにいつも喜んではいたから、楽しんでは、いたわよね。
その一瞬一瞬に、命がかかってるなんて、もちろん、思ってなかったけど。
キラ・シと生きていきたい。
今は、すごくそれを思う。
そんなことを考えたからかな。
森の中で、レイ・カさん……
相変わらずそっけない。
助けてって言ったら助けてくれたし、最初のたき火で先見して『重要人物』になって、羅季(らき)城について……
よし!
今回は、レイ・カさん好みに太ってみよう!
さぁ、食べるぞ!
でも、運動もしないと出産で死んじゃうから、歩いてはおかないといけないんだけど……けっこう、カロリー摂取って難しいね……どれぐらい食べたらいいんだろう?
私、そういえば、そこまでスイーツ好きじゃなかった。まいったなー…………それに、この時代『甘いもの』って凄い高価。
そうだよ。この時代が、三国志より前だとしたら、人口爆発がおこる前なんだ。
稗とか粟とか食べてたのが、お米を食べるようになって、カロリーが増えたから人口増えたんだよ。
『この世界』でも、東南三国でだけお米を作ってて、『玄米』だけど、凄く高価。
『太る食べ物』自体が、手に入らないんだよ。
とにかく、からいおかずとお米でやってみよう。三カ月ぐらい頑張れば、胃も脹れるよね。おせんべいとかあればいいのに。
今までは、おいしいのをちょっとずつ、で良かったけど、おいしいのをたくさんっ! だよ。
あ、羅季(らき)巻きって、お米の皮だから、あれ、カロリー高いよね?タンパク質も一緒にとれるし! 油もある! 翌日から、吐くほど羅季巻き食べた。
凄いっ、一カ月で頬がぽっちゃりしたっ!
私、前はル・マちゃんより見た目細かったんだよね。それが、横がル・マちゃんと同じぐらいになった! 全部脂肪だけど。
レイ・カさんが帰って来たときに、ふっ……て私を、見た。
前は無視されたのに。
「ハル?」
「うん」
「え? ハル?」
頬を両手でぽよぽよされた。
「ハルなのかっ?」
ぽよぽよぽよぽよ。
凄い嬉しそうなレイ・カさん。やっぱり、これがツボなんだ?
『ここから』が、許容範囲なんだ?
前の私はきっと、レイ・カさんには『見えてなかった』んだ?
これでも良さそう? これぐらいなら、そんな食べなくても良さそうだけど……
ぺたっ、て、胸を触られた。
とたんにシュン……としたレイ・カさん。
そんな、あからさまな残念顔っ!
そっか、巨乳派かっ!
食べておっぱいは大きくなるかなぁ?
「レイ・カさんが揉んでくれたら大きくなるよ」
「そうなのか?」
一晩中揉まれまくった。
「ハル! ハル! 土産っ!」
レイ・カさんが制圧から帰るたびに、サル・シュくんみたいに騒ぐ。面白い。というか、帰ってくる回数が前とは段違い!
毎回カロリー高そうな食べ物がお土産なのも面白い。凄い甘いものばっかり。
私が食べてるのを楽しそうに見てる。そして抱きしめておっぱいもみもみ。でも全然、両手は回るね。前から抱きしめられて、レイ・カさんの左手が私の右脇まで届く。
でもこれ、相当太ってるぞー……『手が届かないぐらい』ってどんだけなの? 今でも相当の『わがままボディ』だよ?
それに、私が太ってきたら、キラ・シのみんなも、なんか…………違う。
前からみんな優しかったけど、とにかく、食べ物をくれる。
地図の前に座ってたら、お膝に食べ物がこんもり積まれてる。
もしかして、細い私でも興味がある、リョウさんとかガリさんとかサル・シュくんが異常?
でも、その三人も、やたら食べ物くれる。
太ってる方が、いいのはいいんだ?
「あー、ハルって、女かどうか迷ったけど、やっと女っぽくなってきたーっ!」
サル・シュくんが凄い喜んでる。
確かにおっぱいも大きくなってきた。
でもちょっと、歩きにくいのよこの体。股擦れして痛いし!
みんなが私をみてニッコニコしてる。
「シロに女がいるってすげー……」
ル・マちゃんをあんなに口説いてた口でナニを言うのかしら、この子は。
「触るなよ。サル・シュ」
レイ・カさんが、リョウさんバリの嫉妬心出してきた。
うわ、感動……!
『前』はあんなに無視されたのに!
「次は俺だからな」
ガリさんも主張してきた。
「…………やっぱり、俺もそうならないと、父上抱いてくれないのかなー……」
ル・マちゃんも、私の腕に抱きついて真剣に考えてる。
「こんな太ったら戦えないよ? ル・マちゃん」
「でも……今でも出陣させてくれないし……」
そうだね……
私の方はいつもどおりのことしてるだけで、レイ・カさんがとにかく優しくて、よく笑ってくれて、嬉しい。
子供みたいに笑うの、レイ・カさん。かわいいっ! もっと太るから、待っててね!
出陣の時に玄関先でいつも長い長いキスをくれる。おしりもみもみされる。まだ、抱きしめてくれたときにレイ・カさんの腕は回るけど、山を降りてきたときの三倍ぐらいにはなったかな?
「早く帰ってくるから」
また、チュッてして、走ってくレイ・カさん。
ル・マちゃんも最近ずっと食べてて、ふくふくしてきた。鍛練はしてるから、筋肉の上に脂肪がついてる感じで、女子プロレスラーみたいになってる。
「うわ、ル・マも女になるんだ?」
サル・シュくんが顔面に回し蹴りくらってた。
痩せてても口説いてたくせに。
ああ、サル・シュくんとかリョウさんとかガリさんは、ル・マちゃんがいるから『細い女』を見慣れてるんだ?
それでもやっぱり、太い方が『女』なんだ?
「ル・マー、いい乳でそうっ!」
「お前の子はうまねーっつってんだろっ!」
もう、サル・シュくんのセクハラが凄いことになってきた。
そう言いながらも、ル・マちゃん今生理中だから、抱えられて部屋に連れてかれた。
さぁ、私も寝ようかな……
この階段、手すりあってくれたらいいのに……
え?
目の前が、真っ暗っ! 私、倒れた?
食べられちゃう?
違う、口にナニカ突っ込まれたっ! 持ち上げられてるっ! ナニ? どうなってるの?
えっ……?
やめてーっ!
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