【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。111 ~『四紹介』~

 

 

 

 

  

 

  

 

 それって、日本語と同じ?

「何人かで動くなら、三人以下か、五人以上で組むんだ。この数で動くと、一人減るか、一人増える」

 ゾワッ……とした。

「増える?」

「ネスティスガロウッ!」

 ル・マちゃんが、部屋の隅に右手の人指し指向けて叫んだ。

 パンッ……って、黒いものがはじける。

「なんか居たのっ!」

「俺がこういう話をすると寄ってくる。ああいうのが、『増える』場合」

「やめてよっ!」

「まぁ、ほら、説明だし」

「他の人に聞くぅっ!」

 話は気になる!

 玄関に降りたら、ショウ・キさんがいた……大丈夫かな?

「ああ、族長の『四紹介』? キラ・ガンが馬鹿言いふらしやがってったくっ!」

 ショウ・キさんと鍛練してた、もとキラ・ガン副族長のヤム・イさんがビクッ、と震えた。その肩をショウ・キさんが叩いて、お前のことじゃないから、って目を見て言ってるけど、言葉、通じてないんだよね?

「弓指の意味は知ってるか? ハル」

「うん、今聞いた」

 ル・マちゃんがハーイ、って私の腕にぶら下がったまま、手を上げる。

「山では、族長が仲間を紹介するときに、副族長までしか名前を出さない」

「どうして?」

「他の奴は紹介しても仕方ねぇからだろ。

 けど、キラ・シは四位にサル・シュがいるからな。ガリは、他の部族に紹介するときに、四位まで名前を出してたんだ」

 五位がル・マちゃんで、六位がショウ・キさんだよね?

「まぁ、ほら……山ではその数字があんまりよくねぇからさ。どうにかしてキラ・シの悪口を言いたいキラ・ガンが、『四紹介』って、ガリメキアに悪い噂を流したんだよ」

 ヤム・イさんが凄く気にしているので、クロス翻訳で両方に説明する。

「それは、ガリ・ガって奴が言い出したんだ。『ガの筋』がとにかく口が巧くて、けっこう強いからよく族長になる。多分、今もそいつが山でキラ・ガンの族長をしてる筈だ」

 本当にイヤそうな顔でショウ・キさんと私に説明してくれた。

「なんというか……『キラ・ガンが卑劣』というなら、『ガの筋』が全部悪い、と言いたいぐらい、本当に酷い奴だ。

 こいつの長兄と次兄がもの凄く強かった。

 そいつらが族長と副族長だった時に、ガリ族長が殴り込んで来て殺された。そのあと、サガ・キが族長になったんだが、もう……本当に……イヤがってたな……

 全部やめさせることができたから、マシだったが、怪我をした奴は治らないからな……

 信じてもらえないかもしれないが、キラ・ガン全部が卑劣なわけじゃないんだ!」

 拳を握ってまで、ショウ・キさんに力説するヤムイさん。

「俺より強かったか?」

 ショウ・キさんが、自分を親指で指さして問いかける。ヤム・イさんはショウ・キさんの胸ぐらいしかないので、凄い見上げた。それでも、私より頭一つ高い。

「ショウ・キ…………が、ギリギリ負けるんじゃないかな、長兄の方は。サル・シュにはまったく無理だけど……ル・マさんなら、速さでは勝てても多分、刀が通らない……?」

「刀が通らないってどういうこと?」

「ル・マさんは軽いから、振り下ろしても、手に分厚く巻いた毛皮で防がれたら、それ以上切れない」

 なーるほど。確かにル・マちゃんは軽い。私でも引きずれるもんね。今回は地味に筋トレしてるし、ふらふら歩き回ってるから、私も『前回』よりはちょっと力持ち!

「だから、ガリメキアが、サル・シュまで紹介するってのは凄くよくわかる。四位があんな強いって、あり得ないっ! 族長一人が強くて、副族長は全然な部族だって多かったのに! しかも、他から入ったやつらじゃない。五つの部族がキラ・シに入って、その五人の族長が上位に並ぶってんじゃないんだから。

 キラ・シだけであんなに強い。この目で見ても信じられない。ガリ・ガはそれを見てないから、……いや、見てても言うかな。とにかく、息を吐くようにキラ・シの悪口を言いふらす奴だった。しかもそれを信じさせるのが巧いんだ。大体、体格だけはいいから、側に立たれると小さい奴はひるむしな」

 自分の顔を両手でこすり回して、大きく息を吐く、ヤム・イさん。

「サガ・キが族長になって、全部やめさせたんだ。だから、ガリ・ガも陰口を叩くぐらいしかできなくなったんだが……今は、また、前みたいになってるんだろうな…………俺のも、降りてきた奴らの子もまだあそこにいるからな……………………腹いせに、全員殺されたかもしれん……」

「子供を殺してどうする?」

 目を丸くしてショウ・キさんが呟いた。

「キラ・ガンは今、女が20人いる。子供もさらってきてたから、何十人かいるんだ。『子供を守る』ことを、前族長はしなかったな……」

「子供を守らなかったら、どうするんだ?」

「毎年、20人子供が産まれるから。キラ・シでも、言ってただろ? こんな卑劣な部族の女はいらん、って。アレと一緒。部族を捨てていくような男の子供はいらないんだ。大事なのは自分の子だけで、さらってきた子供とかは、どうでもいい」

 ショウ・キさんが目を強くつむって、くちびるを噛み縛った。長く息を吐きながら俯いてしまう。

「キラ・シの『子が財産』って考え方は、キラ・ガンには、ないな」

「キラ・シは三人しかいないのに、どうしてキラ・ガンはたくさん女の人がいるの?」

「周り中の部族から貢がせてるから」

「周りの部族は女の人がたくさんいるの?」

「キラ・シよりはいるって程度かな」

「どうやって貢がせてるの?」

「これでも一応、山をキラ・シと二分する強さだから。キラ・シにつくなら、殺す、って言われたら、キラ・ガンよりキラ・シの反対側にいる部族は逆らえない。そこまでキラ・シは来てくれないから。キラ・シはなんといっても、東の端にいるからな。真ん中から西は全部キラ・ガン側だ。

 キラ・シより、キラ・ガンのほうが、『友』が多い。キラ・ガンの村より西側は、キラ・ガンに従わなかったら、滅ぶから、言うことを聞かないと仕方ない。

 ガリ族長が長兄の首を獲った時に、キラ・シ側の部族に攻められて、西に三つ下がったんだ」

「あれ、なんで下がった? キラ・ガンが勝てない部族じゃなかっただろ?」

「あの時に代替わりしたサガ・キが、キラ・シとやり合う気は無かったから。

 長兄の首を獲ったガリ族長は凄かったからな。本当に凄かったからなっ! 山が割れたのかと思ったぐらい、突然飛び込んできて、サル・シュかっさらって逃げたあと、なんだったんだ……って、思ってるウチに、もう一度来た。

 一人でだぞっ?

 その時にサガ・キは、もっと守ったほうがいい、って言ってたんだ。歩哨を増やすとか、せめて酒を飲むなとか。『子をさらうだけしか脳がないキラ・シ』ってまたあざ笑ってやがったら、また飛び込んできて、そこに居た奴をなぎ倒した」

 ガリさん、無茶ばっかりして……

「『ガの筋』にたかってたやつらが村中央の同じたき火使ってるから、そいつらの首全部薙いだ。俺たちは村の裏のたき火に居たから助かったんだ。族長の首だけ持って行った。あの時、8人殺されたぜ」

 ヒューウ、ってショウ・キさんが口笛吹いた。まわりにキラ・シが集まってきてる。

「あの時に、ガリ・ガもそこにいれば良かったのに……あいつは弱いから、外れのたき火使ってやがったんだよな……」

 本当に悪運の強い奴っ! って怒ってるヤム・イさん。

「あの、『山ざらい』? あれの小さいのを馬に乗ったまま出したんだろうな。向かいの家もこう……綺麗に崩れてた」

 手でほぼ水平にヤム・イさんがラインを描く。

「物音でサガ・キが走って、俺が見たのは家が崩れたところからだった。

 馬も腰が抜けてガタガタしてたけど、ガリ族長が、長兄の首を取りに歩いてくる間に立ってた。

 サガ・キは、ガリメキアが、『山ざらい』を出す瞬間を見てたらしい」

  

 

  

 

 

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