ル・マちゃんきっと、心は男なんだよね。というか、キラ・シに女の人、他にいなかったんだから、『男としての考え方』しかないんだもんね。
きっと、今回、私がガリさんの女なら、ここで口説かれてる……
リョウさんの時は本当にル・マちゃん、腕に抱きつくだけなんだ。
『身内』かそうじゃないか、が凄く大きいんだね。
きっと、サル・シュくんはル・マちゃんにとって『身内』なんだよね。
日本人は、『身内』じゃなくても愛想笑いをして、適当に優しいから勘違いしちゃうんだ。
キラ・シは、愛想笑いなんてしないし。敵には容赦しないけど、味方にはどこまでも優しい。
『優しい人がいい』とか言うの、日本人の平和惚けなんだよね。誰にでも優しいって、誰にでも冷たいと一緒だよ。
『私に優しい人がいい』が正しいよね。
現代日本人の対人関係って、好き、普通、嫌い。で、嫌いでも挨拶はするけど、キラ・シの『嫌い』ってほぼ敵だから、挨拶どころか、殺しにかかる。というか、『嫌い』って感情が、『邪魔』と直結してて『邪魔な奴は殺す』にすぐ行っちゃう。
『変』だから『邪魔』なら、自分の子供でも捨ててしまう。物凄い極端。
その上で、『生きてて良いか悪いか』が瞬時に変わる。
『最初』に羅季(らき)城を脱出したとき、今まで世話をしてくれた人しかあのお城には居なかったのに、リョウさんは逡巡もなく殺してきた。
『残る』判断をした時点で『キラ・シの敵』だから。
『敵は殺す』から、殺した。
そこに容赦なんてまったくない。
でも『即死させないと痛いだろ』ってショウ・キさんが言ってた。
あの『痛い』は、後から恨まれて、化け物に引きずり落とされるから、ってのもあるんだろうけど、死ぬ人が痛いから、即死させる、には違いないんだ。
厳しいというか、厳しすぎるというか……全部が全部、『命懸け』なんだよね……
それで生き残ってきたから、強いんだよね。
私には、みんな優しいから、錯覚する。
リョウさんが、私をギュッと抱いてから、エントランスの鍛練の群れに突っ込んだ。辺りの人達が我先にとリョウさんに突っかかっていく。
こんな風景を見て、平和だなー、とか思ってる私の頭は、もう随分キラ・シ慣れしてきたなぁ。
とりあえず、『勝ち上がり』の結果。
上位6人は変わってない、って。
ガリさん、リョウさん、レイ・カさん、サル・シュくん、ル・マちゃん、ショウ・キさん。
ただ、そこに、『勝ち上がり』に出てない私が、四位で入ったままだった……恐れ多いんですけど……
『みなが「ハルの名前を指笛に入れたい」から「四位」になったのだ』
『最初』の時にそう言われたから、反論はよした。
今回は、六位のショウ・キさんの下が大幅に変わったんだ。
七位が元キラ・ガン族長のサガ・キさん、八位がゼルブの頭領チヌさん。この二人が、最初はほぼ互角だったらしい。
私が倒れたあとだから、見られなくて残念だった。
チヌさんがよく跳んで逃げるから、サガ・キさんが脛を銅剣の腹で叩いたらしい。チヌさんはまだ動けたけど、普通なら『叩く』じゃなく『斬る』から、実戦だったら足が切断されてるってことで、サガ・キさんが勝った。
動物を狩る時に、山で殺すと血抜きとかが面倒だから、叩いて気絶させて連れ帰るらしい。「熊相手にそんなことできねーし」ってサル・シュくんは言ってたらしいけど、キラ・シも小動物はそうして獲るようになったって。みんな血抜き面倒臭いらしい。
レイ・カさんが言ってた。
「サル・シュも血抜きを面倒くさがる。熊狩ったのに、そのまま熊に抱かれるようにして眠ってたから、まずかったっ!」
「血抜きってそんなに面倒なの?」
「斬るだけなんだが、血を垂らしたまま持ち歩いたら、それで次の獣が来るだろ? それを狩ったら、それも血抜きするだろ? 運べなくなって、置いて誰か呼びに行ったら獣に盗られたとか、指笛で呼んでもそこで待ってなきゃいけないだろ? あれがサル・シュは面倒臭いらしい。終わったらすぐに動きたいからだと」
「サガ・キさんも似たようなこと言ってた」
サル・シュみたいなのがもう一人来たのか……って、レイ・カさんが顔を覆って俯いた。
確かに、サガ・キさん、凄く熱い人だったな。
「特に今だと、馬に乗せてると、服が汚れるから、マキメイに怒られるしな……」
レイ・カさんでも溜め息ついてる。
マキメイさんは、最初あれだけ怖がってたけど、もう完全に『キラ・シのお母さん』になってる。言葉通じないのに、通じるんだよね。
あれだよ。猫とか犬とかが人間から怒られたら、スッと顔を背けるみたいな、あんな感じ。キラ・シ、本当に、マキメイさんの前だと猫とか犬みたい。頭が上がらない。
キラ・シって完全に男尊女卑だと思ってたから、凄く不思議。
でも既に、キラ・シの服はみんな『茶色』でガビガビ。替えの服がいらないんですか? ってマキメイさん心配してたけど、平気で着てる。
キラ・シって本当に、『比べる元』が原始的だから、全然気にしないんだよね。
『水より美味いぜ!』
『果物を水と比べるの、よそう……』
ル・マちゃんもそんなこと言ってた。
この服にしたって『毛皮よりマシ』なんだよね。
そうそう、『勝ち上がり』の順位。
キラ・ガンは12人だけど、ゼルブは120人だから、大幅に順位の下がったキラ・シも多いって。ただ、『ものすごく強い』のはチヌさんと、副頭領のヤナさんだけで、次のゼルブは20番以上下で、殆どはキラ・シでは下位打線だったって。下80人はみんなゼルブ。
キラ・ガンも似たようなものだった。副族長のヤム・イさんが、16位。
「山では父上『四紹介』って、キラ・ガン側に言われてたんだよな」
ル・マちゃんが、『勝ち上がり』の結果を見て、呟いた。
「シショウカイ?」
「キラ・シだけじゃなく、山だと駄目な数なんだ」
ル・マちゃんが掌を出した。小指側から指さしていく。
「力指(小指)、女指(薬指)、神指(中指)、弓指(人指し指)、族長指(親指)」
「力指? 一番小さいのに?」
「ハルはなんて呼んでんだ? この指」
「小指」
「小指はこっちだな」
親指の方を小指って言うらしい。たしかに、どっちが短いかって言われると、小指より親指の方が短いかな。
「これが無くなると、刀が持てない。だから、刀指とも言うな」
「ああ…………そっか……確かに、小指ないと力入らないよね」
だから、その筋の人たちって、けじめに小指を落とす、ってのは聞いたことがある。
「そうそう。数を数えるときは、3まで。次は5」
拳を、小指から伸ばしていく。
もう一度掌を広げて、左の人指し指を右手の親指で触った。
「山では『この数』は数えない」
「どうして?」
「この数自体に呪いの意味がある」
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