【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。109 ~誰かの愛しい人である自覚~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 これ、やばい方にいってない?

 私、手を引いた方がいい?

「父上の……役に、立ちたいんだっ……」

 きっと、サル・シュくんが一カ月居なかったからだよ。

 前はずっとル・マちゃんと一緒にいたもん。

 でも、きっと、留枝(るし)を倒しに行ったのも、ル・マちゃんを助けるためだと思うんだよね。

 私の先見で、留枝が攻めてきたからル・マちゃんが危険になった、ってサル・シュくんは『知ってる』から。

 ただ、出るときに声を掛けてほしいってだけなんだけど……

  

 

  

 

  

 

「サル・シュくん、なんで出陣の時に、ル・マちゃんにすら挨拶しないの?」

 本人に聞いてみた。

 キラ・シには特別に食事出さなくていい、ってマキメイさんに言ったから、みんな勝手に外で食べてる。殆どは制圧に行ってるから、羅季(らき)城にはあまり人数いない。今回は女の人も増えてないし、これぐらいなら近所の獣だけで足りるんだよね。近くの村の人達も、キラ・シが獣を狩ってくれることに、直接感謝してくれてる。お城の食料も減らないし、いいことずくめ。だけど『一堂に会して』って機会がないので、目当ての人を探すのが大変なことがある。指笛吹いてまで聞きたいことじゃないしね。

「挨拶? めんどくさい」

「挨拶はしないと、サル・シュくん。ガリさんもちゃんと、出陣するときはル・マちゃんに言っていくんだよ?」

「族長はそう言うところ細かいから」

「キミが大雑把すぎるの」

「いいだろー、めんどくせぇ」

 本当にいやそうだな。どんどん逃げるから私が追い駆けて、玄関の中何周もした。既にそこにいるキラ・シの注目は浴びてるけど、別にどうでもいい。

 本当にいやなことは、すぐに外に逃げちゃう。最悪、馬呼んで走っていく。だから、この玄関にいてくれる、ってのは、『話したい』んだろう。

「よくないよ。サル・シュくんの女の人達も、私も、ル・マちゃんも、サル・シュくんがこのお城を空けるなら、教えてほしいんだから」

「なんで?」

「なんで?」

「俺がどこで死のうが、何が変わるんだよ」

 もう一歩私が進んだら、サル・シュくんが二歩下がった。

 よっし。サル・シュくんを地図の前に誘導完了。

 助走を、取って、頭突きっ!

「げっ……」

『いつも』、本当に避けないな、サル・シュくん。

 キラ・シが両手を上げて私を賛美してくれる。四位の名前、奪還! よっし!

 マキメイさんまで凄い喜んでる。

「サル・シュくんがいないことが寂しいからに決まってるでしょっ! 何言ってんの! 誰かの愛しい人である自覚を持ちなさいよっ!

 遅くなっても帰る時間を教えないお父さんみたいな、馬鹿なことしないのっ!」

 お母さんは夕飯作って待ってるんだよっ!

 とは、今は言わなかった。サル・シュくんの食事はお城で用意してないから。

「待ってるとか、言われたら、めんどくせぇだろっ」

「なんでそれがめんどくさいのよっ!」

「戦で死ぬかもしれないのにっ、待つなっ!」

「帰って来なさいっ!」

 そのまま出ていこうとしたサル・シュくんに、もう一度頭突きしたら、抱きしめられた。

「危ないから、ハル……それやめろ」

「帰って来るつもりで、出陣しなさいよっ! 馬鹿ぁっ!」

 わんわん泣いてしまって、気がついたらリョウさんの胸の中だった。サル・シュくんは?

 玄関の外で、ル・マちゃんとディープキスしてた。

 どういう状況?

「帰って来いよ!」

 そんな距離なのにル・マちゃんが怒鳴る。

「わかったよっ!」

 サル・シュくんも怒鳴った。

 またキスしてる。どうみても夫婦なのに、本当にサル・シュくんかわいそう……

 でも、『わかった』らしい。

 そのあと、本当にサル・シュくんは、お城を空けるときに宣言していくようになった。

「サル・シュ、制圧に出るぜっ!」

 玄関で怒鳴ってから出ていくだけだけど、制圧なのか、鍛練に出たのか、わからないってことはなくなった。

 ただ、ル・マちゃんにも、個別に挨拶はしてない。もちろん、マキメイさんにも。私にも。

「前よりマシ」

 ル・マちゃんが何度も頷いた。

 まぁね。サル・シュくんいないっ! どこ行ったの? 誰も知らないってどういうことっ! いつ帰ってくるのっ! って事態は、無くなった。

 キラ・シの全員の名簿札作って、『制圧』『出陣』って札を掛けてもらえりゃわかりやすいんだ。出欠表みたいに。

 でも、それすると『キラ・シ全軍の数』が、このお城に来るだけで分かっちゃうんだよね。しかも、玄関だし……ココ。出入り業者の人は裏口使うからいいんだけど、玄関開きっぱなしだしね。

 多分、サル・シュくんが行き先を言いたくないのも、自分の行き先が諜報に入ると、分かってるからなんだと思う。

 だから、制圧って言ってても、出陣してる可能性はある。

 留枝(るし)攻略にしても、『出陣してくる』で出てたら『車李(しゃき)出陣組には居なかった、ナニしてるんだあいつ?』ってことになっちゃう。

『制圧』は何してるかわかんないけど、とにかくすぐには帰って来ない、ってだけだろう。

 わがままを言えば、『制圧』と『出陣』では命の危機が違うから、どちらかは教えてほしい。

『殺したいほど憎んでいる男でないなら、出陣は、綺麗に見送れ』

 ガリさんでも、それは区別して出ていくのに……

『戦で死ぬかもしれないのにっ、待つなっ!』

 あれが、サル・シュくんの本音なんだろうな。

 自分がいなくなったことを、覚えていてほしくないのかな……悲しんでほしくないのかな。

 それって、多分、ル・マちゃんに、泣いてほしくないってことなんだと、思うんだけど……

 泣くよ。

 好きな人が死んだら泣くよ。

 そんな無茶、言わないでほしい。

「待たれることって、そんな、面倒なのかな」

 サル・シュくんを見送って、ル・マちゃんが呟いた。

「サル・シュは、外では女のことを何も考えてない」

 私を抱きしめてるリョウさんが呟いた。

「何も考えてないってどういうこと?」

「戦のことだけで頭がいっぱいで、他のことを考えてない」

 でも『面倒』って言ったんだよね。

 多分、サル・シュくんは『待ってる』って言った人の顔を、よく思い出すんだと思う。戦いたいときに、ル・マちゃんの顔が浮かぶと、大変なんだと思う。

 だから、自分も忘れてるからお前も覚えてるな、って思ってるんだろう。

 サル・シュくんが思い出すから、忘れろ、って言うんだ。

 そうだとしたら、本当に『愛』なんだけどなぁ。そうかなぁ?

「そりゃそうだな。サル・シュのこと、思い出すことなんてほとんどないしな」

 ル・マちゃんは納得したらしい。

「俺も制圧行きたいなー……」

 リョウさんに抱かれてる私の左腕に抱きついて、ル・マちゃんがゆさゆさ揺れる。

「出陣じゃなく、制圧?」

「俺も俺の子供ほしーっ! 誰か産んでーっ!」

 そう来たか。

  

 

  

 

  

 

 

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